『霊異伝』   作:月日星夜(木端妖精)

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同時投稿。前篇から読んで頂けると助かります。
……読む人いるのかな。


   小話 移り動く幻想の地 後編

 一方、神社を飛び出した巫女はというと、斜面を駆け下りながら、とにかく急ぐために帽子を脱ぎ去った。

 中に隠れていた青い蝶々――淡く光を纏うモルフォ蝶のような――がひらりと舞うと、彼女の意思に答えて光の粉を散らし始める。彼女の体を光が包むと、一瞬で旧お仕事スタイル――巫女装束を身に纏った姿に変わっていた。

 この瞬間早着替えは、昔に妖怪に襲われる罪無き一般人を――……と、説明は省くとして、頭に装飾の無い大きなリボンを揺らした彼女は、おもむろにリボンを摘まむと、滑らせるようにして縦長のカードを引き抜いた。

 御札に似たそれは、御札より幾分厚く、ありがたい言葉の代わりに幾人もの少女の姿が描かれていた。

 カードが光を放ち、空気の中に溶けて消えると、彼女の背に漆黒の翼が広がった。

 硬質で分厚い一対の羽。かつての彼女に力を貸していた一人の力の欠片。穢れを多分に纏った羽の力を借り、巫女は黒い光のオーロラを尾のように伸ばして飛翔した。

 

「えーっと、屋台屋台……どっち行けばいいんだろ」

 

 バタバタと服をはためかせて風の中を飛びながら眼下に屋台の影を探す巫女。

 時折緩やかに飛ぶ妖怪や妖精なんかに手を振ったり振り返したりしながら進んでいると、遥か先に花火の如き光が飛び交っているのを見つけた。弾幕ごっこだ。

 遠回りした方が良いのかな、と考える巫女の目に、遊びに興じている少女の姿が入る。

 探し人のミスティア・ローレライと、東風谷早苗。探す手間が省けた、と巫女が顔をほころばせて傍まで飛んでいくと、彼女に気づいたミスティアが一瞬驚いた風に目を開いて、何か言おうと口を開きかけ、次には風に呑み込まれていた。

 

「むむ! 隙有り! ハイパーキィイーック!!」

「ちょっ、タンむわぁあああ!?」

 

 激しい風に動きを止められたミスティアに、右足に光を乗せた早苗が両足キックの体勢で飛び込んでいくと、演出なのか、派手な爆発が二、三度連鎖的に起こり、黒煙を上げてミスティアが落ちていった。

 

「おーっとっと!」

 

 被害がこないよう遠巻きに観戦していた巫女は、すぐさま回り込むように飛翔してミスティアを抱き留め、ゆっくりと地面まで下りた。

 すぐ後にタッと降り立った早苗が、勝ち! とお祓い棒を突き出して勝利宣言をした。興奮気味に緑の髪が跳ねると、今度は肩を貸しながらミスティアを立たせようとしていた巫女にお祓い棒を突き付けて、お久しぶりです! と威勢良く挨拶した。

 

「久しぶり、早苗。絶好調だね」

「連戦連勝です! ぶい!」

「不意打ちだけどねー」

「細けぇこたぁいーんですよ!」

 

 自分の足で立ったミスティアが不満気に愚痴を零すと、ぶんぶんお祓い棒を振りながら早苗が言って、さあ、とミスティアの腕を掴み、近くに止めてある屋台の方へずんずん歩き出した。

 慌ててついていく巫女に、早苗が得意気に説明する。勝ったら無料でご馳走する、という話だった。ミスティアが勝った場合は、一晩付き合って貰うつもりだったらしい。

 

「お・で・ん! お・で・ん! 霊夢さんもどうですか?」

「あ、うん。私も元々食べに来たんだけど……って、私霊夢じゃないよ?」

 

 なんかよく間違われるけど、と訂正しながら羽を消し、一瞬光に包まれて元の服に戻った巫女が、手に現れた帽子を弄りながら早苗の後を追って、隣り合った椅子に座った。

 備えられた箱に入った割り箸を取って割り、おでんコールをする早苗を見ながら、足下にエコバッグと帽子を置いた巫女も割り箸に手を伸ばした。

 

