ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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34.vs認知存在『イッシキ ワカバ』後編 〜 神保町 探訪

 

8月12日 フタバパレス ピラミッド頂上

 

「今度はわたしたちのターンだ!……いくぞ!フィールドに最終兵器を召喚!」

 

 

双葉がそういうと、俺たちの背後にモルガナカーにも勝る大きさの巨大なバリスタが形成された。怪物に向けられた鏃の鋭さは、双葉の心情を体現しているかの様だ。

 

 

「バ、バリスタが!?」

 

「これで撃ち落とせ!そっからボッコボコにするぞ!」

 

「なるほどな!やってやるぜ!」

 

「フォックス!」

 

「任された!」

 

「先に回復するぞ!ゾロ、『メディラマ』!」

 

「リーダーは誰だ!?ちょっと来てくれ!」

 

 

双葉の呼び掛けに攻撃を避けつつ飛び上がる。そのままUFOの上に着地し、ナイフの柄で軽くノックした。

 

 

「どうした?」

 

「伝達事項だ。悪いけど、さっきのバリアもバリスタも何度も出すのはしんどい。よく狙って確実に当ててくれ」

 

「バリアはあと一回なら頑張る、約束する。いつ使う?」

 

「急降下と共に突撃する攻撃がある。それだけでいい」

 

 

祐介の操作するバリスタがごろごろと音を立てながら角度を変える。しかし、操作の反映にラグがあるのか余りに動きが鈍く、あれではとてもじゃないが、飛び回る怪物に狙いを定められない。

 

 

「フォックス、何とかしてあいつを正面に留まらせる。バリスタは正面に向けたまま、確実に当てる事だけに集中してくれ」

 

「ああ、必ず仕留める!」

 

 

 

「戻った。あの怪物を、バリスタの正面に叩き落とすぞ」

 

「おし、プランは?」

 

「どうにか正面に抑え込む。以上!」

 

「いや雑!」

 

 

怪物は再びの反射を恐れてか、上空まで飛び立つ様子は無い。

大技を警戒しなくて済むことで、状況は幾ばくか楽になった。先程は戦況をひっくり返されたが、元々戦闘は有利に進められていた。このまま削り倒すことも考えながら、細かく攻撃を当てていく。

 

 

「よし、いい調子ね」

 

「ああ。だが、そろそろ奴も焦れてくる頃だぜ。このまま大人しくやられちゃくれねえだろう。オマエら、まだ油断すんなよ!」

 

 

モルガナの言葉通りに、段々と攻めの激しさは増していく。調子に乗ってダイブしてくれれば特大のカウンターを決められるのだが、そう甘い行動はしてくれない。ここらでもう一つ、攻める切っ掛けが欲しいところだ。

 

 

「スカル」

 

「どうしたよ?」

 

「隙を見て張り付く。合図したら飛ばしてくれ」

 

 

怪物はピラミッドの外壁に爪を突き立て、強引に砕いた。破片を巻き上げ大きく翼を打ち付けると、舞い上がる砂塵と共に礫が一帯を襲う。

 

ここだ。多少の危険は避けられないが、砂埃に紛れて接近する。

 

 

「スカル!」

 

「げっ、こんなか行くのか!?」

 

 

そう言いつつ、バッチリのタイミング。足裏から伝わる力を余すことなく跳躍に変え、一直線に怪物に迫る。邪魔な瓦礫はナイフで払いながら進むが、躱し切れず肩に当たり少し痛んだ。

それでも何とかワイヤーを怪物の眼鏡の弦に巻き付け、弾丸を放ちながら旋回し背中の体毛にしがみつく。

 

 

『なっ……離れろ!離れろぉぉぉぉ!』

 

 

怪物は高度を上昇させ、俺を振り落とそうと暴れ回る。しかし、爪も翼も届かない背中にしがみついているのは容易だった。

 

 

「オセ!『五月雨斬り』!」

 

 

一方的に攻撃できる今がチャンスだ。五月雨斬りを連打し、怪物の背中を切り刻んでいく。

やがて、怪物は空中で項垂れ動きを止めた。

 

 

「観念するんだな」

 

『ぐぅぅ……こうなったら……』

 

 

そう呟くと、更にはるか上空へと高度を上げていく。負けを悟ってヤケになったか、跳ね返されるのを承知で特攻するつもりだ。そして、怪物にしがみついている俺はバリアの恩恵を受けられない。

