私の生徒たちが、自分を恋人だと思い込んでいる!   作:雨あられ

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第3話

-ゲヘナ学園 風紀委員会・執務室-

 

「失礼します!委員長!また給食部で原因不明の爆発が……!」

 

「また?すぐに原因を解明してそれから……」

 

「委員長!街で美食研究会のやつらが飲食店を襲ったと……!」

 

「え?」

 

「なんでも酢豚にパイナップルを入れるのは邪道か否かいう話を繰り広げて……あ、私は許せない派です!」

 

「…………」

 

「委員長!便利屋のやつらがまた問題を……!」

 

「~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の生徒たちが、自分を恋人だと思い込んでいる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

営業時間も過ぎた夜更け。

カフェの営業もバイトのみんなのお陰で軌道に乗ってきたころ、床をモップ掛けしているとカランカランと誰かが店のドアを開ける音がする。

 

“すみません。今日はもう店じまいで……”

 

「…………あ」

 

“…………ヒナ?”

 

ドアを開けて立っていたのは、ゲヘナ学園で風紀委員長を務めている少女・空崎ヒナ……。

軽くスリットの入った風紀委員会の制服に、太ももまで伸びた黒いタイツ、蝙蝠のようなギザギザの羽……真っすぐに伸びた白髪を少し触ると、気まずそうにその菖蒲(あやめ)色の目を伏せる。

 

「ごめんなさい。先生がここに居ると聞いたから……でも、営業時間外ならまた出直すことにする」

 

踵を返して帰ろうとするヒナの手を取って引き留める。

先ほどは暗くてよく見えなかったが、玄関ホールに照らされたその顔は、疲れからかとても窶れているように思える……。

 

「あ、先生……?」

 

“……何か飲んでいかない?”

 

ヒナは、驚いて目を見開いた後に、弱弱しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということがあって……」

 

砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーを飲みながら、ヒナは止めどなく溜まりに溜まっていた愚痴を吐き出し続けていた。

 

「アコやチナツも頑張ってくれているけど、それよりも発生する事件が多すぎて……」

 

"ゲヘナだから……"

 

自身も同じようにコーヒーを手にすると、椅子を引いてヒナの対面に腰を下ろす。

 

“やっぱり、ヒナの仕事は大変だね”

 

「……そんなことは…………ただ他に出来る人が居ないから……面倒だけど、やるしかなくて……」

 

照れくさそうに眼を逸らすヒナ。

 

空崎ヒナという少女は強い少女であった。

 

強いと言っても、ただゲヘナ最強と謳われるその屈強な戦闘力を振りかざすだけではない、その成熟した精神や冷静な思考回路が、風紀委員会を導くカリスマとなって彼女の"強さ"をより盤石なものにしている。

あれだけ無法地帯になっているゲヘナ学園が今日までギリギリのところで秩序を保っていられるのも、全て彼女たち、風紀委員会のお陰と言っても過言ではないだろう。

 

だけど……

 

“ヒナにしか出来ないことがたくさんあって、大変だとは思うけど……あんまり、無理ばっかりしちゃいけないよ。”

 

「先生……」

 

頑張っているヒナの頭に手を乗せて撫でると、ヒナは少し緊張から体を強張らせたものの、次第に眼を細めて身を委ね始める。

 

私は同時に……とても不安になる。

彼女には他にも同じ風紀委員会の仲間がたくさん居るが、それは同時にそれだけの数だけ彼女に期待や責任を向ける存在がいるということ。外からも内からもストレスを抱える彼女がいつか倒れてしまうのではないかと、ついそう考えてしまう。

彼女と対等か、支えてあげるような存在が、どこかに居ればいいけれど……

 

“今日はこの後お仕事?”

 

「……きょ、今日の分は終わらせてきたから……」

 

“そっか、じゃあ……”

 

キュルル……と、そこでなんとも可愛らしい音が響く。

見ると、ヒナの顔が赤く染まっていて……こちらもクスリと笑みが漏れる。

 

“何か食べよっか?”

