ここまでこの作品にお付き合い頂いた方達に感謝を。
あの夜、
朝早く起きてお店に行き、仕込みの手伝いをして講義の時間によっては途中で抜けて大学へ。
大学で講義を受けて、昼休みはナツメと一緒に過ごし、午後の講義が終わればまたお店へ戻って仕事。
夜は俺かナツメの部屋で二人でゆっくり過ごし、そして次の朝を迎える。
そんな何事もない、同じ事の繰り返しの日々。少し前の俺は、退屈だと感じていたそんな日々を今の俺はこれ以上なく幸せに感じている。
俺は今の日常が好きだ。ナツメがいて、ステラの仲間がいて、大学の友達がいる。
その日々の幸せを噛み締めながら今の俺は生きている。
とはいえ、このまま今の幸せの上に胡座をかいたままではいられない。
もうすぐ三年時での最後の試験が始まるし、春休暇が終われば大学最後の一年が始まる。
そろそろ自分の進路というものを固めていかなければならない。
「パティシエになりたい?」
という事で、ナツメと付き合い初めてから自分の頭の中にあった選択肢について俺は涼音さんに相談する事にした。
俺はこれから先、ナツメの隣で生きていきたい。そう思った時、ナツメは大学を卒業してからどうするんだろうと考えた。
その答えはすぐに出た。きっとナツメはお店を続けていく。自分の夢の続きを、自分の力で切り開いていく。
そして、俺はそんなナツメの手助けをしたい。惰性でそう思ったのではなく、心の底からそうしたいと思えた。
「専門学校とか行くべきなのかと思ってたんですけど、調べてみたらそうじゃない人も結構いるみたいで。そこら辺涼音さんに相談したいなと」
「学校ねー。私は行かなかったよ」
まずパティシエになりたいと思ってすぐ、やはり専門学校に行った方が良いのだろうかという考えが浮かんだ。
だがすぐにふと思う。そういえば、涼音さんは学校に行ってなかったなと。
なのでネットで検索してみれば、案外有名店のパティシエでも学校に通っていなかった人も多くいて。
それならば、学校に通う利点というのはどこにあるんだろう。逆に学校に通う事で生じるデメリットは?
当然そこも調べては見たが、折角身近に現職の人がいるのだから直接話を聞いてみようと思い立ち、今に至っている。
「やっぱり、学校に通えば幅広い知識が得られるよね。あと、資格を取るには便利だと思う」
「ふむ」
「ただ、実践的な知識や技術は結局現場で磨かれるものだから。私はそう思って、現場に飛び込んだからね」
「なるほど」
学校に通うメリット、直接現場に入るメリット、その両方を聞いて改めて考える。
俺はどちらを選択した方が良いのだろう。
なんとなく学校に通った方が良い気がしている。何しろ俺がパティシエという進路を頭に入れ始めたのは最近。
涼音さんと志の年期があまりに違いすぎる。そんな俺がいきなり現場に飛び込んだとして、何が出来るのか。
涼音さんの仕事を手伝ったりはしているが、実際に現場に入るのとはまず間違いなく訳が違うんだろうし。
やはり、学校に通うのが俺にとってはベターなのかな?
