「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」 作:木岡(もくおか)
「同じ初心者同士でこうやって出会ったんだから。な、いいだろ?」
「ああ。やろうぜ」
クリオからのバトルの誘いに対して、シロウはそう答えた。クリオからの問いに全て間違ったのが悔しくて、やってやろうじゃねえかという気持ちでの答えだった――。
準決勝が終わって決勝戦、その間にはクリオからの問いは無かった。しかし代わりに、クリオは隣でバトルの要所要所の場面における少し先の展開を言い当てた。小言でつぶやくスタイルで、次にこっちのポケモンはどうするだとかトレーナーはどう指示を出すかだとかを言っているのだ。
そしてそのどれもが的中していた。クリオが予想した通りの展開でバトルが進んだ。
「お、勝負ありだな。ヒューヒュー優勝おめでとう。あっぱれあっぱれ」
こうしてバトル大会が終わると、周りの観客が拍手する中でクリオはそう言った。そんな意味が含まれているかは定かではないけれど……シロウはその言葉に「俺がいない大会で」という前置きが含まれている気がしてならなかった。
そのくらいひょうひょうとしているように見えて、クリオにとっては見えていた未来だった。
「さあ。次は俺たちの番だな」
クリオがモンスターボールを取り出してシロウに向かって突き出す。いよいよその時が来た。
突然であった謎の少年、クリオの力を確かめる時。
二つ返事でバトルを受けたは良いものの、正直クリオが一体何者なのか気になるし緊張して仕方が無かった。決勝戦のバトルを見ている時もそれどころではなく、シロウの頭はクリオとのバトルがどうなるかで一杯だった。
突き出されたボールを見てシロウは息を1つ飲む。握った拳からじんわりと手汗が出てきたので開いて風にさらす……しかし、もう一度強く握り直した。
もしかするともの凄い相手かもしれない。けれど、第二の人生初バトル。負けたくない。
「おじさーん。この後ここのコートちょっとだけ使ってもいいですかー?」
クリオは突然走り出して観客席の前列までいくと、審判を務めていたおじさんに話しかけた。コートも決まる。
「よし。聞いていた通り初のバトルだ。頑張ろう。2人とも」
ヒトカゲとチルットにはそう言って、一旦ボールに戻した。未だに眠っているニャースは観客席に残して、いざクリオとコートのほうに下りる。
手短なバトル大会の表彰式が終わると同時に、食い気味で2人はバトルコートに立った。
シロウにとっては初めてのその場所その景色。しかも結構良い所のコートなのでそれだけで緊張する。対して、向かいに立つクリオに緊張の様子は無かった。
「よっしゃ行くぞシロウ。ルールはさっきの決勝と同じ2対2な。いいか?」
「うん。それでいい」
1匹目に出すポケモンを選んでボールを手に取る。周りでは「次はちびっこトレーナーがバトルするのか」という声が聞こえてきて、ちらほら残って観戦しようという人たちもいた。
「行け。チルット」
「ビードル。いっけー」
繰り出されたポケモン達がコート上で見合う。クリオが出したのはビードルだった。
何か珍しいポケモンでも出してくるのかとも思っていたけれど何てことは無いビードルだった。こう思ってしまうとビードルに失礼だけれどただのビードルだ。
こちらを舐めて様子を見ている可能性も強いビードルの可能性もある。シロウは気を抜かずバトルに精神を集中する。
「じゃあ。よーいスタートな。いけ!ビードル!」
バトルが始まる。シロウはまず相手の出方を見ることにした。
「ビードル。体当たりだ!気合で突っ込め!」
「チルット!飛んで躱せ!」
チルットは指示通り羽を使って空中へとビードルの攻撃を躱す。ビードルが接近するよりも随分早い余裕の回避だった。
「チルット。りゅうのいぶき」
「チル!」
チルットから放たれる渾身のりゅうのいぶき。その光はビードルに向かって一直線。クリオからの指示はなくビードルに命中する。
そして……ビードルは1発でのされてしまったようで、仰向けに倒れた。
あれ……?
「次はこいつだ!フシギダネ!」
「じゃあ。俺はヒトカゲ。行ってこい」
次なる相手はフシギダネ。シロウはポケモンを交換してヒトカゲを繰り出した。
「よし!いけ!いくんだ!フシギダネ!」
クリオは元気よく楽しそうに指示を出している。しかし、クリオのフシギダネはどんな指示を出されているか分かってないようでその場を動かない。しかも見たところおっとりしていてやる気もないらしかった。
だったらこっちから――。
「ヒトカゲ。フシギダネに向かってひのこだ」
ヒトカゲの口から放たれる炎。フシギダネに命中して……しかも不意打ちがきゅうしょにでも当たったのかまた1発でひんしにさせてしまった……。
……………………。
数秒間、その場に沈黙が流れる。そして……。
「フシギダネ戦闘不能。シロウの勝ちだニャ」
起きてきたニャースがあくびをしながらそう言った。
あれ……?思いのほかめっちゃ弱いっ……!
シロウは心の中で叫んだ。