【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■2.嚇怒の鉄牛、チハ。(後)

 1945年9月2日、大日本帝国政府はアイオワ級主力戦艦『ミズーリ』において、降伏文書に調印した。

 この前後で本土は勿論のこと、東亜・太平洋の諸地域で帝国陸海軍は連合国軍に対して降伏し、その軍備を順次引き渡していった。

 海軍省(後に第二復員省)の手許(てもと)に残された小艦艇もあったが、大多数の軍備――三八式歩兵銃から戦艦『長門』に至るまでが連合国軍により接収され、そのほとんどは連合国軍最高司令官総司令部(以降・GHQ)の軍備縮小局の管理下に入った。

 

 そのGHQ軍備縮小局の役割は、膨大な数量の帝国陸海軍の装備品を解体・廃棄処分することである。

 稀少と認められる種類の兵器に関しては、試験に供してから処分する。

 職員の多くはアメリカ軍関係者であるが、解体・廃棄・試験に際しては実際にその兵器を運用していた帝国軍人を雇用して、インタビューを実施して記録に残す。

 

 以上がGHQ軍備縮小局の、表向きの役割であった。

 

 そして以下がGHQ軍備縮小局の真の任務であった。

 

①ソビエト社会主義共和国連邦の支援を受け、近代化を成し遂げた民主共和国連邦の未知世界における伸張を阻止する。

 

②そのためにアメリカ合衆国は民主共和国連邦に隣接するパナジャルス王国を支援し、民主共和国連邦の勢力拡大に歯止めをかける。

 

③ただし未知世界におけるアメリカ合衆国の優位が固まるまでは、未知世界の存在を公表することはしない。また国内の厭戦感情と、議会の干渉を防止する観点から、アメリカ軍をパナジャルス王国へ派遣したり、アメリカ軍の装備品を供与したりすることは出来ない。

 

④そのため、大日本帝国から接収した本来スクラップとなるべき装備品をパナジャルス王国軍に供与する。また王国軍の近代化を完了するまでは、仮に現地で戦死して(既知世界において行方不明扱いになって)も問題がない元・帝国陸海軍の軍人を雇用、彼らを王国軍教導団として民主共和国連邦軍に対抗させる。

 

⑤パナジャルス王国軍の近代化が完了し次第、元・帝国陸海軍の軍人から成る王国軍教導団は解体する。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 エルマ村を襲撃した民主共和国連邦軍の増強歩兵1個小隊を、王国軍教導団・戦車教導第1連隊第1中隊の先遣小隊は、散々に打ち破った。

 僅か10分の戦闘であったが、敵の重機関銃を潰した九七式中戦車は、勢いそのままに対戦車火器を持たない敵歩兵を蹂躙し、その後に続いた随伴歩兵らは狙撃を以て、敵の士官や古参とおぼしき下士官を射殺した。

 緒戦で重火器も指揮官も失った彼ら連邦軍尖兵の士気は崩壊した。

 抵抗を試みることもなく、脱兎の如く逃げ始め、2輌の鉄牛と随伴歩兵はそれを村外れまで追撃した。

 逃げる敵を撃つのは良心が咎める者もいたが、追撃戦は戦果拡大の好機である。

 数名は取り逃がしたものの、先遣小隊は大戦果を挙げることが出来た。

 

「小隊停止」

 

 戦闘が一段落つくと、先遣小隊一行は村の中央に戻った。

 

「間に合った、のか?」

 

 九七式中戦車の砲塔から頭を出し、無精ひげを撫でながら周囲を見回した男――若城(わかぎ)健児(けんじ)はそうつぶやいた。

 彼は戦車教導第1連隊第1中隊長を務めているが、民主共和国連邦軍の闖入(ちんにゅう)とエルマ村襲撃の報を聞くなり、すぐさま第一陣の先遣小隊を組織して、とるものもとりあえずここへ駆けつけたのである。

 

 若城が見たところ、村の内外に斃れている死体はみな民主共和国連邦軍の軍装をしており、簡素な村民の格好をしているものはなかった。

 どうやら虐殺は阻止出来たらしい。

 若城には周囲の村民達が歓喜の声を上げているように思えたが、彼には現地語が分からない。

 村民達の人種は様々だ。皮膚の色が違うどころか、鱗がある爬虫類風の者もいれば、毛が多く生えている畜生のような者もいる。現地語も一種類とは限らなさそうであった。

 若城は自身の鉄牛から降りるとともに、声を張り上げた。

 

「通訳ッ、通訳はおるか!」

 

「はい、ただいにゃあ!」

 

 すぐさま反応があった。

 随伴歩兵が作る人垣の合間から、ひょっこりと人影が飛び出してくる。

 獣人の娘。身長は四尺(約120cm)と少しくらい。短く切り揃えた黒髪からは、ぴょこんと黒い三角耳が立っている。

 戦車教導第1連隊第1中隊の面々からは、「浦田(うらだ)なんとかの紙芝居に出てきた猫娘みたい」ということで、“猫娘”と呼ばれている。

 

「ここの地方人(※旧日本軍で非戦闘員を指す言葉)に、犠牲者はいないか聞いてくれ」

 

「わかりにゃした」

 

 白いアッパッパ(※ワンピース)を着た彼女は、腰の布地に空けた小さな穴から出した黒い尻尾を振りながら、周囲に早速尋ねて回る。

 若城はそれを見ながら「あの地方語はなんとかならんのか」と同じくチハ車から這い出してきた操縦手に聞いたが、彼は肩や首を回しながら「はい、中隊長殿。以前に矯正を試みましたが、あれはなんともならんようです」と答えた。

 

「ふうむ」

 

 若城はあのような幼女に重要な任務を担わせるのはまずかろうと思い、教導団における通訳の養成が急務だと考えた。

 ただ決して彼女に悪感情を抱いているわけではない。

 ただ血飛沫と弾雨が叩きつけられる戦地に、か弱そうな猫娘を通訳として帯同させたくはなかったのである。

 

 さて、エルマ村の守りはさらに強化された。

 1時間後には第1中隊に所属する九七式中戦車2輌と、捜索隊の九五式軽戦車2輌が到着。

 同時に各車輌に跨乗してきた歩兵がそのまま増援に加わり、続いて段列(※後方支援部隊)の竜車がやって来て、武器弾薬や燃料を補給していった。

 

(はたして守りきれるかな)

 

 若城は段列から受け取った小包を丁寧に開き、米国製ラッキーストライクを戦車兵と随伴歩兵ともども皆で分け合ってふかした。

 戦車教導第1連隊・第1中隊という仰々しい名前がついているが、実際に第1中隊所属の車輛は中戦車4輌、軽戦車2輌に過ぎない。

 普通、戦車中隊と言えば中戦車が10輌、あるいは軽戦車が13輌あって然るべきであるが、まったく定数が満たせていないのであった。

 おそらく敵は次の攻撃に、戦車を押し立てて来るであろう。

 ここエルマ村は1000m級の山岳に挟まれた谷間――民主共和国連邦軍からすると、いわば“突破口”であった。

 ここさえ押さえれば、あとは広大な平野へ進出して驀進(ばくしん)するのみ。

 王都まではすぐそこであった。

 

「増援を要請する」

 

 後方へ戻る段列の竜車に連絡を頼むと、若城は東方の空を睨みつけた。

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