「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」   作:木岡(もくおか)

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第2話 絶望的な境遇

 檻が並ぶ廊下に自分の声が響く。同じ実験体のポケモン達が驚いてこちらを見る。恥ずかしくなった少年は檻の奥に戻って座った。

 

 とても落ち着かない。落ち着けない。心がざわざわする。鼓動が早い。できることなら思いっきり叫んだり走り回りたい。

 

 感覚的には前世からずーっと眠っていてようやく目覚めたようだった。前世で生きた25年間の記憶がはっきりとある。気を失って眠っている間に夢の中でおさらいしたような気がする。家族のこと、友人のこと、自分が死ぬ直前の事故の記憶まで。

 

 そしてそこには今世の少年としての記憶も同居していた。

 

 ロケット団に捕まる前の記憶はあまり覚えてない。思い出そうとしても断片的にしか浮かんでこない。記憶を消すような実験もされたのだろうか。それともただ物心ついていなかった頃の幼い記憶だからか。でも確か孤児だったと思う。

 

 名前も与えられていない。ゴミ貯めのような汚い集落で生きていた。昨日までそんな思い出を懐かしもうという気にもならなかったので自然と消えたのかもしれない。

 

 そして、挙句の果てはロケット団の実験体。あまりにも酷い今世の記憶。さらに前世の人生が突然終わってしまったという記憶。合わさればかなり悲しい感情が湧いてくる……はずだった。

 

 しかし、少年の心では今、喜びのほうが何倍も強かった。

 

 理由は前世で少年が大のポケモンファンだったからだ。ゲームもアニメも、ポケモンというコンテンツの全てが好きだった。いかなる境遇であれそのポケモン世界に転生することができた。

 

 正直、前世で死んだこととか実感が湧かん。自分が死んだあとどうなったとか気にならん。

 

 今はただ、この世界をこれからどう満喫するかしか考えられない。まだ自分は幼い子供だ。ぼっくりと終わってしまった前世の分以上の楽しみがこの世界にはあるはずだ。

 

 けれどまあどうしたものか……。楽しみは無限にあるはずだが、それはこの施設の外の話だ。

 

 まずは実験体として檻に囚われているというこのクソみたいな状況をどうにかしなければならない。

 

 落ち着いて、見渡した檻の中の様子はこれでもかというほど暗かった。

 

 ポケモンの世界に転生したからにはポケモンと触れ合いたい、ゲットしてみたい、トレーナーになりたい……そしてポケモンマスターを目指して旅に出てみたい。人間として当たり前だ。その為にここから脱出しなければ。

 

 目の前にいる本物のヒトカゲをこの目に映せただけでもかなりの満足感ではあるけれど。やっぱり。

 

 リアルに見るポケモンはアニメチックな見た目だった。アニメがそのまま動いている訳ではないけれどCGとも違う。前世の記憶に名探偵ピカチュウというものがあったが、あのCGとアニメの間みたいな感じだ。そして、自分自身の体も同じだった。前世の人間とは違う。

 

 だから、周りの檻にいるポケモン達はすごく可愛く見えた。そして可哀そうだ。ポケモン達をこんな檻に閉じ込めておくのは。

 

 少年は前世の記憶も頼りに脱出の方法を考えた。しかし物理的な脱出方法は捕まった当初に色々試していて無理なことはすぐに分かる。自分よりも力がある大人たちがそこら中にいて、ポケモンの力も利用してくる。

 

 自分がどれだけ頑張って走っても無理だ。話し合いに持ち込もうとしても、果たして子供の話を悪の組織が聞いてくれるだろうか。

 

 少年は次に研究室へ連れていかれる時に研究員に和平交渉をした。いや、交渉ですらなかったのかもしれない。研究員に向かってもう子供にこんなことをするのはやめましょうとか、解放してくれるならお役に立ちます的なことを言った。

 

 けれど、眼鏡をかけたいかにも悪顔の研究員は聞く耳持たず、ただいきなり元気に話し出した実験体の少年に戸惑うだけだった。

 

「黙ってろ!二度と喋るんじゃねえ!」

 

 そんなことまで言われて、頬も殴られた。

 

 色々と考えているけれどこれといった答えは浮かばないまま、少年はまた実験を繰り返される日々を送ることになった。

 

 初めのうちはそれでも幸せだった。どんなしんどい体験でもめったにないことなら数日くらいは観光気分で我慢できる。研究室に行けば痛みも伴う実験があるが、近くには夢のポケモン達がいる。

 

 それに目を輝かせていたら、時間が過ぎるのは早かった。もっと言うと、かえんほうしゃやハイドロポンプみたいなのを浴びせられることもあるのだが、驚くことにあんまり痛くない。本来なら重傷のはずなのに傷は浅く、すぐに癒えた。

 

 アニメの演出的なものなのだろうか。アニメの登場人物がポケモンの技を食らっている時みたいに、髪はぼさぼさになるけど見た目ほどダメージはない。

 

 だから耐えられた。だけど……それも長くは続かず……。光が見えない檻の中で少年の目はまた曇っていった。

 

 なんだよ。せっかくポケモンの世界に転生できたのに最初っから詰みかよ。

 

 そうやってうなだれている時だった。施設内にそこら中からサイレンが鳴り響いた。

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