ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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16.明智 吾郎

7月1日 朝 渋谷駅ホーム

 

今日はとうとう予告状を出す日だ。指定の日時にはまだ間があるが、相手が相手だからなるべく早く済ませてしまいたい。

電車を待っている間、ネットニュースを眺めていると、不意に背後から名前を呼ばれた。

 

 

「蓮」

 

「シンか。おはよう」

 

「ああ、おはよう。昨日の話はライドウから聞いた。俺からも礼を言っておく。ありがとう」

 

「大分困ってるようだったしね。偶然アテがあってよかった」

 

「俺個人としては金の事は気にしなくてよかったんだが、気に病まれても困るからな。助かった。……ところで、パレスの攻略はどうなっている?あまり時間の余裕はないだろう」

 

「それも伝えようと思ってたんだ。オタカラまでのルートは確保してある。今日中に予告状を出すつもり」

 

「そうか……。今回は俺も行く。俺も脅しをかけられてる当事者の一人だ」

 

「そう?それは構わないけど、調子はどうなの?昨日は大分悪そうだったし……」

 

「誰に言ってる。やる気になれば何が相手でも敵じゃない」

 

「ならいいんだけど。……そうそう、当たり前だけど基本は俺たちだけでやるつもりだから」

 

「ああ、そうしろ。カネシロは間違いなく守りを固めているだろうが、強敵との戦闘はいい糧になる。ライドウにもそう伝えておこう」

 

 

 

 

同日 昼休み 生徒会室

 

「……ああ、そうだ春。悪いが今日の放課後は行けそうにない。少し用がある」

 

「あら、貴方も?私も生徒会の仕事が忙しくて行けそうにないわ。……そもそも、最近屋上に顔を出せてないけど……」

 

 

昼休みの内に春に断りを入れておく。俺が話を切り出すと真もそれに続いた。

もちろん俺たちの用件は同じだが、怪盗団関連の話に首を突っ込ませる訳にはいかない。適当にはぐらかしておかなければ。

 

 

「マコちゃんはいつも忙しそうよね。目を回しちゃいそう」

 

「そうね、色々問題が立て込んでて。でも、ある程度覚悟していたことだから何とかなってるわ」

 

「どうして生徒会長なんかになろうと思ったんだ?真の成績なら内申は気にしなくていいだろう」

 

「将来の為の経験よ。なった時はただ、模範的な生徒であろう、と思ってただけだったけど……」

 

「最近、やりたいことができたんだ。私、警察に入ろうと思って。大学行って、それから……」

 

「キャリアか。経験と言っても、俺からすれば気が早い気もするが……経験、役立てられそうだな」

 

「そうね。今じゃなって良かったと思ってるわ。……大丈夫、もちろん今のことも疎かにはしないから」

 

「すごいなぁ、将来がちゃんと見えてるのね。私なんて全然決まってないのに」

 

「春は親の会社を継ぐんじゃないのか?」

 

「うん……もちろんそういう道もあるけど、まだどうなるかはわからないの。一応その為の勉強はしておくんだけどね」

 

「そうなのか。それでも、春なら何をしても器用にこなせそうだ」

 

「貴方はどうなの?高校出たあとどうするか、ちゃんと考えてる?」

 

「……何も考えてない」

 

「はぁ……まあ、今の成績を維持しておけば何処でも選べると思うけど……。どんな道を選んでもいいように、勉強はしっかりしておきなさいよね」

 

「頭に留めておこう」

 

 

 

 

7月1日 放課後 学校

 

授業が終わった。蓮たち三人と一匹は少し買い出してから集まると言っていた。ライドウは連絡手段がないが、家に電話をかけゴウトには伝えておいた。問題ないだろう。

 

……真の所にでも行くか。大抵は放課後も生徒会室に居たはずだ。

 

 

 

「真、いるか?」

 

 

生徒会室のドアを開けると、幾人かの生徒たちと書類を弄っていた。知らない顔だが、生徒会のメンバーだろう。学校祭の進行がどうとか書かれた書類と睨めっこしながら、ああだこうだと話し合っている。

真は俺に気づくと、手早く荷物を仕舞い席を立った。

 

 

「あら、来たの?じゃあ行きましょうか。大丈夫、急ぎの仕事は昨日までに済ませてあるから。……じゃ、お疲れ様」

 

 

 

 

 

その日の放課後、奥村 春は平日にしては珍しく、校庭で花壇の手入れをしていた。『珍しく』というのは、最近は平日放課後に屋上の菜園の手入れ、その他の花壇等は休日に、というのがお決まりになっていたからだ。

 

そうなった理由としては、最近出会った『間薙 シン』の存在が大きく影響している。これまで面倒な農作業に付き合ってくれるほどの友人も居なかった春にとって、何だかんだと手伝ってくれる友人というのは居心地が良かった。

最も、彼の本来の目的は落ち着いて読書をする環境が欲しい、というもので、屋上への立ち入りを咎められない為に、という取引の下だが。

とはいえ、手こずっていれば積極的に手を貸してくれるし、最近は何も言わずとも一日作業をして終わる事も増えた。

今日は残念ながら、彼と、最近関わりの増えた『新島 真』の両名が不在なので、休日にこなしている花壇の手入れをするつもりだった。

 

 

「ん……あれ……?」

 

 

