私の生徒たちが、自分を恋人だと思い込んでいる! 作:雨あられ
-シャーレ執務室-
「先生、あなたには容疑がかけられています」
桜が舞い、長閑な風が部屋に吹くようになったそんな日のことだ。
失礼します。と執務室に入ってきたのは、やや気疲れした様子の困り眉に「ギザ歯」を出して強張った顔をしたヴァルキューレ警察学校所属、公安局の局長・尾刃カンナ。
何やら思いつめた様子の彼女のために、コーヒーを淹れてあげて席に着く。
そして、口を湿らせようと自身もマグカップを傾けたそんな時に冒頭の一言だ。私は気管支に入ったコーヒーにより激しく咽せた。
「先生?大丈夫ですか?」
“だ、大丈夫だよ”
ど、どの容疑のことだろうか…?
その瞬間、脳裏に駆け巡ったのは様々な「生徒との記憶」。
銀行強盗、レストラン爆破、学生寮への宿泊……いや、それだけではない、他にも様々な……!
……こ、心当たりがあり過ぎる。
無意識に目を逸らしてしまい、カンナはその一瞬の動作を見逃さずに目を鋭く光らせる。
「やはり何か、後ろ暗いことが……?」
“い、いや、そういうわけではないんだけど……”
カンナの切れ長な青い瞳に思わず洗いざらい白状してしまいそうになるが、きっと何かの間違いだと、負けじと見つめ返す。
暫く目と目を合わせたまま沈黙が流れていたが、カンナの方が先に目を瞑って、こほんっ!とワザとらしく咳払いをした。
「……いえ、すみません。先生に限ってそんなことはないと信じているのですが、職業柄どうしても疑ってかかってしまって」
ポリポリと赤く染まった頬を掻くカンナ。どうやら信じてくれたらしい。
“えっと、ちなみにどういう容疑なの?”
改めて椅子に深く座りなおすと、カンナは自身の持ったマグカップが作る黒い波紋を眺めながら口を開く。
「……にわかに信じがたいことなのですが……」
私の生徒たちが、自分を恋人だと思い込んでいる!
-シャーレ・執務室 午後-
「先生……?居る……?」
控えめなノックの音とともに部屋に入ってきたのは白くて長いブロンドヘアに、黒い翼とスリットの入った制服。ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナだ。
ヒナは自分の髪を指先で弄りながら目を泳がせ、たまたま近くを通ったから……とモジモジしながら言い訳をしている。とても可愛らしい。
……のだが、私の心中はそれどころではない。
今は……不味い相手かもしれない。
チラリと後ろに目をやると、パソコンの近くに見えているのは無機質な黒いレンズ……それが、天井やキャビネットの隙間……至る所に見えづらいように設置されている。そう、俗にいう監視カメラと言うものだ。
そして、モニター越しにこちらを監視しているのはもちろん……
「……先生?もしかして今日は忙しかった?」
何も言わない私を見て、不安そうな声を出すヒナに慌てて向きなおる。
“……ごめんごめん、いらっしゃいヒナ。ここまで来るのも疲れたでしょ?何か飲む?”
「……ん」
と短く甘えた返事をして、羽織っていた風紀委員会の制服を椅子に掛けるとソファに腰を下ろして、ソワソワと落ち着きがない様子でコーヒーの準備を始めた私と自分自身とを交互に見比べるヒナ。
ヒナなら大丈夫。
うん、多分。問題があるようなことにはならないはず、きっと。
そう、今の私はカンナの……公安局からの監視を受けている。
どうもシャーレの先生は生徒を連れこんで「いかがわしいこと」をしている、と変な噂が立っているらしい。
なので、カンナから監視を受けることでこの身の潔白を証明できるらしいのだが……おそらくこれは……。
コーヒーをヒナの前に出してあげてヒナの対面に腰を下ろすと、え?と不満そうな声を出す。
“……ど、どうかした?”
