【完結】米ソ異世界代理戦争――1946年・大日本帝国陸海軍最後の戦い――   作:河畑濤士

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■7.そして会戦へ。(後)

 結局、数時間かけて決まったことと言えば、諸侯の手勢から成る王国軍約6万の指揮をクラウヴィア公なる高級貴族が執ることと、先陣の名誉に誰が浴するかということであった。

 桜木司令官とケンドリック中佐は前述の通り、議論に対して興味を失っていたので、先鋒を誰が務めるかもよく聞いておらず、あとで通訳者に聞いて確認する有様であった。

 ひとつの議題が片付く度に休憩を挟むのが慣例ということで、仕方がなく桜木とケンドリックは外へ出て紙巻の煙草に火を点けた。

 

「この国は遅れている」

 

 偉丈夫のケンドリックは苦々しげに、そう日本語で吐き捨てた。

 

「故郷のバッファローじゃ5歳の子供だって“ナチが攻めてくるんだ”と言って、大人を手伝ったり、戦争ごっこをしたりしていたよ。ここの連中の程度はその子供たち以下だ。およそ実際的ではないね」

 

 生粋のイギリス系白人である彼は完璧主義者の気(け)が強く、よほどパナジャルス王国の旧態然としたところが気に食わなかったらしい。美しく整えられた中庭の芝生に、唾を吐いた。

 それを見ていた桜木は、思わず笑ってしまった。

 対照的な小兵(こひょう)の日本人の彼からすると、イギリスはつまり紳士の国である。

 だがしかし、その血を受け継いでいるはずのケンドリックの行動はおおよそ紳士的ではない。

 アメリカンだな、と彼は思った。

 

「ケンドリック中佐、面子だよ。面子」

 

 だがしかし、桜木もケンドリックには同感のところが大きい。

 陸大36期卒、前線部隊を渡り歩き、終戦時には本土決戦に備える一師団の師団長を務めていたこの元・陸軍中将は、もう派閥争いとか権力闘争には飽き飽きとしていた。

 桜木自身、GHQ軍備縮小局から要請を受け、王国軍教導団の司令官に就いたのは、軍人以外に食っていく道はないと思っていたからである。

 栄達や名誉を求める思いは全くない。

 

「面子……? ああ、名誉のことか」

 

 ケンドリックは吸い殻を落とし、半長靴(はんちょうか)で踏みにじった。

 

「勿論、我がステイツにも部署間の争いや、上司と部下の軋轢もある。だがちょっと度が過ぎているだろう。それよりも問題なのは、このままでは6万の王国軍は――諦めるとして、このパナジャルス王国が滅亡することだ。形式や儀礼、家格、高い誇りも大事だが、そのせいで国が滅ぶのは滑稽でしかない。何か止める良い方法はないかな、桜木さん」

 

「うーん」

 

 桜木にも妙案はなかった。

 このまま座視していれば、未だ戦列歩兵の時代から脱却出来ていない王国軍6万は、火砲と機関銃、ライフル銃で武装した民主共和国連邦軍に殲滅されるであろう。

 が、なにせ王国軍教導団には発言力がなかった。

 結成から未だ1年と経っていないこともあり、王国の要人と信頼関係も構築出来ていない。

 パナジャルス王国は様々な人種から成る多民族国家であるため、人種差別を受けたことこそないが、それでも「あれが噂の異世界人か」「彼らは何をしているのか」「その軍備は信頼に値するものなのか」と好奇の視線を向けられることの方が多かった。

 

(国王陛下の御料地であるエルマ村の防衛成功で、多少は我々の株も上がるかと思ったが、評価としては“辺境の一戦、勝って当たり前”だものなあ)

 

 この状況で何を言っても、胡乱(うろん)に思われるだけであろう。

 進取の精神が旺盛な高級貴族、サークリッド公の尽力のおかげで王国軍教導団という帝国陸海軍を母体とする独立部隊が創設出来ただけでも、幸いというところであった。

 

「そうだ、サークリッド公爵閣下に相談してみようか」

 

 サークリッド公は、端的に言えば人類女性である。

 しかし多種族・多民族・多文化社会を是としてきたパナジャルス王国らしく、様々な形質の発現がその外見からは見受けられる。

 桜木とケンドリックが最も驚いたのは、外見は十代の少女にもかかわらず、200歳を超越する長寿であることだった。

 

「おうおう、来たか桜木ィ。ケンドリック。妾(わらわ)は退屈しておったぞ」

 

 サークリッド公の控室にふたりが向かうと、やはりそこには光り輝く銀のドレスを纏った、金髪翠眼の長命種がいた。

 深紅のソファにその身を沈ませ、にやにやと笑いながら、グラスに注いだバーボンをちびりちびりとやっている。

 勿論、アメリカ合衆国ケンタッキー州発祥のバーボン・ウイスキーが、この世界に元々あるはずがなく、これはケンドリックが贈呈したものであった。

 

 挨拶はせずに、桜木は本題から入った。

 このままでは諸侯連合から成る王国軍約6万の生命は、無為に散華する。

 何かいい手立てはないか、と。

 

「桜木ィ」

 

 サークリッド公は満面の笑みを浮かべた。

 

「それは難しい。ここらで釘を刺しておくが、妾も相当無理をしておる。前々回かその前か、鳳翔を北都湾に浮かべるだけでも骨が折れたというに、今回の閣議で航空基地造営の議題を捻じ込み、大小貴族に賛成へ回るよう根回しをして、妾は疲れ果てた」

 

「公爵閣下。以前、申し上げたとおり、民主共和国連邦軍の小銃はパナジャルス王国軍が保有する小銃の5倍近い有効射程を有します。連射性能も高い。大砲に至っては比較にすらなりません。敵は鋼鉄製のゴーレムも保有しております。勝てる見込みは万に一つもございません」

 

「桜木ィ、ケンドリック。貴様らが誠実な男であることは、妾はよーく分かっている。貴様らがそう言うのならばそうなのだろう。だが……」

 

 サークリッド公は長髪を片手で漉き、グラスに注がれた琥珀を喉へ流し込むとぶっきらぼうに言った。

 

「他の連中は信じたいものしか信じんぞ。議場におった以上、分かるであろう? 奴(きゃつ)らは勝てると踏んでおるわ。ならばやらせればよい。そうすれば否が応でも学習するであろう」

 

「公爵閣下……」

 

 なおも食い下がろうとするケンドリックに、サークリッド公はまたもや破顔した。

 

「よいではないか。諸侯連中が大敗すれば、貴様らは自然、必要とされる存在になる。妾の権勢も相対的に上昇するというものよ。いやぁ、妾も手勢を引き連れて参戦出来ればよかったものを、領内で土砂災害が起きてはいかんともしがたいなあ。戦功は他の者に譲るとしよう」

 

 サークリッド公は上機嫌のまま、背後に控えるメイドにバーボンを注がせた。

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