【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:詠符音黎
「さて……ここがいわゆる精霊マンションってやつなんだね」
士道達とデートをすることになってから一週間後。
華恋は五河家の近くにある、精霊マンションに来ていた。約束通り、士道を含めて精霊たちと交流をするためだ。
もちろん、側には士道も一緒だ。
「ああ。正確には“元”だけどな」
「分かってるって。えっと、今日一緒に過ごすのは……」
「四糸乃と七罪だな」
「ああ、そうだったね。あのパペットをつけた子と、ちんまい子」
「ははは……後者は本人には言うなよ? 七罪、そういうところ気にするから」
「ん、分かった」
士道に言われ華恋は軽く頷く。
彼女はその後士道に案内されて精霊マンションを案内される。
精霊マンションと言うから普通のマンションと違うのかと思ったが、案外自分の住む学生マンションと変わらないと、華恋は思った。
「さ、ここだ」
エレベーターで少し上がったところで降りた士道は、とある部屋の前で止まる。
そして、その部屋のインターホンを押す。すると少しして、ガチャリと扉が開けられた。
「あ、士道さん……! それに、華恋さん……おはようございます」
『やっほー! 士道君に華恋ちゃーん! いい朝だねぇー!』
「……おはよう」
出迎えてきたのは当然四糸乃とよしのん、そして七罪だ。四糸乃は笑顔で、七罪はわずかに仏頂面である。
「ああ、おはよう」
「どうも、おはよう。今日はお世話になるよ」
士道に続いて華恋も軽く手を振って挨拶をする。そんな彼女に、四糸乃は可愛らしく「はい!」と返事をしたが、七罪は黙ったままだった。
「うん? どうした七罪。なんだかいつにも増してテンション低いな」
そんな七罪の様子を察してか、士道が聞く。
「……いや、記憶喪失の精霊の記憶を取り戻すっていう大切なデートに、私がいてもいいのかなって……私、邪魔にならない? なんなら士道と四糸乃との三人のほうが潤滑に進まない? というか、出迎えるのが私の部屋でいいの? 四糸乃の部屋のほうがずっと楽しいと思うわよ? うん、今からでも四糸乃の部屋に……」
「七罪さん」
少し暗い顔で言う七罪の顔を、四糸乃が優しく撫でた。それに、七罪がドキリとした表情になる。
「私は七罪さんと一緒にお出迎えしたかったんです。それに、七罪さんの部屋にしたもの、七罪さんの部屋には楽しいものが沢山あるからだと思ったんです。だから、自信を持ってください」
「……うん……四糸乃がそう言うなら……」
頬を赤らめながら言う七罪。
そんな二人の様子に、華恋はニッコリと笑う。
「ふふ、二人は凄く仲がいいんだね」
「はい、七罪さんと私は仲良しです」
「……う、うん」
『ふーん、二人の仲を見抜くなんて、華恋ちゃんいい目持ってるねぇー!』
よしのんが明るく言う。それに、その場にいた全員が笑う。
「ははっ、そうだな。二人は仲良しだもんな」
「う、うう……否定はしないけど恥ずかしい……!」
「まったく、いきなりこんなお熱い二人を見せられると妬けちゃうねぇ。私達もイチャイチャするかい、士道?」
「は!? いやいや何言ってるんだお前……」
「おや、乗ってくれないのかい? 残念」
「お前なぁ……」
「ふふふ、それでは、こちらにどうぞ」
話もそこそこに、華恋は七罪の部屋に上げられる。部屋は綺麗に掃除が行き届いており、しっかりと客人をもてなす用意ができていた。
「えっと、みなさんで色々話し合ったんですが、私達は七罪さんの部屋でいっぱい遊んでみようってなったんです」
『つまり、七罪ちゃんの部屋でダラダラゲームでもしようって事だねぇ』
「へぇ。てっきりデートなんて言うから街でブラつくのかと思ったけど、意外なアプローチだね」
「……そういうのは他のが担当するから。私達は、一緒に遊んでみようってなって……順番はくじ引きだったけど」
「ふぅん? ま、そのときはそのときで楽しみにしておくよ。今回はみんなで遊ぶのを楽しませてもらうかな」
「そうだな。なにげに俺もこうして遊ぶのは珍しいかもな」
「おや、そうなの士道? なんか意外」
『士道君はいつも沢山の女の子に囲まれてるからねぇ。こうして少人数で遊ぶってのは案外ないんだよねー』
「へぇー……さっすがぁ」
よしのんの言葉に華恋はニヤリと笑いながら横目で士道を見る。
華恋のその視線に、士道は軽く苦笑いをする。