 

「…………」

 

コクと、お腹を押さえて恥ずかし気に頷く少女を見て、やはり、彼女も周りと何も変わらない少女なんだなと、私は安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ゲヘナ学園 風紀委員会・執務室-

 

「……ふふ」

 

ついこぼれてしまった笑みを見て、パチパチとアコが瞬きをする。

 

「……委員長。昨日は何か良いことがありましたか?」

 

ニコニコと笑みを浮かべるからかい調のアコの言葉に、目をそらしながら足を組み替える。

 

「別に……いいから報告を続けて……」

 

不覚を取った自身の気のゆるみに少し呆れながら、それでもなお緩んでしまう口元を隠すように椅子に肘を立てながら手で口元を覆う。

しかし、やはりというかどうしても仕事に身が入らない。だって、昨日は……あの後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい……」

 

先生が作ってくれたのは親子丼と大根の煮物だった。

ふわふわした卵の上に醤油ベースのダシが絡んだ鳥肉が、ご飯と一緒に口に含むと、ダシがお米を解きほぐしてとても食べやすい。

煮物も、あっさりした白ダシに大根や豚もも肉などを薄切りの生姜と一緒に煮たものなのだろう、お腹が空いていたのもあっていくらでも食べられてしまう。

 

本当に美味しい。優しい味がする……。

 

「先生……こんなに料理が上手だったの?」

 

“別にレシピ通り作っただけだよ”

 

それが、人によってはどれだけ難しいことか……わかっていないのだろうこの人は。

香りのよいお吸い物も添えてくれて…………うん、好きな味。

 

「こんな料理なら、毎日食べた……!」

 

顔が急速に熱を持つ。

 

い、今私、何を!?先生にとんでもないことを……!?

チラリと先生を伺うように見上げると

 

“また食べにおいでよ”

 

と、そう屈託のない笑顔を浮かべていた。

本当に全く、この人は。

その後も、先生と他愛もない話をしながら、夜の時間を共有した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-シャーレ併設カフェ・前-

 

「流石に、昨日の今日じゃ早すぎる……?」

 

気が付くと、私は先生のカフェへと足を伸ばしていた。

最後の踏ん切りがつかなくて、さっきから、扉の前を行ったり来たり……私だって本当は何日か開けたかったけれど……お腹が空いてくると昨日のあの味が口の中に広がって、頭から離れなくなってしまった。

 

固唾をのむと、別の用事があったことにしようと、言い訳を思いつき、カフェのドアを開くことにした。

 

「先生?お邪魔しま……!?」

 

 

 

「きえええええええええっ!!!!!!」

 

 

 

ビクッ!!?

 

反射的に身構えると、真っ暗闇の店内でフーフーと息を荒げているモンスターの赤い光だけが見えている。

いや、地面まで伸びた黒い長髪に獣じみた光を放つ赤い瞳、禍々しく生えている漆黒の翼。そして黒い制服に返り血のような赤を纏っているこの少女は……剣先ツルギ!

 

トリニティ統合学園の正義実現委員会、その委員長……!?

 

「あなた、何故ここに……」

 

「クケケ、コケ?」

 

グキンと人間離れした首の曲がり方で私の方を見ると、イヒヒヒと気味の悪い笑みを浮かべてこちらへと近寄ってくる!!?

 

「な、何……?」

 

「おま、おまま…………」

 

「お"ま"え"が"っっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャンと窓を割って外へと逃れると、次の瞬間ドカーン!と部屋の中では彼女の放った赤い弾丸が炸裂していた。

私が着地をして銃を構えている間にも、ツルギは奇声を発しながらドアを蹴破って私の元へと飛び掛かってくる。とんでもない跳躍力っ!?

 

「何のつもりか知らないけど……!?」

 

黙ってやられるわけにはいかないと、こちらも翼を広げて支えにするとマシンガンを乱射する。

 

「きえええっ!!!」

 

しかし、空中や建物を蹴って高速移動をするツルギを中々とらえることが出来ない。

これがトリニティの戦略兵器……!?