「仕入れたばっかりだから、お客さん一号と二号ね。あ、れい、じゃなくて、貴女は無料じゃないけど、いい?」

「うん、だいじょーぶ。えっと、ほら、付き合うって約束……だったよね?」

「あー? 何年前にした約束よそれ。来てくれたのは嬉しいけどね。何食べる?」

 

 調理に取り掛かるミスティアが片手間に問うのに、はんぺん! はーんーぺーんー! と早苗が叫ぶ。えらく高いテンションにどうしたんだろうと巫女が思っていると、呑まされたかなんかしたんじゃない、とミスティア。

 確かに早苗の顔は少し赤らんでいる。その実、この場所に来る前、早苗は一杯やっていた。……いや、やらされた、と言うべきか。

 そもそも早苗は酒が飲めない。この楽園では関係ないとはいえ未成年だし、すぐに酔うし、酒癖は悪いしで、本人も醜態を晒したくないので控えているはずなのだが……。

 恐らくは、保護者である二柱か山の妖怪かのいずれかに飲まされてしまったのだろう。

 ご機嫌に箸を振る早苗を見て、少し気の毒になった巫女は、送って行ってあげよう、と小さく決めて、箸を割った。

 

「こんな時間だけど、一杯いっとく?」

 

 湯が煮立つ鍋から目を離さないまま、親しげな声で問うミスティアに、うーんと巫女は空を見上げる。まばらに雲が広がった空。まだ夜は遠い。飲むには早い時間だろう。そんな事を気にするのは人間くらいなのだが。

 早苗のおでんコールをBGMに割り箸を弄りながら、そもそも未成年だしなあ、と今さらな事を考える巫女の前に小さなコップが置かれ、透明な酒が注がれた。

 

「はい、時間切れ。これはサービスね」

「あっ、あー、ありがと」

「む! 私にもください! サービスください!」

 

 注がれちゃったからにはしょうがないかな、と苦笑する巫女の隣で、『サービス』の言葉に反応した早苗が箸を突き付けるのに、くださいって、お酒よ? とミスティアが言うと、早苗は再度「サービスください!」と机を叩いた。

 

「早苗、大丈夫?」

「大丈夫です霊夢さん! 私はか()()はふりですから!」

 

 どこからくるのか、自信満々に胸を張る早苗に、だから霊夢じゃないってばと訂正しながら、巫女は早苗の背を擦ってやった。

 意外に重度な酔っ払いに呆れつつ、ミスティアが同じように酒を注ぐと、早苗は勢い良くコップを攫って、すぐに中身を飲み干してしまった。

 あー、と声を漏らす巫女。

 

「熱いっ! もう一杯!」

 

 ぷはー、と息を吐いてコップを掲げる早苗の姿に、二人は顔を合わせて溜め息を吐いた。それから、あんまり飲むのはよくないよ、と巫女がたしなめてみるも、謎の自信で「大丈夫です!」を繰り返す。

 

「はい、はんぺん。貴女は?」

「ああ、何にしようかな。玉子……うーん」

「はんぺん! あちっ、はふ……ふー、ふー」

「玉子はもうちょっとかかるかな」

 

 ことりと置かれたお皿に、これまた勢い良く箸を伸ばした早苗が、出来立ての熱さに眉を寄せて息を吹きかけるのを見て、同じのにしようかな、と巫女は呟いた。

 

「それなら、はい」

「ありがと」

 

 前に置かれたお皿に、巫女は酒で軽く唇を湿らせてから箸を伸ばした。

 

「こんにゃくとがんもと、きんちゃくとゴボウ巻きください!」

「はいはい。ちょっと待ってね」

 

 期待を裏切らない味わいに巫女が舌鼓を打っていると、早々にはんぺんをやっつけた早苗が、無料なのをいい事に次々と注文した。ミスティアは苦笑いを浮かべながらも、手早くお玉を動かしていく。

 ゆったり動くミスティアの背の羽を眺めながらはんぺんを食んでいた巫女は、ふと思い出して、他の友人達の様子を聞いた。

 