「はは……まあ、結構な大所帯だからな今の俺達。だから、こうして少ないメンバーで遊ぶのは確かに久々で新鮮なところはあるよ」
「なるほどねー。じゃ、存分にその時間を楽しませてもらおうかな。最初は何で遊ぶんだい?」
「そうね……最初はこれとかどうかしら」
そう言って七罪はテレビの横に歩いていき、とあるものを持ち出す。それは、ゲーム機だった。
「まあ最初は無難にみんなでテレビゲームでも、とか思うんだけど……ダメ?」
「いや、いいと思うよ。むしろ、ドンと来いだよ! 私、ゲーム好きだし」
「お、華恋も案外やる口だな? いいな、ちょうど四人いるし、いろいろなゲームが楽しめそうだ」
『ふふーん。まあどんな勝負も四糸乃が勝っちゃうと思うけどねー? ボクと四糸乃のタッグは最強だよー?』
「もう、よしのん……! そ、その、自信はないけど、頑張ります……!」
「私は……まあ頑張るわよ。あんまり勝てる気しないけど」
こうして、四人でのゲームが始まった。
最初に始めたのはレースゲームだった。それぞれがコントローラーを握り、テレビ画面に集中する。
「はっはー! 私に追いつけるものなら追いついてごらんー!」
「おっ、やるな華恋! さてはお前、やり込んでるな!?」
『むむ……! 四糸乃、諦めちゃダメだよ! まだまだチャンスはあるよー!』
「う、うん……!」
「……えいっ」
「あーっ!? 七罪ちゃんが使ったアイテムでみんながコースアウトしたー!? なんて的確なタイミングっ……!」
レースゲームは白熱し、かなりの試合数がこなされた。
結果、それぞれ勝利数がほぼほぼ同数になるぐらいには数がこなされた。
「ふぅー! 楽しかったねー! そろそろ別のやる?」
「そうだな……七罪、他に何かソフトあるか?」
「うん、まあ。みんなで遊ぶように買った奴が……あ、あったあった。これ。パーティゲーム」
「へぇー楽しそうじゃん! やろう、七罪ちゃん! 四糸乃ちゃん!」
「はいっ……!」
『今度こそ四糸乃が圧倒しちゃうよー?』
そうして始まったパーティゲーム。
これまた四人は熱中し、画面に釘付けになった。
「ぐぬぬ……! 総資産は四糸乃ちゃんが一位……! プレイングもそうだけど、なんたる強運……!」
『ひゅー! さすが四糸乃! このまま一位を突っ走っちゃおうー!』
「う、うんよしのん!」
「おっと、そう簡単にはいかないぜ! もうちょっとで俺が逆転を……!」
「……そりゃ」
「おおっ!? 七罪!? なんで俺に妨害アイテム使うんだよ!?」
「えっ、だって四糸乃にそんなことできるわけないし……だったら狙うのは二位の士道に決まってるじゃん」
「理不尽な!?」
「あ、だったら私も便乗して。士道の資産貰うね」
「ぐおー!? 華恋お前ー!?」
そうして盛り上がったパーティゲームでは、最終的に四糸乃が一位になり、二位に七罪、三位に華恋、そしてドベが士道という形になった。
結果に喜び、悔しがる面々。
その後も、四人はテレビゲーム以外にもゲームに興じた。
女子三人が体を絡め合うツイスターゲーム。
「えーと、青に左手」
「ぬんっ……!」
「おおっ、華恋の胸が私の顔にっ……!? ぐぬぬなんでこんな大きいのよ……!」
『士道君も混ざればよかったのにー。なんで回す係になっちゃうかなー?』
「いや俺が参戦したらいろいろまずいだろ!?」
「……でも、ちょっと参加して欲しかったです」
「四糸乃っ!?」
いろいろなルールで行われたトランプ。
「今しかないっ! 革命っ!」
「はい、革命返し」
「なっ、狙っていた、だと……!?」
「七罪はそういうしたたかなところあるよなー」
「さすがです、七罪さん……!」
「……う、ま、まあね……」
「私の手札がゴミばっかなんだけどー!?」
とにかく四人は遊んで、遊んで、遊び倒した。
そうしていくうちに、あっという間に時間が流れていった。
「ふぅ……さすがに疲れたね。ちょっと休憩にしない?」
華恋が言う。時計を見ると、お昼を大きく過ぎていた。
「お、もうこんな時間か。楽しい時間はあっという間だけど、さすがに腹が減ったな……七罪、台所借りていいか?」
「ええ、いいわよ。食材も自由に使っていいわ」
「ありがと。じゃあ適当に何か作るよ」
そう言って士道が外す。残った華恋、七罪、四糸乃の三人はソファーに座って士道の料理を待つことにした。
