ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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19.勉強会

7月5日 放課後 屋上

 

今日はなんだか、春の様子がおかしい。話しかけても気の抜けたような相槌しか返ってこないし、昼休みなんて米を服にこぼしたまま気づいていなかった。俺と真の顔を交互に見ては僅かに瞳を揺らして、取り繕うように弁当を口に運んでいた。

態度も何となくよそよそしい。前回別れた時は普通だったので身に覚えはないのだが、何かしてしまったか?

春と目を合わせるとほんのり視線を逸らされ、土いじりに夢中なフリをしてるみたいだ。気にはなるが、言いたくないのなら無理に聞こうとは思わない。こっちからの話を済ませてしまおう。

 

 

「なあ、ちょっと話があるんだが」

 

「な、何?」

 

「今度の花火大会、一緒に行かないか?いつも弁当を世話になっているし、礼としてその日は俺に出させて欲しい」

 

「えっ……。それって、シンくんと、二人で?」

 

「俺はどっちでもいいが……嫌なら真も呼ぶか?」

 

「う、ううん!私はいいの!二人で!あ、でも……」

 

 

春はそういうと携帯で何かを確認し始めた。少し困ったような表情で考え事をしている。先約があったり、都合が悪かっただろうか。

 

 

「ダメか?都合が悪ければ別の日でも……」

 

「う、ううん!行く!」

 

「平気なのか?」

 

「大丈夫。全然、なんでもないから」

 

「なら、何も言わないが……」

 

「ほんとに平気よ。お祭り、楽しみにしてるね」

 

 

春はすっかりいつもの調子で、むしろ上機嫌で、また土をいじり始めた。いつも通りに戻ったのなら良かったが、結局理由はわからず終いだ。済んだ事をわざわざ追求しないが、少し釈然としない。

まあ、無事に約束を取り付けられたからよしとするか。

 

 

 

7月9日 昼間 アジト

 

カネシロが無事に自白をしたそうだ。昨夜はその件でだろうか、渋谷の繁華街では一晩中パトカーのサイレンがうるさく、俺の家の方にまで音が届いていた。

朝の登校中や学校でも、あちこちから噂が聞こえてきた。怪盗団の話題も多く、世間に正義を示す、という目的は粗方達成されたということだ。

 

これで蓮たちも一安心だろう。どうとでもなる俺とは違って、こいつらにはこの世界しかないからな。いざとなれば動くつもりだったが、不確実な方法しか取れそうになかった。俺も胸を撫で下ろす思いだ。

 

集合がかかったのでライドウも連れアジトに来たのだが、真の姿だけがない。まだ来ていないのか?

 

 

「来たぜ来たぜ、カネシロの自白!警察からの発表でえれぇ騒ぎになってんじゃねーか!」

 

「警察の手柄になっているのが、納得いかんな」

 

「でもネットじゃ完全に怪盗フィーバーだよ、見てみ?」

 

「一気にきたな!」

 

「手のひら返しというやつだな。『実は信じてた』『応援してた』ってな」

 

「真が『目立つ場所に貼れ』って言ったの、こういうことだったんだね」

 

「流石の頭脳プレーってやつだな。……で、その肝心の会長サマはどこいった?」

 

 

誰かの携帯に着信が入る。俺のではないな。……蓮の様だ。微かに漏れる声には聞き覚えがあったので、誰からの電話かはすぐに察せられた。

 

 

『もしもし?私だけど。ごめんなさい、今日行けなくなっちゃって。急に校長先生から呼び出されたの』

 

『でも大丈夫だから。こっちのことは心配要らない。それより、テレビで怪盗特集やってたわね!』

 

「え、ちょっと詳しく!」

 

『予告状のビラが取り上げられてたの』

 

「マジで!?」

 

『とりあえず、今日はごめんなさい。また今度』

 

「真はなんだと?」

 

「真。校長からの呼び出しで行けなくなったって。あと、怪盗団のビラがテレビで取り上げられたらしい」

 

「うむ、そのニュース番組なら家で見たぞ。予告文とマークまでバッチリ放送されていた」

 

「まじかよ、すげえな!」

 

「しかし、この騒ぎ……。警察に目をつけられなければいいが」

 

「余裕だろ!あんな世界、誰も突き止められるわけねえ」

 

「本当にそうか?異世界の存在に偶然関わる事例も多い。うぬらの様にな。そういった人物が善人である保証などどこにもないのだ」

 

