5月初日から、早くも1週間が経とうとしていた。小テストで赤点を取った者たちは、黙って教室の話に耳を傾けている。唯一須藤だけが堂々と居眠りをしていたが、誰も咎めることができなかった。未だプラスポイントに転じるすべが見つかっていない以上は、強制できないという判断だ。それでも須藤が日々、多くのクラスメイトから煙たがられていくことに変わりはない。
「たうわ!?」
いきなり声がしたと思ったら、クラスでも静かな方の綾小路の声だった。今のが私語扱いになるのかどうか微妙なところだが、ポイントに敏感になっているクラスメートから痛い視線が飛んでいる。その後は何もなく授業が終わり、昼休みとなった。2週間後にテストが迫っていることもある、クラスのリーダー的存在である平田が、放課後に毎日2時間勉強会を開くと言った。赤点組も須藤、池、山内以外平田の元へ行った。
「なあ、ちょっといいか?」
「なんでしょうか?綾小路くん」
放課後になり、帰ろうとしているところに声をかけたのは、綾小路だった。たいして仲がいいわけではなかったがと思いながら、綾小路になんの用かと聞いた。
「今度勉強会をやるんだが、教える側として手伝ってくれないか?」
「私ですか?………ちなみに聞きますが参加者は?」
「堀北主催で、池、山内、須藤を呼ぶ予定だ。ほら、3人とも赤点とってるから、堀北だけで教えるのも大変かと思ってさ」
「……君が教えれば済む話では…?」
「俺より、天喰の方が頭いいだろ…えっと、参加してくれるか?」
「ええ、予定が空いていれば参加します。…あー、連絡を交換して頂いても?」
連絡を交換してまた後日となり、寮へと戻った。一体どんな考えを持って、
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茶柱side
「何故、お前がここにいる?今は、授業中のはずだが……天喰」
「ええ、体調不良です。それから質問をひとつ」
テストまで2週間を切った。そんな中、授業中にわざわざ教員室まで足を運び質問に来た天喰を、キツい目でみる。ほかの教師は出払っていて静かな教員室で、ポイントはマイナスにならないと言ったでは無いかと言う天喰に、早く質問をしろと急かした。
「先生は、今回のテストで、D組が絶対に赤点を回避できると思っているんですか?」
「ああ、不可能ではない。……分かっているだろ、天喰。なんせ、お前の手の中にあるんだからな」
天喰の持っている端末に視線をおとし、机をトントンと叩いた。なんでわかったのかと聞く天喰に、今度からは防犯カメラに映らないようにやれとアドバイスを返す。まじかァと呟きながら口元を覆う天喰に白々しい愉快犯だなと思う。表面上は、教師と生徒が会話をしているだけだが、これは腹の探り合いで、そうそうに切りあげる必要がある。こんな化け物の相手などしてられるか。
「話はそれだけか?さっさと戻れ」
はーいと間延びした返事をしてから、急ぎ足で教室へ向かう天喰の足音が離れていくと、椅子へ座り直し、手元の資料を見る。羅列された文字に、深いため息が出る。
「どうなる事やら……」
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綾小路side
図書館の端、長机の一角にスペースを確保し、堀北・櫛田・天喰の教える側、赤点組に加え、平田のグループに入りづらいといった沖谷と俺の8人で勉強会を始めた。堀北に、赤点を優に超える点数を摂るようにと言われ、赤点組は渋々といった様子で従っていた。しかし、一問目から躓く須藤に対し、きつい言葉を投げるのは堀北で、次第に雰囲気が悪くなっていく。険悪の空気をどうにかしようと櫛田と天喰が教えることなったが、赤点組の頭の悪さに手を焼いてる。
「あなたたちを否定するつもりはないけれど、あまりに無知、無能すぎるわ。こんな問題も解けなくて、将来どうしていくのか、私は想像するだけでゾッとするわね」
「っせえな、お前には関係ないだろう」
堀北の言い方が癪に障ったのか、須藤が机を叩き立ち上がるが、堀北はさも関係ないといった様子で、言葉を続ける。須藤のバスケに対する姿勢すら否定し始めた堀北に対し、須藤は立ち上がり胸ぐらを掴んだ。櫛田が立ち上がり須藤を止めるなか、堀北は眉一つ動かさず須藤を冷たい目で見ていた。
