今日から僕は夜雀(偽物)です   作:清水岩マミズオ

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無免許押し付け暖簾に腕押し

 チューナーが付けられたアナログテレビ、最近ではもはやレトロなアンティーク品として扱われるアナログテレビだが、うちではまだまだ現役だ。使うといっても見るのは気象予報だけなのだが。

 ニュースの気象予報だけは欠かさずチェックする。それ以外のチャンネルはなにも見ない。仕事柄、外での活動が主だったために染み付いてしまった所作だ。

 バイトを辞めてそこまで必要もなくなったというのに、見ないと落ち着かない。職業病……いや、生活習慣病だろうか。どちらも定義から外れた使い方だが、私は医師免許を持ってないのでいくら誤診してもデメリットはない。無免許のいいところだね。

 

 今の時代、いちいち特定の時間にテレビを見なくとも、スマホでいつでもパッと今週の天気が見られる。便利になったものだ。しかし私は持っていない。受動的に情報が受け取れるテレビが気に入っていたからだ。

 たとえ持ったとしても、テレビで気象予報だけしかみなかった私が、なんにも興味を持つことのなかった私が、情報の塊であるスマホを扱いきれるとは考えられなかった。能動的な情報収集は私には向いていない。もて余すだけだと、お金の無駄だと、持つ気にはなれなかった。

 ただ唯一、少し前にスマホを持とうかと検討していたことがあったが、その理由も気象予報のためだった。テレビが映らなくなってしまい、それを期にスマホを買おうかなと思っていたのだ。

 そろそろ時代に逆張りするのは止めて、スマホデビューも良いだろうと考えていた。

 結局、テレビに斜め四十五度から強めにチョップしたら治ったので、そのまま使い続けて現在に至る。

 貧乏性ゆえ、壊れても無いのに買い換えるというのはどうも気が引ける。パソコンは買い換えたが、それは配信するのにスペックが足りなく、必要だったからだ。スマホもなにか必要なことがあったら買っていただろう。

 

 まぁ、ミスティアになった今、契約できなくなってしまったのだけど。

 

 ニュースのアナウンサーは観測史上最大だの、十数年に一度だの、もう聞きあきた文言で猛暑をアピールしている。暑さに限ったことじゃないが、気象のインフレが激しいと感じるのは私だけだろうか。

 エアコンなし、いまだ扇風機だよりの私に今年の夏は乗り越えられるだろうか。

 

「こんちはー。今日は暑いねぇ」

 

 平日の真っ昼間、天気は晴天。予報通りの茹だるような暑さのなか、私は二回目の配信を行う。

 なぜこんな時間に配信をしているかというと、簡単な話、暇だったのだ。いままでの時間に追われる生活から、急に放り出されたため、私のスケジュールはがらんどう。自由気ままに、を履き違えたような行為だが、どうせアーカイブも残るだろうしと、やってもいいかなと思ったのだ。

 見に来ている人は十五人。配信としては不適切なこの時間帯に、よく集まってくれたものだ。

 

『こん!』

『こんにTNTN!』

『張り付いててよかったわ』

『偶然覗いたらライブ中でびっくりした』

『告知して……』

 

「告知? あぁ、ごめん予約配信にしてなかった」

 

 これはうっかりしていた。まだ配信慣れしてないのが伝わってしまうな。にしても、来場者の数は告知なしで十五人だったのか。わりと多いのではないだろうか。

 

『これからつぶやいて告知してくれると助かる』

『わりとつぶやきから飛んでくる奴も多いからな』

『検索しても垢見つからないんだけど、持ってないん?』

 

「つぶやき? あー……あれね、呟けるやつ」

 

『そうそう』

『そうだね、呟けるやつだね』

『ちゃんと分かってる?』

 

「流石に分かるって。鳥のアイコンでしょ? 親近感沸くよね。でも、私、スマホ持ってないんだよねぇ」

 

『は?』

『今時持ってないって……』

『あれ、今って昭和だっけ?』

『そういえばもやし生活してるって……』

『;;』

『これはセミコロンセミコロンだわ』

『パソコンでも出来るぞ』

『パソコンでつぶやいてもろて……』

 

 パソコンか、スマホ以外でもできたんだね、あのアプリ。初めて知った。なにしろ電子機器には疎いもので、分からないことが多い。パソコンを持っているといっても、たまに動画をみたり検索するだけだし、深く関わることがなかったのだ。

 

「あ、そうなの? じゃあ今インストールしてみようかな」

 

『大丈夫? ちゃんと垢作れる?』

『ちゃんとURL張るんだぞ』

『垢はアカウントって意味だぞ』

『URL張れるか?』

『URLってのはネット上のアドレスのことだぞ』

『アドレスってのは住所のことだぞ』

『住所ってのは住む場所のことだぞ』

『ハンカチ持った?』

『ここのリスナー過保護すぎひん?』

『↑現代でスマホに触れてないってのは無菌室で育ったようなもんだぞ。過保護にもなるわ』

 

