ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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23.特訓・新スキル

7月26日 昼間 メメントス

 

「よし。それじゃ蓮、お前からでいいんだな?」

 

「ああ。いつでもいける」

 

 

双葉のパレスを攻略する前に戦力を補強しておく事にした。昨日脱出する前気づいたが、パレスの奥には強力な気配が多く、罠だらけの中戦闘するには不安が残る。少しでも手札は増やしておきたい。

ライドウさんとスパーリングしているみんなの邪魔をしないように、俺とシンは少し距離をとる。

 

 

「色々考えたが、お前に合うスキルは……これだ」

 

 

シンが魔力を放つと、周囲の景色が突然、過剰なまでに鮮やかな原色に塗りたくられる。その色たちは壁や床に天井をうねり回り、俺から感覚を奪っていく。

距離感が掴めない。自分の姿勢を認識できない。足元が覚束無い。

踊りくねる色に掻き混ぜられる風景と、落ちるような浮遊感。強烈な吐き気が全身を支配し、思わずその場に屈んだところでそのスキルは解除された。

 

 

「大丈夫か?少し刺激が強かったか」

 

「いや……。……大丈夫」

 

「続けるぞ。このスキルの名前は『原色の舞踏』。効果はお前が体感した通りだ」

 

「周囲の空間に、距離感と平衡感覚を乱す幻覚空間を発生させる。更に、精神耐性のない相手に対し強力な精神汚染効果。最大射程も広く、複数の敵や隠れた相手、多少離れた敵でも効果が発揮できる」

 

「強力な分使い手は選ぶし、人の身では消費も重いだろう。格の高い相手には精神耐性を持つものも多い。それでも、通じる相手に対してはこれ一つでかなり有利な状況を作れる」

 

「それに、精神汚染が効かなかろうが、目でものを視る相手なら幻覚は通じる。お前なら上手く利用できると思う」

 

 

説明を聞いた限りではとんでもなく強力なスキルだ。このスキルなら、地力で劣る相手でも強引に型に嵌めれるだろう。手段の乏しかった搦手としても理想的だ。

 

 

「最高」

 

「よし。少し発動にコツが要るが、お前はこういうスキルは得意そうだし……直ぐに覚えられるだろう」

 

 

 

 

メメントス 入口付近 特訓場

 

練習中の蓮は置いておいてみんなのところに戻ってきた。今回の教える予定のスキルではあれが一番難易度が高いので、後はひたすら特訓してもらおう。

 

こっちでは残りのメンバーと、竹刀を持ったライドウが戯れていた。たかが竹一本と言えど、持たせる相手が相手だ。近距離戦を挑んだ竜司・祐介・モルガナの三人は、攻めをスカされてはメタメタに切り返されている。

隅で休憩している杏と真は、互いに回復させあいながら三人に檄を飛ばしていた。

 

 

「戻った。次は誰だ?」

 

「あ、おかえり。あれ?ジョーカーは?」

 

「向こうで練習中だ。必要な事は教えてあるから、後はあいつ次第だな」

 

「上手くいくといいわね。話し合ったけど、残りは私と……モナがやりたいって」

 

「なら、真からにしよう。攻撃魔法じゃないからここでいいだろう。真に覚えてもらうのはこれだ。『テトラジャ』」

 

 

俺の正面に六角形の薄い盾が張られる。すぐに見えなくなってしまうが、効果はしっかり残ったままだ。

 

 

「……それだけ?」

 

「これだけだが、戦闘においてこの魔法はかなり重要だ。この盾は、祝福・呪怨属性による即死効果を確実に一度防ぐ。一度効果を発揮するまで、かなり長い間残り続けるのも強みだ」

 

「真のペルソナはやれる事が多く、見た限り、真自身もそれに振り回されず器用に扱えている。一歩後ろで隙をカバーする動きをしているから、きっと上手く使えるはずだ」

 

「本当はもっと教えたいスキルがあるんだがな。真の今のレベルと、メンバー全体として必要なものを考えたら、これだと思う」

 

「いいじゃない。私好みだわ」

 

「習得が難しい魔法じゃない。使うタイミングも、そう気にする事はないな。開幕と同時にかけておくだけでいい」

 

「……こうね。よし……『テトラジャ』!」

 

「一度見ただけでコツを掴んだのか?さすがだな」

 

「ラクカジャと感覚が近いからかな。大体どうすればいいかわかったの」

 

「そんなすぐできんの?『テトラジャ』!……ダメみたい」

 

「真の事は気にするな。普通、新しいスキルを覚えるのは簡単じゃない。杏も、回復と補助に適正があるなら覚えられる。どうせなら練習しておけ」

 

「うん。……あ、シン、危ない」

 

 

背後から何か飛んでくる気配がしたので、さっとその場をずれる。

俺のいた位置を通り過ぎていったのは、綺麗に打ち返されたであろうモルガナだった。モルガナはそのまま派手に激突すると、音を立てて壁をずり落ちていく。

 

 

「気づいたなら、受け止めてくれよ……」

 

「いや、悪かった……」

 

 

 

 

「で、ワガハイには何を教えてくれるんだ?」

 

「ふむ……どうしようか?」

 

「なんだよ……考えてなかったのか?」

 

