「ポケモン世界に転生したらロケット団の実験体だったけど幸せです」 作:木岡(もくおか)
「シロウ。明日の準備はちゃんとできたか」
「うん。大体」
「着替えは持ったか?野宿用のテントと寝袋は?」
家のリビングでコジロウが明日から旅に出るシロウのリュックを漁る。
「もう心配し過ぎなのよ。トレーナーとして旅をする子供なんていっぱいるしポケモンセンターとか色々サポートもあるんだから。今どき連絡もどこでも一瞬で繋がる」
心配性なコジロウに対してムサシはいつも通りの様子で、新品のスマホを操作している。明日からシロウが使うものだ。
「だってよぉ。長いこと過ごした俺たちの家族が……明日から……離れ離れに……」
いよいよコジロウが涙ぐむ。
「何泣いてんのよ辛気臭い。ったく。はいこれあんたのね」
「ありがとう」
ムサシから初期設定が終わったスマホを受け取る。
「何かあったらいつでも連絡しなさい。……それと、大事に使いなさいね。落としたり無くしたりしちゃダメよ。高かったんだから!」
「うん。気を付けるよ」
「それと、そのスマホとは別に私たちそれぞれから旅立ち祝いのプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
「そう。コジロウ。あんたから渡しなさい」
ムサシがそう言うと、コジロウは急いで奥の部屋へ何かを取りに走って行った。
「俺からのプレゼントはこれ!俺のコレクションから抜粋したイカしたボールセットだ!」
「え、いいの?」
「ああ。持ってけ」
各自あるというプレゼントのコジロウからもらったのはボールのコレクションだった。モンスターボール以外のカラフルなボール、ハイパーボールだとかルアーボールフレンドボールみたいな所謂ガンテツボール。それらがまとまってケースに入っている。
「ありがとう!」
シロウは目を大きく開いて嘗め回すように受け取ったボールセットを見た。ついに明日から使えるモンスターボール。予定では明日、オーキド研究所でもらうはずであったが少し早く手元にきた。実物を見るのは初めてでは無かったが、自分だけの自分が気にいったポケモンが入るボールだ。
加えて、ゲームではオシャボとか言ってたレアなボールもある。これを使ってポケモンをゲットする瞬間を思うと興奮せずにはいられない。
「ムサシからは何があるんだ?俺にも秘密にしてたけど」
「よくぞ聞いてくれました。私からはこれ!」
「……なんだそれ?」
コジロウに聞かれてムサシがポケットから出したのは、ビー玉のような石ころだった。
「じゃーん。畑仕事の時に拾った綺麗な石でーす」
「……。石でーすって、シロウの旅立ち祝いが拾いもんかよ」
「甘いわね。よーくこの石を見て御覧なさい」
「ん……。まさか、これってもしかして……」
コジロウは顔を近づけてよく見てから気づいたようだったが、シロウは少し遠くからでもその石がどういう代物なのか何となくそうなんじゃないかと察しがついていた。
虹色のビー玉のような石の真ん中に何やらマークが浮いている……。
「キーストーンか!メガシンカの!」
「その通り。どうよ」
「すごいな!こんなものよく見つけられたもんだ」
「畑仕事をしてたら深い土の中にね。私も最初はまさかと思ったわ。ずいぶん昔に鳥ポケモンがカロス地方から運んできたのかしら」
その石を受け取るときは手が震えた。実物を見た興奮と共にただならぬパワーを感じた気がして。
驚いた。そんなものまでプレゼントされるなんて。本当に驚きだった。
でも、もっと驚きのプレゼントが次に潜んでいた。
「後はニャース。あんたの番よ――」
「待ってましたニャ!」
ムサシから呼ばれると、部屋にいなかったニャースの声がドアの向こうから食い気味で聞こえた。外で待機していたみたいだ。
その声がしたドアがゆっくり開く。部屋に入ってきたニャースは首にリボンを巻いていた。
「ニャーからのプレゼントは……にゃんとニャー自身なのニャ」
「ええ」
「ニャーもシロウの旅に付いて行ってやるのニャ」
「マジで……」
頷いたニャースをシロウは思わず抱きしめた。もふもふで柔らかい体に、少しざらっとした毛が気持ちいい。
「ニャース!私たちの代表としてしっかりシロウの面倒見るのよ」
「任せるニャ」
最後にはムサシの目も少し潤んでいたようだった。それを見たシロウも涙が嬉しさと共に溢れ出した。
その日の夜はワクワクで全く寝つける気がしなかった。もらったプレゼントを暗い部屋で月明かりにうつして、ずっと明日からの冒険を思い描いていた。
ボールセットにキーストーン。凄く恵まれている。きっと素敵な旅になる。
そして何より隣で寝ているこのニャース。この世界でのバッジ集めの旅においてニャースというポケモンがいることはこの上ないくらいに頼もしい。ポケモンと人間の詳細なコミュニケーションの中継役になれるポケモンだ。
一緒に過ごせただけでも幸せだったのに。まさか一緒に旅ができるなんて。ニャースがいるということはつまり、これから出会うポケモンとのコミュニケーションに困らないということだ。結構チートだと思う。
結局その夜にシロウが眠った時間は遅くなってしまって、翌朝は遅刻でスタートすることになった……。