「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」   作:木岡(もくおか)

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第10話 最初のポケモン

「すみませーん!」

 

 シロウは大声でそう言いながら、オーキド研究所のドアを開いた。何しろ大遅刻、旅立ちの日だというのに寝過ごしてしまったシロウは約束の時間より1時間遅くそのドアを開いたのだった。

 

「すみませんニャ!」

 

 隣のニャースも息を切らしている。

 

 今日という日の元ロケット団一家は家族全員で寝坊というポンコツ具合だった。子供の旅立ちということで皆各々布団の中で思うことがあったのだろう、上手く寝付けなかったり夜中に目覚めたりしてしまったらしくて、最初に目を覚ましたコジロウが起きた時には既に手遅れの時間だった。

 

「オーキド博士こんにちは……」

 

 顔を洗って着替えると、朝飯も寝癖直しも抜いて超特急で走ってきたシロウはオーキド博士が待つ研究室へと入る。へとへとになりながらも見たそこでは……確かに旅の始まりが出迎えた。

 

「おお、シロウ。待っておったよ」

 

「すみません。寝坊しちゃって遅れてしまいました」

 

「遅刻はいかんぞー。しかし、旅立ちの日の前夜に楽しみで眠れず遅刻する新人トレーナーはよくおる。仕方がないと言えば仕方がなかろう。サトシも最初はそうじゃったのー」

 

 オーキド博士が一瞬厳しい顔をしながらも、表情を緩める。その奥を見た時はもう逝きかけたというか、全身に稲妻が走ったようで指先が震えた。

 

 並んだ3つのモンスターボールと図鑑が置いてある。これ旅の始まりの奴だ。前世では皆が1度は妄想したことがあるであろうポケモントレーナーとしての旅立ち。その妄想のスタートはこれが鉄板。御三家から最初の1匹を選ぶというシチュエーション。

 

「あはは……。ほんとごめんなさい。それであの……遅刻したからダメなんてことは……」

 

「うむ。大丈夫じゃ。さっそくポケモンを選ぶといい」

 

「やった!ありがとうございます!」

 

 モンスターボールが置かれた台に近寄る。もう最初に選ぶポケモンはずっと前から考えて答えを出していたけれど、緊張してすぐには手を伸ばせなかった。

 

 このドキドキをもっと味わっていたいのかもしれない。今すぐ触れたいけどまだもう少しだけ……。

 

「ニャースも一緒にいるということはもしかしてお主もシロウと一緒に行くのか」

 

「よくぞ気づいたニャ。そうニャ。ニャーもついて行ってやるのニャ」

 

「ほー、なんと。そうかそうか。ワシからもシロウのことをよろしく頼むぞー」

 

「任せるニャ。ニャーがいれば最初のポケモンなんて本当はいらないニャいけれどシロウは贅沢な奴ニャ」

 

 後ろでオーキド博士とニャースが話しているのを聞きながらシロウはゆっくりと1つのモンスターボールに手を伸ばした。炎のマークが隣に書かれて置いてあったそのボール。

 

 手に取ると、さっそく中のポケモンをボールから出した。

 

「カゲー!」

 

 カントー地方の初心者向けポケモンのフシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲの3匹。所謂カントー御三家からシロウが選ぶと決めていたのはヒトカゲだった。

 

「オーキド博士。僕決めてたんです。最初のポケモンはヒトカゲにします」

 

 理由は色々あるけれど、大きなものは2つ。ゲームではシリーズ通してなんとなくのこだわりから炎タイプの御三家を選んでいたこと。それにバトルにおいてリザードンが最も強いと思うこと。

 

 ゲームでも3匹の中で1番使っていた。この中で最も馴染みのあるポケモンとリアルで一緒に旅をしてみたい。

 

 出てきたヒトカゲはシロウのことを真っ直ぐに見つめていた。実はこのヒトカゲに会うのは今日が初めてではない。オーキド研究所に遊びに来た時に会ったことがある。凄く素直な性格だと知っていた。

 

 そして……やっぱすごくかわいいっ。

 

「ヒトカゲー。俺は君に決めたよ」

 

「カゲっ。カゲっ」

 