「ふふ、変わりないわよ……なんて言うのも味気ないわね。そうねー、みんな元気だけど、最近寒くなって来たから、チルノなんかは特別元気よ。はい、お待たせ」

「様子が浮かぶなあ。今どこにいるかわかる?」

「大体いつもの場所にいると思うよ? 私はこの通り、神出鬼没だけどね」

「ここで見つけられたのは幸運だったね。あ、私もおんなじの貰っていいかな」

「もちろん」

 

 話しながら、コップを傾けようとした巫女の手から、ぱっとコップが攫われた。犯人は一人しかいない。

 ぐいっと呷った早苗が、大きく息を吐いて、「死ぬかと思った……」と零す。どうやら巾着の中の餅に口内を火傷しかけたらしい。

 小さく笑みを浮かべた巫女がコップを取り上げながら大丈夫かと聞くと、大袈裟に肩で息をしていた早苗が、下に何かを見つけてあああっ! と声を上げた。

 

「こ、こ、これって!」

「ん? ああ、クリームソーダ?」

 

 巫女と早苗の座る椅子の間に置かれていたバッグの中から一本抜き出した早苗が、それを掲げて「クリームソーダ!」と叫ぶ。

 きらきら輝く瞳に、そうそう、守矢神社にも行こうと思ってたんだった、と巫女は思い出した。クリームソーダが早苗の好物なのを知った上で、これを持ってきたのだ。

 まあ、早苗だけでなく、親しいものにお土産として配ろうと巫女は思っていたのだが。

 

「これ、ください!」

「え? あ、ああ、うん」

 

 巫女がそれを伝えようとすると、先に、ペットボトルを胸に抱いた早苗が詰め寄った。

 近い顔に僅かに身を引きながら巫女が返事をすると、早苗は体を戻しながら、大きな動作で首を振った。

 

「霊夢さんも好きなのは承知しています。けど、欲しいんです!」

「え、うん。あ、いや、だから霊夢じゃないんですけど」

「駄目でしょうか! 駄目!? だったら、勝負です!」

「ええー……」

 

 ぐっと握った拳を突き出す早苗に、あれよあれよと話が運ばれていくのを巫女は止められず、気付けば何故か弾幕ごっこをする流れになってしまっていた。

 

 最初からあげるつもりだったんだけど、と頬を掻く巫女に、「まあ、酔い醒ましにはちょうどいいんじゃない?」と、ミスティアが煽る。

 

「仇取ってよ、ね」

「んー、んー……」

 

 こそっと耳元に囁かれた言葉に、巫女は一度首を傾げてミスティアを見て、それから、ペットボトルを置いてやる気満々に席を立ち、離れていく早苗を見て、静かに息を吐いた。

 

「みんな、変わりないなあ。変わりなく、好戦的だ」

 

 呆れた風な口調だが、その実、巫女にもその()はあった。長らくこの地に住んでいたためなのか、元来の気質なのかはわからないが、巫女も立派な幻想郷の住人という事なのだろう。

 ひらりと舞った蝶が光の粉をまき散らすと、巫女装束に早着替えが完了する。早苗はもうちょうど良い位置について、三つ指を立てた手を巫女に突き付けていた。

 使うスペルカードは三枚、の意味だ。

 

「幻想郷で覚えておかなければならない名前はただ一つ!」

「私の名前かな? みんな霊夢と間違えるし」

「私の弾幕の奇跡、目に焼き付けるが良いわ!」

 

 口上もそこそこ、突発的に、巫女っぽい半分神様と元巫女で現一般人のごっこ遊びが始まった。

 

 

「きゃああああ!」

 

 大きな爆発に吹き飛ばされてころころころと地を転がって行った早苗が、やがて地面にへばりついて、しくしく泣き出した。

 

「あああ……私の必殺キックが、う、打ち負けるなんて……たくさん練習したのに~!」

「よっと。大丈夫ー早苗ー?」

 

 黒い翼を消して地に降り立った巫女が、遠くを見るように額に手をかざして名を呼ぶと、すすり泣くような声だけが返ってくる。

 弱ってしまった巫女が後ろ頭を掻きながら近づくと、早苗はううと呻きながらも、手をついて身を起こした。

 

「負けてしまいました……。うう、八坂様、さなえは弱い子です……」

「いや、早苗は十分強いよー?」

 

