【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:詠符音黎
士道と華恋の出会いは、大学に入ってすぐのことだった。
大学に入って初めての授業で隣の席にいて話しかけてきた女性、それが華恋だった。
なんてことはない。大学生の気ままな友人作りの一環である。それに士道も乗り、彼女の気安い性格を気に入った士道はすぐさま仲良くなり、そのまま彼の大切な仲間である十香や折紙もそのまま華恋と友人になっていった。
彼女は明るく、はつらつとしていてまるで男友達と話すかのような感覚で話せた。
大学での新たな出会いに、士道は嬉しさと楽しさを見出していたのだ。
だが、そんな彼女が。
つい先程まで、大学の気安く付き合える友人だと思っていた女性が、精霊となった。
いや、精霊だったことを、思い出したようであったのだ。
士道達の世界から消えたはずの、精霊に。
それはあまりに衝撃的な事であった。だが、同時に士道は思ったのだ。
かつて、他の十人の精霊にも抱いた想いを、彼は彼女に抱いたのだ。
美しく、そして、儚い、と。
◇◆◇◆◇
「そうか……私は……」
華恋は、自分の手をまじまじと見つめながら、自分の存在定義を見つめ直した。
今まで自分は普通の大学生だと思っていた。だが、それは違った。
自分は精霊。人々に仇をなす力を持った、超常的存在。それが皇華恋という存在。
だが、それ以上が思い出せない。なぜ自分は精霊であることを忘れていたのか。
そもそも、どうして自分が生まれたのか。自分はどこから来たのか。そんなすべてが、何も思い出せない。
ただ分かるのは自分自身の存在、そして――
「華恋っ!」
そのとき、士道の叫ぶ声が聞こえた。
どうやら、先程自分を襲ってきた不定形の怪物が、また次元の壁を壊して三匹現れたらしい。
「グルルルルル……!」
そして今、そいつらは自分を狙っている。華恋はそれをすぐさま理解した。
ならば次に華恋はどうするべきか。彼女はそれを理解していた。
「――〈
華恋は手をかざし唱える。
精霊にとって武器であり世界に仇をなす災厄でもある天使の名を。
「ッ!?!?」
彼女がその名を唱えた瞬間、一匹の怪物の体を先程の怪物のように、コンクリートの棘が貫いた。
「――ッ!!」
一瞬の出来事に驚いたのか、それとも警戒したのか残り二匹の怪物が飛び退く。
が、華恋はそれを目で追い、再び手をかざす。
すると――
「ガッ!?」
一匹の首が、すっぱりと切り落とされたのだ。
まるで、見えないギロチンによって断首されたかのように。
「――……ッ!!」
それを見て、最後の一匹は逃げようと華恋に背を向ける。そして、その目の前の空間を引っ掻いて再び『割った』。
だが、華恋はそれをも逃さない。その怪物と割れた空間へと手を伸ばすと、その空間が見る見るうちに修復されていったのだ。
そして、それに驚き再度空間を破壊しようと怪物が空間を引っ掻くも、一向に空間は割れず、ただ前足が虚しく空を切るのみ。
「…………」
華恋はその怪物にゆっくり歩み寄る。
途中で、道路標識を綺麗な断面で切り取り、それを引きずりながら。
そうしてせまってくる華恋に気づいた怪物は、一瞬ためらった姿を見せながらも、再び華恋に飛びかかってくる。
「ガアッ!」
「フンッ!」
だが、華恋はその怪物を一瞬で両断した。
先程手にしていた道路標識を、大きなデスサイズへと変えて。
「……今ので、最後かな」
華恋は周囲を見回して言う。そして、士道を見つけると、彼にバツの悪そうな顔を見せながら頬を掻いた。
「……あー、えーっと士道、これはだね……」
どう説明したものか。一体何と言えばこの状況を理解させられるだろうか。そもそも怖がられていないだろうか。引かれていると嫌だな。
そんな事を想いながら、華恋は士道への言い訳を考える。
だが、士道は思わず言った。
「華恋……お前、精霊だったのか……!?」
「……えっ!? 士道、精霊のこと分かるの!?」
華恋は、その士道の言葉に逆に驚かされるのであった。
◇◆◇◆◇
「なるほど……精霊を保護する〈ラタトスク〉、それに封印する力を持った士道と精霊達、ね……」
華恋が未知の敵を撃退して少し後。
彼女は士道達の事情を説明され、その事実を受け止めていた。
