7月25日 昼間 屋根裏
あの後惣治郎から凡その事情を聞いた俺たちは、翌日、再度話し合う為に集まり直していた。
俺が参加する意味はあまりないが、ここまで関わってしまっては事の顛末が気になるし、双葉についても事情を聞いてさよならじゃバツが悪いだろう。
「双葉のパレス、やるでいいんだよね?」
「本人が望んでるんだもの。気に病む必要はないと思う。双葉の心が治ればマスターも助かるし、メジエド退治も手伝ってもらえる」
「双葉なら侵入者の心配もない」
「俺も賛成だ」
「マスターが昨日語ってた、『双葉に色々あって』っつーのも気になるしな」
「待て、オマエら。パレスの探索だが、今まで通りにはいかないかもしれないぞ?」
「なんで?」
「『本人に頼まれて、心を盗みに入る』なんて、極めてイレギュラーなケースだ。パレスの主がどういう心持ちでいるのか、どういう歪みなのか、見当もつかない」
「予想外の事態が起こる可能性が高い。それでも行くか?」
「行こう」
「わかった。用心しろよ」
「じゃあ、キーワード探すか」
「今、分かっているのは『佐倉 双葉』『佐倉 惣治郎宅』だけね」
「あとは『何』と思ってるかだな?」
「とりあえず、家の前まで行こう」
「マスターは店番だね?変に思われないように、気をつけないと」
「パレスのキーワードは……」
「引きこもりだとしたら家を『何』だと思ってるかだろ?」
「出られないなら『牢屋』じゃね?」
「出口のわからない『迷宮』?」
「うーん……『オアシス』とか?」
「引き返せない……。『塔』はどうだ?」
「ダメだな。だったら逆に『地獄』はどうだ?」
『該当しません』
「手がかりが少なすぎる……」
「直接訊ければいいんだが」
「なら、行こうぜ、双葉んとこ」
「何て言って入れてもらうの?」
「忍び込む」
「本気で?でも、さすがに鍵かけてるんじゃない?」
「鍵開けはワガハイにまかせろ。今回ばかりはやむなしだろう。昨夜の侵入の成果で、フタバの部屋の位置はわかってる」
「マスターに出食わしたら?今度こそ誤魔化しは利かないよ」
「店にいるから大丈夫じゃない?」
「腰が引けてんな、真?俺らは、こんくらい、いくつもくぐり抜けてきたぜ?」
「……それしか、ないのよね」
「いざとなったら気絶させよう」
「やめてくれ」
「双葉は蓮に接触してきたんだし……蓮になら、話してくれるかもしれない……」
「……わかった。行きましょう」
「ここがフタバの部屋だ」
「双葉ちゃん?いるんでしょ?」
「……返事がないな……」
「双葉ちゃん……いる?昨日、びっくりして叫んでごめんなさい。暗くて怖かったから」
「無反応だぞ」
「骨が折れそうだな……」
「聞いてるよね、アリババ?」
返答の代わりに、蓮のスマホからバイブレーションの音がする。
「アリババ?」
『なぜ、来た』
「なんでアリババだと反応すんだよ……」
「貴方、佐倉 双葉でしょ?」
「無反応だな?」
「名前を出されるのがイヤなの?」
「のんびりしてるヒマはねえぞ?アリババの正体より、キーワードが先だ」
「私たち、貴女のことが知りたいの。でないと、心は盗めない。ここに来た理由も、パレスに入るキーワードが必要だったから。そのために、アリババじゃなくて、佐倉 双葉本人と話がしたいんだけど」
「直接顔を見せなくてもいい。チャットでもいいから、答えてほしい」
『わかった』
「じゃあ、私たちのリーダーが……。ルブランの屋根裏に住んでる彼が、貴方と話をしたいって」
「頼んだよ、蓮。キーワードを聞き出して」
蓮はしばらくアリババと会話していたが、とうとうそれらしい言葉を引き出した。
「墓場?」
「まさか、それ?」
「『墓場』で入力してみろ」
『入力を受け付けました。目的地までのルートを検索します』
「きた……!」
『どうした?これでいいのか?』
「ええ、十分よ。貴方の依頼をこなしたら、手を貸してくれる約束、忘れてないわよね?」
『わかってる 取引だ』
「じゃあさっさと行こうぜ。ポチッとな」
「バカ、ここで押すなっ!」
奇妙な浮遊感と共に視界が歪む。やがて、突き刺すような眩しさと埃っぽい風が体を包み、目を開けると、そこは荒涼とした砂漠だった。
『向こう』を彷彿とさせるような雰囲気だが、青い空といい照りつける陽射しの熱さといい、やはり本物?の砂漠は違う。
「砂漠だな……」
「見りゃわかるわ。つうか、あれ?俺ら服まんま?」
「フタバ本人が『盗め』っつってんだ。敵視される方がおかしい。敵視されてないなら服装は変わらん、そういうこと」
「俺とモルガナは元々こっち側だからか、いつも通りだな」
「つか、『用心しろ』って言ったろ!いきなり押すんじゃねえよっ!」
「だから砂漠に飛ばされちまったの?墓場どこ?クソあちいんだけど」
「部屋のど真ん前で侵入したのに……中じゃないんだ?」
「よほど他者を遠ざけたいのかもね」
「なるほど……」
「もし家の外から侵入してたら、どれだけ離れたところに出てたかわからないね」
「お?俺逆にファインプレー?」
「結果オーライなだけだろ……」
「金城の銀行とは正反対の、荒涼とした感じ……」
「さっさと行こうぜ。パレスどこよ?」
「あっちか?」
「あ、キラキラしてんな?」
「砂漠の墓……なるほど。とにかく、あそこに向かいましょう」
「遠くない?」
「歩くの!?」
「まさか!肉球ヤケドするわ!」
モルガナが車へと姿を変える。こんなに目の細かい砂で走り出せるのか?