「それだけでは無い。秘匿されていても、間違いなく異世界の専門家や研究機関は存在しているだろう。そういった組織は体制側とも協力関係にある事が多く、何処まで把握しているかわからぬが、いつ察知されるやも知れぬぞ。……我等も多分に漏れず、であるしな」

 

「ほんとにそんな組織があんのか?それならどうして金城みてえな悪党がのさばってんだよ。表に出てなかった鴨志田や斑目はともかく、あいつは全力で捜査されてたんだろ?」

 

「あたしらに解決できて、専門にしてる大人に解決できないなんて事あるかな?」

 

「キーワードがわからなかったのかもしれん。そもそも、俺たちと侵入方法が同じである保証もない。その辺りはいくら考えてもわからない事だろう」

 

「一番気にかけて置くべきなのは、金城が最後に言ってた侵入者のことだと思う」

 

「俺は気にしねえ。あいつの出まかせかもしんねーし」

 

「そうならいいが……」

 

「……いや、俺は、その人は実在してると思う」

 

「なんで?」

 

「斑目も言ってたよね。『黒い仮面の男はいないのか』って。斑目の最後はその男に怯えている様だったし、強い力を持った俺たち以外の侵入者がいるって部分は共通してる」

 

「もちろん全くの偶然な可能性はある。けど、二人が口を揃えて同じようなことを言ったんだ。警戒はしておくべきだと思う」

 

「なるほど。確かに信憑性はありそうだ」

 

「ワガハイも同感だな。今回で大きく目立った分、もし敵対的な相手なら、話題性のある大物は待ち構えられる危険もある。しばらく大物に手を出すのは控えた方がいいかもしれないな」

 

「えぇー、つまんねーの。せっかく怪盗団の人気が高まってんのに、みんなの期待を裏切んのかよ!」

 

「急ぐ必要はないという事だ。最初の鴨志田から数えれば、もう三連勝だろう。騒ぎが一段落するまでは、静かに待てばいい」

 

「だったら、また打ち上げしない?」

 

「おっと、それもそうか。会長サンの歓迎会もセットだな」

 

「ライドウさんとゴウトも一緒にね」

 

「む、我等もか。気を遣わなくてもいいぞ?」

 

「人数多い方が楽しいって。……例のアタッシュ、アレやっぱ結構たけーのな!売っぱらって、パーっと使おうぜ!」

 

「やれやれ……『静かに待つ』って話が、どっかへ飛んでってるな」

 

「じゃあ今回はモルガナ抜き?」

 

「何……言ってんの?静かに、騒げって言ってんだろ?」

 

「あはは、そうこなきゃ。じゃ、真と場所、相談しとくね!」

 

「……あ、もしもし真?言い忘れてた事あってさ!実は……あ……」

 

「どうかしたか?」

 

『あ……聞こえてる?秀尽生は来週から期末試験だからね?目立たないつもりなら、成績が酷くて睨まれるとかは、ホントにやめてね。生徒会長としても、見過ごせません!』

 

『ひとまず大人しく学業に専念して、楽しい事は明けてから。……いいわね?』

 

「うへぁ……」

 

 

 

7月10日 夜 ルブラン

 

店番をしていたら竜司から突然連絡があった。例の件でそっちに行くと言っていたが、何のことだろう?

電話から十数分。ルブランのドアが騒がしく開いたと思ったら、いつものメンバーがぞろぞろと入ってきた。

 

 

「遊びに来てやったぜ」

 

「違うでしょ、テスト勉強!期末試験!」

 

「ハァ……何で私まで……」

 

「俺も何故呼ばれたのかわからない。勉強の必要も特にないんだが」

 

「仲間なら当然だろ?教えてもらわねえと困るし、な?」

 

「勉強……」

 

「気持ちはわかる」

 

「アイツらはほっといて……」

 

「ハァ……前に来た時は聞けなかったんだけど……。ここって何?お店の人とかいないけど……」

 

「ここ、コイツんち。フクザツな事情があってな……」

 

「これ、話していいんだろ?つーか、自分で話せ」

 

 

 

「ひどい……ひどいよ……」

 

「俺も杏も、祐介も似たようなモンだ。こいつほどヘビーじゃねえけどな」

 

「蓮の事情は俺も初めて聞いた。……お前は何も悪くないのに、酷い話だ」

 

「人一倍許せねえ事がある。だからみんな、怪盗やってんだ」

 

「おい、ワガハイを忘れるな」

 