やがて、翼が空を切り真っ逆さまに加速していく。

 

 

「やめておくことだ」

 

『うるさい!お前だけでも、殺す!』

 

 

バリアへの衝突。その衝撃は細かい揺れや地鳴りとして砂漠中へ広がる。全霊の一撃を二度もその身に返された怪物は、最早立ち上がる体力もなく、その身をピラミッドに預けた。

 

 

「ジョーカー!」

 

『一人……道連れにしてやったぞ……』

 

「道連れ?誰のことだ?」

 

 

その言葉に怪物は驚愕の表情を顕にした。俺はそれを尻目に、使い切った『フィジカル軟膏』の容器を杏に投げ渡し、怪物の正面へ着地する。

さっきは面食らって不意を突かれたが、落ち着いて考えてみればこんな簡単な対策で良かった。

 

 

「無事か、ジョーカー!」

 

「もちろん」

 

『双葉ァ!双葉双葉双葉ァァァ!』

 

 

最後の足掻きか、懇願か。怪物は双葉の名前を連呼しながら、力なく爪をたて軋ませる。

 

 

『何を言おうと双葉は私のモノだァァ!親に逆らうことなんて絶対に許さない!』

 

「聞き飽きたぜ」

 

「そうね。これで終わりよ」

 

「双葉は頂戴する」

 

『うるさい……!うるさいうるさァァァイ!』

 

『ぐううう……!ふ、双葉……。お前なんて、産まなければ……っ!』

 

「何を言われたって……私は生きる!撃ってーッ!」

 

 

双葉の号令と共に、バリスタの矢が怪物の胸元を貫く。怪物はもう力ない断末魔と共にピラミッドを転がり落ち、やがてその身体はゆっくりと解けて消えた。

 

 

 

8月12日 昼間 ルブラン

 

窓の外からどさどさと落下音。次いで呻き声。蓮がレンタルしたであろう映画を観ながら時間を潰して居たが、摘みの菓子が無くなるよりは早く決着が着いたようだ。

玄関前を見下ろすと、各々腰を押えながら起き上がっているところで、音を聞きつけた惣治郎も何事かと顔を出す。

 

 

「なんだ、今の音?……ん?お前ら何してんだ?」

 

「あ、いや……」

 

 

やがて、真と蓮を除いた……あとモルガナも除いた三人が階段を上がってくる。

 

 

「二人は?」

 

「多分、双葉のとこ」

 

「そうか。無事に済んだみたいだな」

 

「なんとか、といったところだ。覚悟はしていたが今回も厳しい戦いだった」

 

 

パレスの主についてや、双葉が新たに覚醒した事を聞いていると、蓮からの連絡があった。覚醒の反動か、双葉が目を覚まさないらしい。

さすがに黙って居られないとの事で、マスターも連れてきて欲しいと。

 

 

 

「おい、双葉?おーい?」

 

 

マスターの呼び掛けに、ベッドで横たわる双葉はなんの反応も示さなかった。

こうなった原因は、間違いなくペルソナやパレスに起因してのことだろう。責任を感じてか、皆沈痛な面持ちでため息だけが漏れ出る。蓮の連れてきた医者の話では身体的な問題は診られなかったらしいが、双葉の現状をどう伝えたものか。

 

 

「まいったな……」

 

「あの……双葉の事なんですが……」

 

「ん?どうした死にそうな顔して」

 

「双葉ちゃんの容態なんですが……」

 

「ああ、これか。たまにこうなるんだ」

 

「へ?」

 

「体力を使い果たしたんだろうな。電池切れみたいなもんだ。あんまり動かないからだろうが、よくないよな」

 

「なんだ、そりゃ……」

 

「一度こうなったら、数日はこのままだ。双葉は当分、自宅で寝かせておくわ。店閉めてくるから、ちょっと見とけ」

 

 

部屋を出ていくマスターを、蓮たちは総じて呆れたような、何事もなくホッとしたような、複雑な表情で見送った。

 

 

「なんだろう、この感じ……」

 

「ああ、なんかすげえモヤモヤする……」

 

「誤魔化す手間が省けてよかったじゃないか」

 

「……ま、それもそうね」

 

「無事だったのはいいんだけど……メジエド、どうする?」

 

 

杏の問に、双葉はパチリと眼を開ける。しかし、直ぐに限界が来たのか、モニョモニョと口を動かすと、『疲れた、ちょっと寝る』と言い残し、また深い眠りに落ちてしまった。

 