「バスケットでプロを目指す?そんな幼稚の夢が簡単に叶う世界だとでも思っている?あなたのような、すぐ投げ出すような中途半端な人間は絶対にプロになんてなれない。もっとも、仮にプロになれたとしても納得いく年収がもらえるとは思わない。そんな現実味のない職業を目指す時点で、あなたは愚か者よ」
須藤は明らかに、制御が利かなくなる寸前だが、追い打ちをかけるかのように堀北は、バスケットのプロなんてくだらない夢を捨てて、バイトでもして惨めに暮らすことだと言い放った。須藤は、苛立ちを隠さないまま、開いていた教科書を鞄に詰め始めた。それに続き池や山内だけでなく沖谷までも席をたち図書館を出ていった。残されたのは、4人だった。普段は怒らず、仲違いを収めている立場の櫛田でも限界のようだが、天喰だけは真顔で傍観している。
「堀北さん…こんなのじゃ誰も一緒に勉強なんてしてくれないよ?………」
「確かに私が間違っていたわ」
今回の勉強会を実に不毛で、余計な事だと痛感したという堀北に手を貸している櫛田の顔色が曇っていく。そんな中堀北が出した結論は"足でまといは今のうちに脱落してもらった方がいい"ということ。痺れを切らした櫛田は、また明日と短い言葉を残し立ち去って行った。こうして、図書館に残ったのは3人となった。
「綾小路くんと天喰さんだけは理解してくれたわね。あなた達だけは、あの下らない人達より幾分かまともという事かしら。綾小路くん、もし勉強が必要なら、特別に教えてあげるけど?」
「遠慮しておくよ」
「そう、で、天喰さんは………」
「いえ、結構です。そしてよぉーく確信しました。やはり今の貴方はこのクラスのお荷物だと………」
天喰は、いつもの温厚な笑みと口調ではなく、冷ややかな目に何かに落胆したような口調ではっきりと告げた。堀北は、自分がお荷物と言われたことに眉を顰め、わかりやすく機嫌を悪くした。
「どういう意味かしら?」
「意味?そのままですよ。今の貴方はこのクラスのお荷物だと言っているんです。あぁ、自覚していないあなたの頭では難しかったですかね?……ふふ…すみません…」
「私は、何故あなたが私がお荷物だというのか理由か聞きたいのよ」
天喰は、わざとらしく皮肉がきいた言葉を投げ、苛立ちを隠せない堀北に微笑みかけて続ける。
「この学校は、実力で生徒を図る。それは必ずしも、勉学という訳では無い。運動という面で貴方は須藤くんに劣っている。いやぁ、コミュニケーション能力はもってのほか、池くんや山内くん、櫛田さんとは比べ物にならないほど…おまけにクラス内の雰囲気を悪くし、他人を苛立たせるのがお得意ときました。視野も狭いんですねぇ。とてつもない笑い話ですよ!無知無能に愚か者でしたっけぇ?無知では無いにしろ、改めて、自己紹介でもしてくださってるのかと思いましたよ。」
嘲笑かはたまたは冷笑か────
反論の余地も与えずに言葉を紡ぐ天喰は、普段見せないような呆れた、落胆した顔で堀北に向かい合いこれ当然とばかりに微笑を浮かべ、堀北を眺めている。
「相手のことを何も知らないくせして、まるで自分が正しいのかのように振る舞う…勉強会を開くと聞いて来たのですが、この有様。改めて言いましょう、私は今の貴方に協力したいとは思いません。もちろん今回は、綾小路くんが勝手に誘ったという可能性もありますから、あれですが……言われたでしょう?この学校は勉強能力という点だけで、生徒を評価しない。どこが評価点なのか理解していないのに他人を見下すなんて、とてつもない笑い話ですねぇ…そういうところがD組に落とされた原因では?あなたが今のままなら、A組に上がるなど夢物語だと思いますよ。寝言は夢の中でどうぞ、孤高のお嬢さん(笑)」
そう言うと、天喰は荷物を持ち席を立って、図書館を後にした。俺は教科書やノートをまとめると、須藤たちのところに行くと言って席を立つ。図書館に残された堀北は、1人教科書に目を落としていた。
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数日後
「天喰さん!」
「どうしましたか?櫛田さん」
「もう1回、勉強会に参加して欲しいの!前のことがあったけど、天喰さんにも参加して欲しいの!」
