ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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20.花火大会

7月18日 昼間 校門前

 

花火大会当日。蒼山一丁目駅で、と約束をした俺は、人波を外れベンチに座りながら春が来るのを待っていた。周辺には、同じく花火大会へ向かうであろう人々が絶える事無く流れ続け、これは大変そうだ、と今から俺の気を滅入らせる。

道行く人達を眺めしばしぼうっとしていたが、何気なく改札に目を惹かれると、ちょうど春が構内に入ってくるところだった。立ち上がると向こうも俺に気づいた様で、笑顔で手を振っている。

遮る人の波と格闘しながら、ようやく合流することが出来た。

 

 

「おまたせ。ごめんね、混む前に行こうって話だったのに、着付けに手間取っちゃって」

 

「気にするな。……浴衣、良く似合ってる」

 

「……!ありがとう」

 

 

実際に、白地にピンクの花をあしらった浴衣は春によく似合っている。いつもと違って後ろで結んでいる髪も、暑い夏に涼しげでとても綺麗だった。

杏と真から散々褒めるように念押しされたから、というだけじゃないが、どうやら功を奏した様だ。

 

 

 

 

電車の中はぎゅうぎゅう詰めだ。春を端に立たせて、潰されないように俺が壁になる。加減速に合わせて津波の様に揺れ動く重量を受け止める。まあ、俺にすれば何も無いに等しいが……。

 

 

「大丈夫?」

 

「ああ。それより、狭くないか?」

 

「もっとこっちに来ても平気よ。周りも狭そうだし、なるべく空けてあげましょ」

 

「そうか?なら……」

 

 

もう一回り小さくスペースを取る。ほとんど春に覆い被さる状態だが、春に重さは感じさせてないはずだ。

しかし、春はみるみる顔を赤くさせ黙りこくってしまった。

 

 

「………………」

 

「どうした?重いか?」

 

「ち、違うの。気にしないで」

 

「悪いが、少し我慢しててくれ」

 

「うん。……それにしても、凄い人の数ね。普段、電車は使わないから、面食らっちゃったわ。普段の登下校もこんな感じなの?」

 

「春はいつも車だからな。朝の電車は常に満員だから……まあ、大抵こんな感じだ」

 

「そうなんだ。……一緒に通えるなら、電車通学も悪くないかも……」

 

「危険だからやめておけ」

 

 

 

 

駅を出てからも混雑は続いていた。道路脇には少しずつ出店も見え始め、頭上には提灯の列がずっと奥まで続いている。道は進む人、戻る人、並ぶ人に止まる人まで合わさりめちゃめちゃだ。10m先もよく見えない。

急な動きに春が流されかけた瞬間、咄嗟に春の手を握りしめる。表情は遮られて見えなかったが、向こうも握り返してきたので、少なくとも嫌がられはしなかった様だ。

何とか人と人の隙間を掻き分けながら進んでいく。喧騒を抜けて調べておいたスポットに着くのと、最初の花火が打ち上がるのは、ほぼ同時だった。

 

 

「わぁ……!とっても綺麗!」

 

「ああ。花火なんて見るのは久しぶりだ」

 

「あんなに混んでたのに、ここは空いてるわね。花火も綺麗に見えるのに。調べておいてくれたの?」

 

「どうせならいい場所で見たいだろう。大した手間じゃない。大通りからは外れるから、出店は遠いがな」

 

「そんなの……。……あ、それより……手……」

 

「……すまない、咄嗟だったから」

 

「いいの!もう少し、このままで……」

 

 

離そうとした手を強引に強く握られる。まあ、春がいいなら俺は構わないが。

二つ目の大玉が打ち上がる。落ち着いて見られなかった一発目と違い、眼前に大きく広がったそれは、俺たち二人の意識を夏の夜の深いところまで一気に吸い込んだ。

大都会のビルの隙間で、それ以上言葉も交わさずに花火を見ていた。

もう二度と見るかもわからない花火と、それに照らされ鮮やかな世界の中にいる春を、俺は静かに、この世界から切り離された様な気分で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