今、華恋がいるのは空中に浮遊する空中戦艦〈フラクシナス〉の司令室である。そして、彼女に士道達側の事情を伝えたのは、黒と白のリボンで髪をまとめチュッパチャップスを咥えている少女、〈フラクシナス〉司令官であり士道の妹である五河琴里である。
士道から連絡を受けた琴里は、すぐさま二人を〈フラクシナス〉で回収、まずは自分達のことを彼女に説明したのである。
「ええ、理解してくれたようね」
そして琴里の口から説明された。精霊を保護する〈ラタトスク〉という機関のこと。かつて士道が十人の精霊の霊力を封印してきたこと。
「うんまあ、驚いていないというと嘘になるけど、理解はしたよ。しかし……」
華恋は司令席に座る琴里とその横にいる士道を見た後に、さらにその横を見る。
そこには、十人の少女が様々な視線で華恋を眺めており、その中には彼女のよく知る人物もいた。
「まさか、十香や折紙も精霊だったなんてね……」
そう、十香と折紙の事である。
「私も驚いたぞ! まさか、華恋が精霊だったとは!」
「正確には、私達は元精霊。今は普通の人間」
驚きを素直に口にする十香に、表情を崩さず言う折紙。
華恋の驚きは彼女達だけではない。
「あの歌姫、誘宵美九、そして人気漫画家本条蒼二……いや、二亜さんだっけ、までも精霊なんて……」
誘宵美九と、本条二亜、その二人もまた華恋に驚愕を与えていたのだ。
「いやーん! まさか新しい精霊さんが増えるなんて驚きですー! それもストレートな美人タイプ! お近づきの印にハグしていいですかー!?」
「にゃははー! 人気漫画家なんて……ま、本当のことだけどね!」
「お、おお……」
二人の独特な雰囲気に、華恋は若干気圧されてしまう。その中でも熱烈な美九のアプローチをなんとか回避しながら、華恋は他の元精霊達を見る。
彼女の目線の先にいるのは、時崎狂三、氷芽川四糸乃に彼女のパペットよしのん、星宮六喰、八舞耶倶矢、八舞夕弦、鏡野七罪の六人だ。
身長も雰囲気もバラバラな六人から、またそれぞれ別々の視線を向けられているのを華恋は感じた。
「あらあら、そんな熱烈な視線を向けないでくださいまし。わたくし、震えてしまいますわ」
「新しい精霊さんなんですか……? でも、精霊って私達だけだったんじゃ……」
『だよねー、もうこの世界には精霊はいないんじゃなかったっけー?』
「ふむ。そこじゃのう。なのにどうして新たに力を持った華恋殿が現れたのか……」
「ククク、これはげに面白き事よ。現れるはずのなき精霊の降臨……これは新たな運命への道標かっ!」
「謝罪。耶倶矢の物言いが分かりづらくてすいません。耶倶矢はただ驚いているのをごまかしているだけです」
「ちょっとぉ夕弦ぅ!? あっさり片付けないでくれる!?」
「……まあ、みんなの驚きは確かよね。私も驚いているし。というか今まで〈フラクシナス〉は何の感知もできてなかったわけ? だったとしたらより謎ね……」
みんなが思い思いの言葉を放つ。大所帯なせいで、それだけでとても賑やかだな、と華恋は思った。
「うーん、確かにこの世界にもういないはずの精霊が出てきたら驚きよね。みんなの動揺、分かるよ」
わいわいと騒ぐ元精霊達に、華恋は苦笑いをしながら言う。
「ええ、その動揺を抑えるためにも、今度はあなたが自分はどういう存在か説明してくれるかしら? 少なくとも、あなたに敵対する意思はない。そうよね?」
「うーん、したいのはやまやまなんだけど……」
琴里の言葉に再度困ったようにはにかむ華恋。そこで、士道はあることを思い出し、口にする。
「あ、確か華恋、記憶がないんだったか……?」
「そうなの?」
「……うん、そうなんだよ」
琴里に確認され、華恋はバツが悪いと言った様子で言う。
「自分が精霊であったことは思い出したんだけど、その他のことは全然思い出せないんだ。なんというか、思い出そうにも思い出せないというか、記憶に鍵がかかっているみたいというか……」
「むん……まるで主様に最初会ったときのむくみたいじゃの」
「そうなの? だったらこの思い出せなくて気持ち悪い感覚、少しは分かるかな。本当に、全然思い出せないんだよ。思い出せる事と言えば自分が精霊だったことと、戦い方、後は……そう、〈ゴースト〉なんて呼ばれ方をしていた事ぐらいからな」
「〈ゴースト〉……聞いたことのない識別名ね。マリア、一応聞くけど〈ゴースト〉という名はデータにある?」
