「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」 作:木岡(もくおか)
今日も少年は人体実験を繰り返されていた。
謎の薬を飲まされたり、その薬の効果のデータを取るために体中に機械をつけられたり。
白衣を纏った大人たちに囲まれて、来る日も来る日も研究室と檻の中を往復する生活
少年と同じように檻の中に入れられている実験体にはポケモンもいる。彼らもまた研究の為に自由を奪われて、狭い檻の中で暮らしていた。
悪の組織ロケット団。この世界では有名な犯罪者集団だ。ボスの世界征服という野望の為にポケモンを捕まえ、奪い、利用する。カントー地方に拠点を構え、あちこちで様々な悪事を働いている悪の組織界隈でも大きな組織。
少年が捕まっているのはその組織だった。少年には何の実験をされているのかは分からなかったが、もう1年以上もロケット団の管理下に置かれて実験体にされていた。齢は9歳になる少年の目はもう死んでいて、ただ自分の運命を呪っていた。
実験に対して抵抗する気力もなくて、逃げ出そうなんて夢にも思わない。近くの檻からポケモン達が必死に逃げ出そうと鉄格子へ技を使っている音が聞こえてきても……少年は硬いコンクリートに寝ころんだまま、無感情で天井を見ていた。
実験の時間が来ると、従順に研究員の指示に従う。そのほうが痛みが少なくて済むから。
そんなある日の実験では少年へと繋がれたコードへ一斉に電流が流された。ポケモンの技名にもあるちょうど10万ボルトの電流だった。
十数秒間の間流される電流に少年は必至で耐えた。こういう耐久力テストはよくあることなので、少年はもう10万ボルトの電流を受けても気を失わないほどに鍛えられていた。
しかし、その日の耐久テストは何度も繰り返された。少年が気を失うまで何セットも電流が流された。何度も何度も、少年の全身に痛みが蓄積され、そして脳にも負荷がかかっていた。
27回目の10万ボルト……少年が気を失う直前の出来事だった。全身を這う電気と共に少年は頭のてっぺんから脳へ何かが突き抜けるような感覚がした。ついに限界が来て自分が壊れたのかと少年は思った。
しかし、次の瞬間から少年の脳には知らない記憶が溢れ出した。爆発するように。自分の前世の記憶だ。
たしか日本という国に生まれて、交通事故で死んでしまう人生の記憶だ。すぐに理解できた。もともと脳のどこかに眠っていた記憶だからか、忘れていたことをハッと思い出すように。
ただ、突然の大容量の記憶に脳の処理が追い付かず、少年は気を失った。
再び目覚めた檻の中。薄暗くて肌寒い。しかし、景色の見え方は全く違っていた。
正面の檻に見えるのはヒトカゲ。その隣にはピカチュウ。ここはかつて夢にまであの世界だ。まさにあの。誰もが1度は夢に見る。
鉄格子の間に顔を突っ込んでさらに周囲を見渡す。近くの檻にはゼニガメ、フシギダネも。
少年が気を失い眠っている間に記憶は整理された。少年は自分が別の世界から転生してきたような存在になったと理解できていた。人格は前世のものに引っ張られている。
ここはポケットモンスター、縮めてポケモン。そう呼ばれる不思議な生き物たちが人間と暮らしている……夢と冒険の世界だ。
「うわあああ」
あまりの出来事に叫んでしまった。それほどに興奮した……。