蟲柱・胡蝶しのぶの医務室に、薬湯をかけられてずぶ濡れの神崎アオイが現れた。
機能回復訓練後に沈んでいる彼女に、しのぶが声をかけようとすると、彼女から先に相談を持ちかける。
アオイから善逸と伊之助の横暴を耳にした彼女は静かに激高し、二人への制裁を加えることに決めたのだった。



作者(?がらくた)からの注意と散文

この話は、アニメの機能回復訓練編あたりの話だ。
ネタバレが嫌な者は、それを注意した上で目を通すように。



以下小生がこれを書いた経緯

①単行本のしのぶさんに叱られる伊之助、震えてるな(気づき)

②アオイちゃんにも言い返す伊之助が少し怒られたくらいで、おとなしく言うことを聞くとは思えない。
これより前によほどしのぶさんを怒らせるようなことして、力関係を知ったんだな(妄想混じりの拡大解釈)

③原作でしのぶさんがブチギレかねないことといえば……これだ(点と点が繋がる)

と言った感じだ。
二人のやりとりを、もっと見たかったぞ。

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「蟲柱による野生児教育」【鬼滅の刃二次創作】

夕暮れ時。

蔵書の甘ったるい匂いと藤の花の匂いが混じった、独特の臭いが漂う医務室にある少女が訪れた。

神崎アオイ。

蝶屋敷の雑務と看護、そして機能回復訓練の指揮を務める女隊士だ。

彼女は肩で呼吸をしながら、何やら思いつめた表情をしていた。

薬湯をぶちまけられ、二房の髪が乱れた姿は、まるで大振りの雨の中を傘も刺さずに駆けてきたようだった。

訓練で、ずいぶんと派手にやられたようだ。

生真面目で、不平不満を溜め込む節があるアオイのこと。

しのぶほどではないにせよ多忙な彼女は、用件は手短に済ませる。

よほど込み入った内容なのだろう。

何かありましたかと、訊ねようとした矢先

 

「折り入ってご相談が……」

 

彼女の方から先にしのぶに語りかけ、椅子に腰を下ろす。

 

「私に相談とは珍しい。力になれることなら遠慮なく言って下さい。金銭面の心配はいりませんよ」

「先日屋敷に越してきたお三方の、機能回復訓練についてなのですが……」

 

しのぶに促されると、彼女は吾妻善逸の度重なるセクハラと、嘴平伊之助の暴力について話し始めた。

特に力が強い伊之助を引き剝がすのに難儀するらしく、足首を持って逆さ吊りにするなど、やりたい放題のようだ。

しかし二人への恨み言もそこそこに、彼女は二言目には怪我でもさせたり、自分が怪我したら、看護や訓練に支障が出るかもと漏らす。

きびきびした働き者の彼女に甘えすぎていた。

しのぶは偽りではない笑顔を浮かべると、日頃の水仕事で乾燥した彼女の手にそっと触れる。

 

「ありがとうございます、アオイ。あなたに色々と押し付けすぎたようですね」

「しのぶ様……」

「善逸くんと伊之助くんは、私がみっちり『教育』しておきます。安心して、これからも治療と訓練に励んでください。あなたがいないと、蝶屋敷はやっていけませんから」

「ありがとうございます」

 

そういうと気を揉んでいたアオイは、朗らかに微笑んで退室する。

 

「まったく。あの子たちが来てから、面倒ごとばかり増えますね」

 

一人きりの医務室でしのぶが肩で息を吐いて呟くと、外ではカラスが忙しなく鳴いた。

忌まわしい夜を告げるように。

 

 

 

数日後

 

しのぶの一日は忙しい。

自らの鍛錬に、生薬の買い付け。

怪我をした隊士の治療に、鬼の使う怪しげな術に対抗する薬の調合。

夜には、管轄している地域の見回りもしなければならない。

身体能力に秀でた柱でもないと、過労で倒れてもおかしくない、殺人的な過密スケジュールだ。

だが、その前日は怪我人が搬送されることもなく、多少の時間的余裕があった。

朝一番で病室のベッドに向かうと、善逸は禰豆子の入った箱に話しかけている。

しのぶの予想に反して、彼の教育に時間はかからなかった。

平身低頭して、今までの非を詫びたからである。

アオイも無抵抗のままではないし、それでも繰り返すなら、また注意すればいい。

問題児は、もう一人いる。

彼にばかり構っている暇はない。

 