「だって、いつもは、その…………」
手を膝の上に押しこみながら、ソファの隣の席を何度も見るヒナ。
監視ということは、現在の映像や音声は全てカンナに筒抜けである。
そして、ここで私が何か誤解を生むような行動をとった場合、すぐにでも公安局、ひいてはヴァルキューレ警察学校の部隊が突撃してくるだろう。
しかし、下手に誤魔化すような行動をとり続ければ。それはそれで怪しいとされてしまい、黒であるとされてしまう可能性も否定できないし……何より……
「…………先生」
ヒナが悲しそうな顔をしながらこちらを上目遣いに見上げている。
…………私は腹を括ると、ゆっくりと席を立って、今度はヒナの隣に腰を下ろす。
そして、膝の間を少し開けると、ヒナを抱えてすっぽりと、その膝の間に彼女の小さなお尻を収める。
ヒナは、一瞬強張ったけれど、すぐに力を抜いて私にしな垂れかかってくる。
「うん……やっぱり、ここが一番落ち着く……」
そう柔らかい表情で微笑むヒナ。
反面、カンナたちが突撃してこないかと冷や汗が止まらない私。
「先生、あのね……」
そんな私の心中を知る由もないヒナは笑顔で話し始める。
最近アリスやツルギと一緒に買い物に行ったこと、温泉開発部のせいで学校が倒壊しかけたこと、その処理のせいで1週間近くもお家に帰れなかったこと……
とにかく面倒くさくて大変だったと、私の手を強くにぎにぎしながら開いた口は止まらない。
けれどヒナはどこか楽しそうで、私も自身が監視されていることなど忘れて、ヒナの頭を優しく撫でながら、その話を熱心に聞くことになった。
-ヴァルキューレ警察学校 公安局・局長室-
「……一種のカウンセリング……?いや、距離が、近いような。でも……これは……?」
仕事の片手間で先生の様子を監視していたのだが、いつの間にか手を止めてモニターにクギ付けになってしまっていた。
私の知っているゲヘナの風紀委員長とは明らかに違うその表情や仕草に、人のイケない側面を知ってしまったかのような、心にズキリと何かが……いずれにしろ判断に困る。
「い、今吸った?……髪の毛の匂いを吸った……いや、まさか先生に限って……」
そんな調子で1時間ほど二人の動作一つ一つにヤキモキしていると、突如として鳴り始める風紀委員長の携帯端末。
そして、彼女が電話に出ると、ここまで聞こえてくるくらい凄まじい叫び声と銃声に救援要請……手短に返事をすると電話を切ってから、はぁと項垂れる風紀委員長。
……どこか見おぼえのある光景に同情のまなざしを向けていると、先生が私に聞こえないくらいの声で彼女に何かを囁いた。
すると風紀委員長は真っ赤になって……
「……え!?」
座る向きを反対にして先生に抱き着いた!?