本当に同じ人間なのかと疑わしくすら感じてくる。当てる方法はあるけれど、それだとこっちも手加減するのが難しく……。

 

「シャアアっ!!」

 

「!!」

 

構えた二丁のショットガンを回転させて弾を弾くと、身体を捻りながら捨て身で懐に潜り込んでくるツルギ。

私は咄嗟にその一つを踏みつけ、ガトリングの銃口をツルギの額へと合わせたが、同時に、下を取った彼女の片腕が伸びてショットガンを私の額へと突き付けられる。お互い、少しでも引き金を引けば眉間が吹き飛ぶ。

 

「はぁはぁ……」

「げひひ……はふ……」

 

硝煙が吹きすさび、突き付けられている未だに暖かい銃口に冷や汗が流れる。

油断していたとは言え、私をここまで追い詰めるなんて……でもおかしい、冷静に考えて……。

 

何故、彼女は襲ってくる?

いくらトリニティとゲヘナの中に争いが存在しているといっても、それはほんの一部のこと。交流会で顔を合わせた彼女は、そんな些事を気にするような人物ではなかった……気がする。それに、これだけの銃撃戦が繰り広げられているのに、どうして先生はあの建物から出てこない?

 

…………まさか!!

 

「……きひっ」

 

口元を引きつらせながら、引き金を引こうとする彼女に待って!と声を上げる。

 

「先生が……危険かもしれない!」

 

「ッ!?」

 

パァンと銃声が響く……それは、私を照準から大きく外して、コンクリートの壁に大きな穴を作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-アビドス 廃墟ビル 3階-

 

「先生もさ、ついてないよね~」

 

アハハハハ!と室内には笑いが起こる。

両手足を縛られたまま床に座らせられている私を、机に座ったまま何度か小突いてくるのはこの辺では珍しくもないヘルメット団と呼ばれる不良少女たち。

 

「まぁ安心しなって?私たちも鬼や悪魔じゃないからさ、貰うもの貰ったら、無傷で解放してあげる」

 

へっへっへと笑いながら別の少女が私の持っていた財布の中身を数えながら涎を垂らす。

こう治安の悪い場所で、私という弱い存在は不良少女たちにとっては格好の餌らしい、シャーレの連邦生徒会を強請ってお金を手に入れようと画策しているようだった。

 

 

まぁ、よくあることだ。

 

 

「……先生、やけに落ち着いてるけど、自分の状態わかってる?」

 

“もちろんわかってるよ。ただ今日は夜からお客さんが来る予定だったから早く帰らないと……”

 

「はぁ?」

 

アハハハ!とまた笑いが起こる。

しかし、今度はただ笑っただけではない、ガン!と強く机を蹴る音がしたかと思えば、この中でもリーダー格なのか、唯一赤いヘルメットをかぶった少女が私の方へと銃口を向ける。

 

「先生、私らを舐めてるだろ?今、自分がどういう立ち位置にいるか、よく考えな?えぇ?」

 

そうドスの利いた声をだすと、ゆっくりと少女は引き金に指をかけ始める……。

 

“舐めてるわけじゃない……”

 

「あん?」

 

"ただ、私は……"

 

 

"信じてるんだ"

 

 

 

ズガーンッ!!と、遠くで爆発音が響く。

そして、思わず耳を塞ぎたくなるような凄まじいガトリング音……!?

その間にも地震が起きたかのように地面はグラグラと揺れて、パラパラとコンクリートの天井から埃や破片が降ってくる。

 

「な、何だ!?」

 

「あ、悪魔……!!ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナが来たんだ!!」

 

「へ!!?こ、こんなアビドスの廃墟ビルに!?」

 

予想外の大物の登場に、リーダー格の少女はその名前を聞いただけで、声を裏返させて狼狽え始める。それに追い打ちをかけるかのように汗だくになった少女が上の階から走って来て震えた声を上げる。

 

「せ、先輩!!そ、空からあ、あの、あのば、化け物がトリニティの化物が!!」

 