櫛田さん曰く、堀北さんが自分自身がAクラスに上がるために、勉強会のメンバーを再結成して、新しいスタイルで勉強会をリスタートしたらしい。それに乗じて櫛田さんは、テストで一番点数が良かった人とデートするらしい。しかし、櫛田さんと堀北さん、たまに綾小路くんと、教える側の手が足りていないという。もちろん、前回のこともあまり気乗りしないと思うが是非参加してほしいという趣旨を告げた。前回、堀北さんに色々と言ってしまった身としては、あまり参加したくないものだが、
「分かりました。空いていれば参加させいていただきますね。ところで、どこでやってるですか?」
「昼休みに、20分間図書館でやってるの!放課後は、やってないんだ。」
「そうなんですか…随分とやり方が変わりましたね……では、時間を見つけて参加させていただきますね」
「うん!ありがとう!」
了解しましたと返事をすると、去っていく櫛田さんの背中を眺めながら、自分の携帯を開いた。ふと、手元の端末に映る自分の死んだ魚のような目と視線が交わる。気持ち悪ッつぶやき端末をポケットに押し込み、踵を返して彼女と反対方向へと足を進める。
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綾小路side
昼時といえど図書室では大勢の生徒たちが勉強に励んでいる。1年から3年まで、区別なく全員が進退をかけた戦いを強いられていることがひと目でわかる様子である。そんな中、1つのテーブルで池、山内、須藤、堀北、櫛田と共にノートを開き、テスト勉強に励んでいた。
「あぁアレだ。アレ、すげぇ腹の減る名前だった気が済んだよな」
「フランシスコ・ザビエル!………っぽいヤツ、だろ?」
「思い出した。フランシス・ベーコンだ!」
「おい、ちょっと静かにしろよ。ぎゃーぎゃーうるせぇな」
少し大きな声で話しすぎたのか、隣の席で勉強していた生徒のひとりが顔を上げた。池がヘラヘラと受け答えすると相手の生徒がDクラスかと尋ねた。隣で勉強していた男子たちがいっせいに顔を上げ、池たちを見回す。癪に触ったのか須藤が文句があるのかと半ばキレた口調で返すと、山脇と名乗ったCクラスの生徒は、お前らみたいな底辺と一緒に勉強させられなくて良かったと煽るような口調で話し始めた。更に煽られ、怒りで立ち上がった須藤が吠える度に、静かな図書館であるばかりに、いやでも周囲から注目を浴びてしまう。事態が酷くなれば教師の耳に入ることだってあるだろ。C〜Aは誤差でDクラスだけは別次元だと言う山脇に、自分から見ればAクラス以外は団子状態だと言う。続けて言う堀北に、苛立ちを隠せなくなった山脇は、机を叩き立ち上がり、同席してるCクラスの生徒が慌てて袖をつかみ抑える。
「CとDのクラスポイントの差は490、そして、AとC差は450。450が誤差なら、CとDの差も誤差ですよね……貴方は、こんな簡単なこともわからずに発言をしていたのですか?それに、
「天喰さん!来てくれたんだ!」
「遅くなってしまいすみません、櫛田さん。思いのほか昼食を食べるのに時間を使ってしまって……」
「大丈夫!来てくれて、ありがとう!」
須藤が山脇の胸倉を掴み上げ、もう片方の腕を引き殴り飛ばそうとした時、天喰が後ろから落ち着いた声でつらつらと事実を述べた。思わぬ登場人物に、須藤は手が止まり、山脇の胸倉を離した。1番驚いた顔をしているのは堀北で、まさか、前回のことがあったから天喰が来るとは思わなかったのだろう。そんな山脇に、同席していたCクラスの生徒が、慌てて袖をつかみ抑えた。
「お、おい、よせって。俺たちから仕掛けたなんて広まったらやばいぞ」
「今度のテスト、赤点とったら退学って話は知ってるだろ?お前らから何人退学者が出るか楽しみだぜ」
「残念だけど、Dクラスから退学者は出ないわ。それに私たちの心配をする前に自分たちのクラスの心配をしたらどうかしら。驕っていると足元すくわれるわよ」
「く、くくっ。足元すくわれる?冗談はよせよ、俺たちは赤点を取らないために勉強してるんじゃねぇ。より良い点を取るために勉強してんだよ。お前らと一緒にすんな。だいたい、お前ら、フランシス・ベーコンだとか喜んでるが、正気か?テスト範囲外のところを勉強してなんになる?もしかしてテスト範囲もろくにわかってないのか?これだから不良品はよぉ」
他の人を声を聞かず、まだ絡んでくる山脇に、須藤はもうキレる寸前なのか、もうキレてしまったのか、山脇の胸ぐらを掴みあげた。減るポイントも持っていないと大声を上げながら、腕を引き、マジで殴り飛ばすつもりだ。さすがに停めなければと椅子を引いた直後──
