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ありし日の記憶。まだ僕がランドセルを背負っていた頃の……春の匂いが残る初夏の記憶。
頭の奥底に眠っていた思い出を、睡眠中に活性化した脳ミソが掘り起こしていた。
深い微睡みの中、鮮明に頭を駆け巡る記憶に、私は『ああ、これは夢なんだな』とふと気付いた。
しかし身体は動かない。まるで縛り付けられた状態で映画を見せられているようだ。あの日の思い出がそっくりそのままの形で想起される───
『隣に座ってもいいかしら?』
日曜日のお昼時、僕はボケー……っと公園のベンチに腰かけていた。青く澄みわたった空を見つめていると、横から声をかけられたのだ。
目を向けてみると日傘を持った金髪のお姉さんが、微笑みながら立っていた。
いきなり現れたお姉さんに内心驚きながらも、僕はうなずきながら一言返した。
『……いいですよ』
僕が答えるとお姉さんは、日傘を差したまま、僕との間に一人分のスペースを開けて座った。
…………。
この公園には他のベンチがもう一つある。なぜそっちに座らなかったのか。募る不信感が汗となり、頬を伝い落ちる。せっかくのリラックスタイムが台無しである。
彼女のどこか胡散臭い雰囲気も相まって、僕は緊張と警戒心を抱いていた。お互いに目も合わせずに、しばらく沈黙が続いた。僕と彼女の間に漂っていた緊張感がピークを過ぎた頃、彼女は無言に耐えきれなくなったのか口を開いた。
『……今日は良い天気ね』
……彼女はきっとコミュニケーションが得意なタイプではないのだろう。会話の切り札が天気とは……なんだか親近感が湧いてきた。
「……そうだね、雲一つ無い快晴だ」
『貴方……こんな良い日なのにずっとベンチで座っているわよね。何かあったのかしら?』
彼女は僕の顔を見ずにそんな質問をした。
ずっと僕のことを見張っていたのか……? そんな考えが頭をよぎり、彼女への不信感が高まる。
彼女の顔をふしんな目でじぃ……と見ると、彼女はどこか不安そうな顔をしながら、手遊びで日傘をクルクルと回して僕の返答を待っていた。
僕は彼女のことは何も知らない。しかしある直感があった。……きっと彼女は、この独特な雰囲気で勘違いされやすいタイプなのだろう……という事だ。
根拠はない。ただそう感じてしまう。
僕は少しだけ警戒心を解いてみる。
「心地いい風が吹いてる……小鳥たちがさえずっている。こんな良い日には、日向ぼっこするに限るよ」
『子どもらしくないわね。最近の子らしくゲームでもしないの?』
"子どもらしくない"……耳にタコが出きるほど聞いた言葉だ。大人しくて、言葉選びが変に小難しくて、なにかと悲観的で……。成熟……いや、老成してるなんて言われることもあった。
「……夢中になれないんだ。マンガも、アニメも、
ゲームも」
『あら、飽き性なのね』
「うん、だからいろんなことをやってみたよ。絵を描いてみたり、卓上ゲームで遊んでみたり、スポーツに挑戦したりね。裁縫したり、花言葉を覚えてみたり……なんてこともしてたよ」
『小学生なのに手が広いのね』
「おかげで広く浅く、変な知識ばかり覚えてちゃって」
なにもかも中途半端で穴だらけな、謎知識ばかり増えていく。
だけど夢中になれるものは見つからない。その度に僕の心は陰り、暗く、湿ってゆく。そんな心を、僕は日向ぼっこで天日干しするのだ。
……誰かにここまで自分のことを話したのは初めてだ。この強く気持ちのよい日差しで気が緩んでいるのか、なぜか彼女に自分の本心を語ってしまう。まるで僕の心のスキマに入り込んでくるようだ。
「なにをしても、最後には日向ぼっこに戻っちゃうんだ。……お姉さんもどう? 気持ちいいよ」
『魅力的なお誘いだけど、ごめんなさい。日焼けが気になっちゃうの。フフフ』
お姉さんは日傘を回しながら笑って答えた。
……笑顔が、日差しよりも眩しかった。
『あら、どうしたの? 目瞑っちゃって』
「……いや、日差しが眩しいな……って」
それを聞いたお姉さんは、ニヤリといたずらっぽく笑う。
そして僕との距離を縮めて座り直したのだ。
驚きで距離を取ろうとした僕は、ベンチの手すりへ追い詰められる。
「な、なにを?」
お姉さんの顔が近い。
『顔が赤いわよ、日傘に入りなさい。日向ぼっこも良いけれど、熱中症には気を付けなくちゃ』
「……いや、大丈夫だって、本当に……」
そういってもお姉さんはちっとも動こうとはしない。ただ微笑みながら、曖昧な返事をしてお茶を濁すだけだった。
僕は相合傘をするのは初めてだ。しかし一つだけ分かることがある。相合傘は雨に濡れてしまう、という口実があるから許されているのだと。日傘でする相合傘は、普通の何倍も恥ずかしいものなのだと。
初対面の小学生にこんなことをするなんて、やっぱり不審者だったのか。と冷静に分析をする自分と、どこか彼女を信じたい……このまま甘えたいと感じる小さな自分が混在している。
なんの根拠もないのに、こんなにも怪しい人のはずなのに……
どうして僕の心は暖かくなっているのだろう。
『ねえ、君はさ───
─────キィ───ッッ!!!
