【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~ 作:詠符音黎
「やあああああああああああああん! 華恋さああああああああん! おはようございますうううううううううううう!!!!」
「お、おおっ!?」
四糸乃、七罪とのデートを終えた翌日、天宮市駅前の犬の銅像(通称パチ公)前で待っていた華恋の元に、勢いよく抱きつく姿があった。美九である。
華恋はいきなりの抱擁に対応することができず、なすがままにされてしまう。
「ああああああああん! 華恋さん柔らかいですうううう! いい匂いもしますうううう! 今まであんまり居なかったタイプでいいですねぇええ! くんかくんか……」
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいからやめて……」
「おはよ……っておい美九何やってんだお前……」
そこに士道がやって来る。後ろには途中で会ったのか耶倶矢と夕弦も一緒だ。
「カカカ、華恋もさっそく美九の洗礼を受けておるな」
「忠告。早く引き剥がさないと美九にいろいろと吸い取られますよ」
「吸い取られるって何!? 怖いんだけど!?」
思わず悲鳴を上げる華恋。
このままでは大変だと、彼女はなんとか美九を引き剥がす。
「あーん、華恋さんのいけずぅ」
「いけずぅ、じゃないよ!? 私達まだ出会って日が浅いのにいきなりハグとか凄いね……これが本当に世界の歌姫、誘宵美九なの?」
「あー……信じたくないのは分かるが現実だ。受け入れてくれ」
士道が心からすまないと言ったような顔で言う。
その士道の表情から、華恋はなんとなくこれまでの彼の苦労を感じ取った気がした。
「あ、だーりん! おはようございますぅ! 耶倶矢さんも夕弦さんも! 今日はよろしくお願いしますねぇ!」
「うむ! 今日は存分に楽しむとよいぞ!」
「請願。ただしお触りはなしの方向でお願いします」
「うん……? ねぇ士道、今日は何するの? イマイチ話が見えないんだけど……」
「ああ、そういやまだ言っていなかったな。今日は――」
「今日は! 耶倶矢さんと夕弦さんのコスプレ対決撮影会ですぅ!」
士道の言葉に割って入るように、美九が言った。
「コスプレ対決!?」
その言葉に、華恋は目を丸くする。
「まあ最初は驚くよな。耶倶矢と夕弦はよく色んな方法で勝負してるんだが、今日は華恋とのデートついでにコスプレ勝負をすることになったらしくて……そしたら、美九がその写真を撮りたいって言ってな」
「はいいい! 美少女双子の耶倶矢さん、夕弦さんの美麗な衣装をシャッターに納められるチャンスなんてまたとないですからぁ! いやぁ楽しみですねぇ!」
「な、なるほど……それは確かに面白そうではあるけど……」
苦笑いしながら頬をポリポリとかく華恋。
なんだか変なノリに巻き込まれたな、というのが彼女の正直な感想だった。
「まあ一緒に来てみろよ。二人の対決見るの、案外楽しいもんだぜ?」
「ふぅーん……ま、士道がそう言うなら」
華恋は士道の言葉に頷く。
まだイマイチ二人の勝負というのにピンとこない華恋だったが、士道の言葉だし信じてみようと、彼女は思ったのだ。
「それじゃ、出発でーす!」
美九が音頭を取る。一人だけ異様にテンションが高い美九に、他の四人は思わず笑ってしまうのであった。
「というわけでやって来ましたコスプレ専門店! いやーいろんな衣装がありますねぇ!」
天宮駅からしばらく歩いた面々は、ついに目的地であるコスプレ専門店へとたどり着く。
そこには沢山の衣装が所狭しと並べられており、ある種の感動を華恋に与えた。
