ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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15.葛葉ライドウ 現世ニテ就職ス。

6月30日 放課後 メメントス

 

「そこだっ!」

 

「……ちっ!」

 

 

メメントスでシンを相手にトレーニングをしている。しかし、今日のシンはどうにも様子がおかしい。普段は取りこぼさないはずの攻撃が、時折肌を掠めているのだ。

 

 

 

「ジョーカー!『タルカジャ』だ!ぶちかませ!」

 

「セタンタ!『チャージ』!『大切断』!」

 

「くっ……」

 

 

シンのガードの上から渾身の一撃を叩きつける。やはり、シンの動きには精彩がない。理由は分からないが、どうにも集中出来ていないようで、全体的なタイミングがいつもより雑になっている。

それでも動作の一つ一つは鋭いのだが、リズムの乱れた単調な動きは読みやすく、また崩しやすかった。

 

 

「カルメン!『アギラオ』!」

 

 

ガードで動きの止まったシンに火球が直撃。さして効いてはいないようだが、肩で息をしているし、明らかに疲れている。

ここ数日で何かあったのか……?

 

 

「……ライドウ、代われ。俺は……少し休む」

 

 

そう告げるとシンはどっかりと壁際に腰を下ろしてしまった。ライドウは少し気遣わしげに目を向けたが、直ぐにこちらを向いた。

 

 

「ふむ……。とりあえず、四人は一度休憩だ。その間、見学していたフォックスとクイーンの二人を指導しよう。うぬらはまだ一際経験が浅いのであろうし、ライドウと得物が同じ事から教えられる事も多かろう」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

6月30日 夜 ルブラン

 

現実へ戻り解散後、ルブランへ帰るとテーブル席に座る黒い外套を着た客が目に入った。隣には黒い猫が丸くなっているし、何よりあんな格好、他ではそうそう見かけない。

 

 

「ただいま……。って、ライドウじゃねえか。解散したばかりなのにどうしたんだ?蓮、話しかけてみようぜ」

 

「帰ったか。知り合いだってな。飯、まだだって言うから出してやんな。お前が用意すんなら金はいらねえからよ」

 

「うん。ありがとう」

 

「あいよ」

 

 

 

 

「……で、何の用?」

 

 

カレーを食べ終えたところで、こちらから話を切り出す。みんなのいない所で話すということは内密な話だろうか。

……が、ゴウトはのんびり顔を洗っている。どうやら、特段緊迫した話では無さそうだ。

 

 

「特に用事があったわけではない。我らもやはり、しばらくこの世界にいる事になりそうなのでな。長く付き合いそうな相手と親交を深めに来たのだ」

 

「それは願ったり。それなら、コーヒーでも飲みながら少し話そうか」

 

 

食器を片付け、コーヒーの準備を進める。せっかくルブランを尋ねてもらったなら、コーヒーは出さねばならない。まだ惣治郎の様に美味くは入れられないが、基本ぐらいは身につけられたつもりだ。

ゴウトは飲めるのか不安になったが平気だと言うので、片方は少し冷まして二人の前にカップを並べた。

 

 

「ほう……いい香りだな。美味いか?ライドウ。鳴海の淹れるコーヒーとは大違いか。そうかそうか」

 

「俺もまだ習い始めなんだけど……豆の違いかな」

 

「そう謙遜するな。にしても、日本は随分発展したのだな。我らの時代も西洋の文化が入ってきてそれなりに経ち、進歩とは著しいなと思ったが……」

 

「二人が来たのは大正二十年……昭和五年だから、八十五年前か」

 

「八十五年か。我からすれば短く感じるが、あっという間に変わるものだな。街は煌びやかで、歩いているだけで楽しい」

 

「そんなものかな?」

 

「うむ。……少しこの世界の歴史を調べてもみたが、やはり大正十四年頃までは一致しているようだ。無論、元の世界に戻ってもこの歴史は胸に秘めておくが……願わくば、我らの未来も良いものであって欲しいものだ」

 

 

 

 

「そういえば、二人はどこに住むの?」

 

「シンの家に厄介になる事にした。当然だがあてもないのでな。場所は知っているか?」

 

「いや……」

 

「渋谷駅近くの住宅街だ。まだ一日だが、静かでいい所だ。今度訪ねてみるといい」

 

「へえ。なあ蓮、今度の祝勝会は、みんなでシンの家にでも行ってみるか?」

 

「シンも嫌がりはしないだろう。……ところで、恥を忍んで一つ頼みがあるのだが……」

 

「なに?」

 

「何か、仕事の伝手はないか?この世界では我らに後ろ盾もなく、やはり生活するには金がいる」

 

 

なるほど、本題はこれか。確かにシンには相談できない。だが、切実な問題だ。ここで暮らしていくにあたって色々と先立つ物も必要だろうし、満足に移動も出来ないのは不便極まりない。

しかし、ルブランでバイトを雇う余裕は無さそうだし、戸籍なんてもちろんないだろうし、まともに雇ってもらえるところがあるだろうか?