 手をついたまま落ち込む早苗に下手なフォローを入れつつ、巫女が座り込むと、すかさず早苗が縋り付いた。クリームソーダ……と目に涙を溜めて呟くのに、あげるから、あげるからと繰り返し言いながら、その背を撫でてやる巫女。

 そうしていると、落ち着いたのか、早苗は眠ってしまった。

 

「ふいー。酔っ払いの相手は久しぶりだから、なんだか疲れちゃった」

「介抱、手伝いましょうか?」

 

 額を腕で拭う巫女に影がかぶさる。

 現れたのは、大きな本を脇に抱えた魔法使い、アリス・マーガトロイドだった。

 

「や、アリス、久しぶりー」

「久しぶりね。変わりはないみたいだけど……手伝いましょうか?」

 

 人形染みた無機質で感情の浮かばない顔とは裏腹な優しい言葉に、巫女はありがたく頷いて、そこの屋台までお願い、と頼んだ。

 と、アリスの両脇に二体人形が出現して、それぞれが早苗の両脇を抱えると、パワフルに浮かび上がり、運び始めた。

 立ち上がって膝を払った巫女は、早苗がミスティアに出迎えられているのを見届けた後、「どうしてここに?」とアリスに問いかけた。

 

「あなたが来たって聞いたから、追いかけてきたのよ」

 

 聞きようによってはあれな言葉に、何か大事な用でもあるのかな、と巫女が首を傾げると、久しぶりに貴女に会うって重要な用がね、とアリスは言った。

 気のせいか、僅かに口角が上がっているような顔をしていた。

 直球に伝えられた気持ちと声音に、巫女はちょっと恥ずかしくなってしまって、赤くなる頬を誤魔化すように手で顔を煽る。

 二人の間にふわりと風が吹くと、やがてどちらからともなく屋台の方へ歩き出した。

 

「アリスにも、お土産、色々あるよ。もちろん土産話もね」

「それは楽しみね。アレが何だったのかも教えてくれるの?」

「アレ?」

 

 ってなんだろう。

 顎に指を当てて空を見上げた巫女が、うーむと唸って、すぐにぽんと手の平を合わせた。

 

「ああ、アレ!」

「そう、アレ。いきなり呼び出されたと思ったら、周りは化け物だらけなんだもの。びっくりしたわ」

「あはは。ごめんね、あの時、結構ピンチだったんだ。アリスが力を貸してくれて助かったよ」

「別にそれは構わないけど、でも、何も言わずに還されたのには、ちょっと怒っているわ」

「ほんとごめん!」

 

 先行していた巫女がぱっと半転して手を合わせるのに、アリスは表情を変えず、まあ、許すわと言った。

 

「お詫びに、おでん、一緒にどう?」

「いいの?」

「いいのいいの! さ、座って」

 

 肩に手を置いて座らされたアリスが、ミスティアに何にするかと問われて、隣で突っ伏す早苗を横目で見ながら「じゃあ、きんちゃく?」と遠慮がちに言った。 

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

「……それで、れ」

 

 んん、と口元に手を当てて咳払いともつかない声を漏らしたアリスが、それじゃあ、聞かせてくれるかしら、と言い直した。

 

「外の出来事。貴女の土産話」

「ふふふー、いいよ。私の活躍、聞かせてあげる」

 

 アリスの言葉に、得意げに胸を張った巫女が、早く教えてあげたいと口早に武勇伝を話し出す。

 それにアリスが合いの手を入れたり、ミスティアが突っ込んだりと、止まることなく話は続いて行く。

 そうしてしばらくの間、三人はゆったりとした時間を過ごしていた。

 

 

「ちょっと良いかしら」

「――ん?」

 

 外の世界で共に戦った者の話をしていた巫女の背後から、少女の呼びかける声。

 それに振り返ると、空間の裂け目から僅かに顔を覗かせる八雲紫の存在があった。

 お、八雲さん! と手を挙げる巫女に、隙間の妖怪、と珍しそうに見るミスティア。アリスはというと、何も言わず、ただ目を細めるだけだった。

 

「外では大活躍だったようね? ミコさん?」

「あら、覗いてたんだ。だったら力を貸してくれればよかったのに」

 