「待ってました」
「冷房ガンガン効かせとくぜ!」
「気が利くじゃん!」
「へへ、ま、まあな……」
「最初だけ後ろから押してスピードをつけてやる。道中は屋根の上に乗らせてもらうぞ」
「よっしゃ!出発だ!」
大きな砂埃を巻き上げながら、モルガナカーは進んでいく。屋根の上で座っている俺は風で巻き上がる砂埃をまともに浴び、髪の毛に砂が絡んで非常に埃っぽい。
黒い車体は尚更熱を吸収し、余裕で肉に火を通せる温度だろう。まともな身体なら大火傷だ。車内もクーラーがついているとはいえ、この気温じゃ暑い事には変わりないだろうし、こういう時はこの身体も便利だな。
途中、謎に車の挙動が狂い振り落とされそうになった。中でなにかあったらしいが、少しは上に乗っている人の事も考えてほしいものだ。
「あっつ……」
「エアコン全然効いてねえじゃん!なんだよ、あの生温い風は!」
「あれが限界なんだよ、文句言うな!」
「ったくほんと半端だな!」
「ああ?やるのか?」
「もう、うるさい!暑いんだからイライラさせないで!」
「まさかパレスがピラミッドとはね……」
俺たちの前に聳え立つ巨大なピラミッド。実物を見たことはないが、写真や映像で観たものよりは劣化が少ないというのか、綺麗な造りだ。
入口周辺の柱には、知らない文字が描き連ねられている。これも実際にある文字なのだろうか?
「なあ、ピラミッドって墓なんだろ?」
「王墓だな」
「それが有名だけど、諸説あるわ」
「死者の復活装置、なんて言われてたりもするし」
「死者の復活、ねえ……」
「昨日の双葉についての話を聞いたあとだと、少し思うところがあるな」
「あ……なるほど……」
「それにしても美しい……。黄金比……完璧だ……」
「おい、聞いてねえぞコイツ……」
「つかさ、もう、入らねえ?溶ける……」
「うお、中、涼しーッ!なんだこれ、冷房でもあんのか!?」
「現実の双葉の部屋に、冷房が効いてるせいかも。とにかく、助かったわね……」
「ピラミッドの中は実際涼しいらしいぞ。巨大な石造りの建物だからな」
「てか、中に入っても服が変わんない。こんなの初めて」
「警戒されてないのはいいが……周りを見ろ。いきなり四方全部壁だ」
「ま、墓だしな……入り易くはなってないだろう。辺りを探ってみようぜ」
「……待て。お前ら、その姿で同じように動けるのか?」
「んー……大丈夫そう。姿は変わらないのにペルソナ出せるのって、変な感じ」
「怪盗服は敵意や攻撃を防ぐ為のものだからな。ペルソナ自体は異世界なら好きに使える」
「そういうものか」
双葉のシャドウと話していたら突然全員の服が変わる。理由はわからないが警戒されたようだ。
階段の上から転がり落ちてきた大玉。破壊することも考えたが、メメントスの壁が壊せなかった事を考えて大人しく逃げる。大玉は何とか横に隠れた俺たちを飛び越し、崩れた穴に落ちてようやく動きを止めた。
「助かった……間一髪ね」
「何!?何なわけ!?」
「事情を訊こうにも扉を閉じられた様だな。どうする、行ってみるか?」
「いや、ここは一旦退いた方がいい。思ったより単純じゃなさそうだ。ちゃんと準備してから来ないか?」
「同じことを考えていた」
「そうね。一旦撤退して、後日しっかり準備してからパレスに入り直しましょう」