ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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18.釣り

時間は少し遡り7月1日 放課後

 

「よし、じゃあ明日の為にライドウさんの服買いに行かなきゃね」

 

「うむ……代金はライドウの給料が出次第返す。悪いが、立て替えておいてくれ」

 

「ああ」

 

「安く買うなら、やっぱ原宿かな。古着の良い店知ってるから、行こっか!」

 

 

 

原宿 古着屋

 

「ライドウさんって背丈はシンと同じぐらいだったよね」

 

「身長はそうだな。手足の長さもそうは変わらなかった筈だが、首や胴回りは大きめの方がいいかもしれない」

 

「そっか、鍛えてるんだもんね。それでもスタイル良いから大抵着こなせそうだけど……好みがわかればなぁ」

 

「私服は見た事がないな。帽子だけはいつも被ってるか」

 

「じゃああの帽子に違和感が出ないように、レトロ風な落ち着いた服がいいかな。ワイシャツにサスペンダーとかも似合うかな?」

 

「マントの下はベルトだらけだしいいんじゃないか?」

 

「あれは封魔管を収納する為でお洒落ではないのだが……」

 

 

 

 

「助かった。服は帰ったら渡しておく」

 

「いいっていいって」

 

「……そうだ、個人的に杏に相談がある」

 

「うん?なに?」

 

「真と春に、いつもの弁当の礼をしたいんだが……。春には何を返せばいいか検討もつかなくてな」

 

「春って、この前のあの娘?よく知らないあたしが選ぶよりシンが選んだ方がいいと思うけど……」

 

「尤もだが、まともな贈り物なんてした事がない。邪魔になるものを渡されても困るだろう」

 

「う〜ん……。普段の会話から探すのか一番なんだけど……じゃあ、駄目な物から消してこうか」

 

「香水やアクセサリー類は?」

 

「バツ。好みとか私服を把握する程の仲なら合わせて贈るのはアリだけど、知ってる?」

 

「知らないな」

 

「服とか化粧品なんかも同様の理由でバツね。花も大きいのは困るかな。小物入れとかはいいと思うけど、最初のプレゼントならもっと単純なものでいいんじゃない?」

 

「そうか……難しいな、贈り物は」

 

「……あ、いい事思いついたんだけど」

 

「なんだ」

 

「今度の花火大会、誘ってみれば?仲良いなら無難な選択肢だと思うよ」

 

「花火大会……祭りか。いいかもしれない。やはり杏に相談して正解だったな」

 

「どういたしまして。あ、私へのお礼はそこのクレープでいいから」

 

「いくらでも食え」

 

 

 

 

7月3日 昼間 生徒会室

 

カネシロ戦から一夜明けた翌朝。図書室へのついでに真に生徒会室に呼び出された俺は、その後金城からの諸々を伝えられていた。

 

 

「あのね、金城から連絡来たの」

 

「あいつはなんだと?」

 

「全部、チャラにするって。写真も全部処分したみたい。それで、その……お姉ちゃんたちが金城を確保したって」

 

「そうか」

 

「反応軽いわね。……消されちゃ困るからって、理由みたい」

 

「賢明だろうな。奴らも警察内部までは手を出せないだろう。これで一連の事件も解決か」

 

「改心、成功したのかな?」

 

「タイミング的にも、したんじゃないか?」

 

「そっか……。報告はそれだけ。ねえ、この後時間ある?」

 

「なんだ?」

 

「今日は休みだし、どこか遊びに行かない?」

 

「構わないが、あまり騒々しいところは行きたくないな」

 

「わかってる。私も最近張り詰めてたから……のんびり出来るところに行きたくて」

 

「のんびりか……そうだ、釣りなんてどうだ?」

 

「釣り?意外ね、釣りなんてするの?」

 

「俺はしないが昨日の夜誘いがあった。蓮と竜司は釣り堀に行ってるらしい。昨日は断ったが、真が良ければ合流するか?」

 

「釣り堀か……。そうね、せっかくだし行こっか」

 

 

 

同日 市ヶ谷 釣り堀

 

釣り堀は、俺が想像していたよりもずっと賑わいをみせていた。こんな都会で釣りなんて中高年ばかりの趣味かと思っていたが、そんな事はなかったようだ。そう歳の変わらなそうな少年やカップル連れもちらほら見え、高そうな釣竿から糸を垂らしている。

とはいえ、やはりボリューム層は休日のサラリーマン風の男性が多く、そんな客層の中で竜司の金髪はド派手に目立っていた。

 

 

「お前の頭は目立つな。見つけやすくて便利だ」

 

「お?なんだ、結局来たのかよ。よー、真も一緒か」

 

「こんにちは。ちょっとのんびりしたくてね。二人がいるって聞いたから」

 

「のんびり、できればいいけど。ほら、後ろの客」

 

「ええ。……こんにちは、川上先生」

 

 

蓮が促すままに、反対に座っている客を見る。真は気がついていたようだが、俺は意識外だったので気が付かなかった。確かに言われてみれば川上だ。くたびれた様子で、かかった魚を無表情でバケツに放り込んでいる。

 

 

「川上?奇遇だな」

 

「もー、君も……?セ・ン・セ・イ!一人一人言わせないでよ。休日だってのに問題児が三人も集まるなんて……」

 

「失敬な。俺の成績でどこが問題児だと?」

 