 『ミコ』とは、外の世界で出来た彼女の友が、彼女が自分の名前を憶えていないと聞いて、その場でつけた名前だ。かなり安直だが、本人は結構気に入っていたりする。

 全てを把握していると言わんばかりにゆっくりと声を発する紫に巫女が愚痴を零すと、私達はこれでも忙しいのです、と窘めるような口調に変わる。

 

「それはわかってるけどさ。でも、今度の外の世界は、良さそうだったよ? ここでいいんじゃないかな」

「残念だけど、それは無理ね。この世界には、幻想郷に勘付く者が多すぎるもの」

「えー」

 

 せっかく友達が出来たのに、と肩を落として落ち込む巫女に、なんの話? とアリスが顔を寄せた。

 

「『あの日』から、この楽園は真実のものになりました。でも、元々幻想郷はあるから、私達は邪魔ものになってしまう。そこで、思い切って別の世界に私達の居場所を探す事にしたのです」

 

 巫女の代わりに、すらすらと紫が答えると、アリスは僅かに首を傾げて、ただ「そう」と呟いた。

 

「でも八雲さん達は忙しいし、外に出られて、かつ何かあっても大丈夫なのは私だって言われたから、私が外の世界の様子を見てきてるの」

 

 自分を指差して、どこか嬉しそうに言う巫女に、アリスは目を向けて、それから、紫に顔を向けた。

 

「報告のためだけに現れたのかしら」

「あら、いけない? では、一月ぶりにこの子の顔を見に来たという事で」

 

 静かに問いただすような口調のアリスに、からかうような声音で紫が返すと、その間にペットボトルが差し込まれた。

 薄緑色の液体が詰まった物体……がば飲みクリームソーダ。

 はい、お土産、と手渡されたそれを隙間の中にしまい込んだ紫は、それで、と話を続けた。

 

「もう世界を移すから、その内にまた行ってきてちょうだい。私達は物語を進めるわ」

「えっ、それ、すぐじゃなくても……いいよね?」

 

 紫の言葉に、他に挨拶に行きたい所もあるんだけど、と小さく胸元で指を突っつき合わせると、それくらいは構わないわ、と紫。

 

「でも、そうね、お出かけの前に……厄介事を一つ、解決して貰おうかしら」

「厄介事? ……ん?」

 

 白い手袋に包まれた手を口元に添えた紫の不穏な言葉に首を傾げた巫女が、隙間の浮かぶ後ろ、まばらに立つ木々の中に、溶け込むような深い緑色を見つけて首を傾げた。

 事が起こったのは、不思議な気配ね、とアリスが呟くのとほぼ同時だった。

 そこに立つ緑色の何かが手に持っていた棍棒のような物を振り下ろし、地面を粉砕すると、衝撃波が土の中を伝うようにして屋台まで伸びてきたのだ。

 

「おーっ!?」

「――っ!」

「えっ、ちょっ、あーっ!!」

 

 ぴたりと閉じた隙間のあった場所を通り、土煙を上げて衝撃波が辿り着く瞬間、三者は勢い良くその場から飛び退いた。

 アリスは左に、巫女は早苗を抱えて右に、ミスティアは正面から飛び出して上空へ。

 次の瞬間、屋台は粉微塵に吹き飛んでいた。

 

「ああー! 私のお土産!!」

「私のお店がぁーっ!?」

 

 早苗を抱えたまま転がった巫女とミスティアが悲鳴染みた声を上げると、遅れて第二波が迫りくるのに、アリスが反応して素早く呪文を唱えた。

 放たれた光弾が衝撃波とぶつかり、大きく爆発する。高く昇る土煙と広がる爆風に、「なにごとなのぉ」と寝ぼけ眼で早苗が身を起こした。

 

「お、起きた? 自分で立てる?」

「立てるけどー……なんの騒ぎなのー」

「「――――」」

 

 寝ぼけて素の口調で話す早苗を巫女が無理矢理立たせる横で、同じ魔法の光を、手の平を合わせるように向き合わせた中に作り出したアリスが放つ。

 矢のように伸びた光弾は、しかし振り下ろされた棍棒に叩き潰された。

 オマケの衝撃波を、今度は上空から飛来した無数の弾幕が押しとどめ、爆発させる。屋台を破壊されて怒り心頭のミスティアだ。

 

「ひっどい事する奴がいたものね!」

 

