ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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35.双葉との顔合わせ

 

8月22日 午後 間薙 シン宅

 

『……本日未明、ハッカー集団『メジエド』が開設するHPが、改ざんを受けているのが発見されました』

 

『トップページには、怪盗団のものと思われるマークが掲示され……』

 

『『メジエド』のメンバーと見られる日本人男性の個人情報が、不正に公開された模様です』

 

 

テレビでは朝からこのニュースが流れ通しだ。双葉が目を覚ました、という話は蓮から聞いていたが、じつに見事にやり込めたらしい。

 

 

『『メジエド』側からの反応はありません。なお、彼らが予告していた犯行ですが、今現在までに行われたとの情報はありません』

 

『一連の流れを受け、取り止めたとの憶測も流れています』

 

 

キッチンで昼食を作っていたライドウが、氷水に浸かったそうめんと山盛りの天ぷらを運んでくる。この天ぷらは丁度今日収穫したナスで、数日前収穫したトマトときゅうりも、カットされサラダとして並べられた。

ライドウはテーブルの上に料理を並べ終えると、腕組をしながら流れているニュース番組をじっと見つめた。

ゴウトは立ちつくすライドウをソファーへ促し、ニュースへの感想を口にする。

 

 

「これで、今回の事件もひとまず決着、と言ったところか。最初はどうなる事かと気を揉んでいたが」

 

「ああ。俺も安心した」

 

「技術が発達すると、それを悪用する者共も必ず湧いて出るものだ。確かに、世の中は便利になったのであろうが。結局、対抗できるものが悪を御し切れるか、力が正しく使われるかを願うしかない、ということか」

 

「説教か?」

 

「む……。いや、怪盗団の皆が使うぺるそなという力や、我ら自身もまた然り、と思っておっただけだ」

 

 

そうめんを啜り終わり、午後はどうするかと考えていた時。机の上に置かれたスマホがガタガタと震えた。蓮からの電話だ。

 

 

「どうした?」

 

『もしもし?実は、双葉も仲間に加わってくれる、ってことになったんだけど……』

 

『人見知りして、全然会話してくれなくて。少し強引だけど、慣れるために交代で一日一緒に過ごす事になった』

 

『これからシンとも関わることになると思うから、できれば少し会ってみて欲しいんだけど』

 

「……事情はわかった。悪いが、明日と明後日は期限の近い映画を消化する予定だから無理だ」

 

『いつ来るかは任せるよ。……ああ、それと、夏休み中に海に行く計画を立ててる。真が春も誘っていいか、って言ってて。みんなも構わないって言ってたから』

 

「ああ、声をかけてみる」

 

 

 

8月25日 昼間 生徒会室

 

「……というわけで、どうだ?」

 

「もちろん!夏祭りの時から、一緒に遊んでみたいって思ってたの」

 

「そうか。じゃあ、そう伝えておく」

 

「うん、お願い」

 

 

要件と事情を伝えた後、春はふとなにか考えるように視線を伏せた。

 

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもない。ただ、その……双葉ちゃん?って子、頑張ろうとしててすごいなあ、って。あと、よかったな、って」

 

「ああ、俺もそう思う」

 

「私が踏み込んでいい話じゃないけど、きっとすごく辛い経験をしたと思うの。けどその子、双葉ちゃんは、起き上がろうとする意思を自分で持てた」

 

「それって、凄いことだよね」

 

 

確かに、言う通りだと思った。最終的に立ち直らせたのは改心……というか、ペルソナ覚醒の影響だろうが、そこに至るまでのきっかけは間違いなく、双葉自身が行動した結果だ。

苦しみから逃れたい故だろうと、どうあれ双葉本人が生きようとする選択を採れなければ、どうなっていたかは想像にかたくない。

 

 

「今日の午後……その人見知りの関係で、慣れてもらう為に蓮の家へ顔を出す事になってる。春も海で会うなら、顔合わせぐらいはしておいた方がいいかもしれない」

 

「そうだね。今日は何も予定ないから、ちょうど良かった」

 

 

 

8月25日 午後 ルブラン

 

途中買い込んだ菓子類や、家から持ってきたビデオの入った袋を下げてルブランの扉を開く。

軽く見回すが、一階に蓮と双葉の姿はない。今は店内に客の姿もなく、二人は休憩中だろうか。カウンターではマスターが一人暇そうに、相変わらずのニュース番組を眺めていた。

 

 

「こんにちは」

 

「いらっしゃい。えーっと、間薙くんだったか。そっちの子は……」

 

「はじめまして。奥村 春と申します。こんにちは、おじ様」

 

「おじ様と来たか。あいつらなら、上で休憩してるよ。ゆっくりしてきな」

 

 

マスターは『おじ様』といった表情を作って言った。

促されるまま店の奥へ進み階段を上る。二階では、双葉は半ば骨董品のゲームに興じ、真ん中に置かれたテーブルで蓮が昼食のカレーを食べながらそれを見物していた。

 

