【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:詠符音黎
「ふぅ……」
華恋はすっかり日が暮れた街の中、帰路についていた。
彼女の横には士道がいる。二人共少し疲れた表情をしていた。
「まさかあんな質問攻めにあうとは……」
「ははは……お疲れ」
華恋の「好きな人がいる」発言は思った以上に元精霊達に衝撃をもたらしたようだった。
想い人について、華恋は元精霊達から代わる代わる質問を受けたのである。
だが、華恋の答えは一つだった。
「覚えていない」と。そう、華恋は想い人がいることしか覚えておらず、それ以外は何も思い出せない状況だったのだ。
そうと分かると、矢継ぎ早に質問をしていた元精霊達は少し申し訳無さそうな顔をしたが、彼女はまったく気にしていないと軽く流した。
その後、今日はこれまでとなり、華恋は帰路につくことになった。
琴里は家の前に転送すると言ったが、華恋は「ちょっと歩きたい」という理由でそれを断り、元の場所に戻してもらった。
「にしても、士道までついてくることなかったのに」
そんな華恋に、士道はついていっていた。士道が言い出したときは少しびっくりした華恋であったが、それを断ることはなかった。
「いやなんか……俺もちょっと歩きたくてさ。どうせなら一緒にと思ったんだよ」
「ふーん、さすがプレイボーイ、それで数々の女の子を落としてきたってわけか」
「おいおい……」
「ふふ、冗談だよ」
華恋はいたずらな笑みをしながら言う。そして、半歩前に出て士道に手を組んだ背中を見せる。
「大丈夫だよ、ちゃんと士道が私の事気遣ってくれてるの、伝わってるよ」
「はは……まあ、そんなところだな。一人の方がいいかなとも思ったんだが、やっぱりどうしてもこうして二人で話したくて、な」
「……うん。ありがとう士道。やっぱ一人より二人、だね。こうして軽く話すだけで、大分気が楽になるよ」
「華恋……」
士道が少し心配そうな声を出す。そんな士道に、華恋は軽く振り返りながら言った。
「そんな声出すなって。大丈夫、私は元気だよ。ただ、まだちょっと自分自身にびっくりしているだけでさ。気になさんな、明日にはすっかり元通りの華恋さんさ」
「……無理はすんなよ。俺達は、いつでも相談に乗るぞ」
「……ほんと、優しいね士道は。ありがと」
それから少しして、二人はとりとめのない会話をしながら歩いた。
あの授業の教授はどうだとか、大学の学食のコスパはどうだとか。
そんな普段と変わらない会話を最後までして、その日二人は別れたのだった。
「で、どーなのよ実際」
「え?」
五河家。
家に帰った士道は、琴里にそう聞かれた。
琴里はソファーに座りニマニマとした顔で士道を見ている。
「どうって……華恋の事か?」
「そ。二人で話したんでしょ? どうだったのよ、なにか気づいた事とかあった?」
「何かって……何にもないよ。精霊であることを思い出しはしたけけど、あいつは皇華恋に変わりない。ただの、俺の友人だよ」
「ふーん、それにしては仲よさげに歩いてたじゃないの、プレイボーイ」
「おいおい……」
「冗談よ。私も話して彼女が悪い人じゃないのは分かったわ。でも同時に、今の私達には制御できない力を持っていることも忘れちゃいけない」
「ああ……分かってるよ」
士道は応えながら自分の右の手のひらを見、何度か握って開いてを繰り返した。
琴里も先程のからかうような顔をやめ、真面目な表情で彼を見ている。
「〈フラクシナス〉でも話したけど、今の士道に精霊を封印できる力がある可能性は低いのは、並行世界の十香の例で証明済みよね。ただまあ、それが並行世界の十香が特別という可能性も捨てきれないけど」
「ああ、俺はまだあいつの力を封印してやれるかもしれない。ただ……」
「そうなのよねぇ。彼女、意中の相手がいるのよねぇ……」
琴里がうーんと唸りながら腕を組む。眉も八の字にして本当に困ったといった様子だ。
「さすがに好きな相手がいる精霊は初めてよ。そんな相手を無理やり攻略しても精霊の幸せには繋がらないだろうし、どうしたものかしらね……」
「ああ、だよな……俺達に今できることと言えば、やっぱり昔の事を思い出すのを手伝うぐらいしかないんじゃないか?」
「そうね……あと彼女の生活のサポートね。一応、今まで一人でうまく生活してきたみたいだけど、彼女も精霊である以上は庇護対象。〈ラタトスク〉が力を貸さない理由はないわ」
「だな。しかし、一体どんな奴なんだろうな。あの華恋が好きな相手ってのは……」
二人で華恋の想い人に対して想像を巡らせ始めた、そのときだった。
「シドー! 帰っていたのか!」
元気な声が、後ろから響いてくる。十香だ。
その後ろには二亜、四糸乃、七罪、六喰もいる。
「やー少年! 遅かったねぇ! 私もうお腹ペコペコだよー!」
「おかえりなさいです、士道さん」
『やっほー士道くん! んん? お取り込み中だったかなぁ?』
「難しそうな顔してるわね。あの新しい精霊絡みでなんかあったの?」
