【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■18.A旗翻る艦隊戦。(中)

 整然とした単縦陣の征途は、無秩序な団子状の混沌と化した。

 

 前述の通り艦隊前部を航行していた装甲艦『データリス』は2本の魚雷を右舷側に受け、莫大な量の海水を呑み込み始めていた。

 彼女の排水量は約1万トンに過ぎない。素早く左舷側への注水を開始し、転覆の危機は免れたものの、61cm魚雷の直撃に彼女はもう虫の息であり、艦長は独断で取舵をとった。

 航行可能な内に少しでも陸に近づき、沈没を避けて『データリス』を着底させるつもりであった。

 

『データリス』の後続となる装甲艦『グトクルー』はより悲惨な最期を迎えた。

 艦首、艦体中央、艦尾に1本ずつ魚雷を食らい、艦首はもぎ取られて切断された。

 さらに艦体中央をぶち破られ、無数の亀裂と破孔が発生、そのまま約400名の生命を乗せたまま前後に断裂して轟沈した。

 

 被害はあと2隻に及んだ。

 

 最先頭から数えて10隻目の装甲艦『ドバスイア』は、61cm魚雷2発を右舷側に受け、浸水を始めていた。

 こちらは『データリス』よりも運がない。ダメージコントロールが上手くいかず、右舷が急速に海中へ沈み込んでいく。横転、転覆は時間の問題であった。

 

 もう1隻は『ドバスイア』に続く排水量1万トン級の装甲艦『ハーディッシュ』であり、艦首に被雷――衝撃で舵が故障したか、洋上で旋回を始め、加えて前進を続けると艦体前部から前のめりに海中へ沈み込み始めたので、やむなく数ノットでそろそろと後進を開始した。

 

「右方、敵艦隊の殿(しんがり)を潰せ――!」

 

 一瞬で4隻を撃破された艦隊司令官は嚇怒とともに、自艦隊の北方を航行する敵艦隊に反撃すべく命令を下した。

 最先頭を往く旗艦『バフティヤル』は面舵一杯、離れていく敵影に食らいつく。

 だがしかし、それに続く連邦軍海軍艦艇は3隻のみであった。

『データリス』以降の後続艦艇は、被撃破艦艇や勝手に旋回を始めた『ハーディッシュ』を避けるために独自運動を開始していたため、『バフティヤル』に追随することが出来なかった。

 

 それでも艦隊司令官以下、艦隊首脳陣は『データリス』以降の艦艇群を一顧だにしない。

 世界最強の装甲艦4隻もあればパナジャルス海軍ごとき軽く蹴散らせる、と本気で思い込んでいるためだ。

『バフティヤル』ら装甲艦が探照灯を巡らし、夜闇を切り裂いて敵艦の姿を洋上に浮かび上がらせた。

 彼我の距離は7000メートル未満。

 すぐさま『バフティヤル』以下4隻の装甲艦は全部で30㎝連装砲4基、14㎝単装砲12基の艦砲を敵影へ突きつけた。

 

「撃て――」

 

 轟、と衝撃波が洋上を駆け巡る。

 水柱が敵艦の周辺に次々と立ち上がり、その姿が見えなくなるほどであった。

 そのさまに艦隊司令官は気を良くした。

『バフティヤル』の30㎝連装砲の射撃速度は3、4分に1発であるからすぐに次弾を送り込むことは難しいが、見るに敵艦影はさほど大きくはない。

 14cm単装砲でも十分仕留められるであろう――と、彼がそんなことを考えていると、『バフティヤル』の近傍に水柱が立ち上がった。

 

「至近弾ッ」

 

「焦るな。こちらを向いている敵艦砲はたったの連装砲1基だ。こちらの方が先に命中弾が出る」

 

 逃走を図る敵の殿が後部の連装砲を巡らせ、健気にも反撃を開始したのだ。

 だが『バフティヤル』に座乗する艦隊司令官は、涼しい顔であった。

 たった2門の砲では速やかな命中弾など期待出来ないであろう。

 その前に砲数の多いこちらが先に相手を撃破出来るはずだ。

 だがしかし次の瞬間、彼は耳をつんざく金属音と激しい横揺れに襲われた。

 

「左舷中央部に被弾!」

 

 装甲艦『バフティヤル』の装甲は敵弾を跳ね返したものの、水兵の報告に面子が潰された思いを艦隊司令官はした。

 その屈辱感が、指揮下の装甲艦4隻を追撃に駆り立てる。

 本来ならば敵艦隊の先頭を狙った方がいいだろうに、艦隊司令官は殿を叩くように厳命した。

 連続射撃。

 当たらない。全20門の砲で狙われた艦影は、噴き上がる水柱の間をするすると蛇行し、確実に彼我の距離を広げていった。

 

「敵は運がいい」

 

 ひとりの艦隊参謀が悔し紛れにそう言ったが、実際にそうであったかもしれない。

 降り注ぐ大小砲弾の合間を、殿の艦艇は全くの無傷ですり抜けていく。

 陽炎型駆逐艦、最後の1隻――『雪風』は被弾するどころか、12.7㎝連装砲を以て射弾を浴びせ、『バフティヤル』に複数の直撃弾を与えた。

 幸運艦――否、乗組員達の日々の努力と高い練度が幸運を呼び込み続けた平凡なこの1隻の駆逐艦は、この異世界でも期待を裏切ることはなく、元・海軍軍人達の命令に応えてみせた。

 

 元・海軍軍人達の見事な操艦により虎口を脱した3隻は、30ノットという高速で遁走。戦闘からの離脱に成功した。

 対する民主共和国連邦軍海軍パナジャルス方面艦隊は、数十分に亘って追撃を試みてから、彼我の速度差を理解し、停止した。

 続けて艦隊司令官は素早く陣容を整理した。

 大破着底した装甲艦『データリス』と『ハーディッシュ』、そして沈没した『グトクルー』と『ドバスイア』から投げ出され、洋上に浮かんでいる生存者のために、無傷の水上艦艇2隻を残置する。

 そして残る11隻を以て、西進を再開した。

 

 ここに来て引き返すなどあり得ない。

 とにかく北都湾へ辿り着くことだ、と艦隊首脳陣は考えていた。

 おそらく北都湾はパナジャルス王国にとって、敵装甲艦の整備が可能な唯一の港湾であろう。

 北都湾を脅かせば、文字通り敵艦隊には後がなくなる。

 正面からの艦隊戦に臨まざるを得なくなるだろう。

 

 ところが太陽が昇ると同時に、パナジャルス方面艦隊は再びの足止めを食らった。

『鳳翔』から飛び立った、九六式艦上攻撃機・艦上爆撃機による航空攻撃のためである。

 残念ながら『鳳翔』航空隊は小規模ということもあり、戦果を挙げることは出来なかった。

 が、これにより『酒匂』以下水雷戦隊が北都湾にて補給を完了するための、貴重な時間がもたらされた。

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