初めてのバックれ、初めてのズル休み。無遅刻無欠席無欠勤が取り柄の真面目君だった僕……いや、私では考えもしなかったことだ。
しょうがないことだと、心の中で言い訳しながら、ほんのちょっぴりドキドキワクワクしているワルい私がいた。
大学は除籍されて、今までのバイトもクビになるだろう。だが、それでいい。
「新生活一日目。まずはお金を稼ぐ方法を見つけよう」
私が働いていたアルバイトは土木仕事だ。朝が早く、ケガも多いという土木仕事のなかでも、私が働いていたところは特に身体を酷使する仕事で、所謂ブラックバイトというやつだった。バイトだというのに本職並の仕事を課せられるし、定められている労働時間を軽く越えてくる仕事量だった。
なので無断で仕事を辞める奴が後を絶たない。つまり私がバックれても違和感はないということだ。そんな環境で長年働いていたせいなのか、何故かバイトである私が仕事の中枢を担っていたのだが、まあ抜けても大丈夫だろう。常に人が入れ替わっていた現場だったのだ、私なんかが居なくてもなんとかなるだろう。気軽に楽観視していこう。
「妖怪パワーで新しい土木のバイト……は止めておこう。みすちーだからこそ出来る仕事がいいな」
文字通り人間離れした力を手に入れたわけだが、いくら楽だといえやりたくない仕事はやらない。もう我慢するのは止めて好きな生き方をしていこうと決めたんだ。
「屋台、やってみようかな」
八ツ目鰻の屋台。天狗のブン屋も絶品と称したミスティアの得意分野である。八ツ目鰻だけでなく普通の居酒屋にもあるメニューも取り入れて、屋台を引くのも悪くない。私の心がやりたいと、そう感じている。久しぶりの気分だ。小学生以来ではないか? 自分の意思でやりたいなんて思うのは。身体が夜雀になったのだとしても、みすちーの技能まで引き継がれているかは分からない。ただ並程度の男の手料理しか出来ないかもしれない。それでも屋台を経営してみたいと思うのだ。
「ふむ、試しに朝ごはんつくってみようかな」
窓から外を見るとすっかり日が昇っている。やっと世間一般でいう朝を迎えたのだ。朝早くから起きる習慣が染み付いている私からすれば明け方が朝なのだった。ちなみに夜は未明である。ブラックバイトから解放されて俯瞰的にみた私の生活は、やはりちょっと生き急いでいたかもしれない。
「……朝ごはんを作る時間としては丁度いいな」
♪♪♪
「そ、想像以上だ」
料理は並程度にしかできない腕だったのだが、これは正しくプロの味!
卵、豚肉、少しの野菜。冷蔵庫に入っていたショボい材料とバリエーションの少ない調味料から、ここまでの料理を作れるとは……。
絶妙な火加減、材料の投入タイミング、適切な調味料の量。所作が身体に染み付いている。これなら屋台を出しても問題ないだろう。
「さすが
羽が嬉しそうにピコピコと跳ねる。
料理の腕は申し分ない。やはりみすちーの技能も持っているようだ。人を鳥目にしたり、歌で狂わせる能力ももっているのだろうか。後で検証が必要だ。
後は屋台が必要だな。パソコンで屋台の値段を調べてみる。出来れば木造で、移動式のが良い。屋台は店の顔。ショボい屋台では客も遠ざかってしまうだろう。屋台は妥協せず、みすちーの感性にあったモノを選びたい。
そうして屋台を探して一時間程。やっとピンと来る屋台が見つかった。
「ゲッ、軽く五十万円! 移動式屋台ってそんなするのか」
不味い。私の貯蓄はそんなにない。貧乏学生にはとてもではないが払える金額ではない。借金をするにもみすちーの身分証なんて持っていない。存在しない筈の妖怪がどうやって金融を利用できるというのか。
どう切り詰めて捻出しても使えるお金は十五万円程度。それでも当分もやし生活をしなければならない。代用の安い屋台を買うとも考えたが、私の心がこれが良いと言って聞かない。羽も感情に合わせてバタバタと抗議している。
