今日から僕は夜雀(偽物)です   作:清水岩マミズオ

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すみませんでした。


決して鍋パでウエハース

 軽いくせに重い。私は"挨拶"にそんな心証を抱いている。

 

 小学生でも知ってる社会の常識。するのが普通。出来るのが普通。そして、生活の中に溢れ、誰でも"気軽に"使うものである。ここで注意しなければならないのが、"気軽に"、であり決して"軽視"してはダメ、と言うことだ。……そう決して。

 私の職場でも、よく新人が挨拶が小さいだけでも怒鳴られ、叩かれるところをよく見かけた。可哀想なものだが、挨拶を軽視した結果がこれだ。

 挨拶は、自身の存在を知らせ、他者の存在を知る為のものなのだ。そこから初めてコミュニケーションが始まり、人と人を繋ぐ要となる。だからこそ挨拶は人間にとって"重要"なものなのだ。

 

 何故こんな話をしたか、なのだが……別に難しい話をするつもりではない。ただ私は"ミスティアらしさ"がある挨拶は何かと考えたいのだ。

 

「……うーん、今夜の挨拶どうしようかな」

 

 前の配信では「こんちはー」なんて、雑にも程がある挨拶で済ましてしまった。ミスティア感は無く、配信者としても丁寧でも無ければインパクトがあるわけでも無い。果たしてこれで良いのだろうか? いや、良くない(反語)。

 でも急に挨拶を変えるのも恥ずかしい。あれだ、"僕"から"俺"に変えるのに抵抗がある感じ。分かるかな? ……"私"に変えてるのに今さらなに言ってるんだって話だけどね。

 

 挨拶にも個性がある。ため口、敬語、略語、造語。どのタイミングでおはようからこんにちはへ、こんにちはからこんばんはへ変化するのか。

 私がよりミスティアであるために、それを決めるのは大切な事なのだ。

 

「よし、ちょっと恥ずかしいけど、あれにしよう」

 

 挨拶は一応決めた。自分で考えたというより、視聴者のコメントの丸パクリだけどね。まぁ、これで評判が悪かったら、そのつど考える。これでいいだろう。

 面倒臭いが、そのくらいはしなければならない。挨拶は大切なのだ。特に、配信者としてネットの世界で生きるのならば。

 インターネットの匿名性により、他者を知ることも省略気味になり、挨拶も疎かになることも多くなっただろう。そんな中、配信者やインフルエンサーなどの"知覚"される人々の武器、個性になるのが、挨拶なのである。

 

 ……と、ここまでがSNS初心者の持論でした。

 

 

「『今夜は鍋パ雑談配信!』っとこんなもんでいいか」

 

 私もすっかりSNSに染まったものだ。配信予告もお手のもの。一日一回は必ず呟くようになってしまったし(三日目)、これはもうSNS廃人と言って過言ではないのでは? (過言)

 呟くと忽ちに変なハートマークやら矢印マークの数字が百、二百と増えていく。SNS二日目まではこの数字が二十から三十といった所だったが、昨日上げた二つの動画が影響しているのだろう。正直この数字がどのくらいの関心を集めた指標なのかは分からないが、少なからず私に興味を持ってくれている人がいる事に深い満足感を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 

 

「こんTNTN! 今夜は鍋を囲って駄弁るぞー」

 

『(うわ』

『やめてね』

『このチャンネルも下品になったものだな』

『そんな下品な子に育てた覚えはありません!』

『幻滅しました。幽谷のファン辞めます』

『ボッチなのに鍋を囲って……? 妙だな……』

 

「夜道に気を付けな。目が見えなくなるぞ」

 

『こんTNTN!』

『こんTNTN!!』

『なーんちゃって(若○voice)』

『……っぱミスティアと言ったらTNTNよ』

『配信者足るもの固有の挨拶は大事だな』

『わー良い挨拶だー』

 

 ……開幕早々キレキレだな。

 

「はいはい、挨拶が好評でなによりだ。……よいしょっと」

 

 一旦席を立ち、あらかじめ用意しておいた鍋をテーブルに置く。カメラと私の間に挟まれた鍋は、白い湯気で視覚に旨さを訴えかける。シンプルな具材にプラスでほうれん草を加えた鍋。そして手作りであるトマトソースのつけだれ。八百屋のおじさんに貰った野菜を組み合わせてアレンジした鍋だ。

 

『おお』

『うまそー』

『見てたら腹へってきた』

『暑い時期の鍋も良さそうだな』

 

「どーよ、自信作」

 

 そう胸を張ってドヤ顔をする。顔はカメラに映ってないけどね。

 

「収益化が出来るようになったから、お祝いで作ったんだ」

 

『めでたい』

『おめでたです』

『↑俺の子だな』

『↑俺響子来たな』

『↑俺響子初めて見た』

『変わり種な鍋だな』

『トマトソースって合うんか?』

『↑割りと旨いぞ』

『ホウレン草が入ってるの珍しいな』

 