「おお……こういう店初めて入ったけど、凄いもんだねぇ」
「だな……しかし本当になんでもあるな天宮市……」
隣で士道が頷きながら言う。
二人はすっかりコスプレ専門店の独特な雰囲気に飲み込まれていた。
「さあそれでは勝負開始です! お二人がコスプレを選んで着たところを私が写真に撮り、だーりんと華恋さんが審査します! 三本勝負で二本取ったほうが勝ちですぅ!」
「え? 私も審査員なの?」
美九のルール説明に驚く華恋。
一方で、美九も八舞姉妹も当然と言った顔をしている。
「そうですよぉ? だって、審査がないと勝負にならないじゃないですかぁ」
「依頼。できるだけ客観的な意見が欲しいので華恋にも審査をお願いしたいのです」
「ククク、その曇りなき眼による厳正な天秤によって我らの勝敗を見定めて欲しいのだ……」
「ま、ここまで来たんだ。諦めて俺と一緒に審査員になってくれ」
「ふむ……分かった。でも、私の目は厳しいよ?」
諦めたように笑いながらも、声音は楽しそうな様子で答える華恋。
華恋がそう答えると、八舞姉妹は嬉しそうに笑う。
その顔を見て、華恋は提案を受け入れてよかったと、ほっとした気持ちになった。
「ではそうと決まればさっそくレディ、ゴーです!」
美九が腕を大きく上に突き上げて言う。
その言葉と同時に、八舞姉妹は消えるような速さで服を取りに行った。
「速っ!?」
思わず口にする華恋。
そんな驚きを示しつつも、華恋と士道、そして美九は一応の審査会場となる専門店にある撮影スペースへと向かう。
すると、そこにはなんと既にコスプレ衣装に身を包んだ八舞姉妹がいたのだ。
「えっ、もう!?」
「ふふふ、これこそ神速の八舞姉妹の本領よ」
「自信。八舞の速さは宇宙一です」
そうやって誇る八舞姉妹の姿はそれぞれ対照的だった。
まず耶倶矢だが、黒いコウモリのような翼を背中に生やし、同じく黒い布を体中に巻きつけている。そして、首や腕に銀色のアクセサリーを大量につけている。
「フフフ……堕天使、ここに降臨! 天より堕ちし黒き影の姿、とくと見よ!」
とても楽しそうに言う耶倶矢。
対して、夕弦の姿は、全身白だった。白い祭服に、たかだかとした角張った帽子――ビレッタ帽を被っている。そして右手にはどうやら聖書が。どうやら司祭のようだった。
「静粛。厳かな司祭とは夕弦の事です。どうですか、士道、華恋、美九」
「きゃあああああああああああああ! 二人共素敵ですうううううううううう!」
さっそく二人の姿をバシャバシャと撮影する美九。
様々な角度から撮影するその動きはとてもすばしっこく、八舞に負けないのではないかと華恋は思ってしまう。
「うーん……どう思う? 士道?」
「そうだなぁ……せーので指差すか。せーの……」
ビッ、と、二人が指差す。
二人が示したのは、夕弦だった。
「勝利。今回は夕弦に軍配です」
「ええー!? なんでよー!?」
夕弦がしたり顔で言い、耶倶矢が不満げな表情で言う。
「いやだってなぁ……コンセプトが一目で分からないからな耶倶矢は」
「そうだよね。趣味に走りすぎて肝心のコスプレがとっちらかってる感じ」
「うぐっ……! それは……!」
耶倶矢が痛いところを突かれたといった表情をする。一方で、夕弦は余裕の笑みだ。
「噴飯。耶倶矢はまずコンセプトを理解するところから始めるべきですね」
「むきーっ! 言ってくれるじゃないの! 次いくわよ次!」
耶倶矢がそう怒りながら、対して夕弦は相変わらず余裕と言った表情で撮影スペースを出る。
そして待つこと数分。次の衣装に着替えた二人が出てきた。
「さあ、次はどうよっ!」