その時間は、唐突な雨に洗い流された。

 

 

「きゃっ……雨?」

 

 

ぽつりと春の顔に雨粒が落ちる。それを契機に、大粒の雨が俺たちを打ちつけた。黒い雲が急速に広がり、豪雨と共に稲光が走る。……近くで落ちたようだ。強い光と共に身体に響く程の轟音に、春が悲鳴をあげる。

我に返った俺は急いで用意しておいた傘を広げ、大きめのタオルを春に手渡し、近くのビルの軒先へと手を引いた。

 

 

「ありがとう。用意いいのね」

 

「天気予報でもやってたからな……。この勢いじゃすぐにはやみそうにない」

 

「花火大会、中止かなぁ……」

 

「残念だが、多分。……帰るか。また、今度どこかへ行こう」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

同日 夜 コンビニ前 雨宮蓮

 

唐突に降り出した雨に、俺たちはコンビニの軒下へと避難した。人波で移動もままならず、ようやく辿り着いた時には全員服が絞れるほど濡れてしまった。

 

 

「うえぇ……びっちょびちょ」

 

「全くだ。この身体は、濡れても乾くまで待つしかないのが難儀でな」

 

 

ゴウトは身体を震わせながら水滴を弾いている。モルガナはというと、バッグの中までは無事だったようだ。

 

 

「ライドウ、うぬも鞄を使わぬか?なに、両手はなるべく空けておきたい?」

 

「どうだった?この世界の花火は」

 

「見事であったな。あれだけはいつの時代も変わらぬ。中止になったのは残念だったが……」

 

「良かった。……今度、みんなでやろうか。最近は手持ちの花火もあるんだよ」

 

「なんと。素晴らしい。是非やろう」

 

「……待て。あれ、シンじゃないか?」

 

 

祐介の指す先に、傘を差す一組のカップルの姿。男の方の顔は見えないが、傘の下の服にはよく見覚えがあった。

 

 

「ん……?あら、そうね。春も一緒だわ」

 

「呼ぶか。おーい!シン!」

 

 

竜司に呼びかけられた事に気づいたシンは、振り向くと、横の女性の手を引いて道路を渡る。

色恋沙汰には興味無いみたいな顔をしといて、結構積極的じゃないか。

 

 

「傘にタオルまで……。用意がいいね」

 

「ほんと!こいつら何も持ってないんだから」

 

「よお、シン……。どうだ?楽しかったか!?あぁん!?」

 

「楽しかった。そっちは、浴衣美人は捕まえられたか?」

 

「見・りゃ・わかんだろコラテメー!そのうち誰かにぶっ飛ばされんぞ!手まで繋いじゃってよー……」

 

「こんばんは、春。どうだった?」

 

「こんばんは、マコちゃん。とっても楽しかった!……みんな、二人の友達?」

 

「前も一度だけ会ったかしら。……改めて、初めまして。奥村 春と申します」

 

「た、高巻 杏と申します!」

 

「喜多川 祐介だ。よろしく」

 

「俺、坂本 竜司」

 

「雨宮 蓮です。こっちは猫のモルガナ」

 

「猫じゃね……いや、猫か」

 

 

ライドウは無言で力強く頷いた。

 

 

「や、喋れよ」

 

「我はゴウトだ。こやつは探偵見習いの葛葉 ライドウ」

 

「聞こえないでしょ……」

 

「……こっちはシンの昔馴染みの葛葉 ライドウさん。で、飼い猫のゴウト」

 

「わぁ可愛い!二匹とも賢そうな猫ちゃんね」

 

「俺たちはもう帰るつもりだったが、お前たちは?」

 

「あー、こんだけ濡れてちゃどこも行けねえし、帰るか?」

 

「ああ。残念だけど」

 

「今度はみんなで遊びましょ」

 

 

 

 

7月19日 昼休み 昇降口

 

「あ、成績もう出てんじゃん」

 

「ねえねえ、どうだった?」

 

「ヤベェ……オレ、死んだわ……」

 

 

生徒たちが、掲示板に貼りだされた順位表を見てそれぞれ感想を述べている。割と手応えはあったが、どうだろうか……。

 

今回の成績は……学年で十位内に入れた!