しかし、そう長いものではなかった。
時間にして30秒ほどと言ったところだろうか。先生は、おしまい、とその体を離すと、名残惜しそうに彼女は立ち上がり、白い手袋をキュッとはめ込むと制服を羽織りなおす。
「……ありがとう、先生…………行ってきます」
幸せそうな笑みを浮かべた後、先生との交流時に緩み切っていた表情をキリッと整えてから部屋を出て行った。
…………凄いものを見てしまった。
そう口元を覆っているとすぐに私のところに電話がかかってくる。先生だ。
“カ、カンナ。今のは……”
「………………はぁ、安心してください。先生。少々、いえ、だいぶ……距離が近いように思いましたが……彼女の心労や疲労を労うためで、不健全なものではなかったように思います。
……それから、彼女のプライバシーを尊重して映像記録としても残しませんので、ご安心を」
ほっと先生が胸を撫でおろす姿がカメラ越しに見てとれる。
公安局としては……この映像を彼女の「弱み」として握る選択肢もあるのかもしれない。
しかし、忙しい仕事の合間にわずかな時間を見つけてまで先生に会いに来た彼女のいじらしさを踏みにじるようなことは……絶対にしたくない。
それに、彼女にこの映像の存在を知られたその瞬間、怒り狂ったゲヘナ最強と呼ばれるその力でヴァルキューレ警察学校が滅ぼされかねない。比喩表現なしに。
「……先生、ですがこの程度なら……」
と言いかけたところでコンコンと先生の執務室のノックの音が響いた。
-シャーレ執務室-
「フーッ!フーッ!」
あぁ、どうして今日に限って……
首に赤い首輪を嵌めて、そこから伸びた赤いリードが私の手元にあり、そして、怒ったように目を見開いて息を荒くしながら地べたで足を開いて所謂「チンチン」のポーズをしているのはゲヘナ学園風紀委員会所属の行政官……天雨アコ。
そこには普段の飛耳長目とした彼女の姿はなく、目に映るのは屈辱と背徳感で興奮したように息を荒げる一匹の飼い犬の姿……
「ど、どうしたんですか!先生!いつもみたいに命令で、さ、散歩とか、させればいいじゃないですかッ!!賭けに勝ったんですから!!」
フン!と息を荒げながらそう言うアコに私は思わず目元を覆う。
どうやら先ほどの事件、ヒナが来たことでスピード解決したのは良いものの、その時にアコの方は疲れているのだろうと暇を出されたらしい。まぁ、ヒナなりの気遣いだとは思うのだけれど、彼女を狂信しているアコにとってそれは解雇宣告に近いものだった。
自らの不甲斐なさ故に、ヒナが自分に失望したからそんなことを、と、そんな風に受け取ってしまい……アコにとっては耐え難いストレスになったようだ。だからストレス発散のため犬になってしまった。
“えっと、アコ。今日は……”
「今日は……?!ま、まさか、お、お外ですか!?そ、そんな……!敗者である私に拒否権がないからってッ!!」
“うん、アコあのね”
「そ、それだけじゃないと……!?まさかバニー服でも着せて……ッ!?
クッ、ですが、勝負は勝負ですから、今の私は先生に命令されれば例えどんなことでも聞き入れなければ……!!」
“アコ!?ステイ!!”
-ヴァルキューレ警察学校所属 公安局 局長室-
“違うんだ。カンナ”
「…………」
フーっと息をついてから、私は椅子に深く腰掛けると瞼を揉みこみ、冷静さを取り戻そうと努力する。
なんだ?今のは?
瞼を閉じたまま空を仰ぎ、先ほどの光景を思い返す。
初めは特に可笑しなことはなかったように思われる。あのゲヘナ学園風紀委員会の行政官、天雨アコがややご機嫌斜めの様子で執務室を訪ねてきて、先生に対して仕事の愚痴を漏らし始めたところまではまぁ普通であった。
それに、天雨アコは愚痴をこぼしながらも先生の仕事をテキパキと手伝っており、私も監視ばかりしていられないと、天雨アコから止めどなく流れ出る愚痴の数々をラジオ代わりに自らの仕事に着手し始めたのだ。
そして、少しの間席を外して戻ってきたらあの光景が目に飛び込んできたのだ。
そう、首輪を嵌められ、目元には微かに涙を浮かべながらも頬を上気させて先生の前に両手でひざまずく天雨アコの姿が……!
すぐに突入をするか悩んだが、カメラの録画を少し早戻しし、経緯を詳しく確認してから裁定することにした。
すると、どうやら天羽アコの方が愚痴っている間に勝手にイラついて八つ当たりのように先生に勝負をふっかけ、勝手に負けて、勝手に言うことを聞くという流れになったらしい。
いや、尚更ワケがわからないッ!
「…………」
“えっと、あれはアコなりのストレス発散で……”
「…………」
私はいったい何を見せられていたのだろう……?