琴里が言うと、彼女の脇から小柄な少女が現れた。〈フラクシナス〉のAI『MARIA』が対人コミュニケーション用のボディを持った姿である。
その事を知らされたとき、華恋はやはり驚いたものだった。
「いいえ琴里、そのような識別名は過去一度も登録されていません」
「ASTに居た頃も、そのような識別名は聞いたことがない。つまり、彼女はこの世界の出身ではないと考えるのが妥当」
「ふむ……やはりそうなるのね」
眉に皺を寄せながら、口に咥えたチュッパチャップスの棒を握る琴里。
その様子を、華恋は申し訳ないような表情で見ていた。
「ごめんね、なんか私の事で苦労をかけて……」
「いや、いいのよ。精霊の事で苦労するなら〈ラタトスク〉はいくらでも背負い込んでやるわ。それが、私達の役目ですもの」
「はぁ……」
華恋はいまいち実感がわかなかった。
精霊は世界に対する厄災。それを打倒ではなく救うとは、酔狂な組織であると思ったのだ。
「となると……やっぱり、並行世界からやって来たってことなのか? 過去の、あの十香のように……」
そこで、士道が言う。その言葉に、華恋は関心を引かれた。
「えっ? それってどういう? 十香が、別世界から……?」
「ああ、ここにいる十香のことじゃなくて、別世界の十香の事なんだが……後で説明するよ。ちょっと込み入った話だからな」
「ふーん……ま、士道がそう言うなら。それよりもさ、これから私、どうなるわけ? そこんところちょっと知りたいんだけど……」
「そうね……」
聞かれた琴里は、口からチュッパチャップスを抜き、じっと華恋を見る。
「以前なら、士道に霊力を封印してもらって、私達の庇護下に入ってもらったのだけれど、あいにく今の士道にその力は無いわ。そうよね、士道」
「ああ……別世界の十香と口づけをしても、霊力は封印されなかった。でも霊力が繋がる感じはしたから、完全になくなったわけじゃないと思う」
「と、そういうことなのよね。だから、私達にできることは現状のあなたを精一杯サポートしてあげることぐらいよ。もちろん、記憶が戻るようにこちらでできることはするつもりだけれど」
「なるほどね……それじゃあ、つまるところ私は普段通りの日常に戻っていいってことだね?」
「ま、そうなるわね。ただ、その点で気になるのはあなたを襲った存在ね。あれがまたいつ襲ってくるかもわからないし……」
「ああ、それなら大丈夫だよ」
と、心配そうな顔をする琴里に、華恋は言った。
「え? 大丈夫って?」
「私の天使、〈
軽い口調で言う華恋。だが、琴里や士道は、その天使の権能に驚きの色を隠せなかった。
「万象を支配、操作ですって……!? これはまた、敵に回したくない力ね……」
「ハハ、大丈夫。私もみんなを敵にしようだなんて、思ってないよ。平和が一番、だからねっ!」
そう言って華恋はピースをして見せる。
「おお、そうだな! 私もそう思うぞ!」
それに、十香が笑って返す。
「だよね! さすが十香、話が分かるっ!」
同じように笑って返す華恋。
にっこりとした笑顔をする彼女達に、士道は「はは……」と笑った。
「お、どしたの士道?」
「いや……華恋はやっぱ、華恋だと思ってさ」
「なにそれ。ふふふ、私は私だよ。それにしても士道、やっぱプレイボーイなんだね。ここにいるみんなとキスしたなんて、ちょっとびっくり」
「え!? そ、それは……」
「はは、照れちゃってもう。あ、そうだ。さっき思い出した事だけど、もう一つあったよ。あんまり関係ないしちょっと恥ずかしいと思って言わなかったけど、士道のプレイボーイさを知ったからこっちもオマケで教えちゃう」
「プレイボーイさって……」
「何? 何でも言ってちょうだい。どんな僅かな手がかりでも、あなたの過去に繋がることなら、少しでも知っておきたいわ」
琴里が少し前のめりになって聞く。他の面子も興味津々と言った様子だった。
その空気の中、華恋は少し赤面しながら、言った。
「私……その……ちゃんとは思い出せないんだけど……好きな人が、いる。それは、しっかりと覚えてるの」
『……えええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!?』
華恋の赤裸々なカミングアウトに、士道や元精霊達は、その日一番の驚きをするのであった。