【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~   作:詠符音黎

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三五スイーツ

「……まさか、こんな形で士道の家に来ることになるとはね」

 

 華恋は、五河家を前にしみじみとそう言った。

 そう。今回のデートは他でもない、士道の家で行われるのだ。

 華恋は、隣に士道がいながらもなんだか体をソワソワさせることを抑えることができなかった。

 

「んー……なんかちょっと緊張」

「おっ華恋でも緊張なんてすることあるんだな」

 

 冗談交じりに士道が言う。

 対して華恋も、冗談っぽく口を尖らせてみる。

 

「む、それは失礼だよ士道。私だって緊張ぐらいする。大学の講義でのグループワーク発表とかだって実は緊張したりしてるんだよ?」

「そうだったのか、結構涼しい顔でやってるように見えたもんだからてっきりしてないのかと思ったよ」

「女は感情を隠すのがうまいもんなのさ。プレイボーイなのにそんなことも知らないのかい?」

「だからプレイボーイじゃないって」

「お返しだよ、ふふ」

 

 そう言って士道に微笑む華恋。士道は、そんな彼女の笑みに一瞬ドキリとする。

 が、華恋はそんな士道の機微を察することはなかった。

 

「ま、まあこんな玄関前で立ち話ってのも変な話だ。中入ろうぜ」

「うん、お邪魔させてもらうね」

 

 華恋はそうして士道に続いて五河家へと上がった。すると、玄関から入ってすぐ、二人を迎える姿があった。

 狂三と琴里だ。

 

「あらあら、お二人揃って仲良く話し込んでいましたようで、妬けてしまいますわ」

「そんなんじゃないって……ただの世間話だよ」

 

 からかうような狂三の言葉に、士道が少し困ったように返す。そんな士道を見て、狂三はくすくすと笑っている。

 

「ふぅん? ま、それならそれでいいけど。ようこそ我が家へ、華恋。歓迎するわ」

「ありがとう、琴里ちゃん」

 

 士道に対し少し厳し目な態度を撮りながらも華恋を歓迎する琴里に、華恋は笑顔を見せる。

 狂三と琴里。なんだか不思議な組み合わせだと、華恋はなんとなく思った。

 第一印象として、あまり馬の合うタイプには思えなかったからだ。

 

「それで、今日は君達兄妹の家で何をするのかな?」

 

 華恋はそんな内心を密かにしつつも、琴里に聞く。今回も何をするのかは聞かされていなかった。

 

「そのことだけれど。実は、今日はみんなでお菓子作りをしようと思うのよ」

「お菓子作り?」

「ええ、そうですわ」

 

 聞き返した華恋に返したのは狂三だ。

 狂三はおしとやかに両手をお腹のあたりで合わせながら言う。

 

「実はここにいる琴里さん、あまり料理が得意ではありませんの。それで、しばしばわたくしや士道さんが教えているのですけれど、せっかくですしそれに華恋さんも参加してもらおう、という考えですわ」

「へぇなるほど。それは確かにちょっと面白そうだね」

「……ところで華恋は、どれくらい料理できるの?」

 

 琴里が恐る恐ると言った様子で聞いてくる。どうやら、華恋の腕前が気になって仕方ないらしかった。

 

「私? ああ、全然だよ。朝は買い置きのパン、昼食は学食、夕食は弁当なんて自堕落な不健康学生生活を送ってるし。自前で作ろうってなるときもあるけど、大抵面倒になって結局出来合いのものを買うことが多いくらいだから」

「そ、そう……なるほどありがとう、参考になったわ」

 

 なんだか少しほっとしているような琴里。

 そんな彼女を見て、華恋はちょっといたずら心が芽生えてしまう。

 

「あ、でも最近は比較的自分で作ることが多いかなー。別にできないわけじゃないしー」

「え!? そ、そうなの!?」

 

 一点少し焦る様子を見せる琴里。

 そんな彼女が、なんだか可愛くて仕方なくなる華恋であった。

 

「おいおい、あんまりうちの妹をからかわないでくれ」

 

 そこで、士道が割って入ってきた。それで、からかうのはここまでだと華恋も察する。

 

「はいはい、ごめんね琴里ちゃん。料理が下手で教わる側なのは一緒だから安心して」

「べ、別にそんなことは考えてなかったわよ! ただ気になっただけ! ほら、早く台所に行くわよ!」

 

