【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■12.高級貴族にのみ許された遊戯。

 王都は、揺れた。

 戦地から舞い込んだ「ウィルチスタ大平野にて会戦勃発。敵は約8万。我が軍はエルマ村へ後退しつつ執拗なる敵の攻撃を撃退しつつあり」という第一報の後、「何某男爵閣下が討死あそばされたらしい」「エルマ村から兵卒が散り散りになって戻ってきている」という不穏な噂が続き、ついには「エルマ村に駐屯する国王直属の王国軍教導団とクラウディア公爵軍が激突し、クラウディア公爵閣下が討死あそばされた」などという荒唐無稽な話まで、都民の耳に届くようになった。

 とにかく王都の国王以下閣僚らと、GHQ軍備縮小局のスタッフ達は正確な情報を欲し、エルマ村の王国軍教導団に詳細な報告を求めた。

 

「諸侯連合軍はウィルチスタ大平野にて大敗を喫し、敗残兵の多数が略奪目的でエルマ村を襲撃したため、やむなく王国軍教導団は自衛戦闘を実施した。現在、組織的に統制された軍はメイフォン女男爵が指揮するジッキンゲン公爵軍約3000のみである」

 

 戦地に赴いたまま帰って来ない閣僚の空席が目立つ御前閣議は紛糾――することなく、ただただ消沈した。

 送り出した約6万の軍がたったの3000になった。

 勿論、みなことごとく戦死したわけではなく、遊兵・逃亡兵も多数いるであろうが、この数字はあまりにも衝撃的に過ぎた。

 

 いま民主共和国連邦軍が大挙して大攻勢に出た場合、これに対抗出来るのは王国軍教導団・ジッキンゲン公爵軍、それから後詰として王都・エルマ村間に待機中の国王直属の近衛軍、王都に昨日到着したばかりのサークリッド公爵軍のみである。

 国内の方々(ほうぼう)を見れば、勿論いまだ健在の諸侯軍はあるが、戦域までの移動にどれだけの時間がかかるか分かったものではなかった。

 この状況で打てる手など、そうそうない。

 面子・体面を気にする彼らは、西方に広がる近隣諸国に応援を要請すらしていなかったため、国内の戦力で戦略を練り直すしかなかった。

 つまり、多くの閣僚の目にはもうこのパナジャルス王国は、“詰んでいる”ようにしか見えなかった。

 

「ここまでは読み通りよな!」

 

 閣議終了後、サークリッド公の控室を訪ねた王国軍教導団司令官の桜木とケンドリック中佐に対して、齢(よわい)200歳の長命種は弾けるような笑顔を見せた。八重歯がきらりと光る。彼女は痛快とばかりに膝を打った。

 

「有象無象の中には恥も外聞もなく、西方諸国へ“夜逃げ”する者も現れるだろうよ。彼らの領地は私が保護するとしよう……」

 

 元・陸軍中将の桜木には、目の前の可憐な美姫(びき)が国王を丸め込み、亡命した貴族達の領地を自分のものとしてしまうさまが、ありありと見えた。

 負け戦に臨む諸侯を止めずに敗走させて窮地を演出し、利益を掻っ攫っていくのは真っ当なやり方ではない。

 が、そのあたりの政治は王国軍教導団とは関わりのないことだ。

 

「さて。あとは最後の大博打よ――妾(わらわ)が賭けた王国軍教導団が勝てるか否か。桜木、ケンドリック。貴様らが負ければ、妾はこれまでの努力も虚しく、民主共和国連邦の輩に八つ裂きにされるであろう」

 

「……」

 

 桜木もケンドリックも、勝てますなどと無責任な言葉を吐こうとはしなかった。

 王国軍教導団と民主共和国連邦軍の先遣軍――地上戦力のみの比較ではどう逆立ちしても勝てない。

 勝ち目と言えば、民主共和国連邦内部における政治情勢の変化、あるいは王国軍教導団の航空戦力の拡充に期待するしかなかった。

 だがしかし、サークリッド公は気分を害した様子もなかった。

 

「なに、勝利を約束せよなどとは言わん。この賭博、もとより負けは覚悟の上。そのときは己の運のなさを恨みながら、勝負に注ぎこんだこの国のすべてと民の生命を失って死ぬまでのこと」

 

「そのようなことは」桜木は力強く頭(かぶり)を振った。「少なくともサークリッド公爵閣下や多くの国民の国外脱出を実現するだけの時間は稼ぎます」

 

 桜木以下、元・帝国陸海軍人には多少なりとも覚悟がある。

 彼らは戦争に負けることがどれだけ惨めなことか知っていたし、しかも此度の戦争は独ソ戦を超越する絶滅戦争。

 このパナジャルス王国に住まう人々とその営みを守るには、勝利するほかない。

 勝利が難しくとも、時間を稼ぐほかないのだ。

 

 だがその思いを、サークリッド公は「くだらん」と一笑に付した。

 

「妾は賭け金を取り戻そうとは思わん」

 

「公爵閣下、賭博と政治を混同されては、小官らは困ります」

 

 ケンドリック中佐は口を挟んだが、サークリッド公はにたにたと笑うばかりであった。

 

「妾にとって政治とは、高貴な為政者に許された賭博と同義」

 

「何を……」

 

「このまま貴官らがあの狂信的平等主義者どもを追い払うことが出来れば、この王国は妾のものになる。この賭博、勝ったときの利は莫大。それに正直言うとな、勝敗などどうでもいいのだ。これだけ規模の大きい遊びに興じることが出来ただけで、妾は満足している。負けたら? 惨めな余生を送るつもりはない」

 

 彼女にとって、内政とは貴族にだけに許された壮大な実験であり、外交とは貴族にだけに許された頭脳ゲームであり、戦争とは貴族にだけに許された巨大なスポーツであった。高級貴族だからこそ、一国の全てを賭けることも許されると本気で信じている。

 

 それを理解したケンドリック中佐は、舌打ちした。

 

「お言葉ですが、公爵閣下。その発想は正気ではない」

 

「正気であれば、貴官ら異世界人に協力なぞせんわ。さて。妾と話をしている時間があるのならば、もう少しマシなことに時間を充てた方がよいであろう。この世界がソビエト社会主義共和国連邦なるものの総取りになれば、ソ連軍が再転移でステイツや日本国、あらゆる西側諸国の領内に出現することになる……のだったかな。死に物狂いで励むがよい」

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