最近流行りの無機物転生を果たしたオレ。
 しかし、その転生先は銃――の弾丸でした。って何でだよ!? オレって使い捨てのアイテムなの!? ちょっとぐらい異世界の旅とかさせろや!
初っ端から身動き取れないし、どんな嫌がらせだよ!?

1 / 1
【短編】転生したら銃――の弾丸だった ~もしかしてオレ、使い捨てアイテム?~

 

Q.無機物転生を果たした際に気を付けるべき事は?

 

A.世界観と現在の状況の把握に失敗すると、最悪破棄されます。

 

 

 

「最近よ、鉄製品が高くねーか?」

 

「鉱山の近くにデカいサソリの化け物が現れたんだと。討伐に向かった奴らが返り討ちにあったんで、ギルドの方も大変らしい」

 

「あ~あ、誰か倒してくれねえかなー?」

 

 今日もまた、外からの声だけが届く。

 その声に反応することは、今のオレには許されない。

 

(ビックリしすぎて逆に声出なかったオレ、マジ幸運)

 

 今日も今日とて息を潜める。

 戦地の工作員のような気持ちで“その時”が来るのを待つ。

 自分と同じ姿の存在と一緒に、暗い箱の中で待っている。

 

 生まれ変わって、早一ヶ月。

 

 オレは異世界で最近流行りの無機物転生を果たした。

 

 だが、オレが転生したのは伝説の剣でもなければ、大昔に大賢者が使っていた杖でも、蛮族の英雄が愛用した斧でもない。

 

 

 

 オレが転生したのは銃――の弾丸だった。

 

 

 つまり、使い捨てのアイテムだ。

 

 

 

(何でだよ!!?)

 

 

 いや、ホントに何でだ!?

 その他大勢の同じモノの1つに転生、コレはいい。いや、本来ならクレームものだけど百歩譲ってそれはいいんだ。

 

 問題なのは大量消費されること前提の、使用されたら回収もクソもない銃の弾――その中の1つになってしまったことだ。

 

(使われた瞬間に儚く命を散らす可能性大なんですけど!)

 

 

 突然だが、ここで基本的な情報をまとめよう。

 

 

 まずは銃について。

 言わずと知れた地球で今も(時間軸がどうなってるか分からんが置いておく)人を殺し続けている、技術と発想が生み出してしまった武器。

 

 前世ではごく普通の学生だったので聞きかじった程度の知識しか無いが、基本的な構造だと銃にセットされた弾のお尻部分にある火薬を爆発させる仕組みの所に衝撃を与える。その時の爆発力で本体である金属が前に押し出され、ライフリング(回転を加えてまっすぐ飛ぶようにするための構造)を通って発射される。こんな武器だ。

 

 恐ろしいのは発射される際のその速度で、よく力学的な説明で聞く【速度=威力】を体現しており、人の肉体なら簡単に破壊できてしまう。

銃の知識が日本に伝わった時代にあった火縄銃ですら、人を殺すことができたんだ。現代のマシンガンなどファイアー!された日には、防弾ガラスがあっても貫通して死ぬ可能性だってある。無かったら一瞬であの世へ逝ける。

 スナイパーライフル? 狙われた時点で終わりだと思え。アレが1番卑怯だと断言する。射程距離が群を抜いてエグすぎんねん。

 

 

 次にオレ自身について説明させてもらおう。

 と言っても、語れることは少ない。

 

 平凡な高校生という奴だったオレ、夜中に近所のコンビニ行ったらナイフ装備の強盗と遭遇。慌てて逃げようとしたら胸を刺されて意識が遠のく。気付いたら転生していた。と、ここまでは何番煎じだよと言いたくなるぐらい今の時代のネット小説でありふれている展開だ。

 

 

 転生先が弾丸だったなんて初めてだけどな!!