「…本気で言ってるんだ」
「え?あぁ、そりゃ勿論。冗談で言う筈ないでしょう、現職の人にパティシエになりたいだなんて」
モップで厨房の床を拭きつつ考え込む俺を眺めていたらしい涼音さんがふと呟く。
「いや、冗談で言ってるなんて思ってないけど…ごめん。これから就活が面倒で、バイトでちょっと齧ってるお菓子作りの仕事を選べば楽なんじゃないか~とか、そういう風に思われてるのかって考えちゃった」
「涼音さんの仕事を手伝ってるからこそ、そんな事思えませんって」
朝は五時起き、開店数時間前から仕込みを始めて、帰るまでそこから半日以上お店で働き続ける。
正直、バイトの身でもきついと感じる時があるのだから、涼音さんにかかる負担は相当なものだろう。
そんな人の仕事振りを毎日のように見ているからこそ楽そうだなんて思った事はないし、思えない。
「…よし。あんた、明日の講義が終わったら家来なさい」
「え?」
「明日、ゆっくりあんたの話を聞いてやるって言ってんの」
不意に涼音さんが何やら考え込む仕草を見せてから、思いも寄らない台詞を口にした。
いきなりの誘いに驚き、固まる俺に涼音さんが更に続ける。そこでようやく、俺は涼音さんの本心を理解する。
「…はい。ありがとうございます」
改めて思う。本当に俺は恵まれている。
こうやって俺の悩みを親身に聞いてくれる人がいて、一緒に笑い合える人がいて、隣に居てくれる人がいる。
そんな人達に出会わせてくれた場所を、やっぱり俺は守りたい。
「千尋。そっちの掃除は終わった?」
胸に抱く決意が更に固く刻まれた直後、厨房の入り口からひょっこりとナツメが顔を覗かせた。
「いや、もう少し」
「そう。あのね、閣下が掃除が終わったら話があるから私と一緒にお店に残って欲しいって」
「話?…分かった」
ナツメとの短い会話から数分後、厨房の掃除も終わって俺とナツメ以外の人達は着替えて帰路につく。
お店を出ていく皆と挨拶を交わし、手を振り合ってその背中を見送り、やがて賑やかだったお店の中は静まり返る。
「それで、話って何だよミカド」
そして、ミカドの言いつけ通りお店に残った俺とナツメはちょこんとテーブルの上に立つ猫の姿のミカドに視線を向ける。
俺に問い掛けられたミカドは俺達を見上げ、見回してから口を開いた。
「少し待っていろ。見せたいものがある」
「?」
ミカドはそう言うと、テーブルから降りてどこかへと歩き出す。
その先には厨房、バックルームへと繋がる廊下があり、ミカドの姿が消えてから扉が開閉される音がした事からミカドが向かったのはバックルームだと思われる。
「見せたいものって…何だろう」
「さあ。すぐに戻ってくるだろうし、大人しく待とうか」
ミカドが口にした見せたいもの。それに引っ掛かりを覚えながら、新たな言いつけ通りにミカドが戻ってくるのを待つ。
俺の予想通り、ミカドはすぐに戻ってきた。
先程ここにいた時には持っていなかった、謎のランタンを持って。
「─────」
「ナツメ?」
何故ランタンを、それも灯りも点さず何をと不思議がる俺の横では、ナツメが目を見開いてミカドが持ってきたランタンを見つめていた。
まるでそのランタンの中に何かがあるかの様に。その何かに驚いているかの様に。
「千尋。メガネを外して見てみろ」
「…」
ミカドの言う通りにメガネを外す。今度は裸眼でミカドのランタンを目にする。
「っ…、それは」
レンズを通してでは見えなかったそれが、ランタンの中で飛び回っていた。
青い光を撒きながら、羽を羽ばたかせ飛び回るそれは、青い蝶。
「お前なら一目見ただけで分かるだろう。…これは、ナツメから零れ落ちた魂の一部だ」
「ナツメの…」
正直、ここ最近に色々ありすぎて、それにナツメも出会った当初から比べてかなり明るくなっていたし、お陰ですっかり忘れてしまっていた。恐らくナツメの反応を見る限り、本人もまた忘れていたのだろう。
