【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:御船アイ
「……ふぅ」
華恋が消えた翌日。
士道は天宮市を一望できる高台から街を眺めていた。
青空の下に広がる街の景観は絶景であり、うだるような暑さも吹き抜ける風であまり気にならない。
しかし士道の表情は明るくない。
「士道……」
そんな彼に後ろから声をかける者がいた。
十香だ。
「十香……どうして?」
「いや、士道がここにいる気がしてな……」
「そうか……十香にはなんでもお見通しだな」
寂しげに笑う士道。
そんな彼に、十香は胸が締め付けられるような感覚になる。
「華恋の事を気にしてるのか……」
「……ああ」
士道は応えながら手すりに腕を置いて再び街に目を移す。
十香もまた街を見ながら士道の横に並ぶ。
「俺はあのとき、華恋が消えるのを見ていることしかできなかった。それで、やっぱり思うんだよ。他にもできることがあったんじゃないか、方法があったんじゃないか、ってな」
「士道……気持ちは、私も同じだ」
十香もまた悲しげな表情で言う。
「私ももっと華恋のことを理解してやれていれば、何か別の手段が取れたのではないかと思う……あいつが消えてしまった事が、胸に今でも刺さっているような感じがある。……しかしだ」
と、そこで十香は士道に向き直る。
士道も、十香の顔を見る。
十香は、落ち着きながらも確固たる意思のある瞳をしていた。
「同時に、こうも考えるのだ。士道は華恋を間違いなく幸せにすることができたと。最後に、あの明るい笑みを取り戻させることができたのだと。士道のしてきたことは、決して、無駄ではないと」
「十香……」
「それに……これを見てくれ」
そう言って十香が取り出したのは、手帳とストラップだった。
ストラップには士道は見覚えがあった。それは、華恋と十香と折紙と士道の四人でデートをしたときにゲームセンターで取ったストラップだった。
「これは……」
「あのあと、〈ラタトスク〉の人達が華恋の部屋を調べたときに出てきたらしい。どうやら、これとこの手帳は華恋が世界を移動する前に転移させていたらしいのだ」
十香はそう言いながら手帳を開く。
そして、その開いたページを見て士道は目を見開く。
「っ……!? これ、あのときの写真……!」
手帳に収められていたのは、士道の家で開いた小さなパーティのときの写真だった。
華恋と士道、そして元精霊達全員が写った集合写真だ。
写真の中の華恋は、とてもいい笑顔をしていた。
「これを、士道に渡せと琴里に言われてな……受け取ったとき、琴里の言いたい事が私にも分かった気がするのだ。この楽しかった思い出を傷つけないように残していったのだ。華恋にとっては、間違いなく私達との思い出は良いもので、別れを告げた後も私達に覚えていてもらいたかったのではないか。それほどまでに、私達との日々を大切に思ってくれていたのではないか」
「華、恋……!」
士道は手帳とストラップをぎゅっと握りしめる。そして瞳をうるませるが、士道はそこで涙をこぼすことはなかった。
涙が落ちるのを必死で堪えて、きっと笑顔を作ったのだ。
「そうだな……あいつとの日々は間違いなくかけがえのない日々だった。それをいつまでもしめっぽい顔してたら、あいつに失礼だよな」
「ああ、そうだな……」
「それに、だ。俺は一つ考えていることがあるんだ」
更に、士道は言う。そこには今までの暗い雰囲気はない。
「考えていること、か?」
「ああ。最後、華恋は俺にキスをした。そのとき、もしかしたらだけど、あいつの霊力が俺に流れ込んできたかもしれないんだ」
「何!? それは本当か!?」
「確証はないけどな。だから、あいつの世界に行く直前に俺が俺の中にいた精霊達に出会えたように、もしかしたらまた俺達はあいつに会えるかもしれない、そう思うんだ」
「なるほど……いや、会える。きっと会えるぞ!」
十香は嬉しそうに笑う。士道もそれに笑って頷いた。
「ああ! きっとそうだよな! だから、俺達はあいつとまた会える日を信じて、前を向いて生きていかなきゃならない。いつか会えたときに、あいつに恥ずかしくないように、な」
「そうだな……きっと、会えるぞ。いつか、きっと」
「ああ……!」
十香と一緒に笑顔でうなずき合う士道。
そして、言う。
これは決して永遠の別れではない。またいつか、出会えると希望を抱いて。
「いつか、きっと……!」
これにて本作は完結です。
お付き合いくださった皆様ありがとうございました。