「わーってるよ、みんな仲間だ。つか、真にも許せねえ事とかねえの?改心させたい奴がいるとかさぁ」

 

「……内緒よ」

 

「お、いんのかよ。別に、言やいいのに。つれねえなぁ」

 

「それより、試験勉強する気ないの?」

 

「あまり……」

 

「じゃあ、帰っていいのね?」

 

「そうしよう。飯でも食いに行かないか?」

 

「あ、ウソウソ。勉強、教えてください……」

 

「そういえばライドウさんは?」

 

「バイトだ。ゴウトも」

 

 

 

「ああこの単語、なんだっけ。phobiaだから恐怖症……」

 

「『閉所恐怖症』かな。あんま言わないけどね」

 

「単語や長文は任せて。……文法は苦手だけど」

 

「英語とか勉強しても将来使わねーし」

 

「英語は話せなくても、読めると便利だぞ。和訳されてない本も多いからな。マイナーな言い回しや慣用句は少し面倒だが」

 

「だからぁ、そんなもん読まねえっつの」

 

「シンはどうしてそんなに本が好きなんだ?」

 

「……どうして?どうしてって事もないが、強いて言うなら暇だったから、か?」

 

「なんで疑問形なんだよ」

 

「元々好きだったが、こんなに読むようになったのは割と最近の話だ。他に暇つぶしが手に入らなくてな」

 

「ふーん?」

 

「……それって、シンが元々いた場所で?」

 

「随分食いつくな?まあ、そうだ。手に入れた本は何でも読んだ。教科書や古新聞でも、あったもの全部な。ずっとそんなだったから文字を読むのが癖になっている」

 

「リュージも読んだらどうだ?オマエは日本語もあやしいだろ」

 

「うっせぇ!」

 

「これ、『作者の心情』を答えろって……どうでもよくない?」

 

「無理だ!公式とか覚えらんねえ……なんか上手いカンニング方法ねえかな?」

 

「……ちょっと休憩入れましょ」

 

 

 

『以上、金城容疑者の続報でした。さて、明智さん。この事件、怪盗団の犯行と言われていますが、実際のところ、どうなんでしょう?』

 

『予告状がばら撒かれた経緯もありますし、間違いないと思います………………。…………。

ええ。悪人と何も変わらない。看過できません』

 

『なるほど』

 

「『なるほど』じゃねえよ。なんで俺らが悪者にされるんだよ」

 

「言わせとけばいいって。私たちが正しいってわかってくれる人も増えてきてるんだし」

 

「街歩いてても俺らの噂、耳にする事、多くなったよな?掲示板も盛り上がってるし、もしかして天下取った?」

 

「街のチンピラぐらいで調子に乗るな。デカい口は、もっと大物をやってからにしろ」

 

「また大物やりゃ済む話だろ?最初からそのつもりだったし!」

 

「それが危ないからやめておこうって話を、昨日したんじゃん。少なくとも、私は待つべきだと思う」

 

「ああ。その間に、どんな相手でも問題ないぐらいまで扱いてやるから覚悟しておくんだな」

 

「まあ、それは追々、決めましょう。まずは試験を乗り越えないとね」

 

「さて、休憩おしまい!勉強を……」

 

「そういや、打ち上げ。試験終わったらやるって決めてただろ?」

 

「そうだったわね」

 

「どこ行くよ?目標あったら、勉強はかどる気がするわ」

 

「前はホテルのビュッフェか。それ以来だな」

 

「……ん?ビュッフェだと!?」

 

「どこがいいかな……。ねえ、花火とかどう!?打ち上げ花火大会!今度近くでやるんだって、この前みたよ」

 

「そういやそんな季節だな!」

 

「いいんじゃない?……あ、でもシンは春と行くって言ってたわよね」

 

「は……?花火大会で……浴衣デート?」

 

「毎度毎度やかましいな。もう好きに捉えてくれ」

 

「クソ、なんて羨ましい奴……。こうなったら俺たちも浴衣美人と仲良くなりに行くか!」

 

「ビュッフェも捨てがたいが、夏の美を俺は取る。ただし、宴で飯もくれ」

 

「浴衣?浴衣?」

 

「花火大会、良くね?な?お前もそう思うだろ?」

 

「いい案だと思う」

 

「んじゃ、花火大会で決定!早速時間調べようぜ!」

 

「その前に勉強でしょ?赤点取ったら承知しないからね?」

 

「お、おう……」

 

 

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