 

 

「知っての通りライドウは腕がたつ。異世界での仕事を斡旋してくれる組織などは……」

 

「ない。あったとしても、俺は知らない」

 

「では、異世界で金品を稼ぐ事は出来ないか?」

 

「……不可能ではないけど……剥がれてる金属の破片なんかはこっちの世界では消えちゃうからね。僅かに持ち帰れたものを売っても子供の小遣い程度にしかならないし、中々、買い取ってくれるところもない。最終手段かな」

 

 

何とか力になりたいが、少々厳しいものがある。戸籍がなければ確か口座も作れないし、携帯電話の契約も出来なかった筈だ。この世界に永住するわけでもないのに、戸籍を取得するというのも手間がかかる。

であれば、正式な契約ではなく知人に直接雇ってもらう様なやり方しかないが……。

 

 

「多分、働ける場所はかなり限られてくる。戸籍も口座も連絡先もないんじゃね……。まず、普通の会社じゃ雇ってくれない」

 

 

二人は半ばわかっていたようだが、それでもやはり雰囲気を暗くした。

 

 

「やはり厳しいか。となると、異世界で物を漁るしかないな」

 

「待って。要は口座もいらなくて、信用を俺か誰かが負えれば問題ないんだ。もちろんそんな条件滅多にないけど、知り合いにあたれば何か見つかるかもしれない」

 

「それでなんだけど……ライドウさん、何か特技とかない?」

 

「尾行や調査なら我らは得意とするところだ。他には、さっきも言ったが、身体の丈夫さや運動能力は抜群だ。後は、銃器や刀剣に関しても多少の知識はあるし、神道系であれば術式や祝詞も扱える」

 

「うーん……」

 

 

難しいな。岩井のところはどうかと思ったが、あの店もこれ以上雇う余裕は無さそうだし、そもそもライドウの格好は……この世界では目立ち過ぎる。岩井から頼まれる『仕事』には不向きだろう。

吉田はバイトじゃないし、武見も、もう治験は必要なくなった。となると、他に頼れそうなのは川上と大宅か。この二人なら条件に合う雇い主も知っているかもしれないが、果たして知人の知人の知人など雇ってもらえるだろうか……?

 

 

「他には……そうだ、ライドウは意外と料理が得意だ。昨日の夕食もシンからの評判は良かったし、菓子作りも得意なのだ」

 

「料理……料理か。……あ、そうだ。皿洗いとか、接客は?」

 

「人並みには。接客の経験はないが、そんな文句は言えん」

 

 

一つ思い当たった場所がある。まだ雇ってもらえるかはわからないが、あそこなら、頼み込めるかもしれない。

 

 

「……もしもし、大宅さん?」

 

 

 

6月30日 夜 BARにゅぅカマー

 

「よおっ!来たなあっ!後ろの子がここでバイトしたいって子?物好きな野郎もいたもんだなぁ〜。どれどれ、お姉さんに顔を……って、すっげえ!超男前じゃん!ララちゃん、採用!決まりね、決まり!」

 

 

新宿。BARにゅぅカマーに足を踏み入れた途端、怒涛の勢いで言葉を浴びせかけられる。次いで濃厚な酒気。電話をかけた時点でわかっていたが、前回同様すっかり出来上がっているようだ。

覚束無い足取りでライドウへ凭れたかと思えば、今は大興奮でライドウの背中をバシバシと叩いている。

 

 

「アンタが大暴れしてると逃げられるのよ。大人しく飲んでなさい。……さて、いらっしゃい。いっちゃんから話は聞いてるわ。うちでバイトしたい子がいるんだって?」

 

 

ライドウは大宅を慎重にカウンターへ戻すと、改めてララへ頭を下げた。ゴウトは外で待たせているが、まともに意思の疎通を図れるだろうか。

 

 

「葛葉ライドウと申します。歳は、17です。何でもします」

 

 

ライドウは自身の声ではっきり挨拶をしてくれた。ゴウトの声が聞こえない相手にはどうするか不安だったが、この分なら問題なさそうだ。

他に紹介できる所もないし、最後の綱なのは承知の上なのだろう。

 

 

「あら、ほんとにいい男じゃない。今どき珍しく凛々しくて男らしいわね。料理とか皿洗いとかは……出来る?そう。仕事柄酔っ払い相手が多くなるけど……大丈夫なのね」

 

「……あの、少しお願いがありまして」

 

「えっ、携帯と口座が持てない?住所も友達の家?……はは~ん、わかっちゃった。アンタ、そのレトロな服装といい、田舎から家出して来たんでしょ。だからこんなところしか頼れなかったのね。あんまり親御さんに心配かけちゃ駄目よ」

 

「でも、男の子だものねぇ。華やかな東京に憧れて……。アタシにも覚えがあるわ〜、そういうの」

 

「じゃあ、とりあえず採用で。こっちも最近手伝いの子が欲しいところだったし、せっかくの坊やからの紹介だしね。……大丈夫よ、違法な事なんてさせないから」

 

「よっしゃあ!これで毎日イケメンが見れる〜」

 

「こら、あんまり若い子いじめちゃ怒るわよ」

 

「わーかってるって」

 

 

 

 

一通りの話を終え、へべれけな大宅を三人がかりで引き剥がして外へ出る。ビルの軒先ではゴウトが俺たちを待っていたが、しばらく待たせていたから、何処と無くそわそわしているようだった。

 

 

「……おお、戻ったか。して、どうだったのだ?」

 

「無事採用。次の水曜にもう一度来て欲しいって」

 

「真か!うむ、天晴れだライドウ。我は仕事に手を貸せないのは心苦しいが、しっかり励めよ」

 

「蓮、うぬにも世話になった。シンの家に来る目処がたったら、前もって言っておけ。食べ物ぐらいしか用意出来ないが、今度は我らが精一杯のもてなしをしよう」

 

「楽しみにしてる」

 

 

ぼちぼち会話をしながら帰路へつく。二人は渋谷駅で降りていった。

明日には予告状を出して、明後日はとうとう決行日だ。

準備は万端にしておこう。

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