屋台経営に陰りが見えはじめた。
「むむむ、早速頓挫してしまうのか。ま、まあ調理師免許も持っていないし、どっちみち当分無理だったんだ」
ポジティブに考えよう。これは頓挫したのではない、五十万円という明確な目標が出来たんだと。やっと出来たやりたいことなんだ、ここで努力せずにどこでするというのか。屋台をやるためにも別の方法でお金を貯めなければ。
「免許についても調べてみるか。そのうち取らないといけないし」
調理師免許について検索してみる。屋台を出すにはどんな免許が必要なのか、どんな許可が必要なのかも。
楽観的になったとはいえ、無断で店を開く度胸は私にはない。幻想郷とは違って徹底的に法で縛られているのが現代なのだから。
「へぇ、営業するのに調理師免許って要らないんだ。勘違いしてたなぁ」
代わりに必要なのが食品衛生管理者の資格なのらしい。この資格は1日で取れるようで、お金も一万円程度と微妙に高いが払えなくはない。月に何回も講習が行われているらしいし、いつでも取れそうだ。
「ということは、残る問題は屋台の五十万をどう稼ぐか、だね」
……ハードル高いなぁ。そんなに稼げるなら屋台じゃなくてそっちを本業にしたほうがいいのでは?
まぁやりたいことで稼ぎたい。それが第一目標なんだ。無粋なことは考えないでいこう。
にしても、ミスティア・ローレライに出来ることで身分証明が必要なく五十万稼げそうな仕事か。
土木……上記の理由で嫌だ。
歌手はどうだろうか。無理かなぁ。歌はともかくとして、現代に通用する作詞作曲能力が私にあるとは思えない。どこかの事務所に所属して作詞作曲を任せる、なんてのも、私の身分を証明できるものがないから出来やしない。無所属で、一人で全てをこなせるほどの才能は流石にないだろう。
アイドル……。いやいや、同じ理由でどこかに所属なんてできないし、土木仕事しかしてこなかった元男の私に愛想をふれなんて無理な話だ。顔と声は良いとして、世にお見せできるほどの振る舞いなんか出来るわけがない。そもそも、アイドルに生活を委ねて~Idoratrize life なんて不安でしょうがない。
「うーん、みすちーが出来ることで稼げるもの……。特技で稼げるもの……。やりたいことで稼ぐ……。趣味でお金を稼ぐ……。ん?」
そういえばそんな謳い文句どこかで聞いたな。なんだっけ?
チラリとパソコンに目を向ける。デスクトップには赤地に白い三角形が描かれたアイコンが見えた。
「そうだ、配信者になろう!」
世界最大の動画共有サービス。私がいつもお世話になっている先生と同じ会社の同僚だ。そこで配信をして広告や投げ銭などでお金を稼ごうというわけだ。中には億単位で稼いでいる人もいるそうだ。特技を動画にし、趣味で副業ができる。まさに今の私にピッタリのものだ。
無理に愛想を振り撒かなくてもいいし、拙い作詞作曲でもそんなに気にしなくて良いし、なんなら歌い手として曲をお借りして歌うこともできる。
なにより身分を明かさなくてもお金が稼げる。
今までの私だったら、そんな競争率の高い場所で生き残れるわけがないと、配信者になろうという発想が出た瞬間自分の頬っぺたを全力ビンタしていたところだ。しかし、私はミスティア・ローレライ。歌がうまくて顔も良くて料理が上手で妖怪だ。出来ることはたくさんある。十分勝算はある筈だ。
「思い立ったが吉日。配信機材揃えなきゃな」
全てはやりたいことをして暮らしていくため。たとえ自分がミスティアだとバレようとも、やりたいことをした結果なら本望だ。ま、バレないのが最善なのだが。
みすちースペックを存分に生かして、歌配信、いやそれ以外の配信もしていこう。見て楽しい動画ではなく、やってて楽しい動画を目標にしてのんびり気ままにやっていくのだ。
ハイセンスな
……うん、台無しだな。
遅筆……! あまりにも遅筆……ッ!