【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■22.T-34、来たる。

「やべえのが来たッ」

 

 エルマ村西方に広く展開していたジッキンゲン公爵軍の哨兵達は、夜闇の中で不気味な轟きを耳にした。

 王国軍教導団が運用する中戦車なる兵器と、同じような空気を震動させ、地を掻き回す騒音。

 騎兵達は与えられていた信号弾を撃ち上げて急を報せた。

 

「敵の数は……」

 

 偶然ながら前線に出ていた傭兵ブラッドレイは物怖じすることなく、夜闇の中で目を眇めた。

「敵襲です、逃げましょう」と左右に言われても、口の端を歪めるばかりで取り合わない。

 本格的な攻撃なのか、単なる威力偵察なのか、見極めたいという思いがあった。

 その遥か頭上の星空を、鋼鉄の塊が横切っていく。

 

 このとき民主共和国連邦軍第6軍首脳部は、再先鋒の第13狙撃兵師団に攻撃を命じていた。

 遅々として進まない攻勢準備に痺れを切らしたのである。

 このままでは物資の集積を待っている間、一方的な航空攻撃を受け続けることになる。

 ならばここは巧遅よりも拙速を採るべし、というのが彼らの考えであった。

 ただ問題は、現在の時点で“すでに時間をかけ過ぎている”、ということにある。

 前・軍司令官のヴェゴリが感じていたとおり、先遣部隊がエルマ村にて撃退されてから、かなりの日にちが経過しており、エルマ村の防御はさらに強化されていた。

 にもかかわらず、第6軍司令部は中途半端な状態での攻撃を決意した。

 勿論、勝算がないわけではない。

 陣頭には別世界から供与された最新兵器、T-34中戦車26輌が立ち、さらにこれを支援する砲兵部隊に対しては、手持ちの砲弾を出し惜しみすることなく発射することを許可した。

 彼らが味方陣地から出撃したのは夜中である。

 これは王国軍教導団の航空偵察と航空攻撃を避けるためだった。

 白昼堂々、戦車隊が列をなして前進すれば、航空攻撃によって全滅しかねない。

 事前の想定では、払暁時にエルマ村付近の敵警戒陣地に接触することになっていた。

 が、ここで多少の計算違いがあった。

 

「ちっ、T-34ってやつかな」

 

「M4と同じくらいの戦車砲を持っている戦車ですね……」

 

「ちょうどいいや、関東軍のかたき討ちだ」

 

 峯岡が指揮する歩兵部隊はエルマ村西方に広がった前進・警戒陣地にて、夜空に上がる信号弾を見、続けて敵戦車が迫っている旨の報告を受けた。

 陣地には戦車壕に数輌の九七式中戦車が潜んでいる上、一式機動47㎜速射砲が複数門備えられている。

 戦車の数にもよるが、うまくやれば撃退出来るだろう、と彼らは考えていた。

 

 連邦軍側の誤算、というのはここにある。

 王国軍教導団側はエルマ村の守備を盤石にすべく、西方へ大きく陣地を拡張していたのであった。

 で、あるから彼らは夜中、全く予期しないタイミングで王国軍教導団の前進・警戒陣地にひっかかった。

 次々と打ち上げられる照明弾にT-34の巨体と散兵の群れが照らし出され、彼らがまずいと思った瞬間にはもう遅い。

 ドド、と視界の前方で砲声が轟き、発射炎がチラついた。

 この時、彼我の距離は500メートルを切っていた。

 まず最先頭のT-34が車体正面と砲塔に速射砲の射撃を受けた。

 砲塔側は嫌な音を立てながらもこれを弾いたが、車体側は当たり所が悪かったらしく、47㎜徹甲弾が貫徹。操縦手が即死した。

 その右隣を進むT-34の手前に、九七式中戦車の発射した57㎜榴弾が落着する。

 これは飛び散った破片と土くれが深緑の装甲板を叩くに終わったが、次の一弾は履帯を直撃した。

 さらにもう1発、異なる方向から57㎜榴弾が飛来して砲塔に激突した。

 九七式中戦車の戦車兵達は57㎜戦車砲の徹甲弾で、M4と同等とされるT-34の装甲板を貫通できるとは思っていなかったので、大戦初期にM3軽戦車に対して実施したのと同様、榴弾の集中射で敵戦車の無力化を狙ったのである。