 弾幕ごっこの余波で建造物やなにやらが壊れるのは珍しい話ではないが、だからといって許せるものでもない。

 巫女の横に降り立ったミスティアが目を鋭くするのに、巫女も土産をお釈迦にされた事で相当頭にきていた。

 

「あったまきた! 変な妖怪、懲らしめてやる!」

「いえ、あれは妖怪ではないわね……」

 

 光に包まれて巫女装束にチェンジした巫女がリボンからビッとカードを引き抜くと、隣まで歩み寄ったアリスが、新たに二体人形を引き連れながら伝えた。

 

「ん、言われてみれば……外で見た奴に似てる?」

「さっき貴女が言ってた、ぞで……なんとか言う奴なんじゃないの? ほら、星みたいなのついてるし」

「……よくわからないですけど、あれ退治すれば良いんですか?」

 

 四人に目を向けられて、謎の怪物は棍棒を片手にしながら、猛るように息を漏らした。 

 その怪物は、身の丈は二メートルに届くかという程の巨体で、額の上辺りから一回り、肌と一体化した帽子のように尖った頭が伸びている。一纏めにされた髪のような物が頭の後ろから二本ずつ前に垂れていた。

 左右の肩と両膝には緑色の宝石。胸には、獅子の顔のレリーフが施されている。手に持つ棍棒にも、幾つもの大きな金の釘のようなものが刺さっていて、荒々しくも芸術的な物になっている。

 

「ええ、ミコ。貴女が外に出た影響か、この幻想郷に流れ込んで来た物……それを回収し、この問題を解決して欲しいのです」

 

 巫女と早苗の前の空間に亀裂が走ったかと思えば、身を乗り出すように姿を見せた紫が、手に持つ黒い物体を見せながらそう言った。

 あれ、それってスイッチ? と巫女が問うのに、そう、と紫は頷いて、怪物の方へ顔を向けた。

 

「さっきも言った通り、私達は物語を動かすので忙しい。だから、貴女達の手だけで解決して欲しいの。……安心して、助っ人は後で送るわ」

「んー、よくわからないけど、とりあえず倒せば良いんだよね?」

「話を聞く限りだと、倒して何かを回収するようね」

「話が見えてきませんが……うん、私もお手伝いします!」

「ねえ、先に攻撃しかけちゃ駄目? 私かなりとさかにきてるんだけど」

 

 いきり立つミスティアを一瞬見た紫が、では、頼んだわよ、と隙間の中に消えていくと、動きを止めていた怪物が棍棒を振り上げながら地を蹴って走り出した。

 

 さっとカードを掲げ、それが光って消えると同時、空から降って来た黒い棒を巫女が取ると、アリスは手の平を下に向けて軽く上げ、そこに魔力を溜め始め、早苗は袖から取り出したお払い棒を高く掲げて太陽を指し、ミスティアは長い爪を見せつけるように顔の前に持ち上げた。

 

「私の屋台を壊した代償は高くつくわよ!」

「八坂様が言っていた……無言で走り寄ってくる男と勧誘の人は叩き潰して良いと!」

「新しい魔法と人形の力、ここで試してみようかしら」

「えーっと、なんかかっこいい言葉! ほいじゃあ行くよ!」

 

 四人が四人、好き勝手に同時に声を上げると、次には怪物とぶつかった。

 

 

 

 広がる風と土煙に隠れた四人は、これから一つ、霊夢達とは別の物語を紡ぐ事になる。

 それはほとんど誰に知られる事もなく、また短いものではあったが、とても激しく、過酷なものだった事をここに記しておく。

 そして、そこで育まれた友情の事も、一つ。

 

 

 

 この幻想郷は、今も落ち着ける場所を探して移り動いている。

 巫女の物語は、まだまだ長い。

 

 

 






~後日~

月で依姫らと弾幕ごっこをする霊夢達の下に隕石が落ちてきた。
なんと素敵な、赤い人型の隕石だ。
巫女さんぽい人とコズミックっぽい人に蹴られて飛んできた、
なんとかノヴァさんだ。
矢のようなキックを放つ中身空っぽ劇場版仕様の人だ。

かくして霊夢達と超進化した人との戦いが始まったり始まらなかったり。
続かない。
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