と、そう報告したのとほぼ同時に、こちらの元まできええええええええっ!きひゃあああああ!あーひゃはひゃはっ!!という叫び声が廊下を通ってエコーとなって届き始める……。

 

「あ、あぁ……!?」

 

「い、一階全滅で……」「上からもうここに来ますっ!!?」

 

「あああああああっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、それで、どうしてこんなことに?」

 

事件が収束してカフェへと戻ってくるとすっかり機嫌の悪くなったヒナからそんなお小言を貰う。まぁあれだけの大事になったのは完全に予想外だ。まさかビルが跡形もなく消え去ってしまうなんて……つい最近カフェが吹き飛ばされたのを思い出して縮みあがる思いだ。

 

“ちょっと買い物に出たタイミングで捕まってしまって”

 

「…………はぁ。もっと気を付けて……それと、彼女は……?」

 

呆れた様子でヒナが目を向けた先には、カーテンに包まって隠れる様にしてこちらを伺っているツルギだった。何か話しかけたそうにしているのに、私と目が合うと赤い顔をしてすぐに隠れてしまう。

 

“恥ずかしがり屋さんなんだよ”

 

「え?いや……もうそれでいい。面倒くさいし……」

 

頬杖をつきながらため息をつくヒナ。と、そこでまたクキュルルルっと、可愛いお腹が鳴った音がする。

またヒナが?と思ったのだけど、ヒナはち、違う!と頬を染めながら慌てて否定をする。ということは……

 

「…………」

 

メジエドのようにカーテンに完璧に上半身が包まれたツルギから滝のような汗が流れているのが見て取れる。やがて

 

「きええええぇぇっ!!きぃひひ、ひひ、ひいいい!!?」

 

「すみません!すみませえええん!!こ、こ、このお腹が勝手に!!」

 

とその場で体を揺さぶって悶え始める。

 

「せ、先生、だ、大丈夫?彼女……?」

 

“いつものツルギだよ……そうだ、せっかくだし……”

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、私がこんなことをするなんて……」

 

ペタンペタンと、交互に手を動かすと……炒めた玉ねぎや粗挽き肉などが入ったハンバーグのタネをその手で形作っていく……。

どういう意図かわからないけど、先生に手伝ってほしいと言われたのはハンバーグ作りだった。

やったことがないと言ったら、二人はこれだけやってほしいと言い、ボウルに材料をたくさん入れて持ってきて、先生自身、いくつか作って手本を見せると、さっさと他の料理作りに行ってしまった。

…………ちらと、同じように任されたツルギを見る。

 

 

「いひ……いひ……」

 

 

「きええええいいぃっ!!」

 

 

と、変な顔をしながら真剣にハンバーグを左右に叩きつけ……戦っている。

だけど、あれだけの力で左右に叩きつけたりしたら……

 

「……ぁ!?」

 

……ボロボロと、形は崩れ、もはやハンバーグとは呼べない肉片があたりに飛び散る。

 

「……」

 

肉片を浴びたまま固まってしまったツルギは次の瞬間、わなわなと肩を震わせ始める。

 

また、叫び声をあげるのかと思わずきゅっと目を瞑って身構える……

が、一向に彼女の声は聞こえない。

不思議に思って目を開けると……そこにはじわっと目に大粒の涙を浮かべている眉を下げたツルギの姿が!?

 

「そ、そんな……どうして……」

 

グスンと言いながらボロボロになった肉片を集めるツルギ。

……先ほどまでの化物のような彼女からは想像できないほどに、その顔は普通で、私たちと何も変わらない…………少女だった。

 

「せっかく、先生に食べてもらおうと……頑張ってるのに……」

 

……彼女のことはやはり理解不能だけど、その気持ちだけは……私にもわかる。

気が付くと、私は面倒なはずなのに、彼女に歩み寄っていて……散らばったお肉を集めるのを手伝い始めた。

 

「え?」

 

「……力を入れすぎ、もう少し力加減をして……こんな感じで」

 

「っ!!」

 