倉庫から用具を運び出し、昇降口の前の花壇へ辿り着いた時、校舎から二人の生徒が連れ立って出てくるのが見えた。終業直後ならよく見る光景ではあるが、特に視線を惹かれたのは、それが間薙 シンと新島 真の二人だったから。

昼休みに話をした時には別々の用だと言っていた。生徒会の仕事はもう済んだのだろうか?仄暗い疎外感が胸によぎる。別れの挨拶でも告げようとしたが、心に射した影が邪魔し近づく気になれない。

その場でまごまごとしている間に、二人は気づかず校門を通りすぎていってしまった。

 

口から呆けた溜め息が漏れ出る。何となく二人が去った先を見つめ続けていたが、直ぐに我に返った春は勘繰りを頭と共に振り払う。

きっと、下校のタイミングが被っただけだ。校外で活動することだってあるだろう。

それでも、春は二人の事を頭から振り払えなかった。

 

 

 

 

同日 放課後 ヨン・ジェルマン前

 

伝え聞いたアジトへ向かっていると、パンの焼き上がるいい香りが鼻をくすぐった。匂いの元は正面のパン屋、店名は『ヨン・ジェルマン』。雑誌やテレビで紹介されているのを見た記憶がある。数量限定のメロンパンと、雨の日だけ販売される濡れカツサンドが看板の人気店だったはずだ。

今日は晴れているので濡れカツサンドは売っていないが、ショーケースを眺めると限定メロンパンはまだ残っているようだった。

まだみんなが集まるには早い気がするし、せっかくだから立ち寄ってみるか。

 

それについて口を開こうとした時、真の目が不自然に泳いでいることに気がついた。その理由はわからなかったが、真の見ていた先を見ると、知らない制服を着た、パンを見つめる一人の男子高校生。どことなく顔を知っている気がする。

その男子生徒はしばらくショーケースを見続けていたが、俺の視線に気づいたようで不思議な顔でこちらを向いた。しかし、やはり真の知り合いだったようで、横に立つ真に気がつくとこちらに声をかけてきた。

 

 

「やあ、新島さん。奇遇だね」

 

「……ええ。こんにちは、明智くん」

 

「ふぅん……。少し、雰囲気が変わったかな?お姉さんと何かあった?」

 

「特に何も無いわよ。何か用かしら?」

 

「ただの挨拶さ。……それじゃ、こっちの彼の影響かな」

 

 

そういうと、明智と呼ばれた男はじっくりと俺に目を向けてきた。これまで何度も向けられた、品を定めるような視線。あの男も……氷川からも終始似たような視線を感じていた。野良悪魔からも散々向けられたおかげで慣れてはいるが、好ましくはない。

 

 

「値踏みは済んだか?」

 

「ああ!ごめん、初対面なのに失礼だったね。それじゃ、先ずは自己紹介から」

 

「僕の名前は明智 吾郎。まだ高校生だけど、探偵の真似事で生活させてもらってる。だから、さっきのも悪気はないんだ。職業病みたいなもので」

 

「明智……あの明智 吾郎か。最近名前が売れてるみたいだな」

 

「どうも。それで、君は?」

 

「間薙 シン。秀尽の二年。真とはただの友人だ」

 

「間薙君……一つ下か。不思議な目だ。中々キミみたいな目を見た覚えはない」

 

「珍しいか?」

 

「同年代では中々居ないな。君、戦場帰りだったりする?」

 

「そうだ……と、言ったら?」

 

「まさか!本気にしちゃうからからかわないでよ。……君たちもここのパンを?」

 

「ああ、買うのは初めてだが」

 

「この店のパンは美味しいよ。僕も、忙しくてもたまに食べたくなって買いに来るんだ」

 

「らしいな。忘れていたが、売り切れる前に早く並ぼう」

 

「僕もまだ買ってないんだ。一緒に並んでも?」

 

「好きにすればいい」

 

 

 

 

同日 放課後 連絡通路 雨宮蓮

 

俺たちが買い物を終えアジトに向かっていると、ヨンジェルマンの前に見知った顔が三つ並んでいた。どう接点があるのかわからない組み合わせだ。丁度会計を済ませたところのようで、シンはパンがぎっしり詰まった袋を提げている。

 

 

「おい蓮、あれ……」

 

「シンと真と明智さん?変な組み合わせ」

 

「蓮、確か明智とは関係を結んだばかりだったよな。せっかくだし話しかけて見ようぜ」

 

「ああ。……どういう知り合い?」

 

「あら、蓮。買い物は済んだの?」

 

「やあ、君か。もしかして友達?こんな偶然もあるものなんだね」

 

「明智はどうして?」

 

「新島さんのお姉さんとは仕事で付き合いがあって。顔見知りなんだ」

 

「ふーん」

 

「会ったのは偶然さ。君もここのパンを買いに?」

 

「そういう訳じゃない。この後待ち合わせをしてたんだ」

 

「遊ぶ約束でもしていたのかい?僕も親交を深めさせてもらいたいところだけど、残念ながら今日は用事があって」

 

「間薙君……いや、シン。蓮とはルブランという喫茶店で会うことが多い。タイミングが合えば、君も来てくれると嬉しいな。……それじゃ、また」

 

 

そういうと明智は去っていった。反怪盗派の筆頭として油断出来ない相手だが、このタイミングであったのは偶然だろうか。……考え過ぎか。

 

 

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