 顔を赤面させながらも台所へと急かす琴里。そんな彼女を見ながら微笑む士道と狂三。

 そんな彼らにつられるように、華恋もまた微笑する。

 楽しいお菓子作りになりそうだと、華恋は思った。

 

 

 そうして台所に移動し、手洗いなどの準備を済ませた面々。

 エプロン姿になった彼女らの前には、お菓子作りに必要な道具や材料が置いてある。

 

「さて、ではこれからケーキを作りたいと思いますわ」

「なるほどケーキを」

「ああ、今日は簡単にデコレーションケーキを作るぞ」

「で、デコレーション……それ本当に簡単なの……?」

 

 進行を始める狂三と士道に華恋と琴里が反応する。

 琴里は若干緊張した面持ちだ。

 

「まずは生地を作りますわ。このボウルに卵とグラニュー糖を入れて、湯煎にかけて溶けるまで泡立てますわ。さっそくやってくれるかしら琴里さん?」

「え、ええ。任せて頂戴。湯煎は前チョコレートを作ったときにしっかり学んだものね」

 

 そう言って琴里は言われた通り卵とグラニュー糖を湯煎しながら泡立てる。

 ぎこちない手付きだったが、問題は発生せずにしっかりとかき混ぜることができていた。

 

「では次は薄力粉を振るい入れて混ぜる、だな。それである程度混ぜてバターとバニラエッセンスを入れるんだ。これは華恋がやってくれるか?」

「よし、任された」

 

 華恋は琴里からボウルを受け取ると、こちらも言われた通りにする。

 しかし、琴里と違ってその手付きは慣れたものだった。とてもスムーズに、篩で薄力粉を落とし、ゴムべらでしっかりと混ぜたのである。

 

「おお、華恋慣れてるな。もしかしてケーキ作りは初めてじゃないのか?」

「……そうなのかな? いや、もしかしたらそうかもしれないね」

 

 そこで、華恋はうっすらと自分のしている行為に既視感を覚えた。

 自分は、以前もこうしてケーキを作ったことがあるという既視感を。だが、彼女が大学生に身をやつしてから、ケーキなど作ったことがない。

 ということは……

 

「もしかしたら、私は失った過去で、こうしてケーキを作ったことがある、んだと思う」

「あらあら、さっそく記憶を取り戻しましたの? 案外早いですわね」

「いや、取り戻したっていうはっきりしたレベルじゃないんだけど、既視感はしっかりと覚えてるんだ。だから、やったことあるのかなって」

「なるほどね……じゃあ、このままお菓子作りをしていけば更に蘇るかもしれないってことね」

「そうなるかもね、多分だけど……」

 

 狂三と琴里の言葉に少し自信なさげに笑いながら答える華恋。

 実際、確証は何もなかった。本当にぼんやりした感覚だったからだ。

 だが記憶を取り戻せる僅かな可能性の一つなのだ。その上から垂らされる希望という糸を、できるだけつかみ取りたいという気持ちがあったのだ。

 

「ま、そう堅苦しくならずに作っていこうぜ。お菓子作りは、楽しまなきゃ損だ」

 

 華恋が少しナーバスになっていたところで、士道が言う。

 彼の軽い感じでありながらも気を使ってくれているのが分かる言葉は、華恋の心の重荷を軽くしてくれるような感じがした。

 

「うん、そうだね。今は美味しいお菓子を作ることだけを考えよう」

 

 なので、華恋も笑って士道に返す。今はただみんなでこの時間を楽しむ。それだけを考えようと思った。

 

「そうですわね。それでは、次の工程に行きたいと思いますわ。次は華恋さんの作った生地をこの既に用意した型に流し入れますわ。その後、上から軽く落として空気を抜くのも忘れずに。そのあとこれまた予熱をしてあるオーブンで焼きますわ。じゃあこれを琴里さん、お願いしますわ」

「よ、よし。やったろうじゃないの……!」

 

 そうして琴里は緊張しながらも工程に入る。その後も、お菓子作りは順調に進んでいった。

 大きなトラブルもなく、狂三と士道の手ほどきの下で琴里と華恋がケーキを作っていく。

 そうして、ついに――

 

「お、おお……! できたっ……!」

 