「考えてはいたがしっくりくるのが思いつかなくてな。逆に、どんなスキルが欲しい?」

 

「そうだな。やっぱり、エースとして前に出れるスキルがいいな。最近、前線を張るのはジョーカーとスカルに任せっきりだから、ワガハイもアン殿を守れるようにならないと……」

 

「前に出たいのか?悪いが、モルガナにそれは厳しいんじゃないか」

 

「なに?そりゃーワガハイが弱いって意味か!?」

 

「そうじゃない。文字通り向いてないって話だ。せっかくの豊富な回復魔法を活かさない手はないだろう。リカームを使えるのはお前とジョーカーだけなんだぞ?」

 

「お世辞にもお前は打たれ強いとは言えない。だが、素早さと小さい体を活かして、戦場全体の体力管理と、仲間を狙う敵の隙を突く攻撃は上手い。車になっての突撃だって突破力は高い。それじゃ不満か?」

 

「……そんなこと、わかってる。だけどそれじゃ足んねーんだ」

 

「話したかどうか覚えてないが、ワガハイは怪盗団の中じゃ一番先輩なんだ。蓮たちより早く異世界での戦闘経験も積んでる。蓮にペルソナの使い方を教えたのもワガハイだし、改心の方法だってそうだ」

 

「だけど見ろよ。あいつらはあっという間に強くなってく。もう……いいや、まだワガハイのがつえーけどな。それに、最近あいつら酷いんだぜ!ワガハイ、パレスに入っても回復か車になるしかやることねーんだ!」

 

「救急車か」

 

「茶化すんじゃねーよ!……ったく、ちゃんと話聞いてたのかよ?」

 

「竜司に半端って言われたこと、気にしてるのか?」

 

「まさかな。怪盗団の中心であるワガハイがそんなこと言ってたら、みんなを不安にさせちまうだろ?オマエはいい意味で立ち位置が違うからな。少しぐらい愚痴らせろよ」

 

「……まあ、話はわかった。なら、耐久力から強化しよう。少し難しいがやる気があるなら出来るだろう。俺の気の練り方をよく見ておけ」

 

 

身体に意識を集中する。気が体内から湧き出るように、身体の中心から熱を膨らますようなイメージで気の流れを作っていく。

上手く自分の気を引き出し、練り上げることで全体的な防御力が増し、また気を用いた攻撃の出力も上昇する。

 

 

「凄まじいな……近くにいると、火に炙られてるみてえだ」

 

「今はわかりやすくやったが、慣れれば無意識にだってできる。呼吸法と同じだ」

 

「気か……シンがたまに使ってる剣も気で作ってんだよな」

 

「そうだな。出力が高まるとああやって実体化させられるようになってくる。元々が気だから、鍛錬するほど直に強化される。余程良い武器でもない限り、自分で作った方が強いぞ」

 

「難しいんだよな……。コツとかないのか?」

 

「コツと言ってもな……。そもそも、気の扱いならお前たちは普段からやってるだろう。ペルソナも怪盗服も、実体化した気そのものだ。その辺り、俺よりよっぽどコツを掴み易いと思うが」

 

「最初から発露してるから逆に意識してないのかもしれないな。攻撃を受ける時にもペルソナで受けてるだろ。その時に発現させてる力の流れを、内側で回すように、練るようにだ」

 

「むむむ……」

 

「それが寝ててもできる程完璧な状態なら、ペルソナが出せない状況下……現実でも、こっちと変わらない強さと抵抗力がつく。恐らく、魔法も使えるようになるだろうな」

 

「さすがに嘘だろ?現実でって……そんなやつ、いたら化けモンじゃねーか」

 

「ライドウがそうだ」

 

「やっぱり化けモンじゃねーか……。にしても、生身であの動きはありえないと思っていたが、やっぱりそういう技は使ってたんだな」

 

 

 

 

それぞれの特訓が済んだので入口の改札へ集合した。スキルを教えた四人は、無事にそれぞれ習得できたようだ。後は本人たち次第だが、上手く扱えるだろうと信頼している。

 

 

「ゴウト、そっちはどうだ?」

 

「うむ、中々面白かったぞ。上手くライドウの捌き方を真似るのでな。特に、この男二人は初めから通しで戦っておった。いい根性をしている」

 

「そうか。こっちも問題なしだ」

 

「もう、くったくた……今日、いつもよりハードじゃなかった?汗で化粧もぐちゃぐちゃだし、直してかなきゃ……」

 

「お前は落とすだけで平気だろ……。それより全身痛え……身体中痣になってねえか?オレ」

 

「さっき回復してあげたでしょ。平気よ」

 

「筋肉痛だろうな。だが、筆は持てる」

 

「魔法の使い過ぎで頭痛がする……」

 

「ジョーカー、大丈夫か?頭痛にはコーヒーが効くらしいぞ。確か、昨日淹れたの持ってきてたよな?」

 

 

そうなるようにしたから当然だが、全員かなり疲労の色が濃い。その分確実に力はついただろう。次に来る時は残りの面子だな。杏だけは、今回のついでだったから別の用意もあるが。




それぞれ『原色の舞踏』『テトラジャ』『二分の活泉』を習得。

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