【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■29.勝利へ駆けろ!

「江戸の仇を長崎で討つ、ではないが……憂さ晴らしといこうじゃないか」

 

 九七式中戦車改が戦車壕にダッグインし、47㎜徹甲弾による連続射撃を開始すると同時に、その援護の下で三式中戦車が堂々荒地を疾駆する。先陣を切った三式中戦車の周囲に、T-34が発射した徹甲弾が2、3発着弾し、土埃が舞い上がった。三式中戦車の装甲板は車体前面・砲塔前面で50㎜程度しかないから、命中すればおそらく撃破されるであろう。だがしかし、怯むことはなかった。

 鋼鉄と鋼鉄が火花(はな)散らす。

 彼我距離500。三式中戦車が放った徹甲弾をその身に受けたT-34は、内部構造を滅茶苦茶に破壊されて沈黙し、とどめの二弾目を浴びて出火した。傍らのT-34が撃破されたことに驚いた歩兵は、続いて三式中戦車の車体に備えられた九七式重機関銃の標的にされた。

 防御力に劣る九七式中戦車改は陣地を活かしてまずは敵の撃退に努め、三式中戦車は戦線の端から駆けあがり、防衛線の中央に殺到するT-34をはじめとした敵主力の側面を叩く。

 

「間に合ったようで何よりだ」

 

 峯岡が指揮を執る塹壕に、若城が滑りこんできた。

 

「こっちは冷や冷やしましたよ。戦車第59連隊、ですか?」

 

「ああ。だがそれだけじゃない」

 

 来援したのは主に本土決戦のために温存されていた、大日本帝国陸軍第36軍、第51軍に所属していた諸部隊であった。機甲科部隊だけではなく、歩兵、砲兵を初めとする複数兵科が参陣している。最前線に目をやれば、戦車隊の後に続いて兵員輸送にあたる一式半装軌装甲兵車や、下車して中戦車を援護する歩兵の姿があった。一方、後方では九一式十糎榴弾砲や九六式十五糎榴弾砲を擁する砲兵部隊が展開を終え、急速射撃を開始していた。

 

「ちょうどいい。“農作業をしていたら終戦”では、死地へ赴いた同期に恰好がつかんからな」

 

 この大部隊の指揮を執るのは本土決戦において、いわゆる機動打撃を担当することになっていた師団の参謀らであった。彼らがここで重視したのは、速度戦であった。防御に徹していても、最終的な勝利を得られない以上、ここで一挙に攻勢に転じるほかない。

 基本的な戦略・戦術は、欧州における対仏戦線で独軍がやったことの真似事だ。敵司令部が情報を収集し、意思決定を下す前に苛烈な攻撃を仕掛け、敵の予想を超える位置まで突き進む。結果、“過去の位置情報”を基にした敵の司令部の判断は効果的なものではなくなり、対応は遅れていく。混乱は拡大する。

 そううまく運べばいいのだが、王国軍教導団の参謀らは不安と興奮がないまぜになった感情を抱いていた。従来の感覚では、投機的に過ぎると感じたかもしれない。ところが一方で、いまの彼らには無尽蔵に近い帝国陸軍の遺産と、潤沢な食料や燃料といった米国の支援があった。勝ち目は大いにある。

 

 友軍砲兵の援護射撃の下、戦線の両翼を破って突進した三式中戦車と軽戦車、随伴歩兵から成る攻撃部隊は、軽微な抵抗しか受けなかった。民主共和国連邦軍第6軍側は首脳部から前線の一兵卒に至るまで、王国軍教導団側の一転攻勢をつゆも予想していなかったためである。

 正面の防御陣地に手こずっていたT-34から成る中戦車隊は、側面を驀進する三式中戦車の車列に気づかず、前面の防御陣地から反撃を受けるとともに側面から側方より75㎜戦車砲の激しい射撃を浴びた。

 三式中戦車よりも総合的な戦闘力では優っているはずのT-34中戦車でも、側面を衝かれればどうしようもない。「なぜ敵戦車が」と側面の三式中戦車にすぐさま気づけばいい方で、最後まで真正面から撃たれていると勘違いする戦車兵も現れる始末であった。

 ここで連邦軍側の砲兵が彼らの突撃を破砕する射撃を実施できればよかったのだろうが、練度上の問題からそれは難しかった。彼らがずっとやってきたのは、不動の防御陣地や動きの鈍い戦列歩兵に対する砲撃ばかりであり、予想外の場所に出現して機動する臨機目標に対応する訓練と実戦の経験は、ほとんどなかった。

 そういう訳で王国軍教導団が出した攻撃部隊は、瞬く間に数㎞を前進し、さらに歩を進めた一部は連邦軍第6軍が攻撃作戦のために築いていた待機陣地や、砲兵陣地にまで達しようとしていた。

 