 

 

 そして、現在のオレについては……説明が難しい。

 なにせ他の弾丸共と一緒に隙間無く箱詰めされているせいで身動きが取れない。……普通の弾丸はそもそも動かないってツッコミは無しだ。

 

 ただ、不思議なことに体の感覚はある。

 全体の下側半分が下半身で、上側半分が上半身、先端が頭、といった具合だ。手足の感覚だけは完全に無くなっている。

 感覚があるだけで生理現象の類いも無い。予想でしかないけど痛覚もないだろう。ついでに味覚や嗅覚も。その代わり視覚はある。こう、本体の周りを360度見渡せる感覚と言えばいいのか? 自分の意識でグー〇ルビューを操作してるというのがしっくりするかな。

 

 喋れるかどうかは……保留だ。

 店の商品の1つから「暗いよ狭いよ出して~」って声が聞こえてみろ。オレなら迷わず遠くのゴミ捨て場に捨てる。

 だからもし声を出すことができるとしても、それはオレが買われて以降のことになる。買い手によってはどっちみち詰むけどな(ヤケクソ)!!

 

 

 

(はぁ~~~暇だ。暇すぎる)

 

 どれくらい暇かって言えば、誰に向けたわけでもないのに自分の境遇を説明したくなるぐらいには暇を持て余している。

 一ヶ月もの間、身動き取れない状態で暗い場所に閉じ込められてるんだ。しかも喋ることが許されないという制限付き。前世だったら発狂してたな。今世のオレは鋼のメンタルか? 体は間違いなく鋼だけども。

 まあ、単に無機物の体に転生した影響だろうな。

 

(だが、こんな生活ともあと数日で終わりだ)

 

 今のオレにあるのは触覚・視覚・聴覚の3つ。

 この生活をするに当たって聴覚に意識を集中していた。外から聞こえてくる声は情報の塊だ。例によって異世界の言葉は日本語に変換されて聞こえてくるので、誤変換の問題は現在無し。

 

 そんな外の声と音から自分の周りの仲間(?)が着実に売られていき、減っているのを知覚していた。そして、オレの入っている箱の真上と右隣が売られていったのが先日のこと。順番からすればそろそろオレの番となる。

 

(問題は買い手へのファーストコンタクトだ)

 

 自分が買った銃弾から「ヘイ! そこのイカした兄貴! オレは今日買ってもらった弾の1つなんだけど、ちょい相談に乗ってくれない!?」などと声を掛けて怖がられてみろ。オレなら最低限の荷物だけ持ってその場を去る。

 尚、この例が想像できる中で最悪に近い。

 オレ自身に自立移動の力が無ければ、死ぬこともできないまま半永久的に放置されることとなる。ジ・エンドだ。死ぬまでに悟りだって開ける。

 

(だから最初はその人物の人となりを、時間が許す限り観察する。そこで最善のファーストコンタクトを図るしかない。というか、それ以外思い浮ばない。逆にあるなら教えてくれよゴッド)

 

 ――と、そんなことを考えている時だ。

 

 

 ついに“その時”がやってきた。

 

 

「武器屋のオジさーん! 銃の弾扱ってますかー?」

 

「ん? 見ない顔だな。この街に来るのは初めてか?」

 

「新人冒険者のベルです! 初めての都会に緊張してます」

 

「おーそうかい。若いのに偉いなー。……銃本体とその弾ならここにあるので全部だ。欲しいのは決まってるか?」

 

「私が使っている規格に合うのはBタイプですね。これを……そうだな~せっかくだから二箱ください。はい代金!」

 

「まいど!」

 

 そこで感じる浮遊感のような感覚。

 こ、これは、ついに……!

 

「中身確認しますね!」

 

 落ち着けオレ。ここで嬉しさから声を上げたらそこで終わりだぞ。お口チャック! 口なんて無いけど!

 

 カサカサという音と共に箱の蓋が開けられる。

 

 それは、転生して初めて見る外の光と、1人の女の子の姿。

 金髪をツインテールにした中学生ぐらいの顔つきの子が、クリクリした目で購入した銃弾を――オレを見ていた。

 

「うん。問題なし」

 

 再び蓋が閉められるその時まで、オレはずっとその子を見ていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 さて、オレの無機物転生ライフはようやくスタ-トを向かえることができた訳だが、まだまだ安心できない。

 廃棄処分の恐怖はまだついて回ってるのだ。

 ……オレの第二の人生――もとい弾生、難易度高くね?