 

 

「やるじゃねえか。二学期も頑張ろうぜ」

 

「ねえ、アレ見て!今回の学年一位って……」

 

「おい見ろよ、シンのヤツ学年トップだぞ。すげーなー……。お前も教えてもらうか?」

 

 

 

 

7月20日 放課後 アジト

 

蓮から相談したいことがあると言われたので、連絡通路へと来ている。まだよく聞いていないが、緊急事態らしい。

全員が集まり、蓮が普段使用しているSNSアプリを開く。そこに映し出されたものは、俺にとっても驚かざるを得ない内容だった。

 

 

「『心を盗む』って、バレてるよな、これ?」

 

「みたいね……」

 

「どうしてバレた?」

 

「チャットのログを辿られたのかも……」

 

「迂闊だったな……」

 

「でも、そんなことぐらいでここまで詳細に……?」

 

「要因は別にあるというのか?」

 

「うん、分かんないけど、何となく、そんな気が……」

 

「ねえ、他人のチャットログって簡単に見れたりするの?」

 

「私も、そんなに詳しくないけど……できなくはないんじゃないかな?」

 

「どうやって?」

 

「携帯のデータを抜き取るとか……」

 

「返信しようとしたらエラーってどういう事?」

 

「うーん……送信先が存在しないとか?」

 

「そんなことできるのか?」

 

「全部私に訊かないでよ。詳しくないんだってば」

 

「正規の使い方で無理なら、アプリの運営側ならどうだ?警察の捜査でログを辿ったりもするんだろう」

 

「あれは特定個人相手だからできることなのよ。プライバシーの問題もあるし、大きなアプリだから、運営スタッフでも簡単には見れない様になってるはずだわ」

 

「もし盗み見れたとしても、このアプリを利用している人がどれだけいると思う?膨大なアカウントの中から私たちを見つけ出すなんて……」

 

「おい、それはもしかして、ハッキングというやつじゃないか?」

 

「ってことは、こいつ、ハッカー!?」

 

「ハイテクはワカラン!要するに、どういう事だ?」

 

「正体不明のハッカーがコンタクトしてきたのよ!」

 

「なるほど、よく分からん……」

 

「じゃあ、こいつがメジエドか?」

 

「違うでしょう。『メジエドを片付ける』って言ってるし。言葉を鵜呑みにすれば、だけど」

 

「確かにな……」

 

「素性も何も分からないのよ?信用できないわ」

 

「悪くねえ取引だと思うけどな……」

 

「アリババが悪党でもか?そんな奴に手を貸すのは御免だぞ」

 

「あ、そっか。そりゃダメだな……」

 

「『必要な道具を用意した』ってのも意味不明だぞ」

 

「もしかして、ただのイタズラ?」

 

「イタズラにしては妙に知り過ぎてる」

 

「逆に言えば、異世界などは知られていないという事だな。アカウントから辿られて、スマホのカメラやマイクまで握られている、という訳ではなさそうだ」

 

「正体がバレてるなら、私たち、捕まっちゃったりしない?」

 

「いや、通報したいなら、とっくにしてると思う」

 

「何らかの目的があるに違いない。現に取引を持ちかけてきただろ?必ず向こうから連絡が来るさ」

 

「その連絡が、いつ来るか分からない。もしものとき、すぐ動けるように、今日は一緒にいたほうがいいわ」

 

「そうだね。隠れて長時間待てる場所……」

 

「ルブランは?」

 

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