6月21日 放課後 メメントス
真へ怪盗団の説明をする為メメントスへ来た。シンは約束があるので遅れるらしいが、その間に俺たちとシンの関係を説明している。
「……シンが貴方たちに手を貸す事になった経緯はわかった。けど、肝心のシンの事は、彼が、その……悪魔?って事以外何もわからないわね」
「そうなんだよね。私たちも気にはなってるんだけど……」
「そもそもシンが人間じゃねえってどこで知ったんだよ?」
「夢の中で鼻の長い老人が……」
「夢かよ!んで誰だよ!」
「直接聞いても、あんまり話したくなさそうなんだ。肝心な事は教えてくれない」
「シンが俺たちに手を貸す理由は『帰る手がかりを探すため』だったな。だが、普通に帰るだけならいくらでも帰りようはある。ならば、帰る場所は少なくとも普通には行けない場所と言う事だ」
「忍者の隠れ里とかか?」
「漫画か。それにそんなの、私たちに協力したって何にもならないでしょ」
「私たちが手がかりになるかもしれない……。普通に考えれば、異世界関係よね。しかも、彼自身は自分がどこから来たのか覚えている節がある」
「モナみたいに異世界から来た?」
「なるほど……その可能性はあるな。産まれた時からこんな環境にいれば、あんな強さにもなろうというものだ」
「ううん、それも違うと思う。小さい頃に良くした遊びとか、どんな本が好きだったっていう話を聞いたから」
「現実で育ったのに異世界に帰りたい?どういう事だよ」
行き詰まってみんな黙り込んでしまった。
これ以上は材料がない。
「もうひとついいかしら。シンの力はペルソナなの?」
「……いや、あれはペルソナじゃないな。それっぽい匂いはするが……どちらかといえばシャドウに近い」
「シャドウに……」
「それも謎だな。どこであの力を手にしたのか……」
今は考えてもわからない。先にミッションを済ませよう。
メメントス 節制奪われし路 ???
怪チャンのミッションを消化した。メメントスの深度が増すほどシャドウは力を増しているが、俺たちも順調に強くなっているようだ。
「力の差が実感できる戦いだったわね。この後はどうするの?」
「一度戻ろう」
「うむ。じゃあワガハイの中に……。あれ?」
「どうしたモナ?」
「オマエら、アレを見ろ。入ってきた入口が……閉じちまってる」
「は!?嘘だろ!?」
入口を確認すると、確かに閉じてしまっていた。渦状のくぼみになった入口はもう開く気配がない。
「おいおい……ちょっと目を離しただけで閉じんのかよ。どうすんだ?」
「そんな事これまで一度もなかったのに……仕方ない。先に進もう。どこに繋がってるかわからんが、ここにいても状況が好転することはない筈だ」
モルガナカーに乗り込んで出発する。次は真が運転してみたいと言うので任せる事にした。しばらく走らせるが出口は見当たらない。だが、今回は死神もシャドウも見当たらないから楽でいい。
メメントスで妙な場所を走っていると、シンと出会った時の事を思い出す。あの時は刈り取る者に追われ続けて、大変だった。
ふと、この前見た夢の事を思い出した。金髪の老人……。新たな協力者、と言っていた。
そういえば、シンと出会った時もこんな状況だった気がする。突然迷い込んだ、シャドウが出現しない静かなメメントス……。
「……ん?おい待て、何か聞こえないか?」
祐介の指摘に、真は一旦停車しエンジンを切る。耳を澄ますと、確かに何か……人の声が聞こえるような気がしないでもない。
反響したエンジン音だったとしてもおかしくはないが……。
「向こうの方からだが……大分遠くからだな。もう少し近づいて見ないと判別がつかん」
「こんな所で、人の声?」
「……クイーン、顔めっちゃ青くなってるけど」
「運転代わろうか」
運転手を交代し音の発信源へと向かう。近づくにつれ、確かにはっきりと人の声だとわかった。
だが、この声は何処かで聞いた事がある気がする。というか、ほとんど毎日聞いているような……。
「……惣治郎?」
「え……?でも、確かに言われてみれば……」
「惣治郎って、誰のこと?」
「蓮が居候している喫茶店のマスターだ。当然ペルソナ能力は持っていない」
「何だかわかんねえけど、早く助けないとやべぇんじゃねぇか!?」
「ああ、早く…」
「待てオマエら!どう考えたって怪しいだろ!?」
「本物だったらどうすんだよ!」
「待ってよ!この声、なんて言ってるの?」
話し合っている間にも惣治郎の声は聞こえ続けている。その声は、確かに助けを求める声だった。
「ほら、聞こえてんだろ!仮に罠でも行くしかねえ!」
「……ったく、しょうがねえな!ワガハイもご主人には恩がある。行くぞオマエら!」
「……確か、この辺りだったわよね。声がしてたの」
「その筈だ。何も見当たらないが……やはり、シャドウのイタズラか?」
「どうだかな。にしても、なんだか生臭い……待て。ここでシャドウが倒された後の匂いがする。ついさっきだな」
「なんだと?」
「誰か居たって事か?そいつがどこに行ったのか……おわあぁああ!」
辺りを歩き回っていた竜司が唐突に悲鳴をあげる。よく見えないが何か見つけた様だ。