ナツメがステラを開店させるに至る最初の切っ掛け。ミカドと明月さんに出会う事になった要因。
それはナツメの魂の一部が零れ、危うい状態に陥ってしまったからだ。
「…閣下」
「あぁ、分かっている」
ランタンの蓋が開けられ、すぐに蝶が外へと飛び出す。
そのまま周囲を飛び回ると、何かに気付いたように一瞬ぴたりと動きを止めてから、再び動き出す。
それはまるで、子供が親を見つけた時のような。そんな風に見える動きで、蝶はナツメの元へ。
ナツメが両手で器を作ると、蝶はその中に止まり、パタパタと羽を動かす。
何かを待っているかの様に、何かを急かす様に、ナツメに向かって何かを求めるかの様に。
「─────」
ナツメが両手を持ち上げ、自身の胸に優しく当てる。
ナツメの手に止まっていた蝶は光となって溶け、ナツメの中へと消えていった。
「…千尋」
「うん」
ふと気付けば、ミカドの姿はなかった。その事に感謝しながら、目を潤ませながら微笑むナツメと顔を見合わせる。
「今ね、私すごく幸せ。千尋に出会う前の私にこの事を言っても、きっと信じて貰えない。…ううん、今でも少しだけ不安になる。これは、夢じゃないよね?明日になったら、千尋がいなくなってたりしないよね?」
「ないよ。夢じゃない。いなくならない。俺はずっと、ナツメの傍にいる」
何を言うかと思えば、なんて笑い飛ばす事はしない。むしろ、ナツメの気持ちはほんの少しだが分かる。
俺だって、今がとても幸せで、たまにふと思う。この幸せが幻ではないように、夢じゃありませんように、と願う時がある。
それ程までに幸せで、その幸せが時に恐ろしくなってしまう。
だからもう二度と、そんな恐怖を俺もナツメも感じなくなる様に、俺は今ここでナツメに宣言する事にした。
「…ナツメ。俺さ、パティシエになろうと思ってる」
「え…?」
微笑んでいたナツメが固まり、目を丸くする。
「…それは、私のため?」
「それが全くないって言ったら嘘になる。でも、俺が本気でなりたいって思ってるのも本当だ」
本当は自分のため、と言いきれたら良かったのだけれど。好きな人のために頑張りたい、という気持ちだってあるのだからそこは誤魔化さず素直に伝える。
たださっきも言った通り、パティシエになるというのは飽くまで俺自身の決意。俺がなりたいから、目指すのだ。
「ナツメが好きな場所を守りたい。俺が好きな場所を守りたい。そのために俺は何が出来るのか、何をしたらナツメの力になれるのか考えて、俺はパティシエになりたいって思った」
「…」
「ナツメ。俺はずっと、お前と一緒にいたい」
「っ…!」
俺が一緒にいたい、と言った直後、ナツメが飛び付いてくる。
「…なんか、今の千尋の台詞、プロポーズみたい」
「あー…、確かに」
飛び付いてきたナツメを受け止め、抱き締め合う。
すると、耳元でナツメがそんな事を呟いた。
確かにさっきの台詞はプロポーズ染みている。というか、完全にプロポーズじゃないか?
そういうつもりじゃなかったんだけどな。いや将来的にそうなりたいとは思ってるけど、さっきの台詞はそういうつもりじゃないってだけで。
「よし、ナツメ。結婚しよう。指輪も何もないけど、婚姻届貰って出してこよう」
「ムードもへったくれもない。やり直し」
「厳しい」
初めてのプロポーズは是非もなく断られてしまった。まあこのプロポーズで受け入れられてもちょっと困るけど。
「だから、次はちゃんとプロポーズして?」
「…任せろ」
危ない、何だ今のは。可愛すぎるだろ。俺の彼女が可愛すぎる。今すぐプロポーズしたい。婚姻届書いて出しに行きたい。
さっきの二の舞になりそうな寸でのところで衝動を抑える。
「千尋」
「ん?」
「大好き」
「俺も大好きだ」
首もとに埋めていた顔を離したナツメと至近距離で向き合う。そして、どちらからともなく顔を近付ける。
好きだ。大好きだ。愛してる。
