【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:詠符音黎
「…………」
風吹きすさぶ荒野に、華恋は立っている。
命のまったく感じられない、冷たい荒野。
彼女は今、そこにいた。
命のない獣に囲まれながら。
「グルルルルルルル……!」
その数は無数。視界全体が不定形の獣に覆い尽くされている。
「ガアッ!」
一斉に襲いかかってくる獣。
華恋はそれに合わせて右手を振りかざす。すると、一斉にその怪物達の首が跳ね飛び、地面に落ちて消滅していく。
しかし、それでも獣達は減る雰囲気はない。華恋は、その光景を見て自嘲気味に笑った。
「私に延々と戦わせて、ゆっくりとマナをこの星に帰そうというわけね……いいよ、付き合ってあげる。苦しみ続けることが私の贖罪と言うのならば……」
諦めに満ちた華恋の表情。
そんな彼女を狙い、次の不定形の獣が華恋に飛びかかる。
「さあ、来い……!」
そんなときだった。
「はあああああああああああああああっ!」
「っ!?」
突然華恋の目の前に影が現れ、襲いかかる獣を斬り伏せたのだ。
華恋は驚いて目を見開く。
そして、その影の正体に華恋はさらに驚いた。
「……士道!?」
そう、その影の正体は〈
さらに彼だけではない。彼の後に、十香、折紙、二亜、狂三、四糸乃、琴里、六喰、七罪、耶倶矢、夕弦、美九が霊装を纏って現れたのだ。
「よう華恋、待たせたな」
「待たせたなって……どうして?」
未だ驚愕し続ける華恋。そんな彼女に、士道は言う。
「俺はお前に何があったか詳しいことは知らない。でもな、大切な友達が一人泣いてるところを見捨てられるほど、薄情なつもりはないぜ」
「……でもこれは、私の罪で……」
「それがどうした!」
小声で言う華恋に、士道はピシャリと言い放つ。
「お前に罪があるってんなら、何か辛いことがあるなら、俺が一緒に背負ってやる! いや、俺だけじゃない! ここにいるみんなが、その覚悟で来てる!」
士道の言葉に、頷き華恋を見る精霊達。
その彼女らの顔が、士道の頼りがいのある笑みが、華恋の心に響いていく。
「華恋! お前は俺達と一緒にいて退屈だったか? 苦しかったか?」
「そ、そんなことは……!」
「ならまたみんなで一緒に過ごそうぜ! まだまだ俺達は一緒の時間を過ごせるんだ! 前に進むことは罪から逃げるってことじゃない! 前を向くことだって、できるんだ!」
「士道……!」
華恋は思い出す。彼や彼女らと共に過ごした日々を。
その日々は、間違いなく楽しかった。ぬくもりをもらえた。それは、かつて“彼”と共に夢見た日々そのもので――
「それによ!」
更に、士道は言う。
「俺はまだ、お前と二人っきりのデートをしてないんだ! それなしで、一人で俺の前から消えてるんじゃねぇ!」
「……士道……ふふっ」
士道の意外すぎる言葉に、華恋は思わず笑ってしまう。先程までの自嘲とは違った、明るい笑いだ。
「なにそれ……ふふ、でも、そうだね。デートだなんだと言っても、私はまだ士道とちゃんとしたデート、してないね」
「ああ、だから!」
「分かったよ、士道。私も……覚悟を決めた」
「華恋!」
微笑む華恋に喜びの色を見せる士道。
華恋の中で、そのとき確かに変わったものがあった。
「でもまずは、こいつらを片付けないと……士道、私に考えがある。そのために、少し時間を稼いで欲しい」
「分かった! みんな、いくぞ!」
「ああ、士道っ!」
士道の声に高らかに答える十香。
「ありがとう、みんな」
答えるように、華恋はすっと両手を広げて瞳を瞑る。何かの権能を振るうための準備のようだった。
精霊達はそんな華恋を守るように四方に駆ける。
「でやああああああああああああああああっ!」
まず敵に切り込んでいったのは十香だ。彼女の〈
「〈
続けざまに折紙が〈
「オリリン! そっち左翼の奴が飛び出そうとしてる! ミッキー! 今度は右!」
二亜が〈
「はーい! 任せてください! 〈
美九が〈
『おっほー! みんなやるねぇ! それじゃ四糸乃! よしのん達も頑張ろう!』
「四糸乃! 私も一緒に!」
「うん! よしのん、七罪さん……! 〈
「〈
