【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■5.エルマの堅陣。(後)

 火砲の援護もなく、エルマ村目掛けて勇敢なる突撃を実施した第33狙撃兵連隊第3中隊は十数分で壊走した。

 特筆すべきことはない。

 彼らには近現代戦に適応し得るメンタリティがなかったのである。

 八九式重擲弾筒と九二式重機関銃に乱打され、及び腰になった兵卒達の横を駆け抜け、「数では優っている、突撃」と叱咤した中隊長代理が八九式榴弾の直撃を受けて四散すると、もう誰も前進しようという気にはならなかった。

 無秩序な後退。

 

「罠か――?」

 

 あまりにも敵の引き際が早すぎるのを訝しく思いつつ、若城は自車を戦車壕から追撃に出した。

 結論から言えば、この連邦兵の逃走は罠でも何でもない。

 戦車兵達はみな敵の速射砲が待ち構えているのではないか、と周囲を警戒しつつも、逃げる敵の無防備な背中をただ撃ち続けた。

 

「なんか一方的で、後ろめたさすら感じるね」

 

 20分後、異世界人の死骸とのろのろと這い回る血肉の塊に埋め尽くされた防御陣地前面を見た古参兵は、そう感想を漏らした。

 傍らの峯岡も「うん」と頷いた。

 緒戦とはいえ、こんなもんかというのが彼の思いであった。

 肩透かしを食らった、と言っていい。

 しかし彼は忘れることなく、「勝って兜の緒を締めよ」と周囲に言い含めた。

 

「まあ感覚的に言うと、殺(や)ったのは1個中隊くらいかな。つまりこのあともどんと来るだろうから、よろしく」

 

 峯岡の言葉は、間違っていなかった。

 2時間もせずに、再び民主共和国連邦軍第33狙撃兵連隊の攻勢である。

 今度の攻勢は軽歩兵の突撃ではなく、76mm連隊砲と50mm中隊迫撃砲による準備砲撃から始まった。

 これは第33狙撃兵連隊からすると、非常に本格的な攻撃であった。

 連隊手持ちの砲弾すべてを費やす、従来の周辺国軍戦列歩兵ならば、瞬く間に吹き飛ばしてしまうような規模の砲撃だ。

 事実、王国軍教導団が立て籠もる防御陣地の周囲では次々と土砂の柱が立ち上がり、連邦軍兵士の目からすると、生命が生きていられるとは到底思えないほどであった。

 

「よし、踏み潰す」

 

 準備砲撃開始から30分後、続けて第33狙撃兵連隊第1・2中隊が陣頭に立った。

 よほど砲撃の効果に自信があったのか、第33狙撃兵連隊長もこの攻撃に参加している。

 実戦部隊の指揮官が最前線に立つことで、周囲の士気回復を図ろうとしたのであろう。

 

 そしてみな、ことごとく死んでいった。

 

 第33狙撃兵連隊の攻撃に対して、王国軍教導団は全くの無傷であらゆる火器を指向していた。

 第33狙撃兵連隊の準備砲撃は、ただ表土を耕したに過ぎなかったのである。

 日露戦争、第一次世界大戦から始まる近代戦争の規模に比較すると、彼らの準備砲撃のそれはあまりにも小さすぎた。

 峯岡の言葉を借りるならば、「しょぼしょぼ降(ぶ)りかよ」というところだ。

 彼ら第33狙撃兵連隊本部は、76mm連隊砲を十数発、迫撃砲弾を20発ほど撃ちこんで、それで満足していたのだった。

 ……塹壕陣地を突き崩すには、その10倍は必要だろうに。

 

 そういうわけで、再びの虐殺。

 先程の第3中隊による攻撃、その約2倍の頭数で第33狙撃兵連隊側は押し寄せた。

 そのため前回よりも肉薄されたが、結局彼らは手榴弾を転用した対人地雷で守られた鉄条網を突破することが出来ず、そのまま火網に絡みとられてしまった。

 

◇◆◇

 

「第33狙撃兵連隊は何をしている」

 

 民主共和国連邦軍第13狙撃兵師団司令部の参謀達は、苛立ちを隠さなかった。

 

「計画ではエルマ村を抜き、ウーラガン山地の向こう側に進出しているはず」

 

 対パナジャルス戦の最先鋒を務める第33狙撃兵連隊は、未だにエルマ村の前に足踏みしている。

 数時間前、第33狙撃兵連隊本部から「鋼鉄製の陸戦ゴーレムを擁する有力な敵部隊と遭遇した。応援を要請する」と連絡があったことが、第13狙撃兵師団司令部の面々を更に苛立たせた。

 

「おそらく略奪の時間を稼ぐために、尤(もっと)もらしい口実を作っているんだろう」

 

 齢60にも関わらず、筋骨隆々の第13狙撃兵師団長の表情は苦々しい。

 ソビエト社会主義共和国連邦から先進的な火器と陸戦ゴーレムの供与を受けた連邦軍が、中近世レベルの軍備しか有していないパナジャルス王国軍に苦戦するなどあり得ない。

 第33狙撃兵連隊はおそらく、略奪とサボタージュのために虚偽の報告をしているに違いない……というのが、第13狙撃兵師団司令部一同の認識であった。

 

 だがしかし、前述の通り第33狙撃兵連隊は真実、苦戦していた。 

 苦戦どころか、ほとんど全滅した、と言ってもいい。

 エルマ村の防備を侮って突撃を仕掛けた第33狙撃兵連隊は、凄まじい猛射を浴びて瞬く間に膨大な数の死傷者を出した。

 十字砲火。

 雨霰と叩きつけられる曲射砲弾。

 連邦兵達は頭を上げることも出来ないまま、退却も出来ず、ただただ射撃に晒され続けた。

 第33狙撃兵連隊本部は76mm連隊砲や、各中隊に配備されている50mm中隊迫撃砲による援護を試みたが、王国軍教導団の防御陣地が予想外に広範であったことと、持ち込んだ砲弾の数があまりにも少なかったため、効果的な反撃にはならなかった。

 

 だがそんなことは、師団司令部にはわからない。

 彼らの手落ちはこれまでの優勢にあぐらをかいていて、師団司令部が指揮下におく偵察隊を最前線に派遣していなかったことであろう。

 情報収集は連隊本部からの報告に任せていた。

 

「第33狙撃兵連隊本部から伝令が来ました」

 

「やっとか。村を獲(と)るのが遅すぎる……」

 

「エルマ村攻略は失敗。第33狙撃兵連隊長以下、第1・2・3中隊長みなことごとく戦死」

 

 であるから、第33狙撃兵連隊本部からの報告は衝撃的に過ぎた。

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