勢いよく言う耶倶矢。耶倶矢の恰好は、警察の制服に身を包んだ、婦警姿である。しかもスカートがなかなかに短い、ミニスカポリスである。
白磁のような肌の太ももがしっかりと見え、扇情的である。
「お、おお……」
その姿に、士道は少し顔を赤らめていた。
「ほーう?」
彼のそんな表情に、華恋は不敵な笑みを作る。
「照覧。夕弦も見てください」
そう言う夕弦の恰好は、黒い着物に十手を抱えている。どうやら岡っ引きのコスプレのようだった。
腕を組みながら十手を構えるその姿は、なかなかに様になっていた。
「きゃああああああああああ! 耶倶矢さんはエッチですし夕弦さんはかっこいいですうううううう!! シャッターチャンス!!」
そして、そんな二人をまたもバシャバシャと撮影する美九。
一方で、二人は考える。今度はどっちを選ぼうかと。
「士道はどっちがいいか決めた?」
「うーん悩むけど、一応な。華恋は?」
「私も決めたよ」
「そうか、じゃあ今度もせーので指差そう。せーの……」
二人の指は今回も同じ相手を指差す。今回指差したのは、耶倶矢だった。
「愕然。なぜですか」
「え? やったー! じゃなくて……ククク! これこそ運命の導きよ……!」
「いや、夕弦の岡っ引きも良かったけど、ストレートに来た耶倶矢の方も良かったなって。その点、今回の夕弦はちょっと変化球だったしな」
「士道、耶倶矢に鼻の下伸ばしてたもんねぇ」
「なっ!? 伸ばしてねぇよ!」
華恋に言われ焦る士道。
対して、今度は耶倶矢が勝ち誇るような笑みを浮かべ、夕弦が悔しそうな表情をする。
「フッフッフ、どうやら天は我に味方したようだ。ならば次は……」
「遺憾。そうとなれば次は……」
そして、またも二人は素早く撮影スペースを後にする。
また数分が経ち、同時に二人が現れた、のだが――
「なっ!? なんでそんな恰好してるんだお前ら!?」
士道の悲鳴にも似た叫びが響く。
それもそのはずで、二人はなんと水着姿で現れたのだから。
「えっ!? なんで夕弦水着姿なのよ!?」
「疑問。そういう耶倶矢こそ」
「いや私はこうした方が有利かなーって……」
「同意。夕弦も同じです」
耶倶矢が黒、夕弦が白の違いはあれど、二人共なかなかに際どいビキニを着て現れていた。その恰好に、士道は顔を赤くし驚いている。
「それもうコスプレじゃないだろ!」
「私はウェルカムですよー! 水着姿のお二人、最高ですぅー! 激写!」
「うーん、これはさすがにレギュレーション違反でドローかしら」
撮影する美九の横で華恋が言う。その言葉に、耶倶矢と夕弦は口を大きく開ける。
「ええー!? じゃあ今回総合的に引き分けってことー!?」
「悔恨。残念です」
悔しがる二人。そんな二人を見ながら、ハハハと笑う華恋と士道。
であったのだが、いつしか耶倶矢と夕弦の視線が三人に向いていた。
「……ん? どうしたお前ら?」
士道が聞く。すると、二人は目を輝かせて言った。
「クックック、ここで姿を変えるのが我らだけでは面白くないと思ってな」
「刮目。華恋もなかなかにコスプレが似合いそうな見た目をしています」
「え? 私も?」
悪い顔をして三人ににじり寄る八舞姉妹。
いつの間にか、彼女らの手にはコスプレ衣装が握られていた。
「というわけで……」
「宣告。覚悟してください」
「う、うわーーーーっ!?」
「あーん大胆ですぅー!」
「わ、私までぇ!?」
そうして三人は耶倶矢と夕弦にもみくちゃにされながら更衣室に連れて行かれていく。そして――
「おおっ! 三人ともよく似合ってるじゃん!」
「満悦。会心の出来です」
現れたのは、衣装を新たにした三人だった。
まず華恋。