 琴里が感極まったように言う。

 彼女の目の前には、たっぷりクリームといちごが乗った大きなデコレーションケーキが出来上がっていた。

 

「やったね琴里ちゃん! 綺麗にできたよ! 私もちょっと感動しちゃった!」

「え、ええ! やったわ……! 何よ、案外できちゃうんじゃないの……!」

 

 華恋と琴里はお互いそう言いながら両手を合わせぴょんぴょんと飛ぶ。

 二人のその微笑ましい光景に、狂三と士道が笑みを見せる。

 

「……っ! ま、まあこれぐらいできて当然だし!」

 

 と、その視線を感じたのか、琴里は急に飛ぶのをやめ、つんとした顔で言う。

 

「えーもっと一緒に喜ぼうよー琴里ちゃん!」

 

 華恋はそんな彼女にベタベタとまとわりつきながら言う。

 

「ちょ、やめてよね!? 恥ずかしいじゃないの!?」

「ははは、すっかり仲良くなったな二人共」

 

 わいわい騒ぐ二人を見て士道が言う。その横で、狂三がコクリと頷く。

 

「ええ、ええ。あの琴里さんがこんなにかわいらしいなんて、愛おしいですわ。食べてしまいたいほどですわ」

 

 そう言いながらぺろりと唇を舐める狂三。どこか艷やかな雰囲気を漂わせる仕草だった。

 

「来たぞシドー!」

 

 と、そのときだった。元気な声がリビングから響いてきたのだ。十香だ。

 

「ん? おお華恋! そうか、今日は狂三と琴里と士道との四人でのデートだったのだな!」

「そうだね。十香は遊びに来たの?」

「うむ、そんなところだ。他の面々もいるぞ」

 

 十香がそう言った直後、ぞろぞろとリビングに他の面子が入ってくる。折紙、二亜、四糸乃、六喰、七罪、耶倶矢、夕弦、美九、そしてマリアである。

 

「おおっ、一気に来たなぁ」

「うむ、示し合わせたわけではないのだが、途中で会ったのでな。ところで四人は何をしているのだ? 何かいい香りがするのだが……」

「ああ、今丁度ケーキを作っていたんだよ。十香達も食べる?」

「ケーキだと!? それは魅力的だが、食べていいのか!?」

「大丈夫よ。ちょっと大きいケーキだし、まだまだ作る材料はあるからね」

 

「そうですわね。せっかくだしみなさんで食べられるようにもう一つ作りましょうか」

 

 目を輝かせる十香に琴里と狂三が言う。すると、話を聞いていたのか他の元精霊達も集まってきた。

 

「ケーキ、ですか? 楽しみです……!」

「うふふー? こんな美少女に囲まれながらケーキを食べるなんて、甘すぎて病気になっちゃいそうですー!」

「ケーキかー、ならシャンパンが欲しいところだねぇ」

「二亜はただお酒飲みたいだけでしょ……」

「そうですね。むしろ二亜だけは一人水を飲んでもらいましょう。普段お酒ばかり飲んでいるので休肝日です」

「なんでよりによって今からぁ!?」

 

 一気に賑やかになる五河家。その光景に、士道が凄く楽しそうな笑みを浮かべているのを、華恋は見た。

 そして、そんな彼を見て、なんだか華恋も楽しくなってきたのである。

 

「よし、じゃあじゃんじゃん作ろうよ! 今日はパーティな気持ちでさ!」

「おっ、いいな! 任せとけ!」

 

 華恋の言葉に答える士道。彼女も彼も、勢い任せとは言え気持ちのいい笑顔でやり取りした。

 

「パーティですかー! いいですねー! あ、そうだ。せっかくだし写真も撮りましょう! みんなで代わる代わる、今日という日をフレームに収めるんですー!」

「お、美九。面白い提案するじゃないか。でもカメラはどうする? スマホのカメラで撮るのか?」

「大丈夫。常に一眼レフカメラを所持している」

「……さすが折紙」

 

 美九の提案を採用した士道に素早くカメラを渡す折紙。

 その姿に、華恋は思わず笑ってしまった。

 そうして一同はその日、図らずともちょっとしたパーティをすることになった。そしてその中で、沢山の写真がカメラに収められた。

 みんなが代わる代わる撮った写真。それは、常に笑顔が満ちるいい写真であった。

 

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