ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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2.現実世界

5月7日 渋谷 ハチ公前

 

「これは……」

 

 

人。人。人。街中に溢れた無数の人々。マネカタじゃない。滅んだはずの東京は在りし日の姿を完全に取り戻している。いや、それどころか記憶の中の東京より発展しているような……?

ありえない情報を処理し切れなかった俺の脳は、とにかく自身の状態を確かめる事に働いた。しかし、そこでさらなる衝撃を受けることになる。

足元に目を向けると見慣れたタトゥーはない。思わず項に手を当てると、角もなく皮膚と髪の感触だけがあった。服も、東京受胎が起きたあの日のままに戻っている。

 

どうなっている……?平静を装ってはいるが、かなり混乱しているのが自分でもわかる。今自分の置かれている状況に説明がつけられない。落ち着け。落ち着け……。

 

 

「クソッ!何だったんだよあの野郎!いねぇし!」

 

「落ち着けリュージ。あいつが何者かは分からないが、現実じゃ何も出来ねえんだ」

 

 

聞き覚えのある声がする。高校生程の男女が三人話をしている様だ。仮面越しだった為顔ははっきり見えなかったが、確かにさっきの三人だ。

悪魔の力に近い気配を感じたが、人間だったのか……。

 

 

「おい」

 

「え……。その顔は、さっきの……?」

 

「テメェ、出やがったな!こっちじゃテメェみてえなヒョロいのにはやられねえぞ!」

 

「待て。手荒な真似をした事は謝る。人間だと気づかなかったんだ」

 

「あぁ……?」

 

「勘違いだったと?」

 

「そうだ。すまなかった」

 

「ふむ……敵対の意思がないのは本当みたいだが……」

 

「なんだよ……。ならもういいよ、クソ……」

 

 

どうにか誤解は解けたようだ。……もう行こう。俺にはやる事がある。帰る方法を探さなければ……。

 

 

「俺はもう行く。世話になったから一つ忠告しておいてやる。……お前達はもうあそこには行かない方がいい。弱い奴は無駄死にするだけだ」

 

「な……おい!」

 

 

金髪の男が俺を呼ぶ声が聞こえたが、無視して歩みを進めた。忠告はしてやったし、この後あの人間たちがどうしようが俺には関係のない事だ。俺には俺でやらなければならないことがある。

 

 

 

渋谷 路地裏

 

「……いるんだろう。出てこい」

 

 

ハチ公前を離れてから、視線を感じる。この気配にはボルテクス界で何度も覚えがあった。

人気のないところで声をかけると、喪服の老婆が姿を現す。その気配はどこか刺々しい。

 

 

「どういうつもりだ。最終決戦へ向かうんじゃなかったのか?」

 

「貴方の力量次第で、そうするおつもりでございました。……坊っちゃまは、貴方に酷く落胆しておいでです」

 

「なんだと……?」

 

「今の貴方に成せることは何もないと、坊っちゃまは仰いました。貴方はこの地にて更なる力を手にしなければなりません」

 

「……その為に、俺は何をすればいい」

 

「ご自由に。その方法すらわからないのであれば、最早貴方に用はありません。貴方が力を身につけ坊っちゃまの元へ戻った時……。その時こそ、必ずやご決断為さるでしょう」

 

「話を理解出来たなら、貴方が人であった頃の住所へお行きなさい。貴方がボルテクス界で手にした物と、この世界で差し当たって必要なものは用意しておきました。……精々坊っちゃまの期待を裏切らぬよう……」

 

 

それだけ言い残し老婆は去っていった。俺の力が足りないだと……?釈然としないが、ルシファーとの最後の決戦を覚えていないのも事実。とにかく、手掛かりもない事だし、一度以前の家へ行ってみよう。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 

歩いて以前住んでいた家の住所へと向かう。記憶と違う景色も多かったので無事に辿り着けるか不安だったが、住宅地の中は大した変化もなかったようだ。

 

目の前にあるのは昔に住んでいた頃そのままの家。あの日、家を出た時と何も変わりがない。門を抜け玄関の前に立ってみる。あの世界でどれだけ時間が経ったのか分からないが……よく似た偽物でも懐かしく思う。

中に入ってみる。自分の家はこんな匂いだったか。内装も昔のまま、の筈。人気はない。……当然か。

 

リビングへ進むとテーブルの上に大きな袋が置かれていた。中を覗いてみると、どこかの学校の制服らしい。転入手続きの為のプリントが一緒に入っている。日取りは……明日。

今更、学生に戻れと?馬鹿馬鹿しいと思ったが、現状なんの目処もない。焦る気持ちを抑え、従ってみるのもありかもしれない。

 

身分証、通帳等の貴重品もまとめて置かれていた。そういえばマッカと円のレートを以前聞いたことがある。確か1マッカで約10円。ここへ来る直前の所持金、1000万マッカだと……。