 なんだかバカにされてる気がする。まぁ、されても仕方ないくらい無知なんだけど。私はコメントを追いながらインストールしたアプリを設定する。視聴者には悟られないように。

 

「私とて現代っ子。ちゃんと分かってるよ。鳥頭とはいえ、バカにしてもらっちゃあ困るな」

 

 嘘だ。全然分かりませんでした。すみません。

 

『流石にできなきゃこの先苦労するからな』

『お前らバカにしすぎだぞ』

『子どもの成長を見守るのも親の役目。そんなとやかく言わない方がいいな』

『↑誰目線なんだお前はwww』

『申し訳ない』

『ゆるしてヒヤシンス』

 

 ぐぬぬ、罪悪感がのしかかる。本当はズルをしていたというのに、こちらが申し訳ない。

 だがここで引くわけにもいかない。嘘は嘘で通す。そうでなければ現代社会で妖怪としてやっていけない。これは予行演習だと思おう。……丁度私の数少ない謎知識力で騙せるタイミングがあるし、ここで嘘をついてみよう。

 

「おぉ、深い。青色のヒヤシンスの花言葉『許してください』とかけたのか。教養あるねぇ」

 

『そんなつもりなかったんだけどなー。教養がにじみでちゃったかー』

『↑じぃっ……(ふしんな目)』

 

「ふはは、バカめ。許してくださいの花言葉は青いヒヤシンスではない! 紫色だ!」

 

『騙したな』

『↑やっと能天気なお前でも飲み込めたようだな』

『草』

『ゆかり色で許してください?』

『↑m(__)m(土下座する紫)』

『↑(゜ロ゜|||)(後ろで戸惑う藍)』

『↑(*´ω`*)(お留守番の橙)』

『↑(^▽^)(凄い紐について熱く語る豊姫)』

『↑潜り込ませたって流行らないし流行らせない』

 

 前降りはここまでにして、そろそろ歌おう。これは雑談配信ではなく歌配信なのだ。一回目の時の失敗はもう繰り返さない。

 と、その前に、さっそく設定し終わったのでつぶやいておくとしよう。『歌います!』こんな感じでいいか。つぶやきって言うくらいなんだから、短めでも良いだろう。文末にこの動画のURLを貼り付け、送信っと。

 

「んじゃ、トークは終わり。つぶやき終わったし、歌を歌いまーす」

 

『待ってました!』

『前回は雑談が盛り上がって三曲だけだったよな』

『しかもアカペラな』

『お前らが悪ノリするから……』

『不満げなリアクションが良くてつい』

『今回もアカペラ? 別にいいけど』

 

 やはり前回の流れはわざとだったのか。ここで絶ち切らないと今後ずっと歌わせないように弄られるぞ。もうコメントのペースには惑わされないようにしよう。

 

「あれはまだ未完成の曲だったからアカペラだっただけ。リハーサルのつもりだったから、そのまま歌ったんだよ。あの曲はそのうち動画で上げる予定だから、楽しみにしててね」

 

 作っている動画は二本。花火動画とおまけのキャトられ動画だ。

 花火の動画には私が一曲目に歌ったアレンジ曲を挿入している。花火で遊んでいるだけの動画にするはずが、挿入歌がメインのミュージックビデオになってしまっている。

 羽虫たちが予想以上に活躍してくれて、ものすごくカッコいいアングルが取れたので、急遽路線変更したのだ。花火文字のTNTNサムネで人目も引きやすいだろう。当初の予定とは違った動画になってしまったが、いい感じになったと思う。現在の進捗は70%といったところだ。

 キャトられ動画はそのまんまだ。キャトルミューティレーションごっこを撮った十秒程の短い動画だ。現在の進捗は100%。手間隙かけずに作った、本当におまけ程度の作品だ。

 

『おお!』

『楽しみだ』

『いい歌詞だったし完成版も期待』

 

「……歌が良かったんなら、なんで前回歌わせなかったの?」

 

 私は訝しげにそう尋ねた。私の歌が微妙だっていうのなら納得できるけど、コメントを見る限り、是を示す感想の方が多い。理解不能だ。

 

『え? 楽しいからだけど』

『気になる娘をいじめたくなるのが男の性よ』

『顔見せが楽しみだ。困り顔が見れるからね』

 

「……あー」

 

 ミスティアって弄られキャラだっけ? そんなイメージは無かったのだが。強いていうなら冥界の食いしん坊に追いかけられるくらいだと思う。

 

「そ、そんなことは置いといて、リクエストある? 音源はたくさん用意してきたからね。ないやつはアカペラで歌うよ」

 

『ちょっと男子~。みすちーちゃん引いちゃってるじゃん』

『茶化すのやめなよー。みすちーちゃんだって生きてるんだからね!』

 

 くっ、リクエストが全く流れてこない。このままでは、一回目の配信の二の舞だ。そんなに私の歌を聴くのが嫌なのだろうか。少し胸が痛くなってしまう。悔しさからか羽が小刻みに震えてしまう。

 

「またこの流れか。ちゃんと歌わせろ」

 

 思わず声を荒らげてしまう。この展開も前回通りだ。なにも変わらない。私に歌配信は向いてないのだろうか? 