何故か先生を罵倒しながら部屋の中を四つん這いで素直にお散歩した後、先生に(無理やり)ボールを投げさせ、口で捕ってきたかと思えば、怒りながらご褒美を要求して、近場にあったビスケットを先生の手の平に乗せて、アコは顔を近づけると手を使わずにビスケットを食べ始め……それからもやたら細かいシチュエーションを指定してきては、ケチをつけていたがそれでも最終的にはご褒美として先生に頭や首元を撫でられて顔を真っ赤にしながらも満足気に帰っていった。
「………………」
“その……カンナ?”
「…………おや?すみません。少々……席を外していて……私は何も見てませんので……はい」
“…………ごめんね”
「………………まぁ、流石にこれ以上は」
と、そこへ本日三度目のノックの音が響いてくる……
-シャーレ・執務室 午後-
次の生徒は流石に大丈夫!
そんな考えが一瞬で吹き飛んでしまった。
「先生?……どうかしたのか?」
そう私の前に座って声を出したのは、褐色肌に銀色の綺麗なツインテールを持つ少女、銀鏡イオリ。珍しく喧嘩腰ではない彼女は、足をブラブラと揺らしながら大人しく私の目の前に座っている。その産毛の生えたうなじをこれでもかと見せつけながら……!!!?
「クソ、あいつら、どうしてあんなに汚くて埃っぽい場所をアジトなんかにしてるんだ!おかげで蜘蛛の巣と埃だらけになっちゃったじゃないか……」
そう言いながら、先生、早く取ってよ!と机を叩くイオリ……
落ち着こう、ここは。深呼吸だ。
普段なら、ここで百連写のイオリ撮影会を開始していただろう私も、今日そんなことをすればタダじゃ済まないことくらい心得ている。
しかしそれでも、カメラを構えそうになるもう一人の自分が居る!
蜘蛛の巣に絡まったバージョンのイオリ。この先の人生で何度見れるかわかったものではない!網膜に焼き付けるだけでなく、本当はデータとして永久保存するべきだろう。
しかし、今は我慢するしかない……
“イオリも大変だったね……じゃ、動かないでね”
「え?ああ、うん……」
大きめの蜘蛛の巣をイオリの髪の毛から引っぺがしていき、おそらく彼女が乱暴に取ろうとしたときに絡まってしまったらしい糸も、一つ一つ丁寧に紐解いていく。
その間も、敏感肌のイオリは頭皮や耳元を刺激されて、どこを触っても身じろぎしたり、時には甲高い声を漏らす。普段なら、ここぞとばかりに食いついてしまうのだが、今日は我慢しないと……。
「…………ん」
埃を取り除き、ツインテールを取り外すと、ウェーブのかかったロングヘアのイオリで目が眩しい。それに、いつもとは違い大人っぽく見える蠱惑的な魅力があった。
その絹のように綺麗な髪を傷つけないように柔らかくブラシを動かし、最後の蜘蛛の巣を取り除いていく。
全てが終わると、ブラッシングしている間、気持ちよさそうに目を細めて大人しくしていたイオリが、髪を結びなおしておずおずと振り返り、ポツリと呟く。
「な、なんかいつもと違う……!」
“…………え?”
「おかしい。だって!セクハラしてこなかったし……」
“せ、セクハラって……いつもこうでしょ?”
しかし、イオリは全力で首を振って席を立って私を指さした。
「いや、いつもなら舐めてきたり、へ、変なこと言ったりするのに!今日はそう言うの無くてこっちだけドキドキして……」
後半の言葉があまりに小さすぎて聞き取れないが、次第にイオリは悲しそうな顔をしながらぎゅっと握りこぶしを握って下を向く。
「も、もしかして、他の子にセクハラしていて私に飽きた……?」
ッ!!?
“そんなわけないでしょ!!今だって、もっと近くで!その可愛らしいつむじをなぞりたかったし、何ならうなじの一つでも舐めたかったけど我慢してッ!”