「二度目はありませんよ」

 

釘を刺して、しのぶはその場を後にする。

伊之助を探しにいくと、彼は猪の被り物を脱いで、庭にある井戸の水を汲み上げていた。

つるべに口を近づけて、唇の端から垂れる水を袖で拭う一連の所作は、艶かしさすら覚えるほど美しい。

彼に見惚れた彼女は、自分の頬を叩いて気合を込める。

 

「伊之助くん、おはようございます」

「誰だよ、おめー」

「しのぶです」

 

逃げられぬようにじりじり距離を詰めていき、挨拶すると、伊之助は上司に対する態度とは思えない口振りで返事した。

 

(相変わらず、誰の名前も覚えられないんですねぇ)

 

嫌味と苛立ちを飲み込み、彼女は続ける。

 

「アオイを困らせているようですね?」

「ハァ?」

「隊員同士で傷つけ合うのは、ご法度です。たとえそれが機能回復訓練だとしても。伊之助くんも理解していますよね?」

 

しのぶは言葉を選びつつ、諭すように投げかけた。

 

「そのアオコって、どんな奴?」

「道場で相手をしてくれる、二つ結いの子がいるでしょう? 君の看護もしています。澄んだ青の瞳で、少々気の強い……」

 

アオイの特徴を列挙していくと納得したのか、伊之助はうんうんと首を縦に振った。

だが謝るでもなく、ただ高笑いするのみで、反省の色は微塵も見られない。

 

(落ち着きなさい、しのぶ。感情の制御ができないのは未熟者、未熟者です)

 

息を整え、しのぶは自分に言い聞かせた。

もう少し厳しい言葉で接するべきか。

彼女が顎に手を当て、頭を悩ませていると

 

「あの小うるさいチビが言ったのか。アイツは弱味噌だからな。この世は弱肉強食。俺様に負ける弱ェ奴が全部悪いんだよ、ガハハハッ!」

 

伊之助は悪びれずに言ってのける。

それを聞いた瞬間、プツンとしのぶの堪忍袋の緒が切れた。

 

「そうですか。申し訳ありません」

「ハッ。分かればいいんだよ」

「……聞き分けのない伊之助くんには、もっと荒々しいやり方で対処に当たるべきでした」

 

刹那、しのぶは飛び上がると、容赦なく伊之助の胸元に蹴りを入れた。

骨の軋む鈍い感触が、薄緑の入院着の布越しから足に伝わる。

吹っ飛ばされた彼の体が二度三度跳ねると、周囲に砂煙が舞い上がる。

彼が竹垣に勢いよくぶつかると、主人の横暴に驚いたのか、草花に群がった蝶は一斉に飛び立つ。

空中を一回転して彼女が着地すると、蝶の翅を模した形見の羽織がひらひらと揺れた。

 

「何しやがんだ、ゴラァ!!! さっきと言ってることと、やってることが違うぞ!」

 

急に攻撃を仕掛けたしのぶに、伊之助が怒鳴り散らす。

猪の被り物からは激しい鼻息が漏れ、いたく興奮している。

 

「言いましたよね、この世は弱肉強食だって。言葉を尽くしても無駄だと分かりました。ですから君のやり方で、私に従わせます」

「お前、病気治す奴なんだろ?! それなのに病人の容体を悪化させるような真似して、恥ずかしくねーのかよ!」

「ご心配なく~。医者ですから、どうすれば人体が壊れるか加減は知っています。伊之助くんはとびきり丈夫ですし、乱暴に扱っても問題ありませんよね」

「ハッ、面白れェ。願ったり叶ったりだぜ、予想通り鬼殺隊は強い奴ばっかりだ。猪突猛進! 猪突猛進!」

 

全身砂まみれにされても、相変わらず懲りた様子はない。

それどころか叩きのめす度に、伊之助の闘志は更に燃え上がっていく。

格上と相対しても折れない負けん気。

ちょっとやそっとでは、へこたれない根性。

鬼殺隊士としての素質は十分だが、まだまだ足りないものは多い。

自覚は彼にもあるだろう。

そんな伊之助に、しのぶはカナエの死後のがむしゃらな自分を見ているようだった。

鬼の殲滅に全てを賭すと決めた自分を。

彼女の中の滾る憎悪は時を経るにつれて、空気を入れすぎた風船の如く膨らみ、遅効性の毒のように心を蝕んだ。

伊之助の強さへの執着が、本物か否か。

求める力が、両親と姉を殺された自分のような人々を増やさない力であるか否か。

力を渇望する彼に興味が沸いた彼女の表情に、俄然活気がみなぎる。

 