「どうした、スカル!」
「血……血が……」
竜司が腰を抜かしたまま指を指した床を見ると、まだ乾いていない血が大量に張り付いていた。しかも、よく見るとそこら中に細かい血痕が散っている。一人でこの量を出血したとすると、もう一刻の猶予もない。
最悪の想像が頭を過ぎった。
「こ……この血は……まさか……」
「落ち着けジョーカー!血痕は向こうに続いている、少なくともここでシャドウを倒した奴は生きてるって事だ!急いで後を追うぞ!」
「……ああ、急ごう!」
「ジョーカー大変!」
「どうした!」
「クイーンが血を見て気絶してる!」
「弱っ!」
「早く積み込め!」
惣治郎の声はもう聞こえない。地面に落ちた血痕を見つける度不安は募る。惣治郎がメメントスに迷い込む……。絶対にないとは言いきれない。俺たちのきっかけだってカモシダパレスに迷い込んだ事だ。
アクセルを踏みしめて長い直線をとばしていると、不意に小さな影がライトに照らされた。
「ジョーカー!あれ……」
「……猫?」
目の前に現れたのは綺麗な緑色の瞳をした黒猫だった。一見外傷はないようだが、足取りは右へ左へふらついている。
猫は、慌てて車から降りる俺たちに気づいたようだが、逃げる様子はない。鳴こうとしたのか、僅かに口を開けたその瞬間倒れ込んでしまった。
「猫!」
気を失った猫を抱きかかえる。シャドウじゃない。こんな所まで迷い込んで来たのか?いや、あるいは……。
「危ないっ!」
剣戟。顔を上げると、俺に向かって振るわれた刀を祐介が受け太刀していた。金属が擦れる音が響く。俺が下がると同時に祐介は硬直を振り払った。
しかし、また直ぐに激しい打ち合いが始まる。
「ッ……!」
「やる気か!」
「手伝うぜ!」
襲撃者は竜司と祐介を相手に、刀一本で全て受け流し機を伺っている。前のめりになり過ぎれば恐らく仕留められる。
鋭い動きに力強い剣閃。明らかに強い。……が、追えない速さじゃない。俺たちなら充分対応出来るはずだ。
襲撃者は、学生帽を目深に被り、学生服に外套を羽織った黒ずくめの少年。マントの内側で金属製のベルトが鈍い光沢を返している。
得物は刀。……見えにくいが、腰に拳銃。
道が狭くて全員一度にはかかれないが、危なくなったら安全に後ろに下がれる。じっくり相手をしよう。
黒猫を真に預け前線に出る。
「突っ込みすぎるな!カウンターを狙ってる!」
「おうよ!」
「フォックス了解!」
「りょーかい!」
「動き止めるぜ!」
祐介と切り結ぶ少年に、竜司が側面から射撃する。後ろに下がった少年の逃げ道を杏がアギラオで塞ぎ、俺が逆サイドから挟撃。
凌がれるが、竜司と祐介も別方向から再度詰めている。このまま押し切れる!
三人で決めにかかった瞬間、少年は外套を大きく翻した。一瞬視界を遮られたが、逃げ道はない。
しかし、外套の中に手応えはなかった。
「な……っ!」
「下!マント脱いでる!」
杏の声で視線を下に向けるが、もう遅い。屈んだ少年は収め直した刀に手をかける。
「シキオウジ!」
一閃。いや、三閃。峰打ちだったが、咄嗟にペルソナを付け替えた俺以外の二人はカウンターの直撃を受けて戦闘不能に陥った。
状況は不利。作戦を考えつつ少年を睨んだ俺は、自分の目を疑う光景を目にした。
「ジョーカー見ろ!なんだあの傷は……!」
服の色も相まって分かりにくかったが、外套を脱いだ今ならはっきり見えた。右脇腹に貫かれたような穴。そこから大量に出血しズボンと靴を濡らしている。
今更ながら、よく見ると呼吸は乱れ足にも力が入っていない。敵に弱みを見せまいと必死に庇っていたのか。
傷の大きさに動揺していると、少年が力の篭った声で呟いた。
「ゴウトを……ゴウトを、離せ……!」
少年の目は虚ろだ。あの出血量では当然だろう。もしかすると、最初からほとんど意識がなかったのかもしれない。
すぐにでも制圧して治療しなければ……。
「下がっててくれ。俺が止める」
後ろの三人を制止する。一騎討ちだ。
少年は、左手で剣先に軽く触れ、狙いを定めて突進してくる。俺のペルソナはシキオウジのまま。物理攻撃は通用しない。
タイミングを合わせた突進で強引に気絶させてしまおう。
―――ここだ!
攻撃を受ける瞬間、剣先から言い様のない悪寒が走った。
反射的にナイフで刀を跳ね除ける。俺の左胸にくい込んだ剣先は、肩口の方向へ逸れ浅くない刀傷を残した。
ぐっと痛みを堪え返しの刀を受け止める。鍔迫り合いへ持ち込み必死で押さえ込んでいるが、力では勝てなさそうだ。このまま押し切られるのも時間の問題だろう。
どうするか、と考えていると、突如として手応えがなくなり、少年はその場へと崩れ落ちた。
「……。シン……」
倒れる直前、か細い声だったが俺は聞き逃さなかった。確かに今、この少年はシンの名を呟いた。
「おい、大丈夫かよみんな!」
「俺は平気だ。早く、こいつに回復を……」
「馬鹿、オマエもだよ!それに、こいつのこの出血はワガハイの回復魔法じゃ間に合わん!急いで病院へ運ばないと……」
「運転は私がするわ!早く乗って!」
「出口はもうわかってる!ワガハイの言う方に進んでくれ!」