【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■4.エルマの堅陣。(前)

 地上の若城にのんびりと空を眺めている余裕などない。

 敵の先遣小隊を散々にやっつけて撃退した以上、連中は躍起になってこのエルマ村を突破しようとするであろう。

 またこの地において“陸戦ゴーレム”と称される九七式中戦車の存在も、向こうに伝わったに違いない。

 今度は相手方も重火器、あるいは同じ陸戦ゴーレムを投入して来る、と考えるのが自然であった。

 

 現在の若城が有する戦力は、前述の中戦車4輌・軽戦車2輌から成る戦車1個中隊(実質のところ戦車小隊に毛が生えた程度の規模)と、歩兵1個小隊相当でしかない。

 現時点では砲兵による援護は期待出来ず、曲射砲と言えば簡便な八九式重擲弾筒のみがあるだけだった。

 敵本隊が本腰を上げて攻撃してくれば、到底抗しきれるものではない。

 

「若城さん、こりゃまずいよ。連中は露助からT-34――M4戦車相当の中戦車までもらってるって噂だし、そいつが来たら歯が立ちませんぜ」

 

 歩兵小隊の指揮を執る峯岡(みねおか)勝俊(かつとし)は、若城に対して声を潜め、そう泣き言を言った。

 彼は勇猛果敢な指揮官というよりは、要領よく立ち回る海千山千の古参下士官タイプの人間だった。

 先の大東亜戦争においてはフィリピン戦線を戦い抜き、最後には部下とともに米軍に降伏した過去を持っている。

 その彼は悲観的な考えを持っていた。

 質に優る米軍と戦ってきた峯岡は、こちらの所在が割れている状態で真正面からぶつかれば負ける、という感覚を根強く持っていた。

 敵が米軍やソ連軍のような機械力・大火力を備えていた場合、エルマ村ごと王国軍教導団はこの地上から焼却されるであろう、と彼は恐れていたのである。

 

「いや」

 

 だがしかし、若城は峯岡の経験から来る進言を退けた。

 

「エルマ村は戦略的に放棄出来る場所ではない」

 

 若城の考えは峯岡のそれとは異なっていた。

 民主共和国連邦軍は米軍でもなければ、ソ連軍でもない。

 重機関銃や戦車など、見た目こそ派手な正面装備を有してはいるが、結局はソ連からの援助を受けて中途半端に近代化した軍事組織に過ぎない。

 兵站の整備は不十分であり、砲弾を初めとする軍需物資の集積・移送には時間がかかる。

 いまの民主共和国連邦軍の水準では、持続的な火力の発揮は不可能である――というのが、GHQ軍備縮小局の結論であったはずだ。

 

「防御陣地を構築する」

 

 少しも譲らない若城の態度に、峯岡は「わかった」と折れた。

 負け癖のついている峯岡には寡兵で真正面から敵を迎え撃つことに恐怖があったが、大して戦わぬまま逃げ出すのも、癪(しゃく)に障らないと言えば嘘であった。

 

 すぐにエルマ村の内外で、土木工事が始まった。

 

「アメさんの工作機械、こりゃいいや」

 

 まず峯岡は部下達に一人用の塹壕である蛸壺を掘らせようとしたが、すぐに段列の竜車とともにやってきた工兵隊が活躍した。

 彼らは円匙(えんぴ)だけではなく、GHQ軍備縮小局が手配したショベルカーやブルドーザーといった工作機械を持ち込んでいたから、野戦築城は大変はかどった。

 ただし彼らは戦闘工兵ではないから、工事中に敵襲があれば後退するしかない。

 若城と峯岡は気を揉んだが、結局のところ日が落ちても敵が攻撃を仕掛けて来ることはなかった。

 

「どうやら大丈夫そうか」

 

 村民達の許可を得て、村の東部に広がる畑地の大部分は掘り返されて防御陣地となった。

 作業時間はわずか数時間であるが、とりあえず塹壕と複数の掩体壕・戦車壕から成る一線陣地が完成。対戦車地雷の敷設も完了した。

 夜中も絶え間なく段列の竜車が到着し、増援と重火器を届けた。

 

「武器弾薬があっても人手が足りん」

 

 そう言って溜息をついた若城に、峯岡は「贅沢な悩みだ」と笑った。

 

 王国軍教導団の強みは何かと言えば、物的な補給体制が盤石であることだ。

 エルマ村と王都まではそう遠いわけではないため、九四式トラックや竜車の往復で物資の輸送は事足りる。

 装備品の補充は、日本列島に死蔵されている兵器が幾らでもあるから問題にはならない。

 

 その一方で王国軍教導団は深刻な人的不足に悩まされている。

 GHQ軍備縮小局も旧軍出身者に対して、積極的に声をかけているものの、やはり勤務先が海外どころか異世界ということで、なかなか人集めに苦労しているらしい。

 であるから、王国軍戦車教導第1連隊の定数割れも戦車不足が原因なのではなく、単純に戦車兵が集まらないことが問題になって起きていることであった。

 

 が、前述の通り峯岡からすれば、そんなものは贅沢な悩みだった。

 先の戦いとは違い、糧食や武器弾薬が海没することなく届くのだから本当に有難い。

 夜通しの補給で峯岡が指揮を執る歩兵部隊は、新たに2個分隊を加えた上、九二式重機関銃の到着もあって火力面で大いに増強された。

 

 

 

「連隊長閣下。先遣小隊の生き残りの話では、エルマ村において鋼鉄製のゴーレムと、小銃を携行する歩兵部隊の反撃に遭ったとのことでしたが……装甲部隊の援護が必要では?」

 

「パナジャルス王国が鋼鉄製のゴーレムを本当に装備していると思うかね。小銃も所詮、ライフリングを有するものではなく、大威力だが命中精度も悪く、短射程のマスケット銃であろう。恐るるには足らないよ。先遣小隊の弔い合戦は、同小隊が所属していた第3中隊にやらせよう」

 

 対する民主共和国連邦軍の側であるが、再先鋒を務める第33狙撃兵連隊第3中隊約200名は夜明けを待ってエルマ村への攻撃を開始した。

 夜襲ではなく薄明以降の攻撃を選んだ理由は、太陽を背に攻勢を仕掛けられることもあるが、第3中隊の配置と補給が間に合わなかったからであった。

 現状、王国軍教導団によって航空優勢がパナジャルス王国軍の側にあるため、白昼はただでさえ捗らない補給がさらに滞った。

 彼らは昨日だけでも、九六式艦上戦闘機の機銃掃射や九六式艦上爆撃機・攻撃機による航空爆撃を受け、竜車の車列が散々にやられていたから、「物資の輸送は日没後が確実」という認識を抱かざるをえなかったらしい。

 

 だがしかしそれでも、彼らには地上戦に対して絶対の自信を持っていた。

 

 味方には近代的なライフル銃があり、連発銃があり、鋼鉄製の陸戦ゴーレムがある。

 敵にはそれがない。

 勝負は戦う前にほぼ決している、というのが彼らの常識であり、故に攻撃は必ず成功するという揺るぎない自負があった。

 前述の通り、「戦えば勝つ」と信じていた。

 

 さて。これまで格下相手ばかりを降してきたため、日露戦争や第一次世界大戦がごとき真の近代戦を体験していなかったのが彼らの不幸である。

 機関銃と迫撃砲で守られた防御陣地に対して無為無策の突撃を仕掛ければ、いかなる結果が待っているか――彼ら民主共和国連邦軍の人間は知らなかった。

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