「はい、ストップストップ!」
この図書館で勉強していたと思われる女子生徒のひとりが割って入った。暴力沙汰を起こしたいなら外でやってもらえる?と淡々と正論をぶつけるストロベリーブロンドの美少女に、須藤は山脇から手を離した。
「それから君たちも、挑発がすぎるんじゃないかな?わざわざ天喰ちゃんがとめてくれたのにさ。これ以上続けるなら、学校側にこのこと報告しなきゃいけないんだけど、それでもいいのかな?」
「わ、悪い。そんなつもりは無いんだよ、一ノ瀬。天喰さんも、悪かった。おい、行こうぜ。こんなところで勉強してたらバカが移るし」
「だっ、だな」
山脇たちは、吐き捨てるように言ってこの場を去っていった。ふと、俺は、一ノ瀬と呼ばれた少女は、前に一度見かけたことがあったことを思い出す。天喰と一緒に呼び出された日に、星ノ宮先生と一緒に話していたBクラスの生徒だ。君たちも大人しくやろうね、以上!としめて、颯爽と去っていく姿を見送った後、感心したように頷いた。
「堀北と違って、しつかりとこの場を治めていったな」
「私は乱したつもりは無いわ。ただ本当のことを言っただけよ。」
「ねぇ……さっきテスト範囲外って言ってた……よね?」
「ええ、範囲外ですよ。」
顔を見合わせる俺たちに、天喰が予想外の事実を突きつける。茶柱先生から聞いた範囲には、大航海時代が入っている。それは、俺も堀北もメモをしていたから間違いは無い…はず……クラスでテストが違うのかと考えだが、ポイント制度の反映も考えるとありえない。それより─
「どういうことかしら、天喰さん。それに、なぜ、あなたが居るのかしら?」
「櫛田さんからお誘いを受けたんです。あと、綾小路くんからも、嫌だったら帰ってもいいからとりあえず来てくれと………で、テスト範囲のことですが、私も他クラスの人に言われて知ったのですが、5科目全て範囲がズレたらしいです。先週の金曜日にね──私も、3日前に知ったのですが、信憑性が薄かったので、全クラスに確認しました。ホントのことだそうですよ。」
「なっ、それじゃ俺たちは1週間、無駄にしたってことじゃねぇか」
まさかの一週間前に変わっていたなんて……衝撃の事実に、須藤が机をダンと叩き声を荒らげ、立ち上がる。周りからの視線を感じるので、落ち着いて座るよう須藤をなだめ、時間を確認する──昼休みが終わるまで10分を切っている。
「茶柱先生に、確認しに行っほうがいいよね!」
「そうね、それが確実だわ」
櫛田の提案に、堀北が乗り、俺たち勉強会のメンバーは、荷物をまとめ急いで早足で職員室へ向かう。
─────────
誘われた勉強会に顔を出す予定だったが、思いのほか昼食をとるのに時間がかかり、昼休みの時間がどんどんなくなっていく。行かなくても悪いかと思い足の回転を早くする──着いた図書館で、勉強会のメンバーを探せば、他クラスに絡まれていた。
「C~Aなんて誤差みたいなもんだ。お前らDだけは別次元だけどなぁ」
なんて、騒いでいる生徒とキレる寸前というよりもう切れてるだろう須藤(援護射撃:堀北)の言い合いが静かな図書館に響いている。他の生徒は、煩わしいと言った様子で彼らを一瞥して机に向かい直す人もいれば、荷物をまとめて席を立つ生徒もいる。図書館の中をぐるりと見回し、こぼれてくるため息を口の中で殺しながら、ゆっくりと近づくと、堀北に煽られた生徒が勢いよく立ち上がる。周りの生徒は弱々しくそれをなだめようとしているが、当の本人はそれが耳に入っていないようだった。
「CとDのクラスポイントの差は490、そして、AとC差は450。450が誤差なら、CとDの差も誤差ですよね……貴方は、こんな簡単なこともわからずに発言をしていたのですか?それに、
見覚えがあると思ったら、彼の手駒のCクラスの生徒だった。勝手な行動をして問題でも起こしたら、彼の機嫌は地に落ちて、彼らの顔に汚い赤い華が咲くんだろうなと思いながら、かまをかけてみる。案の定の慌てようで、彼に指示された訳では無いということがわかった。
「天喰さん!来てくれたんだ!」
「遅くなってしまいすみません、櫛田さん。思いのほか昼食を食べるのに時間を使ってしまって……」
「大丈夫!来てくれて、ありがとう!」
