【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■3.皇紀2606年の九六艦戦。

 若城が眼(まなこ)を向けた東方の空では、空戦が始まろうとしている。

 

 大日本帝国陸軍航空本部・大日本帝国海軍航空本部の元・関係者も参加している王国軍教導団司令部が予想した通り、民主共和国連邦軍は戦爆連合を組織して積極的な航空作戦に打って出た。

 既知世界におけるGHQ軍備縮小局の諜報活動と、こちらの世界での情報収集の結果、民主共和国連邦軍はソ連製I-16戦闘機を半年前から運用していることが分かっている。

 その他の機種は、Li-2輸送機が少数確認されているのみ。

 I-16のごときは1933年に初飛行、ノモンハン事件で九七式戦闘機と決闘した機であるから旧式機であること著しい。

 が、軍事技術の程度が近世から近代程度のパナジャルス王国軍には、航空機に対する備えがないから、当然これは王国軍教導団が阻止しなくてはならなかった。

 

(まさか紀元2606年に九六戦で飛ぶことになるとは)

 

 しかしエルマ村東方の空へ進出した元・帝国海軍少尉、宮中(みやなか)鋭二(えいじ)は、不安と焦りを尻に感じていた。

 蒼穹に敵影を探す視線は、滑ってしまう。下方か上方か、後方か。いまにもどこからか曳光弾が飛んで来るのではないか、という恐怖心が常にあった。

 

 民主共和国連邦軍が運用する戦闘機が旧式のI-16である一方、彼ら王国軍教導団・教導航空飛行隊が装備するのもまた、旧式の九六式艦上戦闘機であった。

 この戦闘機は皇紀2595年(1935年)に登場した機種で、近代的な全金属製の単葉戦闘機である。

 だがしかし、主脚の引き込み機構がないことや、武装は7.7mm機銃が2門のみという火力の貧弱さはいかんともし難(がた)い。

 I-16と九六式艦上戦闘機では彼我、機体性能によるアドバンテージはない。

 むしろ九六式とは異なり、地上での運用のみを考えて設計されたI-16の方が有利かもしれなかった。

 

 当初、王国軍教導団・教導航空飛行隊も、陸軍出身者は機体も部品も有り余っている一式戦闘機隼か『決戦機』とも称された最新鋭の四式戦闘機、海軍出身者は多くの者が慣れ親しんだ零式艦上戦闘機、最終所属に応じて雷電、あるいは紫電/紫電改を運用する予定であった。

 だがしかし教導航空飛行隊はある事情から、現在のところ九六式艦上戦闘機しか運用出来ていなかった。

 

 宮中らの編隊は1個小隊・4機編成であった。

 みな宮中と同様に少尉――ポツダム宣言とともに少尉に進級したいわゆる“ポツダム少尉”であるが、元を質せばみな熟練の下士官として大戦を戦い抜いた強者どもである。

 最左翼の九六式艦上戦闘機を駆る五藤少尉が機関銃を発射し、翼を振って急を告げた。

 

「敵ッ」

 

 宮中は左翼――南の空を見る。

 

 ……いた。黒点。それが4つ。

 自機よりも低高度を悠々と飛んでいる。好機だ。

 だが食いつく前に、さっと自機の頭上や敵機の上方を見やった。

 あれは罠で、もしかすると高高度に伏兵がいるのかもしれない、と思ったからである。

 

 だがしかし、敵機の姿は見えない。

 杞憂であった。

 掛け声とともに宮中らは後顧の憂いなく、敵の4機編隊に食らいついた。

 高高度から一撃。

 航空戦は基本的に位置エネルギーを保有する高高度の方が有利である。

 まず一航過で1機を墜(お)とした。

 

(敵さんは未熟者(ジャク)だな)

 

 宮中は一太刀斬りかかっただけで、相手の練度を推し量ることが出来た。

 残る3機も瞬く間に射弾を浴び、田畑か山腹に激突する憂き目に遭った。

 相互の連携もなくてんでバラバラに逃げるため追い詰めるのは容易であったし、おそらく敵は格闘戦の訓練をほとんど積んでいなかったようだった。

 

 事実、そうであった。

 民主共和国連邦軍将兵は航空機という存在に触れたばかりであり、日華事変(日中戦争)から航空機が大規模運用される近代戦を経験してきた元・帝国陸海軍将兵との間には、天と地ほどの技量の格差があった。

 

「王国軍が航空機を前線投入?」

 

「虚報ではないのか」

 

 民主共和国連邦軍第1航空連隊本部は、最前線からもたらされる“異変”の報告に慌てふためいた。

 地上部隊からは次々と友軍機被撃墜の目撃情報や、敵航空機による爆撃を受けた旨の連絡が相次いだ。

 だが、おかしい。

 

「パナジャルス王国など所詮“道路”の二流国。航空機など装備・運用しているはずがない」

 

 航空参謀達は口々にそう言い合った。

 

「友軍誤射ではありますまいか」

 

「その可能性は考え難いが……」

 

 最前線で航空作戦の指揮を執る第1航空連隊長は、「ソビエト社会主義共和国連邦以外の異界国家がパナジャルス王国の支援に乗り出した、とも考え難い」と呟いた。

 それにパナジャルスの人間に航空機が扱えるか、という侮蔑の意識が彼にはあった。

 航空機は整備から戦闘まで、非常に複雑な取り扱いを要する。

 勤勉な民主共和国連邦の“標準人類種”であるからこそ航空機はモノに出来たのだ、と彼は本気で考えていた。

 

 それが間違いであると彼が気づくのは、もう少し後のことになる。

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