 

『ヒェッ』

『妖怪の 正体みたり おこみすちー』

『羽プルプルで草w』

『↑草にw生やすな』

『みすちーのwww真っ赤な顔がww見ってみたい! wそれ顔出しwww顔出しwww顔出しwww』

『なにこのコメ欄怖い』

『↑煽り全一コメ欄やぞ』

 

 以下も同様に煽りや弄りのコメントがずっと流れていく。こいつら恋する小学生男子か。まだ顔も映してもないのにこのイジりようだ。顔出ししてしまえばどうなることやら。

 顔曝すの止めようかな。ネットに顔を出すのはタトゥーと一緒だ。一度彫ってしまえば完全に消すことはできない。ぶっちゃけた話、歌配信をするなら顔出しする必要はない。数字に影響は出るかもしれないが、安全を取るにはその方が良い。

 

『私はみすちーが歌いたい曲が聴きたいわ』

 

 下向きな考えをしていた私の目に留まったのはそんなコメントだった。

 

『なにも気にしないで。貴方が歌に夢中になれば、皆が貴方に夢中になる』

 

 同じ人がさらにコメントをした。目から鱗だった。私が歌いたいから歌配信をしているのに、なんでリクエストに拘っている必要があるのか。気にせず歌えばいいじゃない。幻想郷で、ミスティアは人を狂わすのが迷惑だからと歌うことを止めたか? いや、批判されども暖簾に腕押し、気にせず歌を詠じていた。

 自信をもて、私はミスティアだ。コメントでイジられているのも私ではなく、ウジウジとしている僕に対してなんじゃないのか? 顔を隠して、歌う曲も人任せ。受動的で、中途半端だからこそバカにされるのではないだろうか。

 

「……そうだよ、歌えばいいじゃないか」

 

『?』

『お、どうした?』

 

「リクエストがないっていうなら、()(ミスティア)にリクエストする!」

 

 受動的ではない、能動的に。歌うのに許可も免許も必要ない。無免許でいいのが歌の良いところだ。

 押し付けてやれ。楽しいや悲しいなどの感情も、聴く聴かないの責任も。たとえ聴いた人が、煩さで嫌な感情を抱いても、私の歌のせいじゃない、私の歌を聴いたお前の責任だと、押し付けてやれ。

 

 下向きな考えは反転し、気分は上々。羽も我慢できずにバサバサと羽ばたいている。私の羽にビックリしているコメ欄を無視し、私の気持ちを謳った前口上でスタートだ。

 

「次に出す動画で披露する予定だったけど、今歌おう! 次までに我慢できない。だから私の歌を聴け!」

 

 前はアカペラだった、歌詞もバラバラだったテーマ曲。今度は選び抜いて編集した歌詞で、テンションはそのままに、完全版を来客者に叩きつける。丹精込めて作った音楽を流す。ここからは私の独壇場だ。

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 来客者の数値は百人を突破した。つぶやき効果と、十二時の昼休みと重なったというのもあるだろうが、真っ昼間にこれは想像以上だ。

 コメント欄をスクロールしていき、今回の配信を振り返っていく。あんだけイジっていたコメント欄が、私の歌を境に沈静化していったのが痛快だ。私の熱唱にコメントは熱狂の渦に呑まれ、熱中症が気になる気温の中、私の配信は二つの意味で熱気に包まれていた。最後には私の歌を純粋に誉めてくれている人が多数を占めている。

 

「あれ? さっきのコメントどこにあるんだ」

 

 先ほど私が歌いたい歌が聴きたいと、私の背中を押してくれたコメントが見当たらない。

 削除してしまったのだろうか。

 

「まぁいいや」

 

 発表した曲の反応は全て良いものだった。前に私は歌手はダメだ、作詞作曲までする才能はない。と思っていたのだが、訂正して良いのかもしれない。アレンジの腕が良かったのだから。

 

 たとえ批判があったとしても今の私には暖簾に腕押しだ。だってアレンジ腕良しなのだから。

 

 ……ダジャレに対する批判も暖簾に腕押しだぞ。

 

 

 




くっ、プレッシャーに押し潰される……ッ!
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