 ヒトカゲをぎゅっと抱きしめる。むにっとして暖かい。ヒトカゲ側も知った仲のシロウに抱きしめられると嬉しそうに鳴いてくれた――。

 

「これが最初に支給される分のモンスターボール。こっちがポケモン図鑑じゃ。リーグへの参加登録なんかにも使うから大事にするんじゃぞ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ポケモン図鑑の使い方の説明やらヒトカゲとの上手な触れ合い方やら諸々の話を聞いて、貰う物を貰ったシロウは旅立つ準備万端となった。モンスターボールはコジロウからもらった分もあるけれど普通の物もしっかりともらった。

 

 そして、それらをリュックにしまった時に聞きなれた声が部屋の中にに入ってくる。

 

「こんにちはオーキド博士。シロウもちゃんと来てるわね。はー追いついた追いついた」

 

「どうもお世話になってます。良かったあ間に合って」

 

「ムサシ、コジロウ。来てくれたんだ」

 

「当たり前でしょ。家族の旅立ちですもの」

 

 ムサシとコジロウも遅れて見送りに来てくれた。2人とも先程のシロウとニャースと同じくらい息を切らしていた。

 

 ムサシのびしっと決まった髪型を見て、たぶんこの分の遅れだとシロウは思った。

 

「ちょうど良かった。お前さんたちに話しておくことがある。来ていきなりですまんが大事な話、シロウの体についてのことじゃ。ロケット団が施していた実験の内容が調べで分かった」

 

 ムサシ達を見るとオーキド博士は改まって話し出した。

 

「もう本人も気づいておると思うが、ロケット団がシロウに行っていた実験は人間の体をポケモンと同じレベルまで強化するというもの。なぜそんなことをしていたかまでは詳しく分かっておらんが、おそらくは人とポケモンという生物の垣根を超えた改造人間を作ろうとしていたのか、よりポケモンと同調できる優秀なトレーナーを後天的に生み出そうとしていたのか。ロケット団をパワーアップするために」

 

 明るかった空気がひりつく。でもまあ……シロウも大体そんなところだろうとは分かっていたし、気にしてなかった。

 

「昔を思い出すかもしれんから話すべきか迷ったが君なら大丈夫じゃろうと思った。それに、これからの旅でこれは君にとって大きなメリットになるじゃろう。だから話した。君にはトレーナーとしての素晴らしい素質が備わっているらしい」

 

 オーキド博士の言葉はその通りだと思った。ポケモンの技を受けてしまっても痛くないなんて完全にメリットである。ポケモンと一緒に過ごして旅をするのであればトレーナーとしてメリットだらけだ。別に過去の事なんてもう忘れたし。

 

「そうよ。あんたはもう実験体じゃなくて世界を旅するトレーナーの1人なんだから、その力でバンバンポケモン捕まえてガンガン勝ってきなさい」

 

「そうだぞ。応援してるからな」

 

 そう言ってムサシとコジロウもエールをくれた。そして、シロウは笑う。

 

「うん。俺全然気にしてないよ……俺、ポケモンマスターになってくる!」

 

 

 ――そんなこんなでオーキド研究所を後にしたシロウはニャースと歩いてマサラタウンの町はずれまで歩いてきた。

 

 天気は快晴、風は気持ちよく吹いている。緑が多いマサラタウンのこの景色ともしばらくお別れだ。

 

 もうそろそろ町の出口を過ぎて森の道に入るというのに、研究所で勢い任せに言った言葉からくる恥ずかしさが頭から消えてなかった。初めての自分のポケモンをもらって舞い上がっていたからかポケモンマスターになるなんて自分の口から言うなんて……。

 

 それを少年時代に口癖のように言っていた人からもらった帽子をかぶり直して、もう一度気合を入れるシロウ。その眼前にはマサラの入り口に建てられたカントーチャンピオン発祥の地の石碑があった。

 

 モンスターボールを形どった石とサトシの名前を見て、あの背中にどこまで迫られるかと、これからの自分の旅に思いを巡らせる。

 

「まずはカントージム制覇を目指すのニャ?」

 

「うん。行こう――」

 

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