双葉は俺たちが上がった直後こそゲームに夢中で平然としていた。が、俺たちの存在をはっきり認識した瞬間に、コントローラーを投げ出して蓮の背後に飛び込んでいった。

 

 

「随分懐かれてるな」

 

「ここ数日、毎日会ってたから。多少はね」

 

「ワガハイとは最初から話せたけどな」

 

「当たり前だ。にゃんこだし」

 

 

双葉はモルガナの頬を揉みしだきながら言う。

 

 

「だから!頬っぺた引っ張るんじゃねーよ!」

 

「はじめまして。私、奥村 春。佐倉 双葉ちゃんだよね?」

 

「へ、へい!はじゃみゃみゃして!」

 

「気楽に話してくれて大丈夫。ごめんね、急に私も混ぜてもらって、怖がられても仕方ないと思うけど……」

 

「お、お面お面……」

 

 

双葉は顔を伏せたままテーブルの上を探り、鎮座していたお面を引っ掴むと勢いよく頭を突っ込んだ。

 

 

「……へ、平気だ。とりあえず、このままなら」

 

 

顔が隠れて、双葉は落ち着きを取り戻したようだった。それでも蓮の背後に隠れたままなのは……まあ、ゆっくり慣れてもらうしかないだろう。

俺たちもそれぞれ椅子に腰掛け、菓子の袋を開ける。とにかく近くにいることに慣れてもらおうと思い、特段話しかけるようなことはしない事にした。

 

暇を潰す為に持ち込んだ観かけのビデオテープをセットし、映画の再生ボタンを押す。双葉は一言も発さず静かにしていたが、しばらくすると、仮面越しにじっとこちらを見つめる視線に気がついた。

 

 

「なんだ?……ああ、そういえばゲームが途中だったか。俺の名前も伝えてなかったな」

 

「ゲームを消したのは怨めしい……。けど名前はいらん、知ってる。間薙 シン、転校生。それと……」

 

「それと?」

 

「…………」

 

 

双葉は次の句は継がず、じっと俺を見つめる。なんなんだ。名前を知っているのもなぜだ、と思ったが、そういえばこいつは蓮たちのチャットもハッキングしていたんだった。どこかしらで俺の名前も把握したんだろう。

 

 

「さて……そろそろ手伝いに戻らないと」

 

「え〜、もうちょっと休んでたーい……」

 

 

二人は皿を持って下へ降りていく。確か、さっき入ってきた時客はいなかったはずだ。どうせ空いているなら座ってしまっても構わないだろうか。

そういえば、その内ルブランのカレーも食べようと思っていたんだった。注文するなら正しく客のはずだ。やはり席も空いているし、気兼ねなく座ってしまおう。

 

 

「注文、いいか?」

 

「へ、へい!なんにしやしょう!」

 

 

双葉はまだ面を被ったままだ。もしや午前中もこれを被って客の前に出ていたのか。引きこもりを脱して急に客前に出ただけでも褒めるべきか?もしダメならダメと、マスターが叱るだろうし。

 

 

「カレーを……」

 

 

と、言いかけて、ちらりと春を見る。学校で弁当も食べていたが念の為だ。

視線に気づいた春は軽く首を横に振った。

 

 

「私は学校で食べた分で十分だから」

 

「……カレーを一つ、大盛りで。コーヒーは……カレーに合うものを二つ。マスターにお任せで」

 

「アイスコーヒーにしてもらっていいかしら」

 

「俺もそうしてくれ」

 

「惣治郎!注文、取ってきた!」

 

「はいよ」

 

 

注文をしてすぐ、カレーが運ばれてくる。米の上には何かのハーブ、ルーの上には白いクリームで半円が描かれている。コーヒーフレッシュではなくちゃんと生クリームのようだ。

こだわっているようだが、正直見た目は普通のカレー。そこそこの店で頼めば、これぐらいの見た目のものはいくらでも出てくると、そう思っていた。

しかし、密かに抱いた失礼な感想は、一口入れた途端に吹き飛ぶこととなった。

 

 

「……!」

 

「美味いだろ、惣治郎のカレー!」

 

 

双葉が得意気に言う。仮面の内のドヤ顔が目に浮かぶようだ。

実際、味のクオリティは衝撃だった。平凡な見た目から見事に裏切られた。その味の重厚さは、俺の貧弱な舌では全てを理解しきれない。

 

 

「正直言って、驚いた。見た目では普通のカレーだと思ったが」

 

「驚くのはまだ早い。そら、コーヒーも飲んでみろ!」

 

 

双葉に推され、運ばれてきたアイスコーヒーを一口含む。再びの衝撃だった。この店のコーヒーは以前も口にしたことがあるが、カレーの後に飲むだけでここまで風味が際立つものか。

そしてもう一度カレーを口にした時、同じ感想を三度目の衝撃と共に味わう事になった。

 

 

「シン君ってすごく美味しそうにご飯食べるよね」

 

