舞台はモルモットが車になった世界。
癒し系の車“モルカー”。くりっくりな目と大きな丸いお尻、トコトコ走る短い手足。常にとぼけた顔で走り回るモルカー。渋滞しても、前のモルモットのお尻を眺めているだけで癒されるし、ちょっとしたトラブルがあってもモフモフして可愛いから許せてしまう!?

そんなモルカーだけど、どうやらうちのモルカーは反抗期らしくて「プイッ」とそっぽを向いてしまうのだ。

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プイプイモルカー

 朝六時半、起床。

 

 

 俺の一日はそこから始まる。

 

 朝食を作り、息子と自分の弁当を用意してからモルカー用のキャベツを庭に用意。

 すると眠そうな灰色のモルカーがキャベツを咥えて「PUIPUI」と鳴いた。名前はプリモという。

 

 

 七時。

 朝食を食べてから息子を起こして 、モルカーに乗り込んだ。

 出社時刻は九時。しかし、渋滞や遅刻を考慮し、一時間前行動を取ろうとすればこの時間になる。社会人ならば当然だ。

 

 渋滞がなければ七時半に会社に着く。

 昼まで業務をこなし、昼食としてモルカーにキャベツを与えると、プリモはいつも通り「PUIPUI」と鳴いた。

 自分も弁当を食べて再び業務に戻る。

 

 夕方にはまたプリモにキャベツを与え、残業をして二十三時に会社を出て家に帰り、風呂と歯磨きを終わらせて俺の一日は終わりだ。

 

 

 これを月曜日から土曜日まで、日曜日も偶に出社する。

 休みは家で寝ている事が多い。働くというのは疲れる事なのだ。だが、これも病気で母親を早くに亡くした息子を立派に育てる為である。

 

 

 そんな日が続くある日の事───

 

 

「プイッ」

「ぷい?」

 朝、プリモがキャベツを食べなかった。

 

「おい、どうしたんだ。こまった、これじゃ会社に行けない」

 ある日の日曜日。普段「PUIPUI」言いながらキャベツを食べるプリモだが、今日に限って何故かそっぽを向いて「プイッ」とキャベツを食べてくれない。

 

 回り込んでキャベツを口の近くに向けるが、プリモは「プイッ」とやはりそっぽを向いてしまう。

 

 

「何してんの親父。仕事は?」

 八時。

 普段なら会社に居る時間だというのに、出掛ける格好をした息子に横目でそう言われて時間を確認した俺は頭を抱えた。

 

「なんかプリモの顔久し振りに見たかも。痩せた?」

「そうか? 病気かもしれない。困ったな」

 モルカーはモルカーである前に大切な家族である。もし病気なら、病院に連れていかなければ。

 

 

「今日は仕事を休むか」

「じゃ、俺は遊んでくるから」

「お、おう。どこに行くんだ?」

「関係ないだろ」

 十五にもなる息子とは、朝起こす時以外殆ど会話をしていない。

 

 しかし息子が反抗期だというのは分かるが、モルカーが反抗期だというのは分からなかった。

 

 

「ほらプリモ、キャベツだぞ」

「プイッ」

 やはり、プリモはキャベツを食べてくれない。

 

 それでもキャベツを食べてくれないと病院にも連れて行けないので、私は無理にでもプリモにキャベツを食べさせる。

 

 

 反抗期。

 そういえば、プリモを飼い始めたのは息子が生まれて少し後だったか。

 

 母親が亡くなる前は、プリモと息子と家族で良く出掛けた思い出が何故か脳裏に過った。

 

 

「せっかく休んだのだから、墓参りもいかないとな。その前に、病院に行くぞプリモ」

「プイッ」

 プリモに乗り込み、ハンドルを握る。

 

 

 ───しかし、プリモはいうことを聞かなかった。

 

 

「プリモ!?」

「プイップイッ」

 走り出すプリモ。行きたい場所とは全く別の方角に「プイップイッ」言いながら爆走する。

 

 

「え!? プリモ!?」

 その先には息子がいた。

 

 

「ぎゃぁぁあああ!!」

 そしてプリモは息子を轢いた。

 

 

「プリモぉぉおおお!?」

「プイップイップイッ」

 跳ねた息子を無理矢理自分の中に入れるプリモ。頭を回す息子が隣に乗って、再びプリモは走り出す。

 

 

「お、親父!? これはなんだ!?」

「俺にも分からん!!」

 爆走するプリモ。信号が赤になるとちゃんと止まるが、信号が青になると再び爆走。

 

 

 

 

 俺達は丸一日プリモに乗っていた。

 

 

 

 

 夕焼けが見える。

 

「こ、ここは何処だ……」

「親父、ここ……」

 散々暴れ回った挙句、プリモが辿り着いたのは───

 

 

「墓か」

 ───大切な家族の墓のある墓地だった。

 

 

「プイッ」

「お前、家族で集まりたかったんだな」

「親父。プリモのケツに墓参りセット入ってるぞ」

 相変わらずそっぽを向くプリモだが、今日一日ドライブしていたおかげで息子とはしっかりと話せるようになっている。

 

 これもプリモのおかげだろうか。

 

 

「なぁ、プリモ。一緒に母さんの墓参りに行くか。……それと、こんどちょっと休暇を取って息子と何処かに出掛けよう」

 プリモのおかげで、俺は本当に大事な物を思い出した。

 

 

 家族と一緒にいること。

 仕事よりも大切なものがこんなに近くにあった事を。

 

 

「PUIPUI」

 やっと「PUIPUI」言ってくれたプリモにキャベツを与えて、俺達は墓地に向かう。

 

 

「あ、待ってくれ親父。普通に考えてプリモが墓地を通るのは無理だ」

「あ」

「PUIPUI」

「「プリモぉぉぉおおおお!!!」」

 そもそも大事なのは、プリモはモルカーであるという事だった。

 

 

 PUIPUI。




N番煎じネタだけどハーメルンにモルカーがないのが寂しかったので書きました。皆モルカー書いて……。

全人類はモルカーを見るべき。


オリジナルモルカー、プリモ。元ネタはプリウス。コンビニに突進する。


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