「私も初めて作ったから、この組み合わせはちょっと心配だったんだけど……」

 

 具材をオタマで掬い皿へ盛る。箸でホウレン草と肉をとり、トマトソースにくぐらせて口へ運ぶ。火傷しそうな熱さの具材と、冷たいトマトソースが絡み合い、口のなかで適切な温度となる。酸味の効いたトマトとダシが染み込んだ肉と野菜がマッチする。

 

「うん、うまい。思い付きで作った鍋だけどベストマッチしてるよ」

 

 久しぶりだ。肉と栄養ある野菜を満足いくまで食べられるなんて。嗚呼……体に染み渡る~。

 

『うまそう(KONAMI感)』

『それな』

『料理できたんだな』

『料理上手なのは解釈違い』

 

「……? ミスティアなんだから上手いイメージじゃないの?」

 

『ミスティア自体はそうなんだけどなぁ』

『男っぽい料理作ってそう(偏見)』

『もやししか食ってなさそう(事実)』

 

 なるほど、私もミスティアとしてまだまだということだ。だが、今回の事で少しはイメージを変えることができただろう。

 

「ところで先日上げた動画見てくれた?」

 

『キャトられ動画か』

『プチバズってたな』

『浮遊が自然すぎて凄かったわ』

『ワイヤーかCGか両方か。どれにしろ個人レベルであれはスゴいわ』

 

 キャトられ動画……あのキャトル・ミューティレーションごっこの動画の事だ。実はあの動画、呟けるSNSを中心にちょっと話題になったのだ。これ事態は非常に嬉しい出来事だ。これ事態は……。

 

「そっちじゃなくて……PVの方だよ。TNTNサムネの奴」

 

『ああ……キャトられと一緒に投稿されてたね』

『花火がキレイだった(小並感)』

『良かった。ただオマケにしちゃ力入りすぎじゃね?』

『あのオマケ動画、完成度高かったよな』

 

「あれが本編! キャトル・ミューティレーションごっこがオマケだよ!」

 

『ハハ……ご冗談を』

『おや? 視聴回数をご存じない?』

『オマケの方が十倍以上再生されてるんですがそれは……』

 

 そう、PVの再生数は、まあまあだった。少ないわけで無く、多いわけでも無い。本当にまあまあな結果だったのだ。そこに不満は無い。でももう一方が予想以上の成果を挙げてしまった為、少し引っ掛かってしまうのだ。……とても贅沢な悩みなのは分かっているのだけど……。

 

「ちくしょう……オマケの方が人気あるとか、私の動画はウエハースか」

 

『草』

『www』

『(笑)』

『ワロス』

『lol』

 

「古今東西じゃん! 笑いすぎだろ! あれは私の切り札と言えるほどの自信作なんだぞ!」

 

『切り札はいつも悪手』

『オマケは何故か最善手w』

『オマケに負ける歌い手(笑)』

 

「少し五月蝿い!」

 

『五月蝿い五月蝿いもしずかのうちよ~』

 

 オマケも私が作ったものなのに、なんで私がこんな目にあってるのだろう。

 

「オマケは大勝ちなのに私は大負け(オオマケ)じゃん……」

 

『ここ笑い所?』

『シィー! 余計なこと言うな、ここは盛大に笑ってやれ』

『草……』

『www……』

『(笑)……』

『ワロス……』

『lol:(』

 

「三点リーダーを付けるなぁ! 余計惨めだわ!」

 

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 今回の配信も成功……てことにしておこう。もうこういうキャラ付けとして定着してしまっているし、これで盛り上げることが出来るのなら本望だ。いや、本望は言い過ぎた。

 

「さてと、今日のコメントも見返すか」

 

 雑談中に全てのコメントを見れるわけじゃない。だから私は追い付けず見逃してしまったコメントの一つ一つを後で確認する。私の配信を見てくれた人の感想や意見を出来るだけ多く知っておきたいから。それに、案外こういう作業中に参考になるものが見つかったりするのだ。今日の私の挨拶「こんTNTN」もその一つだ。勿論良いことだけでなく、誹謗中傷などでメンタルにダメージが入ってしまうこともあるけどね。

 

「……え、コレは……」

 

『乙~』

『今度は逃がさない』

『乙』

『必ず正体を暴いてやる』

『楽しかったー』

 

 私が配信を切る最後の最後に書き込まれた二つのコメントは、明らかに周りとは違う異彩を放つものだった。

 どちらも同じアカウントのコメントだ。

 

「"今度は"……か、もしかしてあのストーカーのかな?」

 

 頭に浮かぶのは、鍋の材料を買いに行った商店街で会った女の子だった。

 

 正体を暴いてやる。

 

 その言葉尻からは、私が人間ではないことを確信しているような雰囲気を感じる。

 

 

「……一応、注意しておくか。こういうのは決して(ケッシテ)軽視して(ケイシシテ)はいけないからね」

 

 

 ……決してね。

 




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