【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■30.一時代の終わり。

「王国軍教導団およびジッキンゲン公爵軍、エルマ村周辺にて大勝ッ――敵攻勢を退けるのみならず、反攻によって敵司令官スマフブアチおよび敵将兵約4万を捕虜とすることに成功したとのこと!」

 

 小雨降り続く王都は、もたらされた勝報に沸いた。王国軍教導団の健闘によりパナジャルス王国の命運は、また再び開かれたのである。国王以下の閣僚達は数日ぶりに胸を撫で下ろし、後顧の憂いなく久しぶりに睡眠をとることが出来た。

 

「勝ったか」

 

 元・海軍中将の男は、北都湾の警備に就く練習艦『鹿島』に祝砲を撃つように命じた。あと数か月後、帝国海軍はこの異世界からも消滅する。この『鹿島』以下巡洋艦『酒匂』、駆逐艦『雪風』『春月』、そして航空母艦『鳳翔』が、新生するパナジャルス王国の海軍に引き渡されることは、すでに決定していた。故にこの祝砲は、勝利を祝うのみにあらず。新たな門出を祝うものでもあった。

 

「ここからまた忙しくなるな、ケンドリック中佐」

 

 桜木司令官とケンドリック中佐は議場を抜け出して外へ出た。雨は上がっていた。雲間から光が差している。紙巻の煙草に火を点けたケンドリック中佐は、うんざりした様子で小刻みに頷いた。

 

「これでこの国の連中は現代兵器の威力、それを操る王国軍教導団の実力を無視出来なくなった。旧態然とした貴族勢力を一掃し、このパナジャルス王国を――チャーチルの言った“鉄のカーテン”、その“西側の国”とする。いましばらくはサークリッド公といった高級貴族にも飴を与えなければならないが、いずれは……」

 

「強力な中央集権国家――明治維新、いや昭和維新だなあ」

 

「改革はなかなか難しいが、まあ戦争ほど忙しくはならないだろう。民主共和国連邦軍はこの方面を攻略する愚を悟った。もっと攻め易い方面の軍事行動を優先するはず」

 

 このケンドリック中佐の予想は的中していた。民主共和国連邦軍第6軍の大敗は、党内・軍組織内に強い衝撃を与え、党幹部と軍高官らはこのパナジャルス王国方面の攻略に及び腰となった。なにせ関われば、失脚する可能性がつき纏うのだから、皆が忌避するようになるとは当然であった。

 つまり桜木司令官とケンドリック中佐は、戦略的な勝利をも収めたのである。大日本帝国陸海軍の軍備をパナジャルス王国や他の友好的な国々に供与し、民主共和国連邦軍に抗することが可能な近代軍を養成する時間は、十分に稼げたであろう。

 

(煙草がまずい)

 

 桜木は、ふとそう思った。

 抱えている仕事が一段落して、ストレスから解消された証拠であった。

 

「村とは一生の別れかも、もう戻って来られないかも、と思ったのが阿呆らしい」

 

 疎開していた村人が戻ってきたエルマ村では、ささやかな祝宴が毎晩開かれた。主賓は元・帝国陸軍の将兵らである。とはいえ、村民らは食料品や酒を持っているわけではないので、すべて王国軍教導団の物資から供されて開かれていた。互いに言葉もほとんど分からないが、なんとなく一緒に酒を酌み交わしている。王国軍教導団の古参隊員の中には、知り合いの村人や親しくなった子供たちと再会を果たし、「よかったよかった」と喜んで菓子を渡す者もいた。

 

「こんな小さな村ですが、救ってくださいまして本当にありがとうございました」

 

「おっ、猫娘ちゃん。日本語うまくなったね」

 

 わざわざ挨拶に来た通訳の猫娘に、峯岡もまたキャラメルを握らせた。

 

「若城さんにもお礼言っとけよ」

 

「もちろんです!」

 

 その若城ら戦車第59連隊の面々は、旧交を温めていた。

 今回の勝利は偏に彼らの活躍に拠るところが大きい。戦車と機械化歩兵による機動戦が、民主共和国連邦軍第6軍を突き崩した。このことからこの後、パナジャルス王国軍は“オール・タンク・ドクトリン”とも言うべき機動戦・戦車偏重の軍事戦略を採用するようになるのだが、それはまた後の話だ。

 そして王国軍教導団はほどなく解体されることとなる。教導団の面々もまた、それぞれの道に進んでいく。元の世界に戻る者もいれば、この世界に残って新生パナジャルス王国軍の指導にあたる者もおり、商売を始めたりする者も現れる。

 彼らは確実にこの王国に未来をもたらし、この異世界に多様な可能性を遺した。

 王国軍教導団の薫陶を受けた新生パナジャルス王国軍の活躍については、後に語る機会もあるだろう。

 だがとりあえず1946年、大日本帝国陸海軍最後の戦争は、ここに終わったのである。





米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――(完)
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