7月31日 フタバパレス 神殿地下
戦闘開始だ。
いの一番に攻撃を仕掛けたのはモルガナ。敵の頭上へ飛び上がり、車に変身し重量を活かした落下攻撃。残りは散開し包囲。各々の最大火力を放つ用意をする。
俺たちの存在に気づいていたのか、さしたる動揺は見られなかった。落下してくるモルガナへ天秤を掲げると、天秤を中心に衝撃波。モルガナカーが吹き飛ばされ、モルガナは元の姿へ戻ると一度離脱する。
逃がしはしない。取り囲んだ俺たちの攻撃が全方位から迫る。アヌビスは再び衝撃波で攻撃を防ごうとしたものの、圧倒的物量に押し潰され全ての攻撃が命中。
轟音と共に吹き飛んだアヌビスは、部屋に積まれた瓶や壺を巻き込みながら壁に激突。散らばった破片に埋もれ動きを止めた。
「手応えありだ!」
「気配が消えてねえ!まだ来んぞ!」
再びアヌビスが浮き上がる。同時に、壊れた物の欠片達も、アヌビスを中心に渦を巻いて、高速で回転し始めた。念動力か……。破片は鋭く、触れれば大ダメージは必至だ。
俺たちが破片の対応に追われている間に、アヌビスは天秤に祈りを捧げていた。すると、片方の秤に白く輝く人魂が灯り、ゆっくりと傾きはじめる。同時に、俺たちを光の柱が包み、札のようなものが部屋中に舞う。これは……。
「『テトラジャ』!」
真が瞬時にテトラジャを発動するのと、札が一際強く光を放つのはほぼ同時だった。俺たちに張られたバリアは砕け散り、テトラジャがその効力を発揮したことを示す。今の攻撃はマハンマオン。テトラジャがなければ、漏れなく全員直撃だっただろう。
「クイーン、助かった」
「予想通りね。この類の攻撃なら私がどうにかする。けど、全員にかけてると消耗が大きいから、早く何とかしないと……」
「どーすんよ?さっき破片ぶっ壊してみたけど、動きは止まんなかったぜ。下手にやっと数が増えて危ねえだけだ」
「最初の総攻撃は間違いなく効いてるはずだ。現に、感じる力も大分弱ってる。あと一撃ぶん殴ってやりゃあ倒せそうなんだが……」
俺たちが作戦をたてている間にも、秤にかけられた魂はその輝きを強めていた。天秤の傾きは更に大きくなり、その傾きが最大に達した時、感じる魔力が突如として膨れ上がる。
ふと天井を見上げると、祝福属性で形作られた剣が切先を俺たちへ向け、煌々と輝いている。それらが、音も立てず静かに、弓を引き絞るようにゆっくりと後退していく。
何の音もしない事が不思議なくらい濃密な魔力を感じる。その一本一本が俺たちを十分に殺しうることは、見ただけでも感じ取れた。
マズい、ペルソナを替え無効化できる俺と違ってみんなは……!
「クイーン、テトラジャで何とかならない!?」
「普通の攻撃魔法は無理!」
「避けろバカッ!」
「ゴエモンッ!」
竜司が反応の遅れた杏と真を庇い覆い被さる。そして、祐介が俺たちと剣の間に分厚い氷壁を展開。絶体絶命かと思わされたが、攻撃は氷壁に深く深く突き刺さり、何とか、寸でのところで動きを止めた。
「ナイスだ、フォックス!」
「ああ。だが、くっ……気力が尽きた。もう壁は作れそうにない」
「……どうやら、チャンスは今しかなさそうよ」
真がアヌビスの天秤へと視線を促す。秤の上の魂はその姿を消し、天秤は平行に戻り、先程に比べれば魔力もすっかり萎んでいた。
「連発はできないってことだね」
「でももたもたはしてらんねーな」
「しかし、あの邪魔な破片はどうする?あれでは迂闊に近づけんぞ」
「……仕方ないわね、モナには少し痛い思いをしてもらうけど、方法はこれしかなさそう」
「ワガハイ?」
「ええ、見てると本体の動きは遅そうだから……。まず、モナは車になって」
「よしモナ、覚悟はいいな。運転は任せてくれ」
「うう……仕方ねえ……」
「クイーン!気ぃ引くのももう限界!」
「OK!フォックス、アクセル全開でね。援護はするから」
杏と共に気を引いていたが、用意ができたようだ。
モルガナカーが大きく唸りを上げ、通路の手前から加速し始める。その間、俺たちは遠巻きに魔法を放ち、アヌビスを逃がさない。
攻撃組は、SPが切れた祐介が運転役。接近してトドメを刺すのが竜司。そして、巨大化によって相対的にダメージを軽減する、盾役のモルガナだ。
決着をつけにきた事を察知したのか、アヌビスは再び祈りを捧げ、今度は黒い魂が先程と逆の秤にかけられた。合わせて、俺たちの目の前に藁人形が具象化する。
「懲りないわね……!『テトラジャ』!」
マハムドオンはテトラジャによって完璧に無効化された。もう魔法を発動できる隙はない。
「あ痛でででで!」
「もうちょいだ、気合い入れろ!」
「決めるぞ、スカル!」
「カルメン!『マハラギオン』!」
「ヨハンナ、『マカジャマ』!」
「モスマン!『ジオダイン』!」
俺たちの役目はガードをさせない事。防御の手を俺と杏によって奪われ、真のマカジャマが直撃したことで今度こそあらゆる手段を奪った。
近づいた三人の渾身の攻撃をモロに喰らったアヌビスは、犬に似た悲鳴を上げながら赤黒の粒状に破裂し、今度こそ力尽き消滅した。
「いてててて……。なあパンサー、見てたか?ワガハイの決死の突破劇!」
「見てたよ。お疲れ、モナ!」
「よっしゃあ!俺たち最強!」
「やったわね!……ねえ、あれ見て。多分出口よ」