「いやーそれにしても遊んだねー。こんなに遊んだのはいつ以来だろうって感じだよ。ま、私記憶ないからいつ以来も何もないんだけどね」
「軽い感じで重い事言うわね……」
『やーんヘビーブロー』
「ははは、ごめんごめん。にしても、随分と遊び道具を持ってるんだね」
「……実は、ああいった遊び道具買ったのはここ一年の事なんだ」
「え? そうなの?」
七罪の言葉に、華恋は意外そうに反応する。
そんな彼女に七罪は小さく頭を縦に振る。
「うん……もともと私、こうやってみんなで遊ぶのは苦手だったんだよね……どうせ仲間外れにされるとか、そんなこと考えちゃって。でも、士道や四糸乃達がそんなことないって教えてくれて……だんだん、私もみんなと一緒にいたいって思うようになって……それで、いつの間にかこうしてみんなで遊べるものが増えていった、って感じかな」
「へぇ……」
「七罪さんは、本当にいい人なんですよ。ね、よしのん」
『うん! 七罪ちゃんのおかげで、よしのん達も楽しく遊べてるもんねー! 今ではよくみんなが遊びに来るんだよぉー!』
「……昔は人と関わるのすら嫌だったけど、今では、さっきみたいに真剣勝負するの楽しいなって、そう思えるようになったかな」
「……そうだね」
それに、華恋は優しく相槌を打つ。
「楽しめる真剣勝負って言うのは、いいもんだよ」
そして、少し上を向きながら言う。
「お互い健全に、全力でぶつかり合うといつしか心が通い合うからね。スポーツとかもそうだけど、ある種の心地よさがあるんだよ。前に私も……あれ? 私も……?」
そのとき、華恋の頭にある感覚がよぎった。
今まで忘れていた感情と感覚が、脳内に急に到来したのだ。
「私……そうだ……あの人と、こうやって勝負を……」
華恋はそう言いながら上半身をぐらつかせ、長い髪を揺らしながら前に倒れ込みそうになる。
それを、なんとか片手で頭を抑えることによって防ぐ。
「え? ど、どうしたの!?」
「大丈夫ですか……!?」
その様子を見て、動揺する七罪と四糸乃。
二人の心配する顔を見て、華恋は少し苦しそうではあるが笑顔を作る。
「うん、大丈夫……ははは、まさか本当に……」
かすれる声で笑う華恋。そこに、皿を持った士道がやって来る。
「おう、とりあえずトーストに目玉焼きを……って、どうしたんだ、華恋?」
「ああ、士道……どうやら私、本当に記憶が一部蘇ったようなんだ……」
「えっ!? 本当か!? どんな記憶だ!?」
急いで皿を置いて聞く士道。
そんな士道に、華恋はゆっくりと上半身を起こし、額にかいた汗を拭って言う。
「ああ……どうやら私は、私が好きだった相手と、真剣勝負をした事がある……ようだ。具体的な風景というわけではないけど、そのことをぼんやりと思い出したよ」
「そうか……つまり、こうして一緒に過ごしていけば……」
「ああ……本当に、私の記憶が戻るかもしれない」
華恋はニヤリと笑いながら言う。その様子に、士道、四糸乃、七罪は嬉しそうな顔を見せる。
「記憶が戻って、良かったです……!」
『そうだねー! この調子で頑張っていこうね華恋ちゃん!』
「悪い記憶じゃないようで何よりだわ……私はたまにこう嫌な想像がフラッシュバックすることがあるけど」
「ああ、まず一歩、という感じだな!」
「うん、ありがとう、みんな……」
こうして記憶の一部を取り戻した華恋。その日は、その後昼食を食べ、少しまた遊んだ後に帰ることになった。結局、その後また記憶が戻ることはなかった。
「それじゃあ、またね」
華恋は精霊マンションの前まで見送りに来た四糸乃と七罪にそう言って手を振る。
「はい!」
「…………」
そんな華恋に四糸乃はニッコリと返す。七罪は相変わらず仏頂面だったが、内心はちゃんと友好的な気持ちでいてくれていることを、華恋は感じ取っていた。
「記憶……これからも戻ると良いわね」
その証拠に、七罪は別れ際にそう言った。
華恋の事を思ってくれているのが、しっかりと伝わってきた。
「うん、ありがとう七罪ちゃん」
だから、華恋もしっかりとお礼を返す。彼女の気持ちに、心から応えたかったからだ。
「それじゃあな、華恋。また今度」
「うん、士道。また今度」
そして、玄関でまた士道とも分かれる。士道はまた家まで送ると言ったが、それだと士道が大変だろうと華恋は断った。
そうして一人の帰り道を行くことになった華恋。
「……楽しい記憶、思い出せてよかった」
彼女は、夕暮れを見上げながら、静かに笑みを作るのであった。