【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■25.虚構と現実。

 しかしながら第13狙撃兵師団が後退することはなかった。

 王国軍教導団主力にプレッシャーを与え続けるために平野部の防御陣地に対する断続的な攻撃を実施しつつ、陣地側面の山地への攻撃を強化した。

 

 一方の王国軍教導団も敵攻勢を退けてはいるものの、少なくない犠牲を払っている。

 一夜で九七式中戦車四輌が廃車となり、速射砲・機関砲の砲操作要員も30名以上が死傷。

 他にもジッキンゲン公爵軍選抜兵を中心に、歩兵部隊から多くの戦死・行方不明者が出た。

 小勝利を収め続けている防御側だったが、苦しいことには変わりはなかった。

 

「連中、やっと諦めたか――?」

 

 夕刻。

 陣地の北側・南側に広がる山地では、森林に潜む教導歩兵達が握り飯をほおばっていた。

 眼下の急斜面に生える木々には、連邦軍の戦闘服を纏った死骸が引っかかっている。

 麓の方はもっと悲惨であった。

 無数の機関銃弾と迫撃砲弾、擲弾、手榴弾による反撃により、土と兵士が耕された跡が広がっている。

 土埃に塗れた死体、内臓をはみ出させたままの死体、四肢を失ったままの姿を晒す死体。

 地面の窪みや迫撃砲弾が炸裂した後に出来た穴には、血肉が溜まり、強烈な臭気を発していた。

 しかし、兵士達は食事を続ける。

 食欲のある将兵は少なかったが、食べられる内に食べておかなければもたない。

 また教導歩兵の中には、先の大戦で眼下の光景よりも酷いものを見てきた者もおり、彼らは平然と食事を楽しんでいた。

 

「夜襲に備えろよ」

 

 夕陽の背に山中を回った傭兵ブラッドレイの言葉通り、夜闇が天地を埋め尽くすとともに山地を守備する歩兵部隊に対して、第13狙撃兵師団の攻撃が再度始まった。

 昼間の航空攻撃を凌いだ152㎜榴弾砲が咆哮し、山道を駆け上がる兵士達の進行先を耕していく。

 さらに民主共和国連邦軍側は事故や誤爆を恐れずに双発爆撃機を出撃させ、山地の空爆を実施した。

 この砲爆撃は一部の友軍兵士を巻き込み、100名以上の死傷者を出した以外はうまくいった。

 予想外に激しい敵砲兵の支援砲撃を前に、教導歩兵らは速やかに後退したのである。

 

 死闘が生起したのは、山頂付近であった。

 敵砲兵にとっては陰となる稜線の向こう側から、教導歩兵は迫撃砲弾と擲弾を叩きつけ、今まさに登り切らんとしていた敵歩兵中隊を全滅させる。

 複数機の二式複座戦闘機屠龍が夜間戦闘機として飛び立ち、発射炎を目印に敵砲兵陣地へ牽制の航空攻撃を実施すると、再び形勢は王国軍教導団の側に傾いた。

 

「“峯岡、本当に増援は来るのか”……と、伝えてくれ」

 

 再び麓まで追い落として朝を迎えた後、ジッキンゲン公爵軍選抜兵を指導する傭兵ブラッドレイは通訳を連れて、教導歩兵の指揮を執る峯岡に問い質した。

 敵の攻勢は今後も続く。

 この調子で後退と反撃を繰り返せば、おそらく2週間から1月はエルマ村東方で敵を食い止められるだろう、とブラッドレイは考えていた。

 が、その先は分からない。

 寡兵による防御は時間稼ぎにはなるが、だがそれだけだ。

 敵を駆逐するためには、いつかはこちらも攻勢に打って出なくてはならない。

 だがしかし、そのためには乏しい戦力を増強する必要がある。

 

「……」

 

 対する峯岡は、米国製の紙巻き煙草を一気に喫い切ると、現地語で「来る」と断言した。

 

「大日本帝国陸軍第36軍――戦車第59連隊の元将兵と中戦車が、いまエルマ村の西方に集結している。連中にも負けはしない」

 

 峯岡はいつにもなく真面目な口調であったが、通訳を介して言葉を理解するブラッドレイはその辺りに気づくことはなかった。

 実際のところ、峯岡は出任せを口にしていたのである。

 このまま援兵がなければ王国軍教導団は近いうちに限界を迎えることと、若城が増援の要請に手を尽くしていることは知っていたが、若城の出身部隊である戦車第59連隊の元将兵らが来るというのは、完全なる嘘であった。

 この時点で王国軍教導団は(エルマ村における最初の戦闘の頃から)大幅に強化されていたものの、目の前の敵を撃ち破るだけの戦力も、戦力が到着する目途も立っていなかった。

 

 対照的に民主共和国連邦軍第6軍首脳部は半狂乱になって所属部隊を駆り立て、多少の横紙破りを冒してでも本土から軍需物資を引っ張り抜き、最前線に投入可能な戦力を拡大させていた。

 スマフブアチ政治局員は攻撃の失敗に怒り狂い、まず第13狙撃兵師団をなじった。

 敢闘精神、革命精神の不足が予定通りに前進出来ない理由なのだ、とわざわざ第13狙撃兵師団司令部に赴き、司令部スタッフを怒鳴りつけた。

 それだけでは溜飲が下がらなかったのか、彼は第6軍に所属する第8狙撃兵師団と、第23狙撃兵師団の両師団司令部をも叱りつけた。

 この両師団は占領地の警備から引き抜かれ、エルマ村への攻撃に転用されたばかりの部隊であり、未だ攻撃準備が整ったとは言い難かった。

 そこをスマフブアチ政治局員は衝いた。職務怠慢だ、と言うのである。

 第13狙撃兵師団を初めとする前線将兵は、当然ながら内心穏やかではない。

 以前に戴いていた将官が物腰穏やかなヴェゴリ第6軍司令官だったこともあり、反発はスマフブアチ政治局員の想像以上の物がある。

 ところが粛清の可能性をチラつかせられれば、無理でもやらざるをえない。

 T-34中戦車やT-70軽戦車の組立や榴弾砲の展開が急ピッチで進められ(戦車は本土から最前線まで自走することが出来ないため、分解された状態で輸送されて、前線近くで組み立てられる)、前線将兵は攻勢用の陣地の拡大を急いだ。

 スマフブアチ政治局員は準備が整い次第、より強力な攻撃作戦を発動させるつもりであった。

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