 

 ベルという少女に購入されてから丸2日が経ったが、偶然にもベルと冒険者ギルドの職員&同僚とが話した内容から、今まで集めた情報を付け加えることでようやく世界観が分かってきた。

 

 銃がある時点である程度の予想は立てていたが、ここは純粋なファンタジー世界ではなく、文明崩壊後の世界に後からファンタジー要素が加わった世界らしい。銃などの武器や異世界文明にしてはそこそこ高めの生活用品などがあるのはそのため。

 モンスターやらがはびこる世界になってしまったので、地球に比べても様々な面で進歩が遅いようだが、文明が崩壊しても最低限の知識が子孫たちに残されたことで、意外と世界全体の生活水準は高い模様。

 

 時々聞こえてくる会話やベルの声からの推測でしかない部分もあるけど、「かつて栄えた文明が~」とか「技術を伝えたのが今の貴族で~」とか「家のより立派な農機具だ! 大きい!」などと言っていたし、的外れではないだろう。

 現実がファンタジーに浸食された世界って認識でいいはずだ。

 

(となると、タイミングさえ間違えなければ話ぐらいは聞いてもらえるかも。ベルって素直な良い子みたいだし)

 

 うん。前向きに考えることができてきた。

 そうなると、次は――「たっだいまー!」――おっと、我が主ベルちゃんが宿屋にご帰宅だ。

 

 どうやら最初は雑用の仕事からやっているらしいベルちゃん。

 自分のいた田舎よりも雑用の種類が多くて逆におもしろい模様。

 

「さて! 明日から討伐依頼だし、今のうちに武器の手入れやっとこー」

 

 ガサゴソとバックをあさる音がしたかと思えば、再び感じる浮遊感と箱の蓋を開けたことによる光が。

 

「武器屋の人も手入れは小まめにって言っていたけど、実際にするとなると毎回大変だなー」

 

(……うぉう!?)

 

 箱の中から丁寧に出されたオレは変な声を上げそうになった。

 いやだって、触覚があるからだろうけど、まるで巨人の手で優しく体全体を包まれたような前世でも記憶にないような感触を体験したんだ。ヤバい。これからお手入れ&品質確認の作業にベルちゃんは入るらしいが……

 

「~~~♪ ~~~♪ ~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら銃や短剣を丁寧にタオルで拭いていく様子を見ていたオレは内心で冷や汗ダラダラだった。

 

 

 

 この作業、触覚のあるオレがされたらどうなるの?

 

 

 

 そして、作業はついに弾のゾーンへ。

 1つ1つ歪みなどがないか確認しながら、軽くタオルで拭いていくベルちゃんと、拭かれていく兄弟(?)を見つめるオレ。

 

 とても丁寧に磨いていくのは非常に好感が持てるが、オレにとっては不安の種でしかない。しばらく人と触れ合う機会が無かったためか、お肌(?)が敏感になっている可能性も出てきた。テメェの体は金属だろうが!ってツッコミは受け付けない。ツッコむなら無機物に触覚付けて転生させた頭のおかしい存在に言ってくれ。

 

 で、来ましたオレの番。

 

 ベルちゃんの手でそっとつまみ上げられた瞬間に襲い掛かるゾクゾクした感触。それに対して必死に口を押えるオレ。

 ……声を出す口も押えるための手もないけどな!!

 

「~~~♪ ~~~♪ ~~~♪」

 

(~~~~~~~~っっっ!!!??)

 

 訪れるは天国か、はたまた地獄か。

 いや、生き地獄だなこれ。

 

 丁寧にお手入れされる感覚は、まるでプロのマッサージ師に長年のコリをほぐしてもらうような、温泉に入って疲れがイヤされていくかのような、人間の頃なら「あ~そこそこ、もちょっと肩の辺りを……あ~~~生き返る~~~♪」と言ってしまいたくなるような極上空間。

 ただし、声を出したらアウト。

 なので、必死に耐える。

 

 ……下手な拷問よりキツいんですけど!!

 

「ん~? 何だろ? さっきからこの弾、気のせいか震えているような……?」

 

 ふぁ!? マジっすか!? 自分震えてました!?

 てか、震えるぐらいならできるのこの体!?

 

「もしかして、火薬の詰まってる部分に虫でも入り込んでるのかな?」

 

 あの、ベルちゃんさんや? そんな下半身をジックリ見ないで。恥ずかしいから。弾ごときが何をと思うかもしれんが、触られてる感触がある以上意識してしまうんですよ。例えるなら年下の女子に服越しとはいえお尻の形をジ~ッと見られてるような……てか、男の恥ずかしがっている描写とか誰得だよ!? そういうのはラノベとかマンガだと女の子の役割じゃん! 買わねーよそんな本!