♪♪♪
────トン──ゴトン──ガタンゴトン───
「……んぅ」
……今日も朝がやって来た。いつもの始発の時間、いつもの騒音。いつもと違うのは、寝相と夢を見たことくらいか。
……腕が痛い。どうやら腕を枕がわりにしたまま寝てしまったらしい。身体を起こした瞬間、血が巡り、痺れが腕全体を駆け巡る。
翼が生えてからはうつ伏せで寝るようにしている。仰向けでも寝れなくはない……しかし窮屈で仕方ないのだ。まだ"僕"だった頃は仰向けが基本だったので、少し違和感がある。こうやって、腕を枕にしてしまって痛い思いをしてしまうことはあるのだ。
だが、変な寝方のせいか懐かしい夢を見た。
とても懐かしい夢だ。
あれは確か、僕が小学生の高学年だった時だろうか。前に花火をした公園での……まだ遊具が揃っていた頃のあそこでの、キレイなお姉さんとの一夏の思い出。記憶の奥底にしまいこんでしまった、碧い宝石のように……瑠璃色に澄みきった、儚くも輝く大切な思い出だ。
既に忘れてしまっていたこの記憶が見れたのなら、変な寝相も悪くなかったかもしれない。
「………………くふぁ~……」
大きなアクビを手で隠す。伸びをして、翼を大きく広げる。軽くストレッチをしてからベッドから飛び起きた。
「……あの人の笑顔……どんな感じだったっけ」
鮮明に見たはずの夢は、脳の覚醒と共に消え去って行く。既にあの人の顔も、声も、服装も……あの瑠璃色の記憶だけを残して消えてしまった。
……あの後、お姉さんはなんて言ったんだっけ。
♪♪♪
ベランダのカーテンを開けて、部屋に陽を取り込む。今日は雲一つ無い。キレイな青空にサンサンと輝く
夏の猛暑は続いているが、今日はいつもより涼しい。日向ぼっこには良い日だ。……いや、涼しいと言ってもこの暑さだと日光浴と言った方が正しいかな。
少しでも暑さを和らげるため、私は吐き出し窓を少し開け、ちょうど良い風量を調節する。
最後に日向の当たる場所に一人掛けのソファを設置し、心地よい空間の出来上がりだ。
「あ~、これだよこれ」
背もたれに体重を預け、リラックスモードへと突入する。懐かしい感覚だ。いつからだろうか、日向ぼっこでのんびりすることを忘れていたのは。
……まあ、高校生の時からかな。あの頃は本当に大変だった。
……おっと、暗い話はまた今度だ。今は日向ぼっこで心を明るく照らす時間だ。影が入り込む余地なんて作らせないわ。
私は昔から、不安なことや辛いことがあったときには日向ぼっこを良くしていた。まあ、僕だけの精神安定剤ってところだ。
今感じている不安要素は、今晩の配信にある。
今回は顔出し配信をする。それが少し不安なのだ。
「とりあえず告知はしとくかぁ」
呟く内容は……
『今日の夜は顔出し配信!』
……これでいいだろう。一言で告知を済ませちゃうのは、リスナーから雑だのなんだの言われるが、これが私のスタイルなのだ。一日一回ちゃんと呟いているのだから文句は言わせない。
……まあ、とりあえずこれで後には引けなくなった。
私が今出来ることは、少しでもリラックスタイムを享受して、精神を安定させることくらいだ。
夜雀である私が堂々と
しかし月光も元は日光なのだ。違いは光の強さだけ。……吸血鬼が聞いたら憤慨しそうな考えだが、彼女らも日傘を差している、という状況であれば、羽が飛び出ていてもノーダメージだなんてフワフワでユルユルな種族なのだ。少しくらいは良いでしょう?
気軽な楽観視は精神に良い。肉体よりも精神が大事な要素である妖怪にとっては、この方が都合が良いってもんでしょ? 解釈次第で物事の良いとこ取りが出来ることは、存在が曖昧な者たちの特権だ。
みすちーとしても、妖怪としても、少しくらい羽休めをしないとね。
たまには能動的に日陰から出ることは、"人間"として必要なことなのだ。
あのお姉さんのように、
……うん、今日は絶好調だ。"私"としても、"僕"としてもね。
ホントは今回で配信まで行きたかったなぁ。