 

「どこから撃ってきてる!?」

 

 他の最左翼を走っていたT-34もまた射撃を受けたが、傾斜装甲は平然と敵弾を弾き返した。

 ところがすぐに反撃とはいかなかった。

 なにせこの夜闇の中だ、敵の砲口の方位・距離を掴むのは容易なことではない。

 最左翼の戦車長は砲塔から頭を出し、周囲を見回した。

 ぽつぽつと、敵の砲が放つ発射炎が見える。

 とりあえずはあれに向かって撃つほかあるまい――そう考えた瞬間、至近距離にて炸裂した榴弾の破片を首筋に受け、砲塔の内外を血の海としてしまった。

 

「伏せろ伏せろ!」

 

 T-34の後を続く歩兵達も、散々な目に遭った。

 複数丁の機関銃と1門の対空機関砲による第一撃で相当な数の歩兵が粉々になり、伏せた歩兵らも激しい制圧射撃で動けなくなってしまった。

 そこに擲弾筒や歩兵砲による攻撃が始まったので、これではもうやられるのを待つだけである。

 

「大丈夫だ、こっちの位置はバレてない!」

 

 速射砲が次々と火を噴き、命中弾が続出する。

 最初に被弾した最先頭のT-34、その車内にダメ押しの1発が飛び込むと、哀れ異世界の中戦車は火を噴いて、惨めにも足が止まっている周囲の戦車や歩兵を照らし出した。

 

「止まるなッ、前進しろ! 戦車隊前へ!」

 

 戦車隊の指揮官は、慌てて各車に呼びかけた。

 前進して集中攻撃を受けるかもしれないという恐怖と、状況を確認したいという思いから、無傷のT-34の足も止まっていたのだ。

 そうこうしているうちに、1発の迫撃砲弾が静止状態のT-34車体上面に直撃し、これを炎上せしめた。

 

「駄目だッ、どこに敵がいるのかわからない!」

 

「車長、やられてます! 後退します! 後退しますよ!」

 

 九七式中戦車の激しい射撃を受けていた1輌のT-34は、勝手に後退を開始してしまった。

 装甲が砲弾を弾き返して無事であっても、車内の人間からすれば直撃弾を浴びる度に大音響と衝撃に襲われる。

 しかも操縦手は周囲の状況がよく分からない。

 これだけ撃たれていればどこかやられているはずだ、あるいはすぐにやられてしまうだろう、と思ってしまう。

 視野の狭い薄暗い空間にいる操縦手が、正常な心理状態でいることは不可能であった。

 

 陣形は、乱れた。

 前進の命令を受けて最大速度で突出する車輛と、後退を開始する車輛、履帯を切られた上に足回りが故障して動けない車輛と、隊はバラバラになってしまった。

 この中でマシなのは、攻撃の意志を捨てずに突撃するT-34であろうが、これにも随伴歩兵がついて来られない、という大きな問題があった。

 足を止めては発射炎に向けて発砲し、また闇の中をやみくもに前進する。

 鉄条網を踏み潰した先頭の戦車小隊は、対戦車地雷を踏みつけて擱座した。

 さらに擱座したり、撃破されたりした車輛に後方から衝突するT-34も現れた。

 操縦手はもともと練度が低い上にやはり視界が悪いため、気づいた時にはぶつかっていたのである。

 

「2輌ッ、突撃してくる!」

 

 ただし彼らは防御力という面では(少なくとも九七式中戦車よりは)非常に恵まれた戦車に搭乗していた。

 九七式中戦車の射撃を弾き返し、対戦車地雷にもひっかからずに済んだ車輛が前進陣地の間をすり抜けて、警戒陣地に突っ込もうとする。

 だがしかし、前述の通り随伴歩兵がいない。

 そのため陣地に迷い込んだところで、側面に射撃を受けたり、あるいは歩兵の肉薄攻撃を受けたりして、結局撃破の憂き目に遭うのであった。

 

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