通帳にはレート通りの金額が表記されていた。普通に暮らす分には困る事は無さそうだ。

 

椅子に座って、ふと気づいた。安全に気を緩める場所なんて、一体何時ぶりだろう。そう思うと何だか眠気が出てきた。睡眠の必要なんてないはずなのに。

思えば悪魔になってから、一度も休まる暇はなかった。戦って戦って、戦い続けて、あらゆる者を葬ってきた。目につく限りの、何もかも……。

 

 

 

 

 

5月7日 深夜 ベルベットルーム 雨宮 蓮

 

「イゴール……聞きたい事がある」

 

「察しはつく。お前の様子は覗かせてもらっていた。……あの男とは、深く関わってはならないと言っておこう。もし関われば、お前の身は大きく破滅へと傾く事になる」

 

「…………」

 

「あの男……人修羅は、世界に空いた空洞……。迂闊に近づけば引きずり込まれ、辿るべき道は破滅のみ」

 

「人修羅……?」

 

「そう。奴はただの人では無い。シャドウともまた違った存在。……悪魔だ」

 

「悪魔……」

 

「奴は人として生まれながら、その身も心も混沌の魔王ルシファーに明け渡した。一つの世界の滅びと引き換えに力を得、その身を人ならざる悪魔へと堕とした。そして、新たな力を求めてこの世界に足を踏み入れている」

 

 

スケールが大きすぎてよく理解できない……。

 

 

「奴は全ての破滅の化身だ。お前の更生に、やつの存在は必ず邪魔になる。やつには、関わるな」

 

「…………」

 

 

ベルの音が鳴り響く……。

 

 

「……時間だ。お前の選択を見守ろう……」

 

 

 

 

 

5月8日 朝 ルブラン

 

人修羅…悪魔…破滅……。

 

 

「おはよう、蓮。随分遅くまで寝てたじゃねえか」

 

「モルガナ、おはよう。……昨日色々あったから、少し疲れたのかも」

 

「そうだな……。何とか無事に済んだから良かったが……」

 

「ねえ、モルガナはどう思う?昨日最後に言われた事」

 

「無駄死にするってやつか?確かに、シャドウとの戦闘には危険は付き物だ。だが、そんなもんにビビってちゃ怪盗はやれねーぜ。改心、続けるんだろ?」

 

「それはそう、だけど……」

 

「なんだよ……もう怖気付いたのか?確かに昨日は危なかったが、気をつけてれば問題ねーって。……それより、今日はリュージとトレーニングする約束してただろ?そろそろ出ないと間に合わないぞ」

 

 

そうだった。急いで着替えて学校へ行こう。

 

 

 

 

 

5月8日 昼 学校中庭

 

「ふぃ〜いい汗かいたぜ。……腹減ったなぁ。飯行こうぜ、飯!」

 

「ちょっと待って……太腿が……」

 

「ちょっと走った程度で情けねーなー。ワガハイの昨日の猛ダッシュを見習えよ」

 

 

トレーニングを終え中庭で休憩していると、川上と渡り廊下を歩く男子生徒が見えた。休日に来ている生徒はほとんどがユニフォームかジャージだから、制服の生徒はあまり見かけない。

 

 

「おい蓮、どこ見てんだ?」

 

 

何だか後ろ姿に見覚えがある……。息を整えながら眺めていると、視線に気づいた男子生徒が軽くこちらに目を向けた。

 

 

「ん……」

 

「え……」

 

「おい……あいつは!」

 

 

人修羅……。どうしてここに?それよりも、制服?

 

 

「お前たちの学校もここだったのか……。そういえば、確かに昨日この制服を着ていたな」

 

「お前……秀尽の生徒だったのかよ。その割には見たことねぇ面だな?」

 

「正確には明日からだ。2年D組に編入する。今は学校の案内を受けていた」

 

「蓮と同じクラスかよ。お前が向こうでどんだけ強くても、こいつに手ぇ出したら許さねえからな」

 

「……覚えておこう」

 

 

話していると、取り残されていた川上がうんざりした様子で話に入ってきた。

 

 

「君たち……。間薙くんと知り合い?なんだか物騒な会話してるけど、お願いだから喧嘩なんてしないでよね。……はぁ…また面倒な生徒かな……」

 

「心配するな。喧嘩にならない」

 

「本当にやめてよね。案内途中だから、早く行かないと」

 

 

川上の言った名前が耳に残った。

 

 

「間薙……」

 

「……そうだ、伝えてなかったな。間薙 シンだ。シンでいい。よろしく」

 

 

シンはそう言って手を差し出す。イゴールの言葉を思い出し一瞬躊躇したが……俺はその手を取った。

 

 

「雨宮 蓮。……よろしく」

 

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