「そうか?意識した事はないが、実際美味いからな」

 

「うん。普段のお弁当のときもそうだよ。いつもの表情といえばそうなんだけど……」

 

「なんとなく雰囲気明るくなるよね、わかる。お菓子食べてる時も機嫌いいし」

 

「雨宮君もそう思う?なんだろう、眉の動きなのかなぁ。食べてる時何考えてるかわかりやすいから、作りがいあるんだ」

 

 

 

 

 

「……美味かった。これまで食べたカレーで一番かもしれない。コーヒーとの相性も含めれば、間違いなく一番だ」

 

「そんなに美味しかったんだ。お昼、少なめにしておけばよかったなぁ」

 

「相性の良さに気づいてもらえんのは嬉しいね。そこが、一番のこだわりでな」

 

「どうだ、美味いだろ。お母さんのカレーだ」

 

「そうか、これは……双葉の母親のレシピか。すごいレシピだ。この味が広まれば間違いなく流行るぞ?」

 

「よせよ。これ以上客が増えるとめんどくせえ」

 

 

マスターはそう言いつつ、普段を知らない俺でもわかる程機嫌のいい顔をしていた。

カレーを食べ終え、会計も双葉にしてもらう。緊張によるものかたどたどしい手つきだったが、やはり物覚えなどは抜群にいいのだろう。操作自体には全く問題なく作業を進めていた。

 

 

「シン君は家庭の味って、ある?」

 

 

ふと投げかけられた問。その答えは、どれだけ絞り出そうとしても、今の俺には答えられないものだ。

 

 

「……すぐには出てこない。両親とも仕事でいない日ばかりだったから、適当にあった物を食べていた」

 

「そっか……。実は私もそうなんだ。記憶にある頃にはもう、親は離婚しちゃってたから」

 

「オクムラフーズが大きくなってからは家政婦さんが用意してくれてるんだけど、小さい頃は他の子が少し羨ましかったりもしたなぁ」

 

「……そういうものか」

 

 

その後、飲みかけのコーヒーと追加で注文したデザートを持って、俺たちは大人しく二階へ戻ることにした。ちょうど、昼下がりに一息つきに来た客が増えたのもあった。

 

 

「美味しいね、コーヒー」

 

「ああ。普段は缶コーヒーばかりだが、流石に味が違うな。……春は確か、紅茶派だったか?」

 

「うん。けど、最近はコーヒーにも興味が湧いて、よく飲むようになったの。シン君もマコちゃんもよく飲んでるでしょう?」

 

「甘いものが欲しくなった時に飲むな。自販機にある物だとミルクティーやココアもよく飲む」

 

「甘いもの好きなんだ?けど、そんなにお菓子食べてるところ見ないね」

 

「本を汚したくない。映画やテレビをなんかを観る時はいつも食べてる」

 

「そうなんだ。あれ、けど以前映画はあんまり観ないって……」

 

「この前ここで見てから少しな。ここ数日で何作か観てる」

 

「元々、映画やドラマは好きじゃなかったんだが。自分の観たいペースで進められないのが嫌で、原作を読むのが一番だと思っていた」

 

「最近、間や表情、台詞周りも演者や監督の解釈だと気づいて、少しづつ面白みを感じられるようになった。それでも、原作を一度は読みたいが」

 

「ふぅん……。よかったら、今度一緒に映画観ない?バレエ、というか、ダンスの映画なんだけど」

 

「昔やってたと言っていたな。俺はいつでも構わない」

 

 

そういえば、やけにモルガナが静かだ。営業中はあまり下に行けないと言ってベッドの上にいるが、春の手前俺とも会話できずに暇を持て余しているようだ。

何を食べられるのかよくわからないが、今度飯でも奢ってやろう。

 

 

 

いつの間にか空になった食器をまとめ、階下に下ろす。洗い物をしている蓮に皿を渡し、接客をしている双葉の様子を少し見物することにした。

 

……見たところでは問題なさそうだ。お面と江戸っ子にカブれたような口調は問題といえば問題だが、本人からすれば心を守るためのもの、正にペルソナなのだろう。

 

じっと見ていたら、視線に気づいた双葉がこっちを見ていた。さっきからよく目が合う……というか、観察されている。母親も研究者気質だったようだし血筋だろうか。

 

 

「何か用か?」

 

「…………普通だな」

 

「おい双葉、ぼーっとしてんな。さっさと運べ」

 

 

惣治郎に急かされ双葉はまた仕事に戻った。普通とはなんだ。わからないが、少なくとも嫌われてはいないようだ。

春は怖がられる性質ではないだろうし、俺が平気なら春のことも問題ないだろう。今日の目的は上手くいった……ということにしておこう。

 

 

「帰る。春もそろそろ門限だろう」

 

「いけない、もうこんな時間。じゃあ、海に行く日、決まったら連絡して」

 

「必ず。来てくれてありがとう。それじゃまた」

 

 

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