彼女がさせられたコスプレは、旧陸軍の軍装だった。カーキ色の軍服に、マントを羽織り、軍刀を腰に挿して、長い髪を後ろでまとめている。
「ははは……そう? 似合う?」
その姿はとても様になっていた。
次に美九。彼女がさせられたのは医者の服装だった。白衣を纏い、聴診器を首から下げている。中には薄ピンクのシャツを着て、ミニスカートを履いたその姿は、淫靡な雰囲気すら漂わせている。
「うふふ、お医者さんですよー? これからみなさんを診察しちゃいますよー?」
そして士道だが……
「って、なんで俺は士織ちゃんの恰好なんだよお!?」
そう、士道がさせられた恰好は女装であった。
可愛らしい水色のカーディガンに、紺色のプリッツスカートである。しっかりとウィッグと髪留めもしてあり、完璧に女性にしか見えない姿であった。
「え、何その姿士織ちゃんって言うの? もしかして士道既に女装経験あり?」
「うっ!? そのことについては詳しく聞かないでくれ……」
「えー気になるー教えてよーねー士織ちゃんー」
「きゃああああああああああああああああまさかこんなところで士織ちゃんに会えるとは思いませんでしたあああああああああああ!!!! 耶倶矢さん! 夕弦さん! 感謝しますううううううううううううううう!!!! しかも貴重な私服バージョン! これはフレームに納めねばっ!」
女医姿の美九がものすごい勢いで士道もとい士織ちゃんの写真を撮る。
一方の士道は、もう慣れているのか諦めた様子で写真に撮られている。
「ははは――」
そんな様子を、笑いながら見る華恋。そんなときだった。
「うっ……?」
華恋は急なめまいを覚え、その場をぐらつく。
「っ!? 大丈夫かっ!?」
そんな華恋を、士道が急いで抱き止める。
同時に、華恋の頭にある記憶が駆け巡る。大切な人との、尊い一時の記憶が――
「……そうだ。私、前にもこうして服を選んで着せてもらった覚えがある。私の、大事な人に……」
「なんと!? 記憶が戻ったのか!?」
「驚嘆。聞いてはいましたが、本当に効果があるところを見るとは」
「大丈夫ですか? 気分悪くありませんか?」
三人が驚き、心配した様子で見てくる。
華恋を抱き止めている士道も、心配した表情をしていた。華恋は、そんな三人に対し、少しつらそうにしながらも、笑顔を見せる。
「うん、ちょっとグラついてるだけだから大丈夫。にしても、ありがとう。またみんなのおかげで、記憶が戻ったよ」
「……そうか。なら良かったんだが」
士道が相変わらず心配そうな声で言う。
彼を心配させたくない。ふとそう思った華恋は、士道の手から抜け、一人でしっかりと立って言う。
「うん、見ての通りピンピンしてるよ! どうも記憶が戻るときはちょっとクラクラしちゃうみたいだけど、今はもう元通りよ。心配かけてごめんね」
ニカっと笑って見せる華恋。そんな彼女に、ほっと胸を撫で下ろす一同。
「それよりもごめんね、なんか中断させるような事になっちゃって」
「何言ってるのよ! そもそも今回の対決も華恋の記憶取り戻すお手伝いみたいなもんだし、気にしなくていいって!」
「同感。華恋の記憶が戻ってなによりです」
「そうですよー。私達はもうお友達なんですから、気にせずどんどん迷惑をかけてくれていいんですよ!」
「……友達、か。そっか」
美九達の言葉に、嬉しそうにはにかむ華恋。そんな彼女達の様子を見て、士道もまた微笑む。
「よし、それじゃあ続きといくか。こうなりゃヤケだ! どんどんコスプレするぞ!」
『おーっ!』
拳を突き上げる一同。
そうしてその日はとにかく様々な衣装を着ていった。
結果、五人は閉店するまで店に居座ることになったのだった。