「むん、何か悩み事があるなら話を聞くぞ、主様。妹御」
一気に騒がしくなる五河家リビング。その様に、士道は思わず笑ってしまう。
「ハハ、いや何、それほどって事でもないよ。それより、他の面子はどうした?」
「ああ、狂三は今日は一人で食べたいって言って、耶倶矢と夕弦はなんか謎の対抗心を燃やして料理勝負、美九はこれからアメリカでレコーディングのために小型艇に、折紙は……なんか負けていられない、食材を買い込むって商店街に消えていったわ」
「そうか……最後の折紙だけは絶対言葉通りの意味じゃないな……」
七罪の説明に顔を引きつらせる士道。
そんな士道に、七罪と琴里は同情的な視線を向けていた。
「士道、大丈夫か? 疲れているのか? もしそうなら、私が代わりに夕餉を作るぞ?」
「え? ああ、大丈夫だよ十香。ちょっとこれからの事を考えて退屈しなさそうだなって思っただけさ」
「ん? そうか……とは言え、やはり私も手伝うぞ! 今日の士道は襲われて大変だったそうだからな!」
「あ、だったら私も手伝います。私も最近、お料理を勉強していて……」
「四糸乃が手伝うなら、私も……まあ、誰も私の作ったものなんて食べたくないだろうから、私が自分用に作るだけだけど」
「む、皆がやるなら六喰もやらねばなるまい。料理は下手ではないと思うが、上手とも言えぬのでどうかご指導頼むぞ主様」
「こらこら、そんな人数台所に入れるわけないでしょ。せめてじゃんけんで決めなさい」
「そうだよー? だから私は慎みを覚えて食べる側に回るのであーる!」
「いやここはお前も乗っておけよ二亜……」
ツッコミながらも楽しげに笑う士道。
とても心地よく、穏やかなぬくもり。
濃密な期間を経て勝ち取ったこのぬくもりに、華恋も混ぜてやりたい。ふと、士道はそんなことを思うのだった。
「そうだシドー。一つ考えがあるのだが……」
「ん?」
そんな折、十香からある提案が上げられるのであった。
◇◆◇◆◇
「やあ士道。どうしたんだい昨日の今日で」
翌日。士道は華恋の家を訪れていた。彼女の部屋は学生が多く住むいわゆる学生マンションにあった。住所は昨日別れたときに知ることができたため、彼が迷うことはなかった。
「ああ、実はお前にちょっとした提案があってな」
「提案? まあいいや。中に入りなよ」
士道は華恋に案内され彼女の部屋に入る。
彼女の部屋を見て、士道は軽く見回す。生活必需品の他には、ちょっとしたクッションや本が置いてある、普通の部屋だった。
強いて言えば掃除があまり行き届いておらず、モノが散乱気味だと言うことぐらいだろうか。
「あー散らかっちゃってるね。まあ適当に片付けるから適当に座りなよ」
「お、おう」
士道は言われたままに彼女がテーブル前に作った空きスペースに座る。
そして、そのテーブルを挟むように華恋も座った。
「で、どうしたんだい。こんなすぐ私に会いに来たってことは、精霊としての私に会いに来た、ってことでしょ?」
「……まあ、そうなるな」
ポリポリと頬をかきながら言う士道。その様子に、華恋はテーブルの上に肘をつきながら笑顔を見せる。
「うん、素直でよろしい。でも、一体どうしたの? 〈ラタトスク〉って機関は私をできる限り支援してくれるって話にはなったけど」
「ああ、そうだな。でも、俺にも……いや、俺達にもできることがあるって、気づいたんだ」
「俺、達……?」
華恋が不思議そうに聞く。そんな彼女に、士道は力強く頷く。
「ああ、華恋。これから数日の間、俺と、そして元精霊達と、デートをしないか?」
「……へ? デート?」
士道の言葉が意外すぎたのか、華恋は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまう。
だが、対して士道の表情は真剣そのものだった。
「ああ。俺達が、普段どんな生活をしているのか、それを華恋にしって欲しいんだ。そうやって、普段と違う生活を送れば、もしかしたら記憶が蘇るかもしれない。そう思ったんだ」
「な、なるほど……しかし、にしたって急だね?」
「ああ、事は早いほうがいいだろ?」
「……ふふっ、まあね」
華恋は士道の言葉に、面白いと言ったように笑う。
「おっ、乗り気になってくれたか?」
「ああ、とても楽しそうだ。他の元精霊にも興味があるし、士道がたくさんの女の子とどう生活しているかも気になるしね」
「ははは……まあ、そこはな」
ちょっと困ったように笑う士道。そんな士道に、華恋はニヤニヤとした表情を見せる。
「ふふっ、まったく隅に置けないねぇ。今回の事も、士道が考えたのかい?」
「いや、発案者は十香だよ。純粋に、お前にみんなを紹介して、歓迎したいんだとさ」
「なるほどね。十香らしいや。それじゃあ、士道の言う通り事は早いほうがいい。さっそくスケジュール調整といこうじゃないか。誰が最初に私とデートしてくれるんだい?」
「ああ、それはだな――」
こうして、士道と元精霊達の、華恋との風変わりなデートが始まるのであった。