「キミわかってて言ってるでしょ?態度よ、た・い・ど!何回注意してもタメ口は直す気なさそうだし、授業中も上の空だったり関係ない本読んでたり……」

 

「点数だけは良いから見逃されてるの、わかってる?成績崩れたら直ぐに生徒指導行きよ」

 

「すみません……私からもよく言っておくので」

 

「男子三人は新島さんを見習いなさいよ。でも、君たち全員友達?よくわからない交友関係ね」

 

「……生活指導をしているうちに、話が合って。でも、甘くしたりはしてないですから」

 

「仲良いならよく見てあげてね?特に坂本くん。このままだと進級も怪しいんだから」

 

「うーっす……」

 

 

 

 

「さて……」

 

 

ぼんやりと浮きを眺めながら、引きが来るのを待つ。初めに糸を垂らしてからそれなりに時間も経った筈だが、一向に食いつく気配はない。水中で泳いでいる魚たちは、時折近づいてくるものの、かかりそうなところまで来ては慌てて離れていく。

隣に座っている真にはそれなりにかかっているし、俺たちが来た頃はボウズだった蓮も、コツを掴んだのか中々の大物を釣り上げていた。川上は言わずもがな。竜司ですら全く釣れてないわけではない。

 

 

「……難しいな」

 

 

思わず溜息と共に愚痴が零れる。経験のない釣りで初めから上手くいくとは思っていなかったが、こうもかからないものとは。釣り堀の雰囲気は嫌いじゃないが、待つだけというのは退屈だ。かかりさえすればどんな大物でも釣り上げる自信があるが……。

俺があまりに暇そうにしているのを気遣ったのか、蓮と真が後ろから話しかけてきた。

 

 

「不思議ね。同じようにしてるのにシンだけそんなに釣れないなんて」

 

「んー……理由がわからないでもないけど」

 

「え?何か違うかしら」

 

「よく見てれば。……ほら、ああやって魚が近づくと……」

 

 

浮きの周りには何匹か魚が集まってきていた。いい加減に一匹ぐらい釣らせて欲しい。食い付く様に念じながらじっと魚を見つめると、唐突に踵を返し、焦るようにピュッと逃げてしまった。

 

 

「わかった?」

 

「……わからない。何が違う?」

 

「集中し過ぎて威圧感が凄いことになってる。こっちに向けてるわけじゃないからわかりにくいけど」

 

「そんなにか。あまり言われたことはないが」

 

「私は何も感じなかったけど、後ろにいたのによく気づいたわね」

 

「言われてみれば……」

 

「良い傾向だな。周囲の気配にはどれだけ敏感でも損はしない。少しずつ力のついてきた証だろう」

 

「私もわかるようになるかしら」

 

「そのうちなるんじゃないか?」

 

 

そういえば、逆に俺はその手の感覚が鈍くなってきたような気がする。思えばこの世界に来て以来、危うさを感じる戦闘など一度もなかった。これだけ戦いから遠ざかっていれば当然かもしれない。

ルシファーは一体俺に何をさせたいのだろう。こんな生温い世界で、強くなる為の何かが本当に見つかるのか?

 

 

「お……シン!竿、竿!」

 

 

竜司の呼びかけにはっと気がついて竿を見る。浮きは確かに、不規則に揺れ動いていた。

 

 

「逃がすか!」

 

 

竿や糸が壊れないように気をつけながら、慎重にリールを巻いていく。食い付きさえすればすぐに釣り上げられるつもりでいたが、引く力が強い。腕力で負けることはなくても、道具が壊される可能性はある。予想外の要素で苦戦を強いられているが、せっかくのヒットだ。絶対に逃すわけにはいかない。

 

 

「頑張って!あとちょっとよ!」

 

「よし……!……釣れた!」

 

「おお……今日一の大きさじゃねえか!」

 

 

時間はかかったがようやく釣り上げられた。種類はわからないが、俺の腕の長さほどもある大物だ。二人と話をしていたおかげで、良い感じに気が逸れて魚を気にしないで済んだ。それにしても大物だ。この世界で一番苦戦した戦いだったかもしれない。

バケツにも入り切らない魚をどうしようかと思っていると、釣り堀の店主が近づいて来る。

 

 

「へえ!その釣竿でそいつを釣り上げるか。やるなぁ兄ちゃん」

 

「ほんと、楽しそうでいいわね。間薙くんのイメージちょっと変わったわ。もっと全部つまらないとか考えてそうに思ってたけど」

 

「そんな風に見えていたのか?」

 

「君全然自分のこと話さないし……。お、デカい」

 

 

川上の竿が凄い勢いでしなる。水面で暴れている様子で、既に超大物な事が丸分かりだ。腕力の差で多少手こずっていたが、俺に比べれば非常にあっさりと、川上はその大物を釣り上げてみせた。

 

 

「こ、こりゃ……ヌシだ!ヌシが釣れたぞ!」

 

「デ……デケェ……比べもんになんねえ……」

 

「あ〜……なんか、ごめん……」

 

 

 

 

あれからしばらく釣りを続けていたが、目立った当たりは結局あの一匹だけだった。まあ、小魚が多少釣れたから少しはコツを掴めただろうか。

蓮たちは俺たちより早く来ていたから、もう時間が来てしまったようで帰り支度を始めている。俺と真はまだ少し残っているが……。

 

 

「真、どうする?」

 

「そうね……私たちも帰りましょうか。日も暮れ始めてるし」

 

「よし」

 

「今日は楽しかったわ。ありがとう」

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