「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」 作:木岡(もくおか)
うん。まあ。勝ったのだけれど……。
シロウは喜びもせずに口を開いたままクリオのほうを見ていた。
癖っ毛頭の少年は最初に現れた時と同じように頭を抱えて悔しがっていた。じだんだを繰り出しているあたり全力で悔しがっている。つまりこの勝負の結果は真剣にやったものだ。
自分も超初心者で手持ちに加えたばかりのポケモン達で勝ったことをいばれる立場じゃないし、クリオも初心者なのだから弱くて当然だ。
そうなんだけれど、じゃあ勝負前のあの自信や勝つポケモンを言い当てたあの目は何だったのだろうか。
「すまねえフシギダネ!ビードル!俺が不甲斐ないばっかりにお前たちを勝たせてやれなかった!」
「お疲れヒトカゲ。良い炎だったぞ。初勝利だな」
ヒトカゲをボールに戻しながらクリオのところへ歩く。シロウのポケモン達はポケモンセンターに行く必要もない状態だった。
「何なのニャ?こいつは?」
「ああ。さっき知り合った俺と同じ初心者トレーナーのクリオだよ。意気投合してバトルしたんだ」
クリオはシロウとニャースが近づいても悔しがり続けていた。むしろエスカレートして倒れたフシギダネの横で泣き出すんじゃないのかというほどの気合いの入り方になっている。
「そうなのニャ。見ていたところ弱っちい奴だったニャア」
「くそっ……俺はっ……弱いっ」
ニャースの心無い言葉に対して言い返すことも無く。
「ク、クリオ。いい勝負だったぜ。ありがとな」
「気休めはよしてくれ……。でも、お前強いなあ。シロウ」
「うん、ありがとう」
「俺の友達でライバルに決めたぜ!」
スイッチのONとOFFを切り替えたような早さでクリオは立ち直り、そして握手を求めてきた。
「ああ。望むところだ。……じゃあ、一緒にポケモンセンター行くか」
フシギダネを見たところ回復が必要だと思った。一同は夕日の中でポケモンセンターに場所を移す。シロウが今日の朝に訪れた近くのポケモンセンター。そこでは大会に出場していた見たことのあるトレーナー達が列になってポケモンを預けていた。
人混みに揉まれながらも2匹のポケモンをジョーイさんに預けたクリオと共にロビーの空いていた席に座る。
「くそー。まだ悔しいぜ。人生初バトルが負けなんて」
笑いながらクリオが言った。
「まあ皆誰も負けを経験して強くなっていくのニャ」
「なあクリオ、聞いていいかな。何でお前はさっきのバトル大会で勝つほうが分かったんだ」
ずっと謎のままで気になっているのでシロウは聞く。
「ああそれは。勘だぜ。勘」
「勘?」
「うん。えっと、俺さ子供の時からずっとレベルの高いバトルを間近で見て来たからさ。あの……その、実は俺この街のジムリーダーの弟なんだよな」
「ジムリーダーの弟!?」
「うん。そうなんだ。でも恥ずかしいよな。ジムリーダーの弟なのに負けちまうなんて」
なんだか恥ずかしそうにクリオはそれを明かした。今のところのクリオの真っ直ぐなイメージには無いモジモジ加減だった。
「すげえな。ジムリーダーの弟なんて。そっか、なるほどそれでジムのバトルを何回も」
「おう。見ている内になんとなく、こっちのポケモンが勝つなとかそのポケモンの性格が分かるようになったんだよな。俺の唯一自慢できる特技っつうか」
「いや、すげえよ。そんなの普通分かんないよ」
「そうか。あはは。でもいざ自分がバトルするとなるとダメだな。頭に血が上っちまって相手を見るとかそれどころじゃなかったぜ」
ジムリーダーの弟という珍しい人間との出会いと、それを褒められたことでお互いのテンションが上がる。
そしてその時、その場でシロウはあることを決めた。
「なあ、クリオのお兄ちゃんのこと調べていいかな。俺無知でさ。ジムリーダーのこととかも調べずに旅に出ちゃったんだよな」
シロウは旅立ち前に挑戦するカントーリーグのジムリーダーについて調べることはしていなかった。できなかったし、しなかった。自分用のスマホもパソコンも持っていなかったし、その気になればオーキド研究所とかで調べることもできたけど旅に出た時のお楽しみとして取っておきたいという気持ちもあった。そのほうがより旅が楽しくなる。
森や川、研究所でポケモンを探して触れ合うのに夢中だったという理由もある。でも、今ここでようやくその好奇心を満たすことにした。
「ええ!お前強いトレーナー目指して旅してるのに俺の兄ちゃんのこと知らねえの?」
「うん。それどころかジムリーダー全員知らないぜ」
(今の)という言葉が入る返事。一体今のジムリーダーはどうなっているのだろうか。スマホを起動する。
「仕方ねえな。俺が一通り教えてやるよ」
と、クリオも胸を張った。