そんな一言では表し切れない、溢れ出る想いを触れ合う唇で確かめる。何度も、何度も、何度確かめ合っても足りない。
「好き」
「うん」
「大好き」
「俺も」
時折離れる唇から告白が溢れる度に俺も想いを返す。
繰り返されるキスが止まる気配はなく、ここがお店だという事も忘れて、俺達は何度も想いを確かめ合った。
ナツメと出会う前は、俺がこんな風になるなんて思いもしなかった。
素敵な仲間に囲まれて、俺をずっと見守ってくれていた恩人と再会して、心の底から愛せる女の子と出会えて。
ナツメと同じだ。当時の俺に今の俺を教えてもきっと信じて貰えない。
それでもこれは夢じゃないし、この幸せはこれから先も続く。いや、続かせてみせる。
ナツメと一緒なら、何だって出来る気がするから。
この気持ちを大切に、死ぬまで愛する人と共に居続けよう。
それが俺の一番の願い事だから。
キスに夢中の二人は気付かない。
二人の頭上を、一匹の蝶が飛び回る。
蝶の羽から舞い落ちる光の鱗粉は幻想的に二人を彩る。
傍から見れば、まるで蝶が二人を祝福しているかの様。
やがて蝶は二人の頭上を飛び回るのを止め、少し離れた所で二人の様子を眺めてから再び動き出す。
お店の窓をすり抜けて外に出ると、もう一匹の蝶がお店から出てきた蝶の傍へとやって来る。
二匹の蝶はまるで戯れるように一緒に飛び回り、そして二匹一緒に星空へと昇っていく。
最後にちらりと、お店の中の二人を見遣ってから。
『これからも君の事は見ているからね』
切っ掛けはYouTubeのおすすめ動画の一覧に出てきた一つのサムネだった…。
黒髪ロングの可愛い女の子で、めちゃくちゃドストライクで何か考える前に動画をクリックしてしまい、そして出会ってしまった…。
我に返ったその時、私はゆずソフトのHPでゲームの買い方を調べていました。
という事で、喫茶ステラと死神の蝶と見える人完結です。
何とか年内に終わらせられてホッとしています。
途中何度かモチベーションが切れそうになりましたが、ナツメさんの声を聞いてモチベーションを上げてました。
「ぐむむむむ…」
とか、
「おまわりさーん」
とか、
「我慢しないとパパになっちゃうわよ」
とか、僕の力になりました。
え?最後の台詞だけ何か違う?
僕の性癖にぶっ刺さった台詞です。最初聞いた時マジで悶えました。
いやもうマジでナツメさんが可愛くて、今まで出会ってきた女の子キャラクターの中で一番ど嵌まりしてしまい、原作をプレイし終えてからすぐこのキャラを書きたい!と思ってこの作品が出来ました。
ただ欲望の赴くままナツメさんを書いて、そこに関しては満足しているのですが他のヒロインをもう少し掘り下げたかったなとちょっぴり反省しています。
自分の中でナツメさんが一番なのはもう絶対に動かないのですが、栞那、希、愛衣、涼音さん達を、特に愛衣と涼音さんは最後の方出番が少なくなってしまい、もう少し何とか出来なかったのかと反省しています。自分の力不足です。
ただ、安心してください。ゆずソフトにて喫茶ステラと死神の蝶は絶賛発売中です。(唐突な宣伝)
先程上げたヒロイン四人のルートは勿論、ナツメルートにもこの作品の都合上泣く泣くカットした場面というのは存在します。
なので是非、この話を読んで原作をプレイしたいと感じた方。今すぐソフトを起動しましょう、今は年末年始でお休みの筈です、徹夜しましょう。
そしてソフトを持っていない、原作を知らずにこの作品を読んでいる方。
ゆずソフトにて喫茶ステラと死神の蝶は絶賛発売中です。(二度目)
買うのだ。そしてゆずソフトを履修するのだ。我々は歓迎する。
それでは唐突な宣伝も終わった所でここらであとがきを締めくくらせて頂きます。
ただその前に最後の一つだけ。
次回作もゆずソフトです。私のゆずソフトブームは終わらない。
それではまたいずれ。多分、年明けすぐくらいにまた会う事になるでしょう。
それまで皆さん、おたっしゃでーノシ