真の指さした先には確かに外からの光の射すのぼり階段があった。ようやく出口に着いたようだ。
外に出ると、そこは正面入口から少し離れた階段だった。最初外から見た時は開かなかったが、ここに繋がっていたのか。
「どうする?みんな消耗が激しいわ。流石にさっきのレベルのシャドウはそう居ないと思うけど……」
「そうだな……。一度現実に戻って休憩しよう」
7月31日 午後 アジト
「あ〜〜、本気で疲れた……」
「参ったぜマジで。今回のパレスキツすぎねえ?」
「同感だ。金城の時と比べても段違いに難易度が上がってないか?」
「そうね……。前回も強敵は手強かったけど、今回はその辺にいる普通のシャドウも厄介ね」
「特にあの『メギド』とかいう魔法撃ってくる猿な。バカスカ撃ってくる癖に威力高すぎんだろ」
「遭遇したら優先的に仕留めるしかないわね。幸いタフではないし……」
各々、お菓子や飲み物を手に取りながらパレスの感想を口々に言い合う。みんなの話すそれらに関連して、気になることがあった。
「今日の戦闘で思ったことがあるんだけど……。今までの戦闘では、攻撃を受けても俺たちの生身に傷がつく事はなかったよね。でも、今日戦ったシャドウの内、鳥男とアヌビスは違かった」
「あ、それ俺も思ったわ。おかげでクソ痛かったぜ。真はよく冷静だったよな」
「それは多分……相手との力の差が大きかったからじゃねえかな」
「え?でも、私たち勝ったよね?」
「それは全員でかかったからだろ?一対一じゃ、コテンパンにされてたはずだ」
「怪盗服とかペルソナってのは、攻撃や敵意を防ぐものだって説明したよな。でも、受けた攻撃に出力が追いついてないと、受け止めきれなかったダメージは生身で喰らうしかない」
「ペルソナとシャドウは表裏一体なんだ。つまり、ペルソナが死ねばシャドウが死んだ時のように本体の精神に影響を及ぼし……」
「例え生身が無事だったとしても、廃人化は避けられんというわけだな」
「ああ。そうならないように、ワガハイたちは無意識にダメージをペルソナと生身に振り分けてる。どっちが死んじまっても終わりだからだ」
「そういう大事なことは最初に話しとけよ」
「それでも、生身がダメージを引き受けるなんて滅多にないんだが……」
「さっきの敵にはなんとか勝ったけど……。それほど危険な相手だったって事ね。もしかすると、この中の誰かが今日欠けてたかもしれない」
「マジかよ……」
「ペルソナの出力を上げるしかねえな。有り体に言うなら、レベルを上げるって事だ」
「数字で見れれば楽なんだけどね……」
パレスの攻略を急ぎたいのは山々だが、今の話を聞いた後だと無茶はしたくない。新しいスキルは覚えたが、こんな危険な戦闘を続けるのは無謀だ。Xデーまでまだ時間はある事だし、双葉には悪いがメメントスでのレベル上げに専念しよう。
「しばらく……最低でも今週一杯くらいはメメントスで経験を積もう」
「同感ね。それで、この後はどうするの?少しは回復したけど……」
「悪いが、俺は今日はもうダメそうだ。攻撃を防ぐのに気力を使い切った影響か、倦怠感が酷くてな……」
「そっか……。じゃあ、今日の攻略はここまでにしよう」
「済まないな」
「無理は禁物、当然でしょ?」
「うむ。いい判断だな」
「……ああ、そうだ。ゴウト、一つ気になってたんだけど」
「む、なんだ?」
「さっき持ってたスマホ、どうしたの?」
「あれか。仕事の連絡すらできないのは不便だと、ララ嬢が便宜をはかってくれたのだ。そういえば、うぬらとはまだ番号を交換してなかったな」
「自由に使っていいなら交換しておこうか。あと、チャットは……」
「それならシンに頼んで入れてもらった。使い方も問題ない」
「OK。ならグループに招待しておくね」
「うむ。シンの家にかければ我が出る。このすまほはライドウが持っておるから、ライドウに伝えることがあればこちらにかけてくれ」
「ああ」
「それにしても、うぬらも随分力をつけてきたな。大した時間は経ってないが、出会った頃に比べれば雲泥の差だ。まだまだ経験は浅いが、実力はもう一人前だな」
「あれだけ戦っていれば嫌でも強くなるよ」
「んじゃ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねーか。……シンのこと」
唐突に話を切り出したのは竜司だった。他のみんなは少し驚いたようだが、気にはしていたのだろう。真面目な表情でゴウトに向き直る。
ライドウさんは帽子を目深に被り俯き、ゴウトは難しそうに目を閉じ暫し思案した。
「お前たちの気持ちは相わかった。確かに、これまで我らは契約を果たしていなかったな。ある程度話しておくべきだろう」
「シンの生まれについては、俺たちもある程度推測してきた。シンは最初から悪魔だったわけじゃない。元々は俺たちと同じ、ただの人間だったはずだ」
「……うむ。気づいていたか」
「それ自体は、本人も積極的に隠すつもりもなさそうだしね。わざわざ話そうともしてくれないけど。わからないのは、どうしてシンが悪魔になってしまったのか。そして、どうして今以上の力を求める必要があるのか」
「全てを答えられないならそれでもいい。今話せることを……教えてくれ」