 

「……ちょっとって、どんだけ寝るつもり……。叩き起こすわけにもいかないし……」

 

「どうしたものか……」

 

「今更、別のハッカーなんて探せないわ……」

 

「復活を待つしかない……」

 

 

 

8月14日 夜 レンタルビデオ屋

 

一昨日蓮の家で見た映画の続きが気になり、結局自分で借りに来てしまった。確か、無実の罪で収監された兄を救いに自らも投獄され、あらゆる手段を用いて脱獄を試みる……といった内容だった。

 

この作品自体は非常に有名で人気もあるものだが、映画に馴染みが薄かった俺はこれまで見たことがない。暇潰しに見始めたものだったが、一度見始めるとつい興味が出てきてしまう。

 

会員登録しDVDを借りて帰る途中、ふと真から連絡が来ていることに気がついた。

 

 

『本を探しに行きたいの 気になることがあって……』

 

『神保町の古書店街まで行くんだけど……』

 

『あなた行ったことありそうだし 午後に時間取れないかな?』

 

『悪いが神保町は初めてだ だがそのうち行こうとは思っていたから丁度いい』

 

『ありがとう』

 

『実は、認知訶学について調べようと思って……』

 

『詳しい事は明日話すね じゃあ、おやすみ』

 

 

 

8月15日 昼 神保町

 

「…………」

 

「どうしたの?ぼーっとして」

 

「いや……呆気にとられていただけだ」

 

 

歩道に面して置かれた本棚。雑多に束ねられた中古書たち。くたびれて、表紙がひび割れたり掠れたりもしているが、恐らく貴重な物も多いであろう、膨大な数の本が目の前に山積みになっている。

これだけの量、読み切ろうと思えばどれだけの時間がかかるだろうか。少し想像して、あまりの途方さにそれを放り投げた。

 

一つの店舗をちらりと眺めただけでそんな感情にさせられたが、視線を横にやれば同じような状態の本屋がぞろぞろと並んでいく。

 

 

「…………探すのか?この中から?双葉の母親が研究していた、恐らく世に出ていないであろう内容の論文を?」

 

「そうよ。私も情報が公開されてるとは思えないけど、希少な専門書なら……載ってたりしないかな?」

 

「どうだろうな。双葉の母親と一緒研究をしていた人物でも居れば、あるいは……」

 

「とにかく、頑張って探してみるしかないな。やれるだけやってみよう」

 

「ありがとう。見つかるといいけど……」

 

 

ジャンルも作家名もめちゃくちゃの本の山を、手分けしてなぞっていく。しかし、見つかるのは認知『科』学に関するものばかりだ。中身を確かめても必要としている情報は1つも見当たらない。

 

 

「……こっちの棚は終わった。俺は一足先に次の店を見てるぞ

 

「あ、うん」

 

 

 

シンが一つ目の店を後にしてから数分後。真は最後の一山をパラパラとめくり続けていた。既にめぼしい専門書や論文の類は目を通し終わり、後は本とも呼べないような、プリントの綴りと小冊子を残すのみだった。

大題からして全く関係のなさそうなものなので、あまり期待はしていない。

 

 

「はあ……やっぱりダメね……」

 

 

この店には目当てのものはない。売り場の状態を戻し、自分も次の店へ行こうと外へ出た時、店頭に山積みされた本の中に置かれた、一冊の雑誌が目に止まる。

最初その存在に気がついたとき、真には単なるオカルト雑誌に見えた。『月刊 アヤカシ』……。おどろおどろしい骸骨のイラストが描かれた表紙は、いっそ清々しい程にベタなものだった。

 

 

「……?こんな雑誌、あったかな……?」

 

 

この辺りは、最初二人で見ていたところだ。こんな本は記憶が確かならなかったはず。少し不思議に思ったが、念の為もう一度確かめてみよう。真はそう思い雑誌を手に取った。

しかし、そこに書かれた見出しを読み、思わぬ驚愕に小さく声が漏れた。

 

『特集 ガイア教とミロク経典』。

『ガイア教』、というのは、アマラ深界の第二カルパで思念体達が言っていた言葉だ。うるさいぐらいだったからよく覚えている。どうして、この世界でこの単語が?これもルイの企みで配置された?

