鬱病を患ってしまった主人公。そんな彼は今日が素敵な日になることを確信していた。

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月明け

今日は私の人生にとって最も有意義な一日になる。他人からすればありふれた日常なのだろうが、生活が錆びていた私にとっては最高と言っても過言ではない一日になるだろう。

朝、目を覚まして顔を洗い、歯を磨き、朝食を作る。今までは夜に目が覚め、ただベッドと沈むだけだったから、朝起きれただけでも気分が浮く。

朝食を食べながら今日一日のスケジュールを繰り返し頭で読み返す。久しぶりに友人とカラオケに行き夕食を食べる予定だ。ここ一年、ネットのみの交流だけだったので、今からもうすでに楽しみすぎて仕方がない。

そして私一番の晴れ着を纏って家を出る。いつもは鬱陶しい陽の光がとても心地よい。こんなにも気持ちが晴れたのは久しぶりだ。駅までの道のりを全てスキップで移動したくなる。

ここにきて言うのもなんだが、私は人が嫌いだ。電車やバスなど乗れたものではなかった。だが今日は違う。皆がひまわりの花のように力強く明るく見える。人とは斯様に清々しいものだったのかと、驚きと喜びが隠せれなく勝手に口角が上がる。嗚呼、まだ友人に会っていないのにとても幸せだ。

そしてとうとう友人が待つ駅に着いた。一年振りの再会に友人も嬉しそうだった。ただでさえ嬉しいのに、さらに嬉しくなった。

そこから雑談を交えながらカラオケ店に向かった。内容など全く無い会話だが、生の声の雑談というだけで小躍りしそうになるほど楽しいものになった。

カラオケでは友人は最近流行りのロックやバンドの曲を歌っている。点数こそ高いわけでは無いが、私はその歌声が好きだった。私は流行に弱いので昔から歌う内容は変わらない。それでも友人は受け入れてくれた。

カラオケ店を出て、少し早めの晩飯を食べに行く。今夜は昔よく食べていたラーメンにすることにした。考えるだけで唾液が止まらない。

ラーメンが出てきた。二人とも全力で歌ったせいで無心で麺を啜る。普段なら残す汁も全て飲み干した。こんなに満足する食事は久しぶりだ。嗚呼幸せだ。

そして解散の時が来た。今日は楽しかったと握手を交わし、お互いに背を向けて家に帰る。帰りの電車ですら、人に不快感を覚えなかった。

家に着いて早速私は車の牽引ロープをドアノブに括り付けた。輪を作り、首にかける。

今日一番のイベントだ。こんなしょうもない人生の最期は普遍的で素晴らしい一日にしたかった。その夢が叶った今、この生に意味はない。

動脈が締まる。目の前が光と闇に包まれる。それでも最後まで、私は笑顔だった。


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