 

「……勿体ないけど、思い切って分解するか」

 

 分解!? ベルちゃん分解と申されましたか!? オレの体を!?

 やめて!! そんなことされたら頭が体とお別れして、中身が飛び出すスプラッター映画見たいに………………ならねーな。オレの頭ってようは飛ばす金属の部分で、中身は火薬が詰まってるだけだし、体って薬莢の事だし。

 

 でもそんなことされたら、死んじゃうから!!

 死なない可能性もあるけど!

 

 てか、ベルちゃん! 素人が弾の分解とかしちゃいけませ――

 

「こうかな? そーれグイっと!」

 

『ぐうぇ!!?』

 

「え?」

 

『あ』

 

 ……しまった。

 痛みこそなかったが、まるで首を絞められたような感覚につい声が!?

 というか、普通に声出るんですね!

 

 ……

 …………

 ………………

 

『え~と……我が輩は弾である。名前はまだ無い』

 

 なんつって。

 

「……い」

 

『い?』

 

「いやああああああああああああっ!? 弾がしゃべったああああああああああああああああああああっっっ!!?」

 

 当然の反応ですね! フリーズ解けたらそうなりますよね!

 

『待って待って待って! お願いだから落ち着いて! 無理なの分かるけど、頼むから大声で叫ばないでええええええええええええ!!』

 

 

 

 ファーストコンタクト――大失敗!!

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『――というのが、先日の一件である』

 

「これまでの人生で1番驚いたんだから! もうっ!」

 

『本当にすみません! でも、オレの立場になって考えて!?』

 

 宿屋でのファーストコンタクト失敗から2日後。

 オレはベルの胸元にアクセサリー代わりとしてぶら下がっていた。

 体に紐を括り付けただけの本当に簡易なモノだったけど。

 

『でも、ベルが優しい子で良かったよ。これで廃棄処分回避だ』

 

「使い捨ての道具をインテリジェンス・ウェポンにするなんて、変な賢者様もいたものだよねー」

 

 はい、ちょっぴりウソを交えて親交を育むことができました。

 宿屋で騒ぐベルに落ち着いてもらって、自分の身の上を話すことになったんだけど、さすがに“異世界転生した思春期男子です!”はマズい。信用されない可能性の方が高い。なのでオレの設定は『大賢者が暇つぶしに作った意思のある武器――インテリジェンス・ウェポンの類いで、紆余曲折の上、武器屋の同じ規格の弾に紛れ込んでしまった』というもので納得してもらった。

 

 結構無理矢理感は否めないけど、オレがどれだけ暗い箱の中で孤独と戦い、廃棄処分&普通に使われて終わりの恐怖と隣り合わせだったかを語れば、ベルちゃんは同情し、自分にできる事なら協力すると言ってくれた。

 

 で、アクセサリーとしてぶら下がる形となったわけだ。

 

『擬似的にでも外を歩けるって素晴らしい……!』

 

「ものすごく気持ちが籠もってる……」

 

 今まで強制引きこもり状態だったんだぞ?

 オレはこう見えてもアウトドア派だ!

 

『歓喜で涙が出そうだ』

 

「涙を流すための目は無いけどね」

 

「そうだった!?」

 

 そんなコントを終えて、本日ベルが受けた依頼『角ウサギ3匹納品』の対象である角の生えた小型犬ぐらいの大きさのウサギとエンカウント。

 コイツで3匹目だから、倒せば終わりだ。

 

「ふっ」

 

 

――バンッ!