突然の出来事に、困惑と共に大量の疑問が溢れる。しかし、そんな混乱とは裏腹に、真は至って冷静に行動していた。

 

 

「あの、この本いくらですか?」

 

「ああ、いらっしゃい。ええと……。こんな本、あったかな。100円でいいや。こんな名前の雑誌、聞いたこともないし」

 

「ありがとうございます」

 

 

会計を終えると、真は雑誌を手早くしまい込んだ。

シンがさっさと次の店へ行ってくれてよかった。ガイア教についてシンが知っているかは分からないが、ルイ絡みなのはほぼ間違いないのだから。

 

 

「真?」

 

 

不意に背後からかけられた声に、思わず心臓が飛び跳ねる。脈打つ鼓動を感じながら振り返ると、そこにいたのは我らがリーダー、蓮だった。

 

 

「び、びっくりした……。こんな所で会うなんて奇遇ね」

 

「そっちこそ。シンも一緒?姿が見えないけど」

 

「ええ。双葉のお母さんの……認知訶学に関して、なにか見つからないかと思って」

 

「成果は?」

 

「今のところは何も……。あ、でも……」

 

 

と、言いかけて真は言葉を止めた。彼の隣にいる長い黒髪の少女が、じっと待っていたからだ。

部外者の前で迂闊に話せる内容ではない。また今度改めて、みんな揃っている時に話に出そう。

 

 

 

 

真と別れてからしばらく。店を変え本を漁り続け、二店舗分の本のタイトルを確かめ終えた。真はいつになったらこっちへ来るのか。

最初の店は二人がかりだったので手早く済んだが、一人でとなると中々に手こずる。

集合時間が遅かったのもあり、三店舗目を見終え外に出た頃には、街はもう橙がかっていた。

 

途中、衝動買いした本を抱えて最初の店へ戻ると、見知らぬ少女と話し込んでいる真の姿が見えた。その傍らでは、蚊帳の外に置かれ暑苦しそうに背を丸める蓮がいる。

 

 

「戻った」

 

「ああ、シン。おかえり」

 

「約束もしてないのに、お前とはよく会うな。あれは誰だ?」

 

「プロ棋士志望の東郷 一二三。気があったみたいで、戦術について為になる話をしてるよ」

 

「お前たちは何をしに?」

 

「古い棋譜とか……将棋関連の資料を探しに」

 

「そうか」

 

「そっちの探し物は真に聞いたけど、成果は……」

 

「ない」

 

「だよね」

 

「おい、真」

 

「え……あ、あれ?いつの間にこんな時間……」

 

「俺の方は成果なしだ」

 

「ご、ごめんね?私から着いてきてって頼んだのに、つい話し込んじゃって……」

 

「気分転換になったならいい。俺も個人的に気になる本を見つけたから、収穫は十分だ」

 

「そう?それなら良かった。……じゃあ、これ以上邪魔しちゃ悪いし私たちも帰ろっか」

 

「そうですか……。私も楽しかったので、気にしないでください。それでは」

 

 

少女は俺に軽く一礼すると、蓮を連れ立って去っていった。

 

 

「もう帰るのか?」

 

「うーん……。時間はあるけど、どこか寄りたい所でも?」

 

「昨日、神保町に美味いカレー屋があると見てな。行きたい店をいくつか考えていた」

 

「ああ、確かに有名ね。いいわよ、行きましょ」

 

 

昨日調べた店へ向かう。確か、裏通りのビルの二階だったはずだ。まだ夕食の時間としては早いが、さすが人気店と言うべきか、既に列が出来始めていた。

俺たちが並んだのを境に、徐々に人が増え始める。混み始める直前に着けたのは運が良かった。

 

 

「スパイスのいい香り……」

 

 

提供されたカレーは評判通りとても美味だった。付け合せのじゃがいもも、バターの風味がカレーによく合う。目当てにしていたデザートも期待以上に美味しく、普段食べる量に比べれば少ないが、満足感のある食事だった。

 

 

「美味しかったわね。けど、本当に出してもらってよかったの?」

 

「これまで貰った弁当に比べれば安いだろう。それに、金には困ってないから俺には何も痛手はない。……手のかかってない礼なのは、悪いと思っている」

 

「そんなこと気にしなくていいから。ご馳走様」

 

「そういえば、ルブランでもカレーを出していたな」

 

「美味しいわよ。貴方まだ食べてないの?」

 

「まだだな。そういえば蓮が作って持ってきていたか」

 

「まだまだマスターの味には敵わないって言ってたけどね」

 

「やはり店で食べるか。その内食べてみよう」

 

 

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