では、ある人との再会の回である二話です。
すたーと!
小町と話をして、少しだけ、ほんの僅かかも知れなかったが、胸に刺さった刺が抜けかけているかに見えた。
僅かな緩みだったかも知れない。ほんの少しだったのかも知れない。
だが、気が晴れたのは事実だ。
あとは向き合うだけ。小町に勇気をもらい、素直になるための口実を作ってもらった。
俺はここまでしてもらってなにもできずにただなよなよして過ごしていていいのか?
ここが結末だったならそれはどれほど辛いことなんだろう。逃げることは悪ではない。ただ、自分からも逃げることは正しいこととは言えない。
雪ノ下の言葉でもある。自分から逃げることは悪だと。彼奴は完璧すぎるほど正しい。だが、それは酷く脆いものだ。雪ノ下は名前の通り雪ノ下の雪。そう考えるとわかりやすく、見えてくる。
恐らく俺はそこにヒビを入れてしまったのだろう。小さなヒビ、されど脆いがために影響は大きい。
なら、俺が今すべきことはなんなのだろう。
気付いたらそこは佳境だったのか。選択の必要などないことに俺は気付いていたはずなんだ。
その方法が、電話なんてダサいことこの上ない。
電話でなければうまく伝えられる?そんなことはないはずだ。電話で呼び出してでもいい。
兎に角話せる環境を作りたい。
こんな不器用な俺でも出来ることとはと考えた結果が電話という形であっただけで
だが、現実は今縁取る脚色よりもっと暗い。
『留守番電話サービスに接続します。ピーという電子音の後お伝えする内容を電話口にお話しください』
「くそっ。」
由比ヶ浜と雪ノ下どちらにもかかることはない。
八幡の心情はやはり仄暗いもので、晴れるところを知らない。
空は少し明るいのに、雨はなおも豪雨であり、今の俺には何故かちょうど良いと思えてしまった。
時刻は1時半。
どれだけ考えに考えても、思考の沼に浸かっていく。
ざあざあと降り頻る雨音に次いで、ぽつりぽつりと垂れ落ちる雨水。
垂れ落ちた滴は窓の淵につーっと伸びていき、それが何十も続いていく。
淵には水がたぷたぷと溜まっており、今にも溢れ出さんとしている。小さな淵なのに多くの水が溜まっているところを見て、俺は何故か笑ってしまう。
その水面が揺れるのも少し笑ってしまう。
「SAO 開始時刻か。。。茅場さんには悪いな。俺の探し求める本物なんて言葉の上の物でしかなかったというのに」
茅場明彦。俺の師匠。
師匠とは俺が勝手に呼んでいるだけで、そう呼ぶと薄ら笑いをして嫌そうに顔を顰めるが、それが気に入っていつもそう呼んでいた。
俺はもう、あの人の手伝いをする資格も、俺があの人に関わる資格もない。
だけど、最後に、最後だけ俺は関わることにした。
全てを終わらせるために、SAO に関わることにした。
「今の姿を師匠が見たらどう思うかな。幻滅するかな。」
泣き言のようにしかし刻むように一人呟く。
「だけど、これで最後だ。俺はお世話になった師匠にもう一度お世話になろうと思う。」
一人呟いているのだが、それは独り言とも見えない。確実に誰かに話しているようにも見えた。
そこにいない誰かに
「だから、最後のご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。師匠」
始まりは細やかな敬意だった。
「俺の名前はハチマンか。βテスト時の名前と変わりないな。」
そう言い、手をにぎにぎする。
「ナーブギアの不適合も今のところ見受けられない。
ついでに………」
ついでに俺の目も健在だ。師匠…………いらんとこ再現するなよ。妙にリアリティを醸し出してるじゃねぇか。
「はぁ、俺の目も健在っと。最初あったシステムラグの解消もできてるみたいだし。やっぱやるな師匠」
「ふふっ、君にそう師匠、師匠言われるのはいつまで経っても慣れないね」
「し、師匠?!」
驚いて背後を振り返る。あり得ない。この場には居合わせるはずも、こんな場所にいていいはずもないのに
「やぁ、八幡くん。どうだねSAOは。」
俺の師匠こと茅場明彦がそこにいた。
研究衣服を纏う、茅場明彦の姿がそこにあった。俺がいて欲しい、あって欲しいという姿がそこにあった。
「え?なんでいるんですか?師匠」
「だから、君に師匠と呼ばれるのは少しむず痒いのだが」
師匠はあははと苦笑いを浮かべながら頬をかく。その様子を見ているとなんだか懐かしく思えてくる。
「久しぶりですね。と言っても二ヶ月ぶりですか?」
「そうだね。ベータテストを終え、その時期に君もぱったりこなくなったからね。少し寂しくもあったんだよ?」
と、師匠は笑いながら言ってくる。師匠にそう言われるのはやはり嬉しい。
「あはは、師匠にそう言われるのは本当に嬉しいです。」
「君は面白いからね。君を見ているといろんな可能性が浮かんできたんだ。勿論、些細なことでもね。」
「え?俺何かしました?」
何のことを言っているのか分からないので聞く。師匠は偶に自分の世界での事を言ってくる。それは面白いし、興味深いものばかりだけど分からない事も多かった。
「ははっ、君が知らないところでだよ。まぁ、君は君の道を進みたまえ。」
「はい。そうするつもりです!」
「……私は君になりたかったんだろう」
「え?何か言いました?」
師匠が、何かぼやいたように言ったが、なにを言ったのか聞こえなかった。
「何でもないよ。会うことがあればまた会おう八幡くん」
「はい」
最後に握手をする。
力強くて、少しよろけたのだが、システムの上でもわかる気持ちのこもった握手だった。
俺はこの人に憧れている。
少し短い気もするのですが、暗い気分になりながらですので、結構しんどいです。恐らく八幡は今自分に失望したような、奉仕部に失望したような両方の気持ちを抱いています。
ですので、この先に起こる未来への希望も相まって灰色。
それらを縁取る色は何色であったのか、そんな回です。
皆さんの希望に沿った物語を綴ることができるかどうか分かりませんが、本気で書きます。だからよろしくお願いします!
ではではー
今日はもう一話書くかもです