四糸乃の本物と七罪の模倣した〈
その荒れ狂う吹雪に、獣達は耐えられない。
「次は熱いのでいかがかしら? 〈
琴里が強力な火砲で一帯を焼き払う。その圧倒的火力に獣達は足をすくませる。
「あらあら、琴里さんも張り切っていますわねぇ。これはわたくしも負けていられませんわねぇ、きひひひひ。さあおいでなさい、わたくしたち!」
「きひひひひ!」
「きひひひひ!」
狂三が大きく広がった影から自分の分身体を大量に召喚する、数には数を、である。
「くぅー大軍勢を相手に全員で力を合わせるって燃えるー!」
「奮戦。この状況、八舞の力を存分に活かすときです。さあ、生きますよ耶倶矢」
「うん、夕弦!」
『〈
巨大な槍を出す耶倶矢、同じく巨大なペンデュラムを出す夕弦。二人は揃って武器を構え、高速で獣の群れに突撃していく。
彼女達の通った後には暴風が巻き起こり、獣は一匹たりとも残らない。
「やれやれ、節操のない化け物共じゃの。どれ、むくが躾をしてやるのじゃ。〈
六喰が〈
しかし、獣達も負けてはいない。その莫大な数を活かし、精霊達の防御網を抜けていく個体もいくつかいる。
「はあっ……!」
だが、それを士道が許さない。士道は華恋に近づく獣達を次々と斬り伏せていく。
「通すかよ……!」
そうして次々と撃退されていく獣達。
精霊達の強大な力と士道の奮戦によって、華恋は守られていた。
そうして次々と獣達が倒されていった、そのときだった。
「ありがとう、士道……これで、すべてを終わらせられる――」
華恋は、側で戦う士道に向かって言った。
「華恋……!?」
華恋の霊装は、真っ黒に染まっていた。
そして、呟く。
「――【
彼女がそう呟いた瞬間、世界が光で包まれた。
「うっ!」
士道達は思わず目を瞑る。
そして次に瞳を開いたとき、彼らは驚愕することとなった。
「これは……!?」
なぜなら、先程までの荒野が一瞬のうちに花畑になっていたからだ。
それだけでなく、遠くでは木々が生え、蝶や鳥が空を舞っている。
先程まで存在しなかった命が、一瞬にして世界に満ちたのだ。
「…………」
それと同時に、獣達が消滅していく。まるでもう存在する理由はないと言うように。
「華恋! これって――」
何が起きているのか華恋に問おうとする士道。だが、彼の言葉はそこで留まった。
なぜなら――
「え……?」
華恋の体が、少しずつ光となって消え始めていたのだから。
「華恋、お前……」
「ごめんね士道。私、士道達と一緒にデートできそうもない」
華恋は笑っていた。とても寂しそうな笑顔で。
「どういうことだよ……! どうなってるんだよ華恋……!」
「【
「そんなのって……そんなのってあるかよ!」
士道は消えかかる華恋に掴みかかる。今にも泣きそうな顔で。
「これから一緒に前を向いていくんじゃなかったのかよ! 他にも、他にも手があるはずだ! 何か……!」
「ううん、士道。私が罪を精算するには、これしかないんだ」
「罪の精算って……! 俺はそんなこと……!」
「ごめん……でも、これは必要なことなんだ。私が、士道達に恥ずかしくないようこうやって向き合うためには。私自身の、ケジメなんだ」
華恋はふるふると頭を振る。士道は、それでどう足掻いても華恋が消えてしまう現実を突きつけられる。
「そんな……! こんなのって、こんなのって……!」
士道ははらりと涙をこぼした。他の精霊達も、辛そうな顔で華恋を見ている。そんな彼らにつられて、華恋もまた、笑ったまま涙を流す。
「ありがとう、士道。私のために泣いてくれて……君は、“彼”にも並ぶくらいの、いい男だったよ。だから――」
そう言うと、華恋はそっと抱いて、自分の唇を士道の唇に重ねた。
華恋と士道のぬくもりが混ざり合う、優しいキスだった。
「これは、私の気持ち。片思いを抱えて泣きながら消えるはずだった私を、最後に笑顔で逝かせてくれて、ありがとう――」
それが最後の言葉だった。
華恋は、そう言い残すと、光となって消えていった。
「……華恋んんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!!」
士道の慟哭が、青空に響き渡った。どこまでも、どこまでも……
次回最終回です。