人のいい笑顔で対応してくれる櫛田さんに感謝しながら、空いているスペースに座り、教材広げる。須藤は山脇の胸ぐらから手を離したし、もう問題ないと思い、勉強を始める。しかし、双方の言い合いは泊まることがなく、しまいには、須藤は山脇を殴るモーションに入っている。綾小路くんが椅子を引き止めようとすると──
「はい、ストップストップ!」
この図書館で勉強していたと思われる女子生徒のひとりが割って入った。暴力沙汰を起こしたいなら外でやってもらえる?と淡々と正論をぶつける一ノ瀬さんに、須藤は山脇から手を離した。
「それから君たちも、挑発がすぎるんじゃないかな?わざわざ天喰ちゃんがとめてくれたのにさ。これ以上続けるなら、学校側にこのこと報告しなきゃいけないんだけど、それでもいいのかな?」
「わ、悪い。そんなつもりは無いんだよ、一ノ瀬。天喰さんも、悪かった。おい、行こうぜ。こんなところで勉強してたらバカが移るし」
「だっ、だな」
山脇たちは、吐き捨てるように言ってこの場を去っていった。彼女は、綾小路くんと一緒に呼び出された日に、星宮先生と一緒に話していたBクラスの生徒で、少し前に起きたちょっとしたいざこざの時に助けてくれた子だ。君たちも大人しくやろうね、以上!としめて、颯爽と去っていくかっこいい姿を見送った。
「堀北と違って、しつかりとこの場を治めていったな」
「私は乱したつもりは無いわ。ただ本当のことを言っただけよ。」
「ねぇ……さっきテスト範囲外って言ってた……よね?」
「ええ、範囲外ですよ。」
感動している綾小路くんと堀北さん、櫛田さん、の3人は範囲外という言葉に肯定した私を見て、顔を見合わせる。他の人も理解ができないと言ったいわくあほ面を晒している。
「どういうことかしら、天喰さん。それに、なぜ、あなたが居るのかしら?」
「櫛田さんからお誘いを受けたんです。あと、綾小路くんからも、嫌だったら帰ってもいいからとりあえず来てくれと………で、テスト範囲のことですが、私も他クラスの人に言われて知ったのですが、5科目全て範囲がズレたらしいです。先週の金曜日にね──私も、3日前に知ったのですが、信憑性が薄かったので、全クラスに確認しました。ホントのことだそうですよ。」
「なっ、それじゃ俺たちは1週間、無駄にしたってことじゃねぇか」
予め情報を握ってなければ気がつけなかっただろう。まさか、5科目全て大幅な変更があるなんて──他クラスに友人の多いであろう櫛田さんが気が付かなかったことに意外性を感じえないが、1週間という長い時間を無駄にしたことにイラついた須藤が机を強く叩きながら立ち上がる。喚いたところで現状は変わらない──櫛田さんの提案で急いで茶柱先生の所へ確認を取りに行くこととなり、勉強会のメンバーは、早足で職員室へと向かった。
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職員室
「……そうか、中間テストの範囲は先週の金曜日に変わったんだったな。悪いな、お前たちに伝えるのを失念していたようだ」
そう言うと、茶柱先生は、ノートにサラサラと五科目分のテスト範囲と思われる部分を書き足し、ページを切り取ると堀北さんへと渡した。白々しく礼を言い、業務に戻る。職員室にいる他の教師たちは、今の話が聞こえたはず──ある種、一大事とも取れる担任のミスにもかかわらず、反応を示さない。唯一、茶柱先生と向かいに座る星之宮先生は、軽く微笑みヒラヒラと手を振った。わざととしか思えない行為になにか裏があると考える。きっとほかのメンバーも気がつくだろう。彼らはもう既に廊下に出ており、そろそろ予鈴が鳴る頃だ──
「ねぇ、茶柱先生……これで、彼らはきっと気が付けますよ。今回のテストの正攻法に──わざとらしすぎる誘導に、あからさまな仕掛け……溜まった不信感は、大事な信用も信頼も壊してしまう。これは、あくまでアドバイス!貴方がまた地に落ちないための──ね」
こちらを向いた先生の目が溢れんばかりに開かれている。その瞳に映るは、不安と苛立ち──何故、お前が──
「っ、お前が何をしようとしているか分からないが、邪魔だけはするな」
「んふふ、どうでしょう。私、楽しいことがだぁーい好きな気分屋なので」
例え、その先が破滅だとしても、楽しいことには、すべてをベッドする──降りることは無い、だってこんな楽しい楽しい生活なんだもの。
完全実力至上主義なんて