「敵防御陣地中央に、王国軍の陸戦ゴーレムを含む有力な部隊が出現」

 

 にもかかわらず、同時刻に第6軍のトップであるスマフブアチ政治局員にもたらされた報告はそんなものだった。情報が錯綜しており、連隊本部・師団司令部が“確度の高い情報”として上げたのは、その程度だったのである。

 どちらかというと彼らの意識は、防御陣地の南北にある山地に向けられていた。攻勢開始以降、苦戦が続いていたのがそこだったからだ。最も新しい情報では、敵の増援が現れて完全に追い落とされつつあるということであった。

 また空模様も気がかりだった。悪天候を見込んで攻勢に打って出たのに、天候は回復しつつあった。砲兵陣地の直上では、数機の敵機が目撃されていた。

 

「我が軍は敵陣地を突破できるんだろうな」

 

 作戦中、スマフブアチ政治局員は子飼いのスタッフに対して、しきりにそう尋ねるようになっていた。政治はともかく、彼は軍事には疎い。周囲のスタッフは彼をなだめるように、「敵は息切れしつつあります」などと都合のいいことばかりを言った。一同は事態が攻勢の失敗どころか、第6軍の致命的な大敗に至るか否か、というところまでいっているのに気づいていなかった。

 

「味方――いや、敵だ! 敵!」

 

 防御陣地の中央に予備戦力を投入するべきか、第6軍首脳部が検討している時、その予備戦力となるべき部隊は、王国軍教導団機械化部隊と交戦を開始していた。三式中戦車と九五式軽戦車が大暴れする中、彼我の歩兵は塹壕の中で手榴弾を投げ合い、遭遇戦を繰り返した。しかしながら、呆気なく戦闘は収束した。

 

「敵の陸戦ゴーレムを止めさせろ!」

 

「師団司令部に応援を頼め」

 

 王国軍教導団戦車隊の突進を受け止めようとした連隊は、逃亡が相次いで霧散した。連隊本部が防戦の指揮を執ろうとしたときには、最前線に立つ兵士達は迫る三式中戦車の姿に威圧され、戦意を喪失していた。

 

「肩透かしだな」と、先頭を往く三式中戦車の機甲兵らは思った。連邦兵は戦車に対して立ち向かってくることはなかった。それも当然で、彼らは携行可能な対戦車火器を備えていなかったからである。対戦車戦闘の訓練も積んでいなかったため、小銃の射撃が通用しないことが分かると、逃げるか、あるいは無為のままその場に留まることしか出来なかった。歩兵はともかく、戦車は素通しである。

 その上空を零式艦上戦闘機に護衛された二式複座戦闘機が飛んでいく。

 

「勝った……のか?」

 

 その遙か後方、山地の守りを指揮していた傭兵のブラッドレイは、望遠鏡で眼下を一望しながら呟いた。流石に敵陣深くまで押し入った王国軍教導団の姿までは確認出来なかったが、敵の攻勢が鈍っていることは明らかであった。と、同時にとんでもないことになった、とも思った。

 

「どうやら俺たちは、時代遅れの存在になったらしい」

 

 これからの時代は訓練された散兵と砲兵、そして鋼鉄製のゴーレム――否、戦車や航空機が戦争の帰趨を決するに違いない、とブラッドレイは痛感した。

 

 ブラッドレイの眼下で戦線の崩壊が始まっていた。連邦軍の強力な戦車部隊が配されていた防衛線中央でも彼らは足止めを食い、そのまま消耗して押し返されていた。そこに両側面から湧いて現れた、王国軍教導団の戦車部隊に殴りつけられたのだからたまらない。

 両翼から突き崩しにかかった王国軍教導団の攻撃隊はと言えば、砲兵陣地にまで至り、砲列を突き崩し、さらに後背にまで至った。航空攻撃も始まり、連邦軍第6軍は抜き差しならぬ状況にまで追い込まれた。

 

「打つ手はないのか!?」

 

 ようやく危機的状況を理解した第6軍首脳部だが、もう彼らに策は残されていなかった。戦車の攻撃を受けた前線部隊は逃走が相次ぎ、あるいは司令部からの見当はずれな命令に翻弄され、反撃の態勢を整えるのは困難であったし、第6軍首脳部と各師団司令部は敵の所在がよくわかっていなかった。

 机上に広げられた図を見ながら、スマフブアチ政治局員と取り巻き達は勝機はあるのか、それとも一旦退くべきか、と議論を重ねていたが自身の面子が潰れることを極度に恐れるスマフブアチ政治局員のせいで、結論はなかなか出なかった。

 そうこうしている間に、新たな報告が舞い込んだ。

 

「敵が来ました」

 

「新手か? どこに現れた?」

 

「……ここに、です」

 

 は? とスマフブアチ政治局員以下が呆然としていると、彼らの耳朶(じだ)を銃声が連続して打った。

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