彼女の手の中にハンバーグのタネを持たせて、その手を包み込むように握ると、ビクリと、肩を飛び跳ねさせるツルギ。

しかし、素直に私の言うことを聞いて、コクンと頷くと私と動きを合わせて、手をリズミカルに動かし始める。

 

「こ、こうですか……?」

 

こちらに振り返りながら、恐る恐る私に声を掛けるツルギ。

やがて、私の補助なしでも同じようにハンバーグを捏ねることが出来るようになった。肩から力も抜けて、もう問題はなさそう。

 

「うん、それで大丈夫……」

 

満面の笑みを浮かべるツルギ。そして……

 

「きひ」

 

「え?」

 

「きひ、きひひひひっ!」

 

舌を出してにちゃりと邪悪な笑みを浮かべはじめる……!?

こ、これだけは、慣れそうにない……。

 

けれど、喧嘩をして、共闘して、そして今、同じ気持ちを持っている私には何となく彼女の楽しそうな気持ちだけはきちんと伝わるようになっていた。

 

「あ、あの、ひ、ヒナ……さん!つ、作りたい形があって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“さぁ、出来たよ”

 

ドンと先生が持ってきたのは、それぞれが作ったたくさんの小さなハンバーグとニンジンやトマトが添えられたハンバーグプレート。特製のソースが掛かってすっかり美味しそうに生まれ変わったそれに、私は思わずわぁと声が漏れて、ツルギはきひぃ!!と歓声?を上げた。

 

“みんな上手にできたね。じゃあ、早速……”

 

と先生が手を合わせて食べ始めようとすると、まごまごしていたツルギは勇気を振り絞って擦れた声を上げた。

 

「あ、あの、先生、こ、ここ、これを!た、食べてくだひゃい!!!」

 

そう差し出したのは……一緒に作ったハートマークのかたどられたハンバーグ。少し形が崩れているが、先生ならば、十分にその気持ちを汲み取ってくれるだろう。

 

先生はまさか自分用に作ってくれていたとは思わなかったらしく

 

“良いの?”

 

「は、はひ!!」

 

"ありがとう、ツルギ!とっても嬉しい"

 

と、本当に嬉しそうな顔を浮かべて、本当にこの人は……それを見て、ツルギ自身もこれ以上赤くなり様がないくらい真っ赤な顔をして、けれど、今日一番の笑顔を浮かべる。

 

“じゃあ、私のと交換しようか”

 

「えぇ!!い、良いんですか!?」

 

先生もツルギのプレートに自分が作ったハンバーグを乗せると、真っ赤な顔をしたツルギは初めは戸惑い、困惑していたが、次第ににちゃあと顔を崩し喜びの色が加わる。

 

……ずきりと、胸が痛む。

その光景は、本当なら、微笑ましいはずのそんな風景なのに、私はきっと……

 

「あ、あの……ヒナ……さんも、よ、良かったら……こ、これ、た、食べてください!」

 

「え?」

 

目線をきょろきょろと挙動不審に動かしながら恥ずかしそうにハンバーグを差し出すツルギ。ハートではないけれど、ツルギなりに一生懸命作った、一番見栄えのいいハンバーグだ。

 

「え?けれどこれは……」

 

「ひ、ヒナさんのお陰で、ちゃ、ちゃんと、つ、作れたから……だから……」

 

「……」

 

クスっと、笑みが漏れた。

 

「じゃあ、私のと交換しましょうか……ツルギ」

 

「っ!!きひ、きひひひっ!!きええっ!!!」

 

私の一番うまく出来たハンバーグと交換すると、先生に貰ったのと私のを並べて嬉しそうにプレートを天に掲げるツルギ。

今日のことで彼女のことがよく分かった。少なくとも、彼女は悪い人間ではない。というより、むしろもう私たちは……

 

「え?友達が出来て良かったねって?……う、うるさい」

 

と、そう先生のことを小突きながらも、私はさりげなく……ツルギへの見本で作ってあげたハート型のハンバーグを……先生のプレートの上に乗せたのだった。

 

 

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