「は、はああぁぁぁッ!?へ、ヘンタ……待て。さっき梳いた、その私の髪の毛だけ、どうして捨てずに机の上に……?」
“……いや、イオリの髪が綺麗だからお守りにしようかと……”
「~~~~ッッ!!!!!???」
「突入ッッッ!!!!」
響く銃声。
なだれ込んでくるヴァルキューレの部隊。
私は取り押さえられ、もみくちゃにされていく。
でも、この手にお守りだけは……!
-屋台・夜-
「…………とりあえず、容疑が晴れてよかったですね。先生」
“……ありがとうカンナ”
少し皮肉を込めて私がそう言うと、先生は乾いた笑いを浮かべていた。
一度は突入し逮捕したが、被害者?が庇ったこともあり、先生の容疑は無事に晴れることとなった。ただ、ショックだったのか、先生は手元と地面を見ながらうっすらと涙を流していた。
ゆらゆらと揺れる湯気の中。器に入っていた煮卵を頬張る。
ほろほろと中身の黄身が崩れて、そこにレンゲで掬ったダシを流し込むと言い塩梅に混ざり合う。そして、そこへウーロン茶を……
「ぷはぁ」
“良い飲みっぷりだね”
「もうオフですから。……そうだ、「一応」容疑は晴れましたので監視カメラとマイクは撤去しました。ただ……」
“ただ?”
「……今回の件と全く関係のない盗聴器とカメラが全部で25台ほど見つかりました」
“え?”
とコップを持ったまま固まる先生。この反応は……白だろう。
「……先生が望まれるのであれば公安局側で犯人を探し出してみせますが、いかがされますか?」
“…………えっと、いくつか心当たりがあるから捜査は良いかな”
「そうですか……ですが、何か助けが必要であればいつでもご連絡ください」
“ありがとう。頼りになるね、カンナは”
先生にそう言われ、くちゅくちゅとダシのよく染みたちくわを噛み締めながら勢いよくウーロン茶を流し込む。耳が熱い。
「先生、今日の生徒たちとの交流をみていたら……誤解を受けるのもやむなしかと思われます」
あの後も先生の執務室には訪れる生徒が後を絶たなかった。
ご奉仕させろとせがみに来たメイド、執務室を休憩所代わりにしているサボり魔、私ともあっち向いてホイすべきと窓から乗り込んできたアビドスの生徒……。
「先生も大変ではないですか?たくさんの生徒に頼りにされるというのは……」
“全然そんなことないよ。みんなと居ると楽しいからね”
「……そうですか」
迷うこともなく即答した先生の言葉に自然と笑みがこぼれてしまう。
少し行き過ぎたコミュニケーションもあったように思うが、誰一人として、嫌そうにしていた生徒は居なかったのだ。
みんな先生が大好きで、楽しくて、構ってほしいから遊びに来ている。
先生はその生徒が一番喜ぶ対応を、けれど時には大人として一線を引いた対応を……そう心がけていたように思う。
……監視するまでもなくわかっていたことだ。
だから、この監視は完全に儀式的なものだった。それでも私は…………
先生のことがもっと知りたかった。
「先生」
“うん?”
言えばやってくれるのでしょうか。
他の生徒にやっていたような……
「…………い、いえ」
私は自分を誤魔化すようにして、コップの杯を傾ける。
他の生徒たちが……羨ましくないと言ったら嘘になる。けれど、「狂犬」と呼ばれる自分のガラではない……
“カンナも良かったらいつでも遊びに来てね”
「はい?」
“いや、別にこうして一緒に居るだけでも良いんだけど……”
“私も、もっとカンナのことが知りたいからね”
「ッ!……は、ハハハハッ!!」
全く、この人には……叶わないな……
「おかしなことをしたら、一生逮捕してしまいますからね?……先生」
そうして笑う私と先生。
キンとコップをかち合わせ。
春の提灯は、まだ燈ったばかりだった。