「伊之助くん、背中ががら空きですよ」

「なっ」

 

猪突猛進の言葉通り、伊之助は猪の突進のような直線的な動きで、しのぶに向かっていく。

だが全集中の呼吸・常中を会得している彼女には、止まって見えた。

驚きの声を上げる伊之助の背中を、背後に回り込んだ彼女が足蹴にする。

地面に突っ伏した彼は何が起こったのか理解できないといった風に、自分を見下ろす彼女を仰いだ。

 

「まるで歯が立たねぇ。あの半々羽織と似た気配がするぜ。性悪蝶女、名前を教えやがれ!」

「しのぶです。し、の、ぶ。さっきから言ってるじゃないですか」

「チクショウ、俺は山の王なんだぞ……。いったい何が足りねぇんだ……」

 

伊之助は地面に獣の爪痕を残して、悔しさを滲ませる。

 

「蝶屋敷の子に危害を加えないことと、私の名前。物覚えの悪い君の為に、その二つを覚えられるまで繰り返してあげましょう。さぁ、かかってきなさい」

「うらぁぁぁ!」

 

足をどけると伊之助は即座に身を起こし、言葉にならない叫びを発して飛びかかる。

だが軽やかに舞い、しのぶは彼の反撃を難なく躱す。

その光景はさながら、素早い昆虫とそれを追いかける少年のじゃれあいのようで、微笑ましくもあった。

 

「おい、逃げるんじゃねぇ! 勝負しやがれ、乳もぎ取るぞ!」

「伊之助くんなら触れるくらいはできると思っていましたが、全力でこれなら仕方ありませんねぇ。しょうがないしょうがない」

 

煽れば煽るほど、伊之助がしのぶを追う足は速くなった。

しばらく彼女が戯れていると、どこからともなく声がする。

 

「伊之助、お前! しのぶさんとイチャつくんじゃねぇ! これだから顔のいい奴は嫌いだわ!」

「もしかして訓練ですか。俺も混ぜて下さいよ~」

「全員揃いましたし、ちょうどいいです。10分ほど、君たちと稽古をつけてあげましょう。どれだけ力が戻っているか、私に見せてください」

 

その後しのぶは炭治郎、善逸、伊之助の三人との稽古に勤しんだ。

室内とは違って地面に所々に石が落ちていたりと、外での訓練は決していい条件ではなかった。

だが倒れても、つまづいても、泣き言一つ言わずに抗ってくる姿に、彼女は若い命の輝きと無限の可能性を見る。

 

(ごめんね姉さん。姉さんの願い、守れそうにないや。でも私がダメだったとしても、きっとこの子たちが……)

 

鬼殺隊を辞めることも、誰かと添い遂げる十人並みの幸福を享受することもせず、姉との約束を何一つ守らなかった自分には、この道しかない。

彼女は彼らの必死な姿を見て、胸の誓いを確固たるものにした。

 

 

 

その後も、伊之助のアオイへの態度は変わらなかった。

けれどもこの一件以来、しのぶの恐ろしさが身に染みたようである。




二次創作(のマナーなど)について調べていると隠れるべきという意見を見ました。
キャラ名などで検索すると、二次創作が嫌でも目に映るというのは正論なので、ちょっと考えて、このタイトルにしています。
ただ言い訳がましいですが、イラストと違って小説なので、ある程度は自衛できると思う(腐、夢、CPタグがちゃんとしていない作品除く)。
それを知るまではタイトルを

「伊之助くん、私が教育してあげましょう」

にするつもりでした。
今のタイトルよりはインパクトあると思うので。
伊アオの小説については、もう一本掌編(煉獄さん視点のおばみつ)を上げてから、投稿する予定なので、まだまだ時間がかかりそう。
それはそうと、鬼滅の刃バレンタイン編楽しみですね。
伊之助の出番があるのか、今から楽しみです。


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