 

 

「ギャウ!?」

 

 まずはベルが銃で牽制。

 撃ち出された弾丸は偶然にも角ウサギの目に命中。痛みにもだえているところを近づき、短剣で心臓を狙って刺す。

 ベルは返り血で手を汚しながらもケガをすることなく勝った。

 

『これで依頼は達成だな』

 

「うん。でも私自身はまだまだ。レベルは低いままだから、もっと上げないと効率が悪いし、銃を使わないで済むくらいじゃないとお金も貯まらないから。目指せ! ちゃんとした剣だけでもっと大物を仕留めるよう!!」

 

『銃に厳しい世の中だなー』

 

 箱の中にいる間にすっかり忘れていたけど、ここはファンタジー世界。その中でもレベルやスキルがあるシステマチック系の世界だ。

 

 ベルにも確認して分かったが、私のパワーは53万!みたいな具体的な数値とかは無く、モンスターを倒してレベルが上がるたび全体的に少しずつ身体能力が上昇したり、スキルという特殊な技能を覚える。

 ただし、レベルアップ通知とか「ステータス!」とか言って現れるウィンドウも無く、ギルドや教会などに置いてある水晶に手をかざして初めて自身のレベルとスキルを確認することができる。だから実際にある話として、しばらく水晶で確認していなかったらレベルが上がって全然知らないスキルがいつの間にか発現していた!とかもある。

 

 そして、この世界では銃の評価が低い。

 

 角ウサギのような初心者でも狩れるモンスターならともかく、レベルがさらに上のモンスターになってくると、耐久力が高くなって銃が効かなくなる。

 つまり、銃は初心者向けの武器でしかない。

 

 なのに……弓は人気があるときた。何でだ!?

 

「仕方ないよ。弓はスキルで強い攻撃を放つ事ができるし、矢だってモンスターの素材を使ったモノもあるから攻撃力が増すし」

 

『銃使い専用スキルは!?』

 

「無いよ」

 

『特別な弾とか!?』

 

「そもそも作るのが難しいんじゃないの? だって薬莢を抜いたら撃ち出すのは全体の3分の1ぐらいの小さな金属で、加工する手間暇を考えたら……」

 

『神は死んだ!!』

 

 弓使いには専用スキルがあるのに、銃使いにはこれまでの歴史で専用スキルが発現したことはありませんって、差別だ差別!

 

『オレの、オレの存在価値って……!』

 

「元気出してよ。剣をメインに使うようになっても、アナタを捨てるつもりなんてないから。一緒に冒険しようよ」

 

『ヘ゛ル゛ゥ゛~~~!!』

 

 何ていい子なんだ。だんだん天使に見えてきたぞ。

 役立たずだけど、人生相談ぐらいは乗ります!

 

「あ、雑魚トカゲ」

 

「――!」

 

 ここでヤモリだかイモリみたいなモンスター、通称雑魚トカゲが近くの木にいたのでサクッと短剣で殺すベル。

 まともに名前も付けてもらえないほど弱いモンスターって……下手したらオレ以上に不憫な存在も世界にはいるんだな。

 

 

【レベルが上がりました】

 

 

『あ、またレベルが上がった』

 

「何で弾なのにレベルが上がるの……?」

 

『オレが聞きたい』

 

 先程レベルに関してのアレコレを復習したが、どうやらオレにも変わった形で適用されるらしい。

 

『ステータス、オープン』

 

 例のウィンドウだって開けます。

 こんな機能よりももっと付けるものがあるだろう神様!!

 

 

 

 

【種族】弾丸 【名前】―――― 【レベル】3

《スキル》貫通力アップ、軌道補正、攻撃力アップ、リ・ボーン、

回転力アップ、決死の一撃、自動帰還

 

 

 

 

 これがオレのステータスだ。

 一部効果不明のスキルがあるけど、俺自身が持つスキルと見ていいだろう。

 問題なのは……

 

『いくら強くなっても、使われたらそこでオレの人生は終わりってところだ。ははは、最後に一花咲かせるスキルってか? ハッハッハッハ!』

 

 あー、悲しすぎて笑うしかねぇ。

 

「大丈夫だから! 私はアナタを使ったり――ん?」

 

 その時、ベルが急に警戒心を強めたのが分かった。

 

『どうした?』

 

「何か、大きな物音が……」

 

『物音?』

 

 言われてオレも耳を澄ませる。

 澄ませるための耳なんて無いけどな!!

 

 

――ズズン  ――ズズン!

 

 

 ……確かにする。しかも、段々と近づいてくる。

 

『ベル、すぐにここから離れるぞ』

 

「うん」

 

 嫌な予感を覚え、すぐに街に戻ろうとしたが――遅かった。

 

 ソイツ(・・・)は一気に速度を上げてやって来たのだから。

 

 

――ズガガガガガガ!

 

 

「ギギィイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 周囲の木々をへし折りながら現れたのは、巨大なサソリ。

 赤紫の装甲を纏った、ベルにとって“死”同然のソレ。

 

『コ、コイツは……!?』

 

「『デッドリー・スコーピオン』!? 遠くにある鉱山を根城にしていたモンスター! どうしてこんな所に!?」

 

『――っ! どうやら他の冒険者から逃げてきたみたいだな』

 

 ベルと一緒に冒険者ギルドへ行った際に聞いた。

 鉱山に居座って鉱石の採集の妨げとなっているモンスターを、街に戻ってきた上位冒険者グループが討伐するために向かったと。

 

 良く見れば『デッドリー・スコーピオン』の体には無数の傷があった。頭付近の装甲などハンマーで攻撃されたかのように放射線状に砕けていた。端から見ても満身創痍なのが分かる。

 

 ――それでも、

 

『避けろおおおおおお!!』

 

 初心者冒険者程度では、逆立ちしても勝てない。

 

 オレの咄嗟の叫びにベルが思いっきり横に飛ぶのと、『デッドリー・スコーピオン』がその巨体で突進してくるのはほぼ同時だった。

 

 ただの突進。だが、それを巨大なモンスターがするなら訳が違う。

 その突進だけで、人は簡単に死んでしまう。

 

『無事かベル!』

 

「うん、何とか――痛っ!」

 

『!? ベル、脚が……!』

 

「あはは、掠っちゃったみたい」

 

 ベルの脚が痛々しく腫れていた。完全に避けきれなかったんだ。

 打撲か、最悪骨が折れてるかもしれない。

 

 

 どの道、ここから逃げることが叶わなくなった。

 

 

「くっ!」

 

 ベルは即座に銃を取り出して引き金を引く。

 

 

――バンッ! ――バンッ! ――バンッ!

 

 

 連続して響く銃声。当たってもまともに傷も付けられない甲殻。ゆっくりとこちらに振り向こうとする『デッドリー・スコーピオン』。

 

 それが、オレには酷く遅く感じた。

 

 

 

(どうする?)

 

 今のベルじゃ『デッドリー・スコーピオン』から逃げることも、倒すこともできない。次の攻撃――突進か、鋏で両断か、尾の針で突き刺すか、どんな攻撃であろうと次の一手で確実にベルは死んでしまう。惨たらしく殺される。

 

(オレは……)

 

 どうして銃の弾丸なんて使い捨てのアイテムに生まれ変わったのか不思議だった。神様の嫌がらせかとも本気で思った。

 

 でも、もし、もしも、今日この日のためだったら?

 

 運命を変えるための一手が、オレだとしたら?

 

 妄想かもしれないけど、オレがベルと会ったのが運命なら――

 

 

 

『…………オレを使え、ベル』

 

「え?」

 

『奴の頭部には放射線状に割れた装甲があった。そこの中心にオレを撃ち込め。上手くいけば、今のオレでも一発で仕留められる』

 

「ちょっと待ってよ! それって!?」

 

『オレを銃に込めて撃つんだ、ベル!』

 

 これがオレの運命だってんなら、受け入れられる。

 こんな小さな金属が生き残るより、目の前の女の子――ベルが生き残る方がずっといい。どうせ、1度目の人生で死んでるしな。

 

「でも、せっかく仲良くなったのに……!」

 

『ああそうだ。だからベルを助けたい。……たったの2日間だけだったけど、それでも楽しかった。だから、オレにキミを救わせてくれ』

 

 正直に言うなら、もっとずっと、ベルと旅したかったけどね。

 

「私、は……」

 

『早くしろ!! もう時間が無い!!』

 

 すでに『デッドリー・スコーピオン』は振り返る直前だ。

 このままじゃ間に合わなくなる。

 

「……」

 

 ベルは、首に掛けた紐からオレを外した。

 そして空となった銃へオレを装填する。

 

 

――ガコンッ。

 

 

 ……ふ~ん。

 銃の中に入るって、意外と落ち着くな。

 まるで自分の部屋にいるようだ。

 

「……さよなら弾丸くん」

 

『ベル、さよなら』

 

 

 そしてベルは――引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 と、ここまでシリアス&しんみりとした空気だったが、この瞬間になってオレはひっじょ~~~に大事なことを思い出した。

 

 

 

 

 

 銃が弾を発射する構造は引き金を引くことによって、弾の後ろにある部品が本体と連動した火薬に衝撃を与えることによって発生する爆発を利用し、セットされた金属を打ち出す構造となっている。

 そこにオレには触覚がある事実、全体の下側半分が人間の下半身に当たる事実。この2つを合わせると、とある悲劇が予想される。

 

 それを、撃ち出されるまさにその瞬間、思い出してしまった。

 

 

 

――バンッ!

 

 

 

 

 

『ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??』

 

 

 

 

 爆発によって吹き飛ぶ体。飛び出す頭。そして筆舌に尽くしがたい程の衝撃があるはずのないケツに襲い掛かる!!

 

 

(ケツが、オレのケツが~~~!!)

 

 チックショー!! 最後にシリヤスブレイクしやがって!! それもこれも全部サソリ野郎テメェのせいだ! 死に晒せや!!

 

 オレは全身全霊を込めた一撃をサソリ野郎に与えた。

 

 

 ……そして、オレの意識は――

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うっ、うっ……」

 

 ベルが泣いている。

 

 体液を撒き散らし、装甲を砕かれ、脳を破壊された『デッドリー・スコーピオン』を前にして、泣きはらしている。

 

 え~っと、これ、どうしよ?

 

「ゴメンね。ゴメンね弾丸くん……」

 

『あ~そんなにオレのために泣くなよベル?』

 

「だって、弾丸くんが! ……………………あれ?」

 

 ベルと、目が合った。

 いや、オレに目は無いと前にもry(2度目)。

 

「ええええええええええええええええええええええ!? 弾丸くん!! え? は? 何で!? 死んだんじゃ!?」

 

『いや、オレ自身ビックリなんだけど……ただいま』

 

 銃によって撃ち出され、サソリ野郎を倒したオレの意識は一旦そこで途切れ、気付けばベルが首から下げている紐に当たり前のように収まっていた。

 

 たぶんスキルのおかげなんだと予想してみる。

 

 冷静に考えたらスキルの1つ『リ・ボーン』って“リボーン”つまり“復活”という意味だったわけで……とどのつまり、オレは再利用されること前提のエコ弾丸だったことが判明したんだよ!!

 

 あの時の悲壮は一体!?

 

「そっか。でもよかった」

 

 ベルは優しくオレを手で包み、

 

「おかえり弾丸くん」

 

 天使のような笑顔を見せた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『次の目的地は決まったのか?』

 

「海の見える街! お魚食べたい!」

 

『そりゃあ良いな』

 

 あの戦いから半年が過ぎた。

 手負いだったとはいえ、無名の初心者冒険者が『デッドリー・スコーピオン』を倒したことは大変な騒動となった。

 

 ベルはオレのことを内緒にする方向で話を誤魔化したからな。

 ケガが治った後は名のある弓使いに絡まれたり、高ランクの依頼を無理矢理受けさせられたりと、文庫本3冊分ぐらいの冒険があった。

 

 そんなハチャメチャの日々を過ごし、今日もオレはベルのアクセサリーとして胸元で揺れています。

 レベルも上がって、スキルも増えてと絶好調だが1つだけ悩みがある。

 

 

 それは、

 

 

『む、あれはオークの変異種か。ベル、一旦ここは――』

 

「よーっし! いくよ弾丸くん!!」

 

『待って!? オレのケツが逝くから待って!!』

 

「ファイアー!!」

 

『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』

 

 

 ベルが強くなるにつれて、オレのケツへ襲う衝撃の頻度が上がってること。

 

 

 オレのケツ、いつまで持つかな~?

 

 




 ここ数年でグンと増えた無機物転生モノ。
 自分もブクマとかしている作品があります。

 そんな中で思ったのは、数ある無機物転生モノを読んでいる内に「あれ? 剣や本、はたは自販機に転生している作品はあるけど、使い捨て前提の武器・モノに転生した作品はまだ見たことないな……」ということ。

 で、書きました。
 転生先が弾丸の時点で最後のオチも決まりました。

 これからも彼はケツへの衝撃と戦い続